Show & Tell

ここでは、週4時間のうちの1時間を完全に Show and Tell の発表の時間としてしまうカリキュラムの指導を紹介します。

 

※現在はこの形では行っておらず、普通授業やTTの授業の中で、不定期にスピーチを実施しています。

1.概要説明

(1) ねらい
・級友、JTE、ALTに何かを見せながら、伝えたいことを整理して話す活動を通して、既習事項を十分に運用させる。
・聞き手に発表の内容が良く伝わるような話し方を身につけさせる。
・発表の内容を聞き取り、進んで質問しようとする態度を養う。

 

(2) 概要
・前期は1人2回(1時間に6人)発表する。
・後期は発表回数を1人1回(1時間に3人)とし、発表の後にグループ対抗のQuestions and Answers Contest を行い、生徒の応答能力と自発的参加態度を育てる。
・指導過程は次の通りである。
 ア 原稿提出(1週間前)
 イ 面接Ⅰ(原稿指導)
 ウ 推敲
 エ 面接Ⅱ(発表指導)
 オ 発表練習
 カ 発表と質疑応答
 キ ノート提出(評価カードのまとめ、反省・感想)
・「発表の内容」「話しぶり」「コミュニケーション能力」の3点を評価の対象とする。発表者にはまず自己評価させ、その後、級友からの評価と教師からの評価をフィードバックする。発表者は評価内容を分析し、感想・反省を添えてノートにまとめ提出する。

 

(3) 留意点
・自分の伝えたいことを、既習事項の範囲内で説明させる。そのためには、ジェスチャー、絵、写真などを活用させるだけでなく、聞き手が理解できるわかりやすい英語に書き換えさせることが原稿指導で最も大切である。
・発表は全員原稿なしで行わせるが、100%正しく再生させることは求めない。
・棒読みの暗唱にならないよう、パラグラフごとの意味内容を意識させて発表させる。
・聞き手に伝わらないスピーチは、正しい英語でも、良いスピーチとは言えないことを理解させ、活動を通して体得させる。

 

(4) 成果と課題
・「話すこと」中心の活動に見えるが、事前指導の過程で四技能の全てを効果的に指導できる。
・面接では、普段気づかない生徒の誤りを個別に指導することができる。
・面接は生徒と教師の人間関係作りの一助にもなる。
・教師、生徒ともに忙しい学校生活の中で、事前指導の時間をいかに確保するかが大きな課題である。

※以上は、平成8年度研究協議会発表資料よりの抜粋

 

2.指導の実際

 

ここでは、実際に指導する際に留意すべき点を述べます。なお、ここに示した文章は、「楽しい英語授業」第11号(明治図書)に掲載されている元同僚の蒔田守先生の原稿を転載させていただきました。

(1) *Today is big busy.

中学2年の2学期ともなれば、be動詞・一般動詞の現在形・過去形や助動詞も一通り出そろう。これらを用いた文の運用にもだいぶ慣れているはずである。疑問文の作り方や答え方も理解している。そんなごく普通の生徒が冒頭の英文を書いてきた。多忙を極める相手に向かって「今日は大忙しですね」と声をかける場面で使いたかったと本人は言う。*Today is big busy.なるほど、「今日は...大...忙 し...」か...

 

「英語に関する知識を学習した事」と「英語が使える事」との違いがはっきり示されている。しかし、この誤りは本人にとって大切な意味を持つ。つまり、自発的に書いた英文の誤りから自分の勘違いに気づくことができたわけだ。

 

我々にとって大切なのは「自分の言いたいことを自分の使える英語で表現し、誤りを犯しながらも習った英語を使いながら身に付けていく機会」をどのように提供するかである。

 

今回は前号に示した What Am I? に引き継ぎ、さらに自分を見つめ表現する Show and Tell をとりあげる。What Am I?同様、授業の始めに継続して行える効果的な活動である。また、特別プログラムとして実施することも可能である。 

