10. ロイロ教材製作の裏話

何度も記しましたが、今回のロイロノートによる遠隔学習指導は、勤務校の教師にとっても初めてのことであったので、教材作成はどの教科でも試行錯誤で進められたと報告されています。その中でも、英語科は特に大変であったというのは校内でも有名な話で(教科全員で話し合っていたり、撮影会を行ったりしていたのをよく目撃されていたため)、実際に臨時休校中でも勤務時間内はおろか勤務時間外も、さらに週末の休日も教材作りに追われていました。英語科ではいつの間にかこれを「ロイロ地獄」と呼ぶようになっていました(「ロイローゼ」と呼ぶ学校もあったとか…)。

 

しかし、"地獄"である一方で、初めてチャレンジすることに面白さを感じ、それにのめり込んでいたということも事実です。勤務校の教員はストレス・チェックを受けるとほぼ「ストレス無し」という結果が返ってくるようですが(筆者もその1人)、苦しみ(?)の中にも楽しみを見いだして働く日本の教師の典型かもしれません。

 

そこで、ここではそんなロイロ教材製作の裏話をご紹介します。「働き方改革に逆行する過重労働では?」などと思わずに、実際に取り組んだ貴重な体験だと思ってお読みください。もちろん、「そんな大変なことはできない」と思った方は、この記録の中の省けるところは省いていただければいいと思います。

 

(1) ルーティン・ワーク

すでに「つぶやき」の「52. い~ロイロ大変です…」にも書いたことなのですが、今回のロイロノートによる遠隔授業では、教材を実際にアップするまでに主に次のような制作過程がルーティンとなっていました。

 

① 1ヶ月分の指導計画を作成する→学校に提出

② 指導計画を元に各授業の構成(指導案)を作成する(同僚と相談)

③ 具体的な指導過程を文字起こしする→シナリオを共有(同僚と相談)

④ 英語科4人で新出文型導入のビデオ撮影をする(他学年の先生が生徒役)

⑤ 解説カードの作成を行う(パワーポイント)(学校or自宅)

⑥ 解説カードを使って解説音声を録音する(放送室or自宅)

⑦ 練習用の視覚教材を準備する(学校)

⑧ ④~⑦を使ってビデオ編集を行う(自宅)

⑨ 課題提出カードを作成する(自宅)

⑩ ⑧と⑨をアプリ上の「資料箱」に投入する(自宅)

⑪ 「提出箱」を設置する(自宅)

⑫ ⑩を公開する(毎週月曜日朝)(学校or自宅)

 

これらがけっこう大変で、一連の作業をするのに膨大な時間と手間がかかりました。 

 

(2) 楽しみ

上記の④のビデオ撮影は毎回の楽しみでした。1年生では毎回の教材の中にある「表現の学習」というところでオリジナル撮影のビデオを利用しました。すなわち、新出文型の導入のために、それが使われている場面を提示する動画です(2・3年生も同様でした)。さながら、NHKのテレビ英語講座か、教科書準拠のビデオ教材のような映像です。

 

この撮影会が実に楽しかったのです。1年生のシナリオは筆者が③で作成し、それを4人で演じましたが、なかなかスムーズにはいきません。一発でOKが出ることはほとんどなく、毎回NGの連発です。その度に大爆笑。他学年の教材製作もしなければならない残りの3人には申し訳ありませんが、これが実に楽しかったのです。

 


3年生新文型(現在完了継続用法)導入用ビデオのための板書

同左録画時の○○先生のオーラル・イントロダクション用カンペ(側面黒板)


 

また、演じている途中で"出演者"によってシナリオに修正が入り、4人で議論することでオリジナルのシナリオによるものより良い作品が撮影できたと思います。このあたりも同僚から学ぶことが多く、楽しく感じた部分の1つです。

 

さらに、「文字の学習」を担当してもらった植野先生が作成した「アブク・ソング」(アルファベットの歌を「名前」ではなく「音」で歌う)のビデオは同先生の“捨て身”(?)の演技が光った傑作でした。植野先生がこっそり自分で撮影した作品ですが、取り終えて帰ってくるやいないや、「これを生徒に見られたら、お嫁に行けなくなる~!」(注:植野先生は既婚者です)と大騒ぎしていました。

 

しかし、その大騒ぎに便乗して大笑いをしていたら、「次は肥沼先生のバージョンを撮影して翌週に使いますから」と強制的に撮影された(そして約束どおり生徒に公開された)のも楽しい思い出です。

 

