2. スピーチ


スピーチは自己表現の1つです。特に英語圏の国ではとても重要視されており、筆者が1983-84年に留学したアメリカのネブラスカ大学オマハ校でも新入生全員に Public Speaking(スピーチの理論と方法を学び、実際に何度か発表する)という授業が課されていました。新学習指導要領では、今回初めて分離された「話すこと」の「話すこと(発表)」に分類される活動です。

 

「教科書をこなすことに時間を取られていてそんな時間は取れない」、「自分の生徒にはスピーチなどやる力はない」などという先入観(?)でスピーチの実施をためらっている先生もいらっしゃるかもしれません。しかし、これほど生徒の「話すこと」の力を伸ばす活動はありません。また、自分のオリジナルのスピーチ原稿を作成することで「書くこと」の力が高まりますし、仲間の発表を聴く機会があれば「聞くこと」の力も高まります。

 

そこで、ここでは筆者の勤務校(以下「本校」)で行っているスピーチ活動の内容とその指導方法及び実施上の留意点等をご紹介します。

 

(1) スピーチの内容

一口にスピーチと言ってもいろいろな内容があります。中学生にスピーチさせる内容として本校で実施しているのは以下のものです。「…」以降の記述は、スピーチで使わせたい主な文法事項を表します。

 

○自己紹介(1年・2年)…be動詞や一般動詞の現在形(※本ページの先頭の4人)、他

○自分の好きなもの(1年)…be動詞や一般動詞の現在形

○家族や有名人紹介(1年)…一般動詞の三単現

○日本の文化紹介(1年・2年)…一般動詞の三単現、他

○冬休みの思い出(1年)…一般動詞の過去形

○1年間の思い出(1年・2年)…be動詞や一般動詞の過去形

○夏休みの計画(2年)…be going to, will

○夏休みの思い出(2年)…be動詞や一般動詞の過去形

○将来の夢(2年)… want to 動詞

○私の街(2年)…There is/are/was/were ~.

○私の考え(2年)… I think (that) ~.

○修学旅行の思い出(3年)…すべて

○自分の好きなことば(3年)…すべて

○自分の好きな/行きたい国(3年)…すべて

○最も印象に残った一文(3年)…すべて 

 


「『葉っぱのフレディー』の最も印象に残った一文」より

 

(2) スピーチ活動の種類

① シンプル・スピーチ

特に何かを見せるわけでもなく、発表後にそれを利用した活動があるわけでもない、発表することに主眼を置いたスピーチです。

 

② Show and Tell

タイトルのとおり、何かを見せてそれについて話すスピーチです。スピーチを重視するアメリカでは幼稚園や小学校でよく行われる活動だそうです。本校でも1980年代から2005年まで2年生で週1時間を丸々この活動に費やしたことがあります。詳細は「イベント活動」のコーナーで紹介しています。なお、週3時間のうちの1時間を丸々スピーチに費やすのはどうかという議論が起こって、2006年度のカリキュラムからこの活動がなくなり、普通授業の中で随時スピーチを行わせる形になりました。

 

③ スピーチとQ&A

スピーチの後にその内容に関するQ&A活動が組み込まれたものです。本校の場合、上記の Show and Tell もそれにあたりますが、2006年度からはスピーチした本人にALTが質問をするという活動に変更され(Show and Tell は生徒→発表者、生徒→生徒の形で質問コーナーがあった)、それが今日まで続いています。

 

クラスメートの前で "My Town(私の街)"について発表する。(2年生)

左のスピーチの後にALTからの質問に答える。


 

(3) 事後活動(post activities)

スピーチ活動に消極的な先生の理由の1つに、「スピーチは発表者だけが活動していて、残りの生徒はただ聞いているだけだから」ということがあります。しかし、上手に事後活動(post- activities)を、そしてそのための事中活動(while-activities。「事中」という表現はない?)を仕組めば、それを改善することができます。以下はこれまでに本校で行ってきた事後活動及び事中活動です。

 

① Questions & Answers Contest(1980年代~2000年)

仲間がスピーチした内容について、グループ(1班6~7人の6班)に分かれて質問する活動で、かつて2年生で週1時間を毎回スピーチ活動にあてていた時代に行っていたものです。

・初期…発表内容に関して発表者に質問するとその班に得点が与えられる。

・後期…発表内容に関して他班に質問するとその班に得点が与えられ、その質問に答えるとその班に得点が与えられる。発表者は答えの内容の正誤を判断する役を担う。

 

<“後期”の活動のイメージ> 

Group A: Where did Mr. Kato go during summer vacation?→1 point to Group A

Group B: He went to Okinawa. →1 point to Group B

 

