「帰りの会」の話で学級作り

※記事の一番下に雑誌記事の現物(PDF)があります。

1.学級担任の役目

学級担任の仕事は目が回るほどたくさんのことがある。そのどれもが大切なことであり、そのうちの一つでも滞ってしまえば学級経営に何らかの支障が出る。しかし、「学級担任が担う仕事の中で最も大切なことは何か?」と問われれば、筆者は即座に「学級の生徒の人間関係を安定させ、一人一人に居場所がある環境を作ること」と答えるであろう。

 

上記のことは、ほぼ一日中自分の学級の児童と関わる小学校の教師にとって特に重要なことと思われるが、実は専科制である中学校の教師にとってもとても大切なことである。それは、今から25年以上前に高校教師から中学校教師に転身した筆者だからこそ言える、思春期初期の生徒との関わり方に悩み続けた末に導かれた結論でもある。

 

2.教師と生徒の人間関係作り

一般に、生徒同士の人間関係を良好なものにするには、何らかの方法によって意図的に生徒同士が自分の所属する集団の中で互いの存在を認め合えるようにする必要があると言われる。そのための活動は近年「構成的グループ・エンカウンター」という考え方で広まっており、すでに多くの教師が実践してその効果を実感しているであろう(筆者自身もその一人である)。ただし、そうした生徒同士の活動をとおして、担任する学級を良好な人間関係をもった集団へと変化させることは、そう簡単ではない。それは、その指導を行う教師とその指導を受け入れる生徒との間に信頼関係が無ければならないからである。

 

筆者はこの点について長年苦労した経験がある。特に、反抗期が始まる2年生進級時の学級編成後に、他の学級から来た生徒との関係がうまくいかなかった。

 

しかし、ある学年の時からその状況が大きく改善された。その最大の原因は、生徒に対する接し方を変えたことである。それを例えて言うならば、それまでは何につけても「直球」ばかり投げていたのが、場面に応じて「変化球」も投げられるようになり、時には「魔球」さえも投げるようになったためである。それによって、直球ばかりの頃はヒット(反発)されていたことでも、変化球や魔球で三振(納得)させることができるようになった。つまり、生徒の状況に応じて柔軟な対応ができるようになったということである。また、生徒が起こしそうな問題をあらかじめ予測し、予防策を講じるようになったことも大きいと思われる。それによって、生徒が何か事件を起こしてから叱るということがほとんど無くなった。結果として、時には厳しくとも平素は明るく笑っている学級担任に生徒は好印象をもつようになった。こうして、以前は苦労した悪循環が好循環へと変わった。

 

3.「終礼の話」と学級づくり

筆者は授業時間の多くを英語で進めていることもあり、授業中に生徒の関心を惹くような思いつきの軽い話はほとんどしない。したがって、先述したような生徒指導上の予防策的な話や生徒の心を醸成するような話をする場面が他に必要であった。そこで考えついたのが「終礼の話」であった。

 

勤務校では、終礼(帰りの会)は学級週番によって進められる。最後に「先生からのお話です」と学級担任に話がふられるが、何も考えずに教壇に立つと、機械的な連絡や単なる注意のような話だけになってしまいがちである。これでは学級担任は生徒にとって「価値のある話をする教師」になりえない。

 

そこで、時間が許すかぎり生徒に何か印象に残るような話をしようと考えて始めたのが「終礼の話」であった。それは全校集会で良い話をしようと準備なさる校長先生の話と同じような発想のものである。ただし、それが「校長先生の話」と異なるのは、生徒と掛け合いをしながら話を進めるということである。

 

その「終礼の話」を、同僚や校外の方々の後押しで、平成21年度に入学した生徒に対して3年間続けてみた。手前味噌ではあるが、その効果は大きく、各年次ともに生徒は「終礼の話」ごとに変化し、学校生活をよりよいものにしようと生徒自身で伸びていってくれた。それは、卒業時に生徒からもらった寄せ書きにほとんどの生徒が「終礼の話」やそこから得られた恩恵と思われることにふれていたことからもわかった。

 

その「終礼の話」は、生徒と交わした実際の話をボイスレコーダーから書き起こすなどして、計68話分(複数回の話を一話としているものが多いので、実際の回数はその倍以上)の記録が残っているが、それらを話の目的ごとに分類すると次のようなものがある。

 

①個人に注意する問題を全体に指導するもの

②問題を未然に防ぐことをねらうもの

③より良い学級集団作りを目指させるもの

④行事に取り組む気持ちを高揚させるもの

⑤より良い生活へのヒントを与えるもの

⑥価値観や人生観等を話し合うもの

⑦教師と生徒との心理的距離を縮めるもの

 

以上の他に、諸々のことをく印象的に伝えるために工夫して話したものがある。

 

4.集団の生徒と話す際の留意点

「終礼の話」にかぎったことではないが、学級という集団に対して話をする際に、伝えたいことを印象深く話すためには、いくつかの留意点がある。

 

① 話す目的を明確にする

いくら「時間が許すがきり」とは言っても、明確な目的を持たずにただおしゃべりをしているだけでは、やがて生徒に「無駄話」だと飽きられてしまう。「先生の話を聞いて役に立った」と生徒に思ってもらえなければ、この指導は長続きしない。したがって、まずはその話をする目的をはっきりさせ、必要があれば生徒にそれを伝えてもいいであろう。