(3) 苦労話

上記のうち、個人的にもっとも時間がかかったのが⑤~⑧の製作です。この作業は、筆者の場合は1回に3~4つのピース(「表現の学習」、「語彙の学習」、「基礎英語の復習」、他)を作成していたので、朝から夜中まで作業を行っても丸2~3日かかりました。"相棒"(副担当)の植野先生にも毎回1つのピース(「文字の学習」→「つづりと発音」→「書くこと」)を作成してもらっていましたが、そちらも1つのピースの中に複数の内容があったので、相当の時間がかかっていたようです。3年生の副担当もしていた植野先生は1年生の教材作成だけに注力することができなかったこともあり、毎週末はビデオ作成に追われることになり、ある週の月曜日は教材を公開する直前の朝4時半過ぎまで作業をして、死にそうに眠い目で学校に来ていました。

 

以上の作業は、2人分を合計すると、1回分の教材作成に述べ20~30時間、1週分(3回)だと60~70時間くらいかかっていたと思います。1回分、1週間分の"授業"を準備するのにそれだけの時間がかかったというわけです。

 

もちろん、その前に④を済ませておく必要があるので、②と③はできるだけ公開の前々週までに準備しておくようにしました。②と③は、①を元に週毎に作成しました。実際の教材もそれを元に作成しました。つまり、3回に分けたということです。さすがに、いくら指導計画があるからといって、全部の授業の細部まですぐに決められるわけではありません。

 

このあたりは持ち前の「心配性」が役に立ったと思います。すなわち、たいていのことはできるだけ早く済ませてしまう質のことです(「つぶやき」の「54. いかにも筆者らしいもの」参照)。そのお陰か、英語科全員が集まって行う"撮影会"は毎回スムーズに行うことができました(NGを含めて)。

 

さらに、ロイロによる指導は教材をアップでできればそれで終わりというものではありません。全生徒から毎回送られてくる受講レポートや時々出した提出課題を読まなければならないからです。もしそこに質問等が書かれていれば、手書き昨日でコメントをつけて返すことになるので、それだけでも相当な労力でした。これには1回分で約2時間、1週分で約5~6時間かかりました。手書きでコメントを入れるため、この作業はすべて自宅のタッチパネル式パソコンで行いました。

 

(4) アドレナリン全開

これは筆者の個人的なことかもしれません。「3. 英語科の苦悩と夜明け」にもあるとおり、筆者は当初ロイロノートの教材作成にあまり乗り気ではなく、どうしていいか途方に暮れていました。それが、ビデオによる教材作成の道があることがわかってから一変しました。

 

その理由は、筆者がビデオ編集に大変興味があり、長年自分の担任学年だけでなく、学校行事全般のビデオ撮影及び編集を担当してきたからです(「記者が見た筆者の授業②:『TSUKUBA COMMUNICATINS』参照)。自分の得意技を活かせるなら、俄然やる気ができてきます。それがわかった途端に目の色が変わって仕事をし始めた筆者の様子を、同僚は「それまで落ち込んでいた肥沼先生が、あれで生き返った」と評しています。

 

実際、教材作成の過程の中で、ビデオ編集をしている最中が一番集中していました。一端作業を始めると時間の経つのも忘れ、一心不乱に作業をしている自分がいました。そこでは、自称「 "Koinuma Movie Laboratory"の主宰」(筆者が作成する特別映像には必ず "…" の表示が入る→ビデオ撮影NG集参照)の面目を賭けた仕事をしていたはずです。まさに「アドレナリン全開」の様相を呈していました。 

 

(5) NG集の製作

「(2) 楽しみ」にも書いたとおり、「表現の学習」用のビデオ撮影ではたくさんのNG映像がたまりました(笑)。完成品に使用した最終カットは、それはそれで優秀作品として価値のあるものですが、そこへ至るまでの"失敗作"を残しておくことも、今回の指導を後で振り返るときに大切な記録となると考え、あえてすべての録画映像を消さずに残しておきました。

 

せっかくなので、後に何かの機会(例えば勤務校の研究協議会や個人的に出かけた研修会等)に公開することを念頭にその"失敗作"をまとめた「NG集」を作ることにしました。作成にあたっては、冒頭に筆者が得意とする特別製作映像を入れ、最後に洋画風のエンディング・クレジットを入れました。また、NG集であっても完成作品と同じ多トラック編集を施し、臨場感あふれる映像に仕上げました。この作品を製作している間もアドレナリンが出っぱなしであったのは言うまでもありません。

 

そして、それを誰よりも先に生徒に見せることにしました。その目的は、英語科が全員協力してこれらの作品を作ったことを生徒に理解してもらうためで、学年の枠を越えて生徒の英語学習をバックアップしているということを伝えるためでした。

 

最後に、せっかくですからその中の特徴的な場面のいくつかをビデオより静止画カットした連続写真でご紹介します。

 

「表現の学習」ビデオ撮影NG集(静止画カット版)

 

ロイロ教材の作成には以上のような裏話がありました。

 

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