(2) なぜ Show and Tell なのか

Show and Tell はアメリカの小学校などで国語(英語)教育の一環として行われているものだと聞いた。確かにチャールズ・シュルツ氏の『ピーナッツ』にも小学校の教室で行われている様子が描かれている。

 

では、なぜ中2で Show and Tell なのか。
(1) 何見せ何を語るかの選択権が生徒にある。したがって、生徒は自分の興味や能力と相談し、自由に内容を決めることができる。創造的言語活動を行う際の大切な条件である。
(2) 生徒の負担を軽減できる。教師も視覚教材を利用するように、「百聞は一見にしかず」、視覚的な情報があれば、中学2年生の英語でも十分コミュニケーションできる。 
(3) 語彙も少ない2年生。ない袖は振れない」のか。イヤ、ない袖も振り様によっては、それなりに振れるもの。「ない袖を振らせる」のが、このShow and Tellなのだ。

(3) Show and Tell 活動のねらい

スピーチと似た活動なので、一般的には「話すこと」が活動の中心的なねらいと考えられよう。しかし、段階を踏んだ指導を行えば、中学2年生を鍛える」四技能の育成を目指した統合的な活動として活用できる。活動の主なねらいは以下の通りである。
① 何かものを見せながら、自分の伝えたいことを、今までに学習した英語を使って話せるようになる。
② そのために、自分を見つめ、自分は何を伝えたいのか意識化できるようになる。
③ 企画書に基づき、英語で台本を書けるようになる。
④ 繰り返し台本を読み、自分の言いたいことが相手に伝えられるようになる。
⑤ 発表者以外の聴衆はクラスメートの英語を聞いて理解できるようになる。
⑥ 聴衆は発表の内容に関して、英語で質問したり答えたりできるようになる。

(4) 指導の手順

① 発表前の指導
当日のプレゼンテーションの出来は、事前の指導にかかっている。発表までの指導手順を次に示す。
a)企画書・原稿作り
 企画書には日本語で、①見せるもの、②話の展開(箇条書き)、③結論、④使用機器(実物投影機、TR、VTRなど)を記入させる。
 原稿は企画書の展開を参考に、はじめから英文で書かせる。レポート用紙に2~3枚程度(ダブルスペース)。ゆっくり読んで、2分半程度の長さをめどとする。
b)企画書・原稿提出
 企画書と原稿は少なくとも1週間前には提出させる。
c)面接Ⅰ:原稿指導
 原則的には生徒の英文を生かす。ただし、①教員が読んで意味不明の場合、②英文が本人の意図とは異なった意味になっている場合、③正しい英語ではあるが、級友に理解されない表現を使っている場合などは書き換えさせる。
d)原稿書き直し
 指導をもとに原稿を書き換え推敲させる。
e)発表練習Ⅰ
 完成原稿をもとに、①何回も読み返し、意味の伝わる音読に仕上げ、②実物提示の方法やタイミング、ジェスチャーを交えたリハーサルを行い、③台本を見ずに発表できるよう繰り返し練習する。
 以上のd)原稿書き直しとe)発表練習は、週末を挟んだ家庭学習になることが多い。
f)面接Ⅱ:発表指導
 教師の前で模擬発表させ、自信を持たせる方向で励ましながら指導する。実物投影機、TR、VTRの操作方法の確認もこの時に行う。
g)発表練習Ⅱ
 家庭での最終練習。実際に時間を計ったり、あがらないよう家族を級友に見立ててリハーサルをするなど各自工夫して発表に備えさせる。

発表時の指導
 司会進行、タイムキーパーは英語係りが行う。
a)発表タイトル紹介
 発表者は黒板に氏名とタイトルを書く。聴衆は評価カード(後述)に必要事項を記入して発表を待つ。
b)発表
 発表者ははっきりと十分な声量で話す。必要に応じて実物投影機などを使用するが、各自が責任を持って操作する。
 聴取者は発表を聞き、①評価カードに評価とコメントを記入し、②発表内容に関する質問を考える。
c)質疑応答
 発表者は級友や教師の質問に答える。

