平成31年度全国学力調査の分析:中学校英語-調査結果を学習指導に生かす方向性と「話すこと」調査の運営上の課題-

※記事の一番下に雑誌記事の現物(PDF)があります。

平成31年度の全国学力調査では、中学校3年生で初めて英語が実施された。しかも、これまで大規模な調査では難しいとされてきた「話すこと」の実技試験も初めて行われた。

 

調査の結果は8月に公表され、技能別の正答率は、「聞くこと」68.3%、「読むこと」56.2%、「書くこと」46.4%、「話すこと」30.8%であった。なお、「話すこと」は一部の学校が不参加であったり、解答の録音に一部不具合があったりしたために、「参考値」とされた。また、「話すこと」の調査は先述のとおり異例のものであったため、9月に検証報告書も発表された。

 

本稿では、それらを踏まえた上で、調査内容の分析を行いたい。ただし、筆者は現職の中学校教員であるので、調査結果から見えた学習指導上の課題技能領域ごとの指導の方向性、そして、「話すこと」の調査の課題について私見を述べることにする。

 

1.調査結果から見えた学習指導上の課題

新学習指導要領では、生徒の「思考力・判断力・表現力」を育成することが従来以上に強調されている。そのような指導が全国で行われることを促進するためであろうが、本調査にもそれらの力が身に付いているかを問う問題が各所に見られる。例えば、複数の情報を有機的に処理しないと答えが出せない問題、資料から必要な情報を読み取る問題、聞いたり読んだりして理解したことに対して、話したり書いたりして適切に応じる問題、などが出題されている。

 

さて、調査結果を見ると、上記のような問題には正答率が低いものが多い。特に、ある程度まとまった量の英語で話したり書いたりする問題は、それが顕著である。問題の性質上、ある程度予想されてはいたが、現場の教師たちががたたかれそうな結果である。しかし、この結果に対して、教師が「自分の生徒はそんな難しい問題に正しく答える能力はない」と開き直ってしまってはいけない。おそらく、自分で答えを考え、それをある程度まとまった量の英語で表現するという作業を、生徒は日頃の授業中の活動や定期テストの問題等であまり経験したことがないので、戸惑ってしまったのではないだろうか。もしそうだとすれば、日頃からそのような問題に慣れていさえすれば、もう少しちがった結果になったかもしれない。

 

したがって、私たち教師は、これまで以上に、いやドラスティックに発想を変えて、授業中に生徒の思考力・判断力・表現力を育成するような学習活動や言語活動を取り入れていく必要がある。今回の結果を受けて、筆者はそれをとても強く感じた。

 

2.技能領域ごとの指導の方向性

(1) 聞くこと

1のような、聞こえた内容と絵で表された場面を結びつける問題は正答率が比較的高い((1)~(3)は91.3%~72.8%)。しかし、その中では(4)のように、絵で表されている内容と聞こえてくる英語の順番が異なっているような問題は、正答率がやや落ちる(62.4%)。しっかり全体を聞いてから、論理的に情報を整理する訓練が必要であろう。

 

4は、本領域の中で最も正答率が低かった(8.6%)問題である。もっとも、まとまった量の英語を書いて答える問題であったので、純粋に「聞くこと」の力を測ったものではない。他の領域にある同様の答え方をする問題との大きなちがいは、無答が41.1%もいたことである。おそらく、問題文の内容は理解できたものの、解答の方向性が思い浮かばず、どう答えていいか迷っている間に制限時間が来てしまったのだろう。この類の問題への対処は、まず聞いたことに対して、自分の考えを「言う」という活動を日頃から行うことである。「言うこと」ができずに、「書くこと」はできないからである。

 

(2) 読むこと

本領域の問題は、純粋に「読むこと」、すなわち、英語の文や文章を読んで概要や要点をつかめるかを問う問題で構成されており、文法問題なども含む、いわゆる「総合問題」ではない。新傾向の問題として、グラフから読み取れる内容と英文を一致させられるか(5)、長文で読み取った内容を表に整理された項目と一致させられるか(6)、等の力を診る問題が出されている。結果(5は3問のも70%以上、6は63.7%)からは、生徒がこれらの問題には比較的柔軟に対応できたことがわかる。

