カリキュラム・マネジメント2:個々の授業の構成を考える前に行うべき作業

※記事の一番下に雑誌記事の現物(PDF)があります。

 

前回(本年4月号)は、カリキュラム・マネジメントについて、その定義と教科教育における取り組みの第一歩である「育てたい生徒像」の構築について述べた。今回は、その次に取り組むべきことについて述べていきたい。

 

1.「育てたい生徒像」を具現化するための作業

 

(1) 具体的な生徒の姿の想像

「育てたい生徒像」が構築できたら、次は具体的にどのようなことができる生徒の姿を想像するのかを明確にしたい。筆者の元勤務校(執筆時は現勤務校)である筑波大学附属中学校(以下、「附属中」)では、平成8(1996)年度に各「育てたい生徒像」に関して「聞くこと」「話すこと」の領域における次のような具体的な生徒の姿を考えた。

 

① 「『生きた』ことばでコミュニケーションができる生徒」に関して

 ・聞き手に伝わる話し方ができる

 ・伝えたい内容を、気持ちを込めて話すことができる

 ・話し手が何を言おうとしているかを関心をもって聞くことができる

② 「困難に対して臨機応変に、粘り強く取り組むことができる生徒」に関して

 ・課題に対して、よりよい発表をしようと工夫することができる

 ・理解できないことは、推測したり、質問したりすることができる

 ・既習事項を活用して、伝えたいことを表現することができる

 

(2) 学年毎の達成目標の設定

(1)で想像した生徒の姿を実現するために、次に各学年の達成目標を考えるようにする。附属中では、「聞くこと」「話すこと」の領域において次のような各学年の達成目標を考えた。

① 第1学年

 ・英語で行われる授業に進んで参加することができる

 ・教科書をもとにしたスキットを作成し、級友の前で演じることができる

 ・級友の前で自分の伝えたいことを堂々と発表することができる

② 第2学年

 ・200語程度のスピーチ原稿を十分な時間をかけて作成し、原稿を見ずに級友の前で発表することができる

 ・読んだり聞いたりした内容について、質問したり、応答したりすることができる

③ 第3学年

 ・短時間の準備で、ある事柄について説明したり、意見を発表したりすることができる

 ・相手の意見を聞き、質問・同意・反論などをすることができる

 

(3) 創造的な言語活動の設定

(2)のような達成目標を決めると、授業でどのような活動を行えばそれらに近づけることができるかが見えてくる。ただし、それはただ単に教科書を順番にこなしていくような指導では達成できない。各学年の達成目標の中にも表れているように、創造的な言語活動を設定することで初めて実現が可能になるのである。そこで、附属中では各学年で次のような継続型の言語活動を行うことにした。

 

 ① 第1学年後期 「クイズショー What Am I?」

 ② 第2学年後期 「ニッポン紹介スピーチ」

 ③ 第3学年前期 「スピーチとコメント」及び「スピーチとディスカッション」

 

これらの継続型言語活動は、普通の授業の中でいわゆる「帯活動」として授業の最初に毎時間行うようにし、いずれの活動でも全生徒が一度は発表者として活動できるようにした。しかし、これらの活動はいずれも数年ないし十数年行なわれた後に少し異なった別の形で行われる活動に昇華された。その主な理由は、次項で述べるカリキュラムの変更によるものであった。

 

2.授業構成の見直し

 

ここでは狭義の意味でのカリキュラムについて述べる。つまり、教科の授業の枠組みについてである。中学校の場合、英語科の授業はすべて「英語」という単一の授業が週4回、同じ教師によって行われるのが普通である。その固定観念をくつがえし、高校のように複数に分けて行うことを検討してみてはどうだろうか。

 

附属中では、すでに30年以上前からこの考えに則った授業構成を採用しており、2、3年生の授業を「普通授業」+「〇〇を中心とした授業」に分けて指導してきた。そして平成21(2009)年度からは1年生にもそれを拡大し、以来図1のような授業構成をとっている。 (注:令和5年度現在も)

 

