中学校における「授業は英語で行う」の指導-その考え方及び指導の基本と留意点-

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現行の高等学校学習指導要領は、「授業は英語で行うことを基本とすること」を謳っている。そして、平成25年12月に出された「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」で中学校の授業においてもその必要性が示されていることから、次期学習指導要領では中学校でも同様のことが明記されることは確実である。

 

これに対して、多くの中学校英語教師は戸惑っているようである。そのような教師は「英語で授業をする自信がない」と躊躇しているか、「過去に英語で授業をしようとしたが、生徒に『わからない』と言われてやめた」と諦めている。中には「オール・イングリッシュで授業を行うのはナンセンスだ!」と自説を主張してこれに反対する教師もいる。しかし、「授業は英語で行う」は昨今の英語教育をめぐる流れからすれば、当然出てくることが予想されたことであり、それにいかに対応するかが私たち英語教師に求められているのである。

 

1.「授業は英語で行う」とは?

(1) 「授業は英語で行う」の真の理由

「授業は英語で行う」と言うと、「教師が授業中話す英語をすべて英語にする」と考える人が多いが、それは誤解である。学習指導要領でもそのようなことは一切言及されていない。「授業は英語で行うことを基本とすること」の前には「生徒が英語に触れる機会を充実するとともに,授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、」とあることからもわかるとおり、前半からは教師が話す英語も教材と考えること、後半からは生徒が実際に英語を使う場面をより多く確保することを目的としていることがわかる。すなわち、あくまでも生徒の言語運用能力を高めるための方策として示されているのである。また、その後には「その際,生徒の理解の程度に応じた英語を用いるよう十分配慮すること」とあり、教師が英語を話す際は生徒にとって既習の表現を使うように心がけ、彼らに「わかんないよ」と言わせないようにすることが肝心であることが示されている。

 

一方、筆者の勤務校は前々身が東京高等師範学校附属中学校であるが、同校の1910(明治43)年の『教授細目』(資料1。現在の「指導計画」のようなもの)によれば、百年以上前の当時から授業は英語で行うことが基本とされていたことがわかる。ただし、その『教授細目』でも必ずしも授業のすべてを英語で進める必要はなく、逆に場合によっては日本語を使うことが示されている。

 

<資料1>  『教授細目』「英語科」より

「外国語の教授時間には生徒をしてその外国語の行わるる社会中にあるが如き感を抱かしむるを可とす。たとえば、教場管理に関する事項を談話する場合、すでに授けたる語句を用いて説明し得る場合、国語を用いずとも絵画・身振等の助けを借り英語にて説明しうべき場合、及び復習・練習に用うる問答等はなるべく英語のみを用う。されど、例えば事物の名称の如き、英語を用いては徒らに長き説明を要するもの、並びに文法上の説明の如き、正確を要するものには、国語を用うこととす。」

 

つまり、大切なのは教師が英語を使うべき場面では英語を使い、かつ生徒にも英語を使わせる場面をできるだけ多く確保するということである。そのきっかけが「授業は英語で行うことを基本とすること」なのだと言えるだろう。

 

(2) 「授業は英語で行う」の基本

  ここではこれから「授業は英語で行う」に取り組んでみようという教師を対象に話を進めていきたい。まず、そのような中学校の教師は、次のようなステップを踏むとよいであろう。

 

・ステップ①…単純な指示文を英語にする

・ステップ②…新出文型を英語で導入する

・ステップ③…教科書本文を英語で導入する

・ステップ④…あらゆる場面を英語で進行する

 

上記ステップにより、①は教師にも生徒にも過度の負担無く実行することができ、②と③は既習事項を使うことで「聞くこと」「話すこと」量を一定量増やすことができ、④は授業全体を「英語空間」のようにして生徒も教師も授業は英語で行うものだと思えるようになる。

 

2.「授業は英語で行う」指導の具体例

(1) 単純な指示文を英語にする

生徒に指示を出して活動させる際の単純な指示文をすべて英語にすることが最も簡単で確実に実施できることである。例えば、「教科書の10ページを開いて」は Open your textbooks to page 10. である(「~を」がtoであることを知らない教師は意外に多い)。その他の具体的な表現はたいてい各社の1年生用教科書の扉の頁に載っているので、ここでは省略する。

 

次に、もう少し複雑な文として、次のような指示は英語で何と言ったらいいであろうか。

 

① 5問とも正解だった人は手を上げて。

②  今度は先生がKenの台詞を読むから、みんなはKumiの台詞を読んで。

 

いずれもそのまま直訳しようとすると、生徒が理解できないような長く複雑な文になるので躊躇してしまうだろう。実は、その「そのまま直訳」がダメなのである。教師は「難しいことを易しく説明する」のが仕事であるから、ここでもそれを実行する。つまり、次のような生徒がわかる易しい表現に置き換えるのである。

 

① Five questions, all OK, raise your hand.

② Next, I am Ken. You are Kumi. Let's go!   