この活動を行うためには、聞いている生徒全員がスピーチする生徒の言うことをメモしておく必要があります。これによって生徒が集中して仲間のスピーチを聞くようになり、「聞くこと」、「書くこと」、「話すこと」の力を高めることができます。

 

② Rewriting (2001年~2005年)

上記の Q&A コンテスト活動は生徒が活発にことばを交わすという点で大きな成果をあげました。しかし、グループで活動する以上、どんなに活動のやり方やルールを工夫しても、一部の生徒が仲間に頼って主体的に活動できていないという実態がありました。そこで、すべての生徒が平等に活動する方法はないかと考えだされたのがこの活動です。

 

この活動のポイントは、スピーチの内容をキーワードでメモし、スピーチの後にその情報を使ってスピーチ内容をリライトすることです。例えば、発表者が I went to Kyoto to see many temples. と言えば、聞いている生徒は "Kyoto" "see many temples" などとメモしておき、後で She/He went to Kyoto to see many temples. と書きます。

 

生徒がこの活動に意欲的に取り組むような工夫としては以下のものがあります。

・リライトする時間に制限を設ける…大抵は3分。こうすることで、とにかく書くという気持ちにさせます。

・リライトする語数の目標を与える…当時はこれを60語としていました。

 

「2年生で3分間で60語なんて!」と驚かれるかもしれません。しかし、仲間40人(1クラス41人)の発表で毎回この活動を行うと(つまり40回行うと)、最初は一部の超優秀な生徒しか達成できなかった目標を、最後には4分の3以上がクリアーします。残りの4分の1も全然書けていないわけではなく、惜しくも目標に届かなかったというところまで行きました。

 

リライトした用紙は回収してチェックします。ただし、添削はしません。そんなことをやっていたら、教員が過労死してしまうからです。添削などしなくても、回数を重ねているうちに生徒自身の力で英文が改善されていきます。要は書くことに慣れさせることです。

 

ちなみに、この活動を行っていた時代の生徒は、3年次に受験したあるコミュニケーション能力テストのライティング部門で都立進学校の高校2年生と同等の成績を修めました。また、附属高校に進学した生徒たちがあまりにもスラスラとエッセイ作文を行うので、高校の先生が驚いたというエピソードもあります。ただし、正確さのないメチャクチャな英文も多かったそうですが…。

 

③ Reporting 

この活動は Show and Tell 用ではなく、現在も普通授業でごく一般的にスピーチの後に行われている事後活動の1つです。第二者として聞いた発表者のスピーチの内容を第三者に伝える、つまり客観的な立場で伝える活動です。1年生で三単現を習えば使える、意外に簡単な活動です。

 

本校では、「コミュニケーション活動」のコーナーで紹介している「チャット」の事後活動としてよく行われます。チャットは通常2人一組で行われますが、その後に二組ずつ4人一組にして、それぞれがパートナーから聞いた内容をもう一方のペアに報告するという形を採ります。

 

この活動の効果は、最初に行う情報収集活動(つまり、ここではスピーチ)を全員がよく聞こうとすることです。スピーチをよく聞いて情報をメモしておかないと、この事後活動を行うことができません。全員を「聞くこと」の活動に集中させることができます。

 

次に、得られた情報を客観的な立場で整理して話すという活動を繰り返すことによって、「叙述する」という力が身につきます。ちなみに、英検の3級~2級の2次試験でイラストを見てその内容を説明するという問題が出されますが、本校の生徒ならすでに授業でそうした活動に慣れているので、特に対策はとっていなくても受験した生徒はみな「簡単にできた」と言っています。 

 

ペアで話した内容をグループ(2ペア)で報告(レポート)し合う。

 

ペアで話した内容を全体に発表する。


④ Discussion 

これは英語でディスカッションをするということではありません。「どうしたら、もっとよりよい発表活動ができただろうか?」ということを日本語で議論するという活動です。つまり、スピーチをしたら、それをやりっ放しにするのではなく、振り返りの活動を行うということです。新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」の「深い学び」を行わせる1つの方法として「振り返り」を行うことをあげていますが、本校では以前からこの活動を行っています。 

 

録音した会話を聞いて書き起こし、より良い表現をペアで考える。

よくわからなかった表現をクラス全体でシェアし、みんなでより良い表現を考える。


 

<④のこぼれ話>

実は、スピーチを聞いた後にその内容についてディスカッションを英語で行うという活動も以前は行っていたのですが(「ディスカッション・タイム!」参照)、実際には考えていたようには上手くいかなくて数年でやめてしまったということもありました。きっとよりよい活動にする工夫が足りなかったのだと思いますが、その後はその活動の発展バージョンは行っていません。 

  

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