本カリキュラムの特徴は、各学年に半年間、週一時間だけ「話すこと」を中心とした授業、すなわちALTとのティーム・ティーチング(以下「TT」)があること、2、3年生には半年間、週1回の「読むこと」に特化した授業があることである。これによって、TTでは教科書の進度に関わらず全クラス一斉に別のプログラムによる指導を行うことが可能になり、多くの創造的な言語活動を行えるようになった。一方、「読むこと」に特化した授業では生徒の学習進度に応じた副読本を使うことで、細かい語彙や文法にとらわれずに長文を読み進めていく力をつける指導が可能になった。また、授業を分けたことで、それぞれを担当する教員の配置も容易になった。

 

3.真に意味のある評価計画の作成

 

(1) 評価と指導の一体化

学校における評価活動については、「指導と評価の一体化」が重要であると言われる。これは「評価活動を評価のための評価に終わらせることなく、指導の改善に生かすことによって指導の質を高める」(文科省HPより)という意味である。そのため、一般的には指導計画を作成する際にその一角に評価計画が加えられることが多い。しかし、筆者はこのように評価が指導の付帯事項のように扱われる作業には異を唱えたい。なぜなら、育てたい生徒像を構築し、それを具現化する生徒の姿を想像するという“バックワード・デザイン”で教育内容を考えていくと、次に考えるべきことはそのような生徒をどのようにして育てるのか、つまりどのように評価するのかということだからである。

 

この点を明確にするために、筆者はあえてこれを「評価と指導の一体化」としたい。これは単なることばの順番のちがいではない。評価活動をこれまで以上に重視し、評価と指導を有機的に結びつけることで、有効な教育活動を行うための「意識の変革」である。

 

(2) 実際性のある評価計画の作成

評価について考えるとき、評価の専門家は「妥当性」と「信頼性」のある評価を行うことが大切であることを強調する。しかし、実際の学校現場ではそれらに加えて「実際性」(「実行性」ともいう)にも目を向ける必要がある。

 

筆者は、過去に何度か評価に関する研修会の講師を務めたことがあるが、「自分が作成した評価計画通りに評価をしている」と答えた教員に出会ったことがない。つまり、多くの教員は最初から「するつもりのない」あるいは「することができない」評価計画を立てているのである。これでは実のあるカリキュラム・マネジメントはできない。

 

英語科教員の多くは、数年おきに来る教科書の改訂の際に評価計画の大幅な見直しに迫られる。それは「教科書の内容をどのようにこなしていくか」という指導計画に沿ってそれを作成しているからである。その作業を支援するために教科書会社が出しているモデルの評価計画は、各課全体の他に各時間の評価計画も詳細に書かれている。ただし、それらは「それぞれの場所で評価活動を行うとしたら…」という視点で書かれていることに注意すべきである。ところが、その点を考慮しないでモデルのような詳細な評価計画を立てることが当然とされているので、実際には実施不可能な評価計画が作成されてしまっているという現状がある。

 

附属中では、このようなことにならないように、英語科の全教員が十分に相談をして、全員が実際にできる評価だけを記載した評価計画を作成している(表1)。

 

これを見てまずわかることは、教科書の内容がまったく入っていないことである。これであれば、教科書が改訂される度に作り直す必要はない。「たったこれだけなの?」と思われるかもしれないが、実施するつもりのない評価計画よりはよいものだと言える。さらに、基本的にこの表の中にあるほぼ全ての評価項目を全ての教員が実行していると言えば、この程度のものが必要・十分な評価計画であると言えるであろう。また、「話すこと」の評価実績には計画されたもの以外の評価活動もあり、よりよい評価計画の提案に貢献している。

 

そこで、管理職及び教育委員会の先生方にお願いを含めた提案がある。ぜひ管下の教員に「するつもりのない」「することができない」詳細な評価計画を提出させることはやめ、「同じ学校の誰もが共通に実践できる」必要・十分な評価計画の作成を指示するというのはいかがであろうか。

 

次回は、英語科のカリキュラム・マネジメントの最終回として、実際の授業を構築する際の留意点、小学校の英語教育を踏まえた指導のあり方等を述べる予定である。 

 

(『指導と評価』2022年6月号、図書文化)

 

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『指導と評価』2022年6月号、pp.41-43
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