 

② 話の内容と時期を考える

筆者の場合、話す内容はその時々の必要性に応じて最も効果的にこちらの言いたいことが伝わるであろうと思うものにしている。それを考慮せずに全く関係の無い話をすると、それがどんなに良い話であっても、生徒には唐突な印象を与えてしまうからである。また、もし何かの都合で話すタイミングを逸してしまった場合は、無理に話そうとせずに次の機会を待った方がよい。

 

③ 話の構成を考える

何か大切なことを生徒に伝えたいとき、核心のみをズバリ言う方法は即効性という意味では効果があるが、それでは話が表面的になりやすい。内容を生徒の心に深く刻みたい場合は、話の構成に一工夫加えた方がいい。

 

筆者の場合は、生徒がこちらの話に乗ってくるように導入部の工夫をする。これによって生徒が核心の話を聞こうとする準備ができる。例えば、答えが不明なデータを出すと生徒の興味・関心が一気に高まることが経験上わかっているので、筆者は話の核心に関連したデータを最初に示すことが多い。

 

また、いきなり一般論から入っても生徒の興味・関心を惹くのは難しいので、できれば教師自身の個人的な経験や生徒の多くが知っている話題などから入る方がよい。そして、それを上手に利用して、一般化できる話に持っていくようにするのである。

 

④ 話し方を工夫する

かつての筆者もそうであったが、生徒とぶつかることが多い教師の共通点一つは、教師が生徒に一方的に話すことが多いことである。短時間で核心のことのみを伝えたいからそうしているのであろうが、その方法では生徒は「心の耳」をこちらに向けてくれない。

 

そこでぜひ実行したいのが、生徒と対話しながら話を進める方法である。筆者は、まず関連する内容について生徒に質問を投げかけ、生徒を話の土台に乗せるようにしている。そして、生徒の答えを上手に拾いながら、ねらった方向に話を持っていく。もちろん、生徒の反応を引き出すためには、生徒が話したくなるような雰囲気作りを日頃からしておく必要がある。一線を越えるような不遜な発言は注意しなければならないが、それ以外はどんなに稚拙な答えや的はずれな意見でも受け入れることが大切である。「先生は何を言っても取り上げてくれる」という姿勢を示さなければ、生徒は口を開こうとはしない。

 

このような教師の姿勢は「終礼の話」にとどまらず、普段の生徒指導にも大きく影響する。学級という集団の中で自分を自由に表現できることを許された生徒は、仲間同士の人間関係においても自分を解放し、ある程度の節度は保ちつつも、互いに思っていることを自由に言い合えるようになるのである。

 

⑤ 話した内容を記録しておく

筆者の場合、当初この作業は実際に生徒と交わした内容を書き起こして同僚に読んでもらうことが目的であったが、書き起こしたものを自分で読み返すことによって、話をした際の反省点や課題点が明らかになった。そして、それを元にその後の話をどう展開したらいいかを考えるのにとても役に立った。

 

5.成果と課題

毎回必ずというわけではないが、「終礼の話」は学級という集団の生活状況を向上させるのに役に立ったと筆者自身は感じている。また、実際に授業や終礼時の生徒の姿をご覧になった先生方の多くが、「生徒の心が解放されている」という感想を述べている。そして、その最大の原因を「先生自身が『終礼の話』をとおして‘自己開示’しているからだろう」と分析している。つまり、教師自身が相手との良好な人間関係を作るためのロールモデルになっているというのである。最後の点については、筆者自身はそう言われるまでそれに気づいていなかったが、今では確かにそのとおりだと思うようになった。

 

一方、課題として見えてきたことは、教師が中心となって進める「終礼の話」には生徒の生活状況を改善するのに限界もあるということである。それは、繰り返し行った「終礼の話」で解決できなかった問題点が、生徒同士による学級自治会を行ったら一発で解決されてしまったということがあったことからわかった。したがって、よりよい学級集団を作るには、教師と生徒の腹を割った話し合いと生徒同士のグループ・エンカウンターの両方が必要であろう。

 

なお、紙幅の関係で実際の生徒とのやりとりの記録を本稿に載せることができなかった。先述した3年間の全68話の記録は『では、最後に先生のお話です。-「終礼の話」をとおして築いた生徒との絆の記録-』という自費出版の本(A5判、364頁)にまとめてあるので、購読を希望される方は 筆者までご連絡いただければ、印刷製本原価にてお譲りする。

 

(『指導と評価』2013年9月号、図書文化)

 

※お陰様で上記の「終礼の本」は完売となりました。その代わりに、4年後に次の担任学年の生徒たちとの記録をまとめた第2弾『続・では、最後に先生のお話です。-「終礼の話」をとおして築いた生徒との絆の記録2-』(2016.4発行、A5判、全88話、500頁)でしたら残部がございます。ご希望の方は「お問い合わせ」フォームでご連絡ください。折り返し申込要領をメールでご連絡いたします。

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「帰りの会」の話で学級作り
『指導と評価』2013.9「学級作り」.pdf
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