(3) 授業を構成する際の留意点と小中・中高一貫カリキュラム編成のあり方

(1)はカリキュラム・マネジメントの定義と教科教育における取り組みの第一歩について述べ、(2)は個々の授業の構成を考える前に行うべき作業について述べました。そこで、第3回(最終回)である今回は、実際の授業を構成する上での留意点と小中・中高の一貫カリキュラム編成のあり方について述べていくことにします。

 

1.授業を構成する際の留意点

 

(1) 「授業は英語で…」の実施

① 授業のあり方を大きく変える変更点

小学校で英語が教科化されるというニュースに隠れてあまり話題にならなりませんでしたが、今回の学習指導要領の改訂には英語教師にとって大きな変更点がもう一つありました。それは「授業は英語で行うことを基本とする」でした。

 

この点について、中学校学習指導要領の「3 指導計画の作成と内容の取扱い」の(1)エには次のように書かれています(太字は筆者の強調)。

 

生徒が英語に触れる機会を充実するとともに,授業を実際のコミュニケーションの場面とするため,授業は英語で行うことを基本とする。その際,生徒の理解の程度に応じた英語を用いるようにすること。  

 

これを実際の授業作りをイメージして改めて読むと、授業を英語で行う目的は太線部の2つであることがわかります。そしてそれは、「授業は英語で…」を実践するには、授業全体をとおして教師や生徒が話す英語も教材であり、授業全体を実際のコミュニケーションの場面とするという発想で授業作りを見直す必要があるということでもあります。

 

② まったく別の指導過程と指導技法

これに対して、授業を英語で行った経験のない教師たちから否定的な声が多く聞こえてきました。それは、それまで日本語で教えてきたことをそのまま英語に置き換えて説明することが「授業は英語で…」だと思った教師が少なくなかったからです。そのような教師が試験的に行った英語による授業を受けた生徒たちは「全然わからない」と騒ぎ出しました。そして、それをもって「『授業は英語で…』など公立の中学校ではできない」などと断じる教師が続出したのです。

 

しかし、「授業は英語で…」には、日本語で授業を進めるのとまったく別の指導過程と指導技法が必要です。それは、既習事項を使って生徒と英語でやりとりをしながら帰納的に理解させていくことです。これは先述した新学習指導要領内の記述とも一致します。すなわち、英語を授業の中で使わせながら習得させるということであり、それを可能にするために授業のあらゆる場面を言語使用の機会にするという発想の授業作りなのです。

 

例えば、次に示すようなある新出文型を導入する際に、日本語であれば明示的に(演繹的に)その内容を説明するような場面でも、英語を使って指導する場合は生徒と英語でやりとりをしながら帰納的に理解させるような指導過程を組むということです。

 

<日本語で演繹的に指導する例>

教師:「AはBよりも大きい」ということを表すには、形容詞の big に -er を付けて bigger とし、A is bigger than B. とします。than は「~より」という意味の語です。

 

<英語で帰納的に指導する例>

教師:(大きさのちがうボールのシルエットを見せて)Look at these two round things.    They are silhouettes of something.  What are they?  What do you think?

生徒:Balls.

教師:That's right.  One of them is a basketball and the other is a volleyball.  Which one is a basketball, A or B?

生徒:A!

教師:Why can you say A is a basketball?

生徒:Because A is big.

教師:In this case, you say "A is bigger.  A is bigger than B."  Or you say "B is smaller.    B is smaller than A."(以下、同様のやりとりを他の二つを使って聞かせた後に次のように問う)Now, I have a question.  Why can you say A is a basketball? 

生徒:Because A is bigger than B.

 

もちろん、これだけで生徒がこの新出文型を完全に理解できたかはわかりません。したがって、日本語による補足説明は必要でしょう。ただし、その場合であっても、教師が一方的に説明してしまうのではなく、生徒が気づいたことを拾いながら帰納的にまとめていくようにします。

 

(2) 授業作りの基本

① 授業の「型」を作る

授業で言語を効率よく学習させるためには、授業にある一定の「型」(=指導過程)を持たせるようにします。こうすることで、場面転換における無駄な説明を省略することができ、結果的に言語学習に費やす時間をより多く確保することになるからです。

 

さて、日本ではすでに昭和2(1927)年には英語の授業の型が「第四回英語教授研究大会」で提案されており、その主な流れは現在でも典型的な指導過程として、多くの英語教師により実践されていあす。それはおおむね次のようなものです。

 

 1 身近な内容についての英語による問答

 2 既習文型を使った口頭英作文練習

 3 既習部分についての問答とスペリング練習

 4 新教材の口頭導入

 5 リーディング(判読と音読)

 6 整理

 7 宿題 

 

