思考力・判断力・表現力を高める英語科授業の指導と評価

※記事の一番下に雑誌記事の現物(PDF)があります。

1.新しい大学入試と中学校の英語科授業

2021年度から始まる新しい大学入試は、従来の知識偏重のものから思考力・判断力・表現力を中心とした生徒の力を測るものへと大変革される。英語科においては、従来の大学入試センター試験では「読む」「聞く」力しか測定できなかったものを、民間テスト等を導入することで、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能すべてを測定できるものにするという。

 

では、それに対応するために中学校の英語科授業をどのように変えたらいいのかと言うと、結論から言えば、大筋では何も変える必要はないと考えている。それは、そもそも英語科の授業は4技能を身に付けさせるように構成されており、むしろ大学入試がようやく学校の授業で培った生徒の力を正当に評価するものに変わるだけだからである。

 

もちろん、それには現状の授業の中で4技能すべてを正当に評価するに値するほどしっかりと指導できていることが前提である。そこで、新しい大学入試にも対応できる中学校英語科授業の指導と評価について改めて考えてみたい。

 

2.思考力・判断力・表現力を高める指導

「思考力・判断力・表現力を高める」は、旧態依然とした一方的な講義調の授業をしてきた教師には、指導方法や指導内容に対する考え方に大きな変革を求めるものである。

 

まず、思考力を高めるには、何もかも教えなければならないという発想を捨てる必要がある。それは、生徒は与えられることに慣れると自分で考えなくなるからである。したがって、多少は遠回りで非効率的であっても、生徒が「何だろう?」「どうしてだろう?」と思うような指導過程を組むことが重要である。

 

次に、判断力を高めるには、生徒が自分で「きっとこうだろう…」「そうすることに決めた!」と判断する機会を与える必要がある。そのような指導過程を取り入れるのは、予定された内容を時間内に終えるという点でリスクを伴うが、慣れてくれば他の指導内容を調整することで対応できるはずである。

 

最後に、表現力を高めるには、生徒に表現させる機会を多く与えることが欠かせない。それは、表現するレベルにまで生徒の力を高めてこそ、真の学力が身に付くからである。「教えることが多くて、そのような時間は無い」という声も聞かれるが、すべて教えることにこだわりすぎることは、かえって生徒の学習意欲を削いでいる可能性があることにも目を向けたい。

 

3.「授業は英語で…」が目指すこと

中学校の新学習指導要領は、英語科の指導方法の改善点として、「授業は英語で行うことを基本とする」と謳っている。そしてその理由を、「生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため」としている。筆者は34年間英語で授業を行うことを実践してきているが、ここではさらに「授業は英語で…」が生徒の思考力・判断力・表現力を高めることに大きく役立っているということを自分の経験から述べたい。

 

なお、ここで言う「授業は英語で…」は、日本語で一方的に解説するような内容をそのまま英語に置き換えることではないことを断っておきたい。最も大切なことは、目標とする指導内容を生徒と英語でやり取りをしながら、帰納的に指導していくということである。

 

上記下線部のような指導方法は、生徒に「何だろう?」という思考をもたらす。また、その指導を続けているうちに、「きっとこういうことだな」という判断する機会を与える。そして、授業全体をとおして英語を使ってやり取りをすることで、伝えたいことを表現する機会を与える。つまり、授業全体をとおした生徒と教師のやり取りの活動で、思考力・判断力・表現力を高めることができるのである。

 

もっとも、このような活動を実現するには、それ以前に生徒と教師が日本語でやり取りをすることが当たり前になっている必要がある。それは、母語でさえ口を開かない生徒の状態があるとすれば、より情意フィルターの厚い外国語で生徒が話すはずはないからである。生徒が授業で日常的に口を開くようになるには、教師がどんな些細なことでも彼らの発言を拾い、それを生かして授業を進める姿勢を見せ続けることが大切である。そして、生徒と教師の間にそれを可能にする信頼関係を築くことが欠かせない。「授業は英語で…」を実現するには、その他の教育活動全般も見直す必要があるだろう。

 

4.思考力・判断力・表現力を高める評価

新しい大学入試では、何らかの方法で「話すこと」と「書くこと」の評価が導入されるという。また、新しい教育課程でも実技試験を行う等の多様な評価を行うことが求められている。そこで、中学校の平素の授業の中にも両領域の「評価活動」を積極的に取り入れていきたい。

 

「話すこと」の力を妥当性と信頼性を確保して評価するには、きちんとした評価専用場面を設ける必要がある。筆者の勤務校では、20年以上前から「音読発表」を年3回以上、「スピーチとQ&A」を年4~5回、10年以上前から「チャット」を年3回程度、公開発表形式で行っている。評価項目は、「音読発表」が「態度」「英語」「演出」の3点、「スピーチとQ&A」と「チャット」が「内容」「英語」「応答」の3点である。

 

一方、「書くこと」の評価活動として大切なことは、それが単につづりを正しく書くことや和文英訳をするということだけでなく、伝えたい内容を自分のことばで自由に書く力まで評価するということである。勤務校では、生徒が書いたスピーチの原稿を評価したり、定期テストには必ずエッセイ問題を入れて評価している。

 

もちろん、このような課題や問題では、つづりのミスや小さな文法ミスは問わず、文章の構成や内容及び書こうとする意欲を評価する。

 

以上のような評価活動においても繰り返し思考・判断・表現する機会を与えられて力をつけた生徒は、やがて来る新しい大学入試においてもその力を十分に発揮すると期待している。

 

(『教室の窓』2018年9月号、東京書籍)

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