 

①のような例を出すと、「そんなジャパニーズ・イングリッシュのような表現は聞かせるべきではない」という批判を受けそうであるが、それを気にして日本語で言ってしまうのはなおさら良くない。ここは教師自身が「片言英語でいいんだ」ということを示し、生徒が臆せず英語を口にするようなモデルとなるべきである。

 

(2) 新出文型のオーラル・イントロダクション 

次に「授業は英語で行う」に取り組む例として新出文型のオーラル・イントロダクションがある。現役教師の中にはそれそのものを知らない教師や、知っていても基本を押さえていないやり方をしている教師もいる。そこで、以下にぜひとも押さえておきたい基本をまとめてみる。

 

①  場面設定をきちんと行う

いくら簡単な既習の英語で話すと言っても、いったい何のことが話題になっているのかを生徒が理解できなかったら、オーラル・イントロダクションは失敗である。また、いきなりターゲットの新出文型を使ってその場面で語られている内容を推測しろといのも無理な話である。できれば視覚教材を使って目からの情報からも場面を理解させるようにし、既習の表現を使って段々と目的とする表現を出すようにしたい。

 

② 帰納的に理解させる

目標文を理解させるための既習表現は、それまでに学習した内容を繰り返し聞かせるための「教材」でもある。したがって、それらを上手に組み合わせて聞かせることで、最終的に目標とする表現を理解させるように指導過程を組むようにしたい。つまり、帰納的に理解させるように話の流れを仕組むのである。

 

なお、せっかく帰納的な指導過程を組んだのにもかかわらず、「今言ったのは『…』という意味の新しい表現です」などと説明してしまう教師がいるが、それではそこまで一生懸命やってきた帰納的な導入が台無しになってしまう。導入した新しい表現の意味が理解できているか確認する際も、生徒から答えを引き出すような問いかけをするように注意したい。

 

③ 生徒とのインタラクションを重視する

「授業は英語で行う」の最大のねらいは生徒に英語を使わせることである。しかし、教師が一方的に英語で話しているのではそれを達成することはできない。オーラル・イントロダクションは既習事項を使いながら新しい表現を理解させる方法なのであるから、その指導過程はぜひとも生徒とインタラクションをしながら進めていくものを考え実践していきたい。

 

(3) 本文のオーラル・イントロダクション

教科書を開かせて本文を読ませる前に、本文を教材としたリスニング&スピーキングの活動、すなわちオーラル・イントロダクションによる本文の概要の導入を行いたい。各教科書会社はそれを可能にするためのピクチャーカードを用意しているので、それを視覚補助教材として使いながら本文の内容を導入する。

 

導入する際の留意点は(3)の①~③と共通するが、もう1つ留意すべき点はオーラルで導入できる範囲を見極めることである。題材によっては細部まで導入できる場合もあるが、学年が進んで抽象的な内容が増えてくると、あまり細かい点までオーラルで導入するのは学習意欲という点で逆効果(飽きてしまう)ということもある。そのような場合は、オーラルで導入する点を絞ったり、場面の紹介のみにしたりという柔軟な対応を採るようにしたい。

 

(4) 授業全体をコミュニケーションの場とする 

中学校でいわゆる「コミュニケーション活動」が流行した際に、多くの教師が「コミュニケーション活動を行えば生徒の『聞くこと』『話すこと』の力がつく」という落とし穴に陥った。それはその設定された活動時間の他は以前と変わっていなかったということである。しかもその「コミュニケーション活動」をつぶさに観察すると、例えば十分間の活動時間の中で実際に生徒が英語を使っているのは二~三分程度であったりする。これでは生徒が英語を使えるようにはならない。授業が終わって休み時間になっても生徒が英語を話しているような授業をしたいものである。そのためには、次のようなことを実行すると良い。

 

① ルーティーンはすべて英語で

最終段階として提案したい1つが毎時間行っているような、つまりルーティーンとなっている活動はすべて英語で行うということである。例えば、授業の最初に前時の本文の復習を行うのであれば、次のように言ってみると良い。

 

Now, let's go over the last lesson.  I'd like to check how much you remember the last class.  Look at this picture. ...(以下、前時の本文の概要をQ&Aしながら思い起こさせる)

 

各活動を行うにあたっては、最初は細かな説明が必要であろうが、一端軌道に乗ってしまえば、それほど困難無く行えるものである。

 

② あえて難しい指示を英語で出す

新しい活動を行う際に、あえてその内容を英語で説明してみるというのも効果的である。平素とちがう活動を理解するために生徒は一生懸命耳を傾ける。また、教師も効率よく説明するために、表現を事前に吟味するようになる。

 

3.「授業は英語で行う」の留意点

「授業は英語で行う」ような授業を活発に行うためには何が必要であろうか。そのポイントの1つが生徒にできるだけ英語を使わせることであることは前に述べた。そうだとすると、教師の指示や問いかけに対して即反応するような生徒であってほしい。しかし、そのような生徒は黙っていては育たない。意図的に働きかけて育てなければ、そのような生徒にはならない。

 

その働きかけとして大切なのは、授業において英語を気軽に口にできる雰囲気をクラスの中に醸成することである。つまり、生徒同士の人間関係を良好にすることが欠かせない。そのためには、英語の授業やその他の教育活動の中で意図的にそのような活動を仕組む必要がある。そして、そうした指導を生徒が受け入れてくれるような状況も作る必要がある。つまり、教師と生徒の人間関係を良好にするということである。生徒に教師の指示を素直に実行してもらうためには、平素から生徒に信頼される教師でなければならない。「授業は英語で行う」の正否は、実は英語の授業を行う以前のところから始まっているのである。

 

(『指導と評価』2016年10月号、図書文化)

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