最近は、コミュニケーション能力育成の観点から、授業の冒頭に Small Talk という活動を入れたり、新出文型や既習事項を総合的に使った言語活動を行ったりすることが定番になっていますが、実はそれらもすでに90年以上前から指導過程の一部として位置づけられていたことがわかります(前者は上記の1に、後者は2に相当する)。要は、言語学習と言語活動を統合した一定の「型」を授業に持たせることが重要なのです。

 

② 指導案を書く

授業の「型」ができれば、各時間で教えるべき内容を考える段階になります。その際に大切なことは、50分の授業をどのように進めるかをあらかじめきちんと構想しておくことです。そうすることで、無駄な間合いや準備不足による混乱を来す可能性が少なくなります。また、そのような授業を毎時間行うことで、結果的に生徒の授業内容の習得率も高くなるのです。

 

そのような授業を行うためには、できれば毎時間、簡単でもいいから指導案を書きたいものです。英語の授業の場合、最も重要な記載事項は口頭導入等で実際に発言する英語のシナリオです。これをきちんと書いておけば、自信をもって無駄のない英語による授業を行うことができます。

 

また、指導案をノートに書いて整理しておくと、それを翌年以降も使えるので大変便利です。筆者は着任四年目からずっとそのようにしてきていますが、今春定年退職するまでにたまった計53冊の「指導案ノート」は、筆者の英語教師としての記録であるとともに、現在の指導を見直す際の道標ともなっています。

 

2.小中・中高一貫カリキュラム編成のあり方

 

(1) 非一貫校間における指導理念の共有

最近は公立の学校でも小中一貫校、中高一貫校が増えてきました。また、小学校の英語科が教科化されたことで、特に同一地区内にある小・中の連携を進めているところも少なくないでしょう。一貫校であれば教員組織が同じなので一貫カリキュラムの作成もそれほど難しくはないでしょうが、それ以外の学校の場合はそう簡単ではないでしょう。それは、いくら同一地区内にある学校とはいえ、小と中、中と高では元々「文化」が異なるからです。

 

後者のような場合において大切なことは何でしょうか。それは小中、中高をとおしてどのような児童・生徒を育てたいのかという「育てたい児童・生徒像」の一貫化、すなわち指導理念の共有です。

 

筆者が今春まで取り組んでいた筑波大学大塚地区「四校研」(都内文京区内にある附属小・中・高と大学の共同研究)では、第二期中期計画(平成22~27年度)において、小・中・高の12年間を通した全教科共通の4つの一貫した指導理念(以下の①~④)を考えました。そして、外国語科ではそれに教科独自の視点を加えたものを一貫カリキュラム作成の基本方針としました。なお、筑波大学附属小・中・高は一貫校ではなく、お互いの関係はどちらかと言えば同一地区内の公立小・中・高のそれに近いと言えます。

 

①「自主的・主体的に学習に取り組む態度を育てる」

自分が本当に伝えたいことを英語でやりとりする体験的な活動を設定し、自分のことばで語れるようにする。

 

②「児童・生徒同士が学び合う場面を設けて、協同的な学習を促す」

様々なペアやグループでの活動を設定し、お互いの良いところを認め合いながら全体としてより良い発表を目指すようにする。

 

③「文章を読んだり書いたりする機会、調べたことや自分の考えをまとめて発表する機会などを設けて、表現力・思考力の育成をはかる」

聞くこと、話すこと、読むこと、書くことの4技能を総合的に育成するような統合的な活動を設定する。

 

④「学ぶ楽しみを大切にし、意欲的に学習する姿勢を育てる」

進んでコミュニケーションを図りたいと思うような場面、達成感や充実感が得られるような活動を設定する。

 

このように育てたい児童・生徒像をもって同じ方向を向いて指導を行えば、あとはそれぞれの学校が別々に教育活動を行ったとしても、小中の9年間、中高の6年間、あるいは小中高の12年間で結果として育つ生徒の姿にはぶれが生じません。実際、四校研ではその指導理念に沿った児童・生徒を育成できたと自負しています。

 

(2) 一貫カリキュラム作成上の留意点

一貫カリキュラムと言うと、全ての教育活動において上下の学校の教育内容を統一させるようなイメージがありますが、完全な一貫校ではない学校どうしの間では、はたしてそのような統一作業は必要でしょうか。筆者はそのような「形を整える」ことよりも、(1)で示したような一貫した指導理念を共有することの方が大切であり、それができれば実際の指導はそれぞれの学校に任せた方がよいと考えています。つまり、志を同じにすることを優先し、あとは「餅は餅屋に任せる」方が実際的であるということです。

 

もちろん、指導理念を共有すればあとは何もする必要がないと言っているわけではありません。その証拠に件の四校研でもいくつかの指導項目において小・中・高で検討会や授業研究会等を開いたりして、具体的なカリキュラム表を作成しています。しかもそれは、詳細な検討と実践に基づいたものであり、決して形式的に表を埋めただけのものではありません。

 

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