72. 4つの「あ○○○ない」(運動会に向けて③)

【きっかけ・ねらい】

今回の話は、運動会に臨む気持ちを引き締めるために、運動会の前日に行ったものです。実は、前回の話(「71.『目的』と『目標』」)が運動会前の最後の話のつもりだったのですが(同話【きっかけ・ねらい】参照)、より一般的な注意を与えておいた方がいいと思い、終礼中に急に話すことを決めました。

 

なお、それほど急に思い立った話でも、結果的にある程度まとまった話になっているのは、4年前に同様の話(拙著『では、最後に先生のお話です。』第33話「3つの『あ○○○ない』(運動会に向けて)」)をしたときの記憶があったからです。

 

【手順・工夫】

前回の話もそうだったのですが、今回の話は運動会当日に生徒に常に意識しておいてもらいたいことを含む内容であったので、シンプルで覚えやすい標語のようなものにし、かつ生徒と笑いを交えながら楽しく会話することで、印象深いものになるように努めました。

 

【実際の会話】9/18

T:先程のA子さんのことばを借りれば、「いよいよ明日は運動会ですね」。(※直前の全校放送でA子が運動会準備小委員会の副責任者として挨拶をした。その時に、A子の穏やかな人柄の語り口に対してクラスから優しい笑いが起こった)

A子:(目を大きくして、ペコリと頭を下げる)

S:(小さな笑いが起こる)

T:その運動会に関しては、これまでにいろいろ話してきましたけど、最後にもう1つ話しておきたいことがあります。

S:(「聞く用意はある」という表情)

T:それは「3つの『あ○○○ない』っていうやつなんだけど…。去年の運動会前に話したことなかったっけ?

S:(多くが首を横に振る)

T:そうでしたか。じゃあ…。

B男:あっ!教科書がない!

S:(爆笑が起こる)

T:(ため息をついて)そういうんじゃなくて…。(黒板に「あ○○○ない」と縦に3つ書き、下線部を指して)ここに何かひらがなが入って、1つのことばになります。

C男:「あぶない(危ない)」?

T:ちがう。

B男:「あいがない(愛がない)」。

S:(笑いが起こる)

T:ちがうって。運動会の最中に心がけておいてほしいこと!

C子:「あせらない」。

T:(C子に)何だって?

C子:「あせらない」(焦らない)。

T:(想定していたことばではないが採用することにして)素晴らしい! (「あせらなない」と書く)

B男:あせらなない?

S:(笑いが起こる)

T:(「あせらない」と直して)そう。バトンをね、落としたりしたり、転んだりするかもしれないけど、そういうときは、あせらずに気持ちを切り替える。他に?

D子:「あきらめない」(諦めない)。

T:素晴らしい!(2行目に「あきらめない」と書いて)これは「あせらない」と同じようなことだけど…。失敗したりしたときに…、「もう、どうでもいいや」とあきらめてしまう。これはそれまで頑張ってきた人に多く見られるんだね。頑張ってきたからこそ、がっかりしてしまう。それが個人競技だったら、まだいいよ。でも、うちの運動会は全部団体競技だから、一人があきらめたという態度を示すと、他の人までやる気が無くなってしまう。だから、あきらめてはいけない。他に?

S:(考えてはいるが、しばらく沈黙する)

T:これはね…、このクラスが陥りそうなことなんだよね。

S:(驚いたような顔になる)

T:何でかっていうと、去年はリレーは速かったし、イカダ(=「いかだ下り」という学年種目)は男子が勝って、女子が2位だったでしょ?

E子:「あなどらない」(侮らない)?

T:素晴らしい!(3行目に「あなどらない」と書いて)そうなんですよ。他のチームを見下して油断をすると、痛い目に遭う。去年はダントツに強かったけど、他のチームも力をつけているはず。だから、偉そうな気持ちでやっていると、きっと失敗する。そこを気をつけましょう。

S:(うなずく)

T:(少し迷った後に)ええと…、ついでだから、4つ目も行っちゃいましょうか。(3行の「あ○○○ない」の右上にもう1つ「あ○○○ない」を書いて)実は、本当は3つだったんだけど…。(最初の「あせらない」を指して)これは先生の想定外だったんですね。でも、いいから採用させてもらいました。

C子:(承知してくれた様子でニコニコしている)

T:で、最後のはちょっと難しいぞ。

S:(しばらく沈黙する)

B男:「あしがない(足がない)」!

S:(爆笑が起こる)

T:(あきれて)ふう…。なんでそうなるかなあ…。

B男:(ニコニコしている)

T:(ここでその発言を利用することを思い立って)あのね、そういうことを言うやつがね、よくいるんだよね。実は、同じ話を4年前にも…、今の大学1年生のときにもしたんだけど…、その時も「あめなめない(飴なめない)」なんて言うやつがいて…。

S:(大爆笑になる)

B男:それ、おもしれ~!

T:「おもしれ~」じゃね~よ!

S:(大爆笑になる)

T:(わざとため息をついて)どうしてこうなるかなあ…。

B男:(ニコニコしている)

T:(その話は打ち切って)これは、他のチームが失敗したり…、もちろん自分たちのチームの中にも失敗する人がいるかもしれないんだけど…。そういう人がいた時に気をつけてほしいというような内容。

A子:(小さな声で)「あざけらない」?

S:(最前列のA子の発言が多くの生徒には聞こえなかったらしく、反応がない)

T:(わざとおおげさにA子を指して)素晴らしい! 「あざけらない(嘲らない)」。

 (「あざけらない」と書いて)要するに、相手を馬鹿にしないということですね。失敗した人は自分でもう…、(縮こまるジェスチャーをして)もうどうしたらいいかと悩んでいる。そこへ持ってきて、みんながその人をバカにするようなことがあれば、それこそ「傷口に塩」だ。

S:(最後の「傷口に塩(を塗る)」の例えがわらかない生徒がポカンとしている)

T:またね、そういうふうに人を馬鹿にするような人に、先生はみんなになってほしくない。

S:(真剣に聞いている)

T:運動会をとおして、仲間のことを考え、クラスのことを考え、学年のことを考え、チームのことを考えられる…。一人一人にそういうふうに考えてもらえる…、運動会になればいいなと思っています。(板書を指して)この4つを覚えておいてください。

S:(真剣に聞いている)

T:では、おしまい。

 

【こぼれ話】

翌日の運動会では、生徒たちは失敗があってもあきらめたりせず、他のチームをあなどったり仲間や他のチームをあざけったりもせず、最後まで全力でプレーしていました。ただし、思わぬ大きなハプニングがありましたが…(その内容は次話「73.優勝しなくてよかったね」で紹介)。

 

今回の話が運動会中の生徒にどれだけ影響を与えることができたかはわかりませんが、女子のチーム・リーダーが閉会式後の全校生徒へ向けてのスピーチで、「特に3年1組のみなさんは…、もし競技で1回失敗したとしても、『大丈夫、大丈夫』と言って、みんなが協力して『お疲れ様』と言い合える3年1組の雰囲気、そして赤組の雰囲気が本当に大好きでした」(ビデオより。次話で再度ふれる)と語ったくれたことを聞いて、担任として本当に嬉しく思いました(思わず涙が出てきてしまいました…)。

 

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