③ 発表後の指導
a)発表のまとめ

 Show and Tell ノートに発表の評価・感想をまとめる。評価は、①自己評価、②相互評価、③教師からの評価の3種類の資料を使う。
b)ノート提出
 ノートは評価表返却後1週間以内に提出する。
 
(4) 指導上の留意点

① 「これ、おもろないでぇ!」と突き返す
その人らしさの感じられない発表は面白味にかける。「へーぇ、知らなかったなぁ。」と教師が感心する内容の発表をさせたい。当然、級友も感心し、相互理解が深まる。おまけに授業もやりやすくなる。そのためには生徒が自分を見つめ直す機会を提供することだ。それが面接指導の大きな役割である。

 

力のある生徒の誤りのない原稿でも、オリジナリティーの感じられないものには、「ポイントがわからん。結局、何が言いたいの?これ、おもろないでぇ!」と書き直させることだ。

 

一方、英語がつたなくても、これを話したいという生徒の熱い思いが伝わってくる原稿には最大限の援助を行う。「なるほど、そうか!」と「腑に落ちた」生徒が微笑む。

 雛形の提示
「とにかく思ったように書いてごらん」では生徒のやる気も空回りしてしまう。初めての事なのだから、必要最低限の雛形は示す。たとえば、「お気に入りのミュージシャン」をテーマとすれば、次のような骨組みを示せる。
a)挨拶:Hello, everyone.
b)導入:Do you listen to music every day?c)展開(例示など):They are the Beatles. My favorite song is "Yesterday."
d)結論・まとめ: If you don't know their songs, please come to me. I'll lend you my CDs. They are really great.
e)挨拶:Thank you.
f)質問受付: Do you have any questions?
構成を意識して書かせることは、パラグラフライティングにもつながる、良い台本作りへの近道である。

③ モデルの提示

過去の発表の中から適切な例を選び、VTRで示す。①内容、②発表方法、③資料の使い方に着目させる。手元に適切なVTRがなければ、地区の役員の方などに相談すれば良い。スピーチコンテストのVTRなど参考になる資料が必ず手に入る。

④ 原稿指導のパターン
原稿訂正にはいくつかのツボがある。
a)許容しがたい文法事項の訂正
 ①単数形・複数形
 *This is my shoes. → These are my shoes.
 ②代名詞
 *I like it(the shoes). → I like them.
 ②日本語直訳の訂正
  ・大忙し:*big busy → very busy
b)聴衆に分かりやすい英語への書き換え
 Phone cards are compact and useful.
 → small
c)ジェスチャー、道具使用の示唆
 ①She has three dimples.
 →微笑んで自分のdimpleを指し示させる。
 ②絵葉書を示したい
  →実物投影機(又はVTRカメラ)でTVモニターいっぱいに映し出させる。

⑤ 
最大のツボ :『で、結局何が言いたいの?』
生徒原案:お父さん、お兄さんがお土産に買ってきてくれたテレフォンカードを見せて、説明したいんです。
教師の突っ込み:「で、何が言いたいの?」
生徒改善案:I'm very happy. I have a good father and a good brother. I love them very much.  

(6) 展望と課題
生徒が発表に慣れてきたら、質疑応答を充実させることが、生徒の運用能力を真に高めることにつながる。つまり、「十分に準備した発表場面」から「臨機応変な対応が必要な場面」へと場の質を変化させるわけである。班ごとに質問や答えの数を競い合うQ & A Contestは、聴衆に聞く目的を持たせる意味でも効果的である。繰り返すことによって自発的に聞き・疑問を抱き質問する態度が育成される。

 

しかし、事前指導が放課後など授業時間外に行われ、家庭での準備・練習に負うところも多い点は今後改善しなければならないだろう。

(7) おわりに
今日は6人と面接した。「そうか、こう言えばいいんですよね」と生徒は満足そうな表情で、しかしまだ少し不安気に帰って行く。一方、教師はいくつかの生徒の誤りを見て、自分の指導の至らないことに恥じ入る。でも、こんな毎日の触れ合いが嬉しくて楽しくて、明日を迎える。鍛えられているのは私のほうかもしれない。