エピソード37⑧:先輩の教え

37年間も教員をやっていたので、これまでに大変多くの先生方に出会いました。今回はその中でも特に筆者の教員としての考え方に大きな影響を与えた先生を何人か紹介します。ただし、今回の目的はその教えを紹介することですので、その先生個人のお名前は出しません(ご本人の許可も取っていませんし…)。

 

① 全力の生徒指導

筆者の初任校は埼玉県の全県立高校の中でも「5本の指に入る」とも言われるほど生徒指導が大変な学校で、毎日のように何かしらの生徒指導案件がありました。しかし、だからといって「学校崩壊」が起こっているかというとそうではなく、比較的落ち着いた(?)学校でした。

 

それを可能にしていたのが強力な指導力を持つ生徒指導部長の先生の存在でした。スポーツ刈りでボディービルダーのような身体をしている柔道部顧問の体育科の先生で、生徒からは「ジュウケン」(柔道の柔と名前の一文字目の漢字の読み方)と呼ばれて恐れられていました。どんなワルな生徒でもその先生に声をかけられるだけでびびっていたくらいです。もしかしたら、あだ名の由来を知らない生徒は「銃剣」と頭の中で漢字変換していたのかもしれません。

 

しかし、その先生はただ恐いでけではありませんでした。情にもあつく、問題を起こした生徒を見捨てるのではなく、なんとか更正させようと努力をする人でした。その先生の存在は自分を含めた若い教員にとって大変大きなもので、その先生の指導方針に従っていれば間違いはないという安心感を与えてくれました。学校の雰囲気が比較的安定していたのはそのせいだと思います。

 

もちろん自分はその先生のようにはいきませんでしたが、自分のできる形で生徒に一所懸命に接しようと思わせてくれる先生でした。

 

② 意地の行事指導

筆者が初めて学校行事の主任を任されたのは、2校目で2巡目の学級担任を持ったときの修学旅行でした。もう教員になって10年目になっていました。

 

その時にある先生に言われました。「行事は担当者の“意地”の見せどころだ。当日に生徒をしかったらお前の負けだ。そうならないように生徒の動きを予見して事前に指導をしておけ。」そして、その言葉に鼓舞されて、時間をかけ、あらゆる方面に気を回して準備をしたことを覚えています。

 

そして、それからは学校行事だけでなく、授業を含めたすべての教育活動において準備をしっかり行うようになりました。事前にどれだけ予見できるかが勝負だということを先輩の教えから知ったからです。

 

それは3校目でいろいろな学校行事や学年行事を担当するときも変わりませんでした。筆者が異動した当初の頃は行事というと「前年度の踏襲」という雰囲気があったのですが、筆者はそれらをすべて変えてしまいました。それは自分が納得できる形でやりたかったからです。とにかく当日を迎えるまでに考えられるすべての準備を整え、当日は生徒に任せて口は出さないで済むようにしました。

 

③ 育てる学級指導

これまでにあちこちの記事で何度も書いていますが、最初に高校の教師としてスタートした筆者にとって中学生の指導は大変でした。それは、高校生とちがって中学生は積極的に「育てる」指導が必要だったからです。それがわかっていなかった時期の筆者のクラスの生徒は、他の先生のクラスの生徒より精神面の育ちがあまりよくなく、まとまりもなくてやる気のない集団でした。

 

それに対して、ある先生のクラスは学年が上がったときにカラス替えをしても、しばらくするととてもまとまりのあるクラスになりました。そのちがいがわかったのは、何年も後のことでした。

 

その先生は、何かクラスに問題があったときにまず生徒の発言をよく聞きます。そしてどうしたらいいかを生徒に考えさせて実行させるのです。決して教師の考えを押し付けたりしません。しかし、だからといって何も策を考えていないわけではなく、むしろいろいろな「仕掛け」を生徒に与えるのです。その上で生徒に具体的な行動内容を考えさせます。そうすると、生徒たちは自主的に動くのです。

 

上記のことがわかったとき、筆者も同じようにやってみました。ところが、うまくいきませんでした。当たり前です。表面的なことを真似ても、その根底に流れている教育理念まで理解していなければうまくいくはずがないのです。また、そもそも根本的な問題として、何か事が起こってから対処するのではダメでした。経験を積んでいけば生徒がどのようなことにつまずくかはわかってきます。そのつまずきを予見して、そうならないように事前に細かい指導を行わなければなりませんでした。

 

しかし、その後に自分独自の生徒を育てる方面を見つけました。それが「終礼の話」に代表される生徒との語らいです。ただのおしゃべりではありません。ある目的を持って生徒とやりとりをしながら、何でも発言できる明るい集団作りをするのです。詳しくは「終礼の話」「生徒を育てる話の法則」のコーナーを参照ください。

 

先輩の先生から学んだことを自分のものにする…。それは決して簡単なことではありません。しかし、先人の実践の中に自分の教育活動を大きく進歩させるヒントがあるのは確かです。もし今ご自身の生徒指導に悩んでいる方がいましたら、ぜひ同僚の先生の中で生徒指導が上手な先生の指導方法やその根底にある指導理念を教えてもらってください。

 

「つぶやき」に戻る

「ホーム」に戻る