 

ただし、長文、特に論説文、を読むことが平均的な中学生にはかなり難しいものであるということが7の解答例から見えてくる。長文の主旨を選択肢から選ぶ問題であるが、正答率が33.5%と低かった上に、残り3つの誤答率がいずれも約20%以上あった。おそらく、多くの生徒が長文の内容をよく理解できないまま、適当に記号を選んだのだろう。また、8(11.6%)は「書くこと」の力も問われているが、無答が27.3%もいることから、長文の内容を理解できなかったために何も書けなかったという生徒が少なからずいたと思われる。

 

以上のことから、長文の概要や要点を素早く正確に読み取る訓練を日頃から行う必要があることが見えてくる。教科書は定期的に読み物教材を扱えるようになっており、3年生ともなると各課に「読むこと」を中心としたページが多くなっている。そのような箇所では、細かい表現や文法の解説等に時間を費やすのではなく、一読して概要を読み取ったり、複数回読んで要点を読み取ったりする活動を行うようにしたい。

 

(3) 書くこと

以前は大規模かつ公平性が求められる入学試験や学力検査では、採点の手間や採点基準の問題から、自筆で書かせる問題は敬遠されることが多かったが、最近は高校入試でも自由記述の問題を出す都道府県が大変多くなった(平成31年度は40都道府県。筆者調べ)。

 

本調査ではさらに一歩進められ、9の接続詞を選ぶ問題以外はすべて記述式になった(ただし10のみ25語以上の記述式。ほか5問は数語の短答式)。また、先述のとおり、「聞くこと」や「読むこと」にも英語で書いて答える問題が出された。結果としては、授業中の活動でよく表現される9(2)①(74.1%)以外は正答率が低く、9(3)②、③は4割を切り、10に至っては1.9%という壊滅状態であった。

 

これらの問題にも対応できる力を身につけるためには、日頃から自分の考え等を自由に書く活動に慣れさせておく必要がある。中学校の英語教師の中には、授業中にできる「書くこと」の活動は、文字や単語を正しく書いたり、和文英訳をしたりすることだと思っている人が少なくない。もちろん、その理由が、生徒の個人差が最も大きく出る「書くこと」の活動では、オープン・エンドの自由作文は時間の計算ができないことや、生徒が書いた英文を添削する時間がないことなどであることは理解できる。しかし、そのような機会を与えなければ、いつまで経っても生徒の書く力は高まらない。

 

そこで、毎時間少しでもよいから、生徒に自由に書かせる時間を採るようにしたい。その際、自分の考えを書くのは、考えをまとめるのに時間がかかるので、やや短めの長文を示して、制限時間内でその内容を要約させるという活動がよい。しかも、生徒が書いた英文は添削しない。それで生徒の力が高まるのかという疑問があるかもしれないが、その心配はない。添削をしてもしなくても生徒の作文力は変わらないという研究結果もあるからである。むしろ、筆者の経験からは、生徒に何度も自由に書かせることで、書くことに慣れる効果の方が大きいということがわかっている。

 

(4) 話すこと

まずは、生徒に実際に話させた英語を評価するという実技テストを全国規模の調査で実施した文部科学省の英断を評価したい。評価方法や運営面の課題は後述するとして、ここでは出題された問題の結果を、今後の指導に生かす方向性を議論する。

 

冒頭でもふれたように、正答率は総じて低かった。特に、2の第三者の会話を聞いて、その会話に関係する質問をする問題の正答率は10.5%であった。一方、3の自分の将来の夢を一分間考えた上で30秒間話す問題の正答率は45.8%で、無答は4.6%であった。時間さえあれば、なんとかコミュニケーションをしようとする態度は育成できているようである。

 

以上のことから、客観的な立場から自分の意見を述べたり、即興的に話に加わるという活動を平素の授業で一層行っていく必要があることがわかる。実際の授業場面では、既習事項を総合的に使って話すコミュニケーション活動を「帯活動」として毎時間行うのがよいであろう。

 

3.「話すこと」調査の課題

最後に、今回初めて導入された「話すこと」の実技試験の課題ついて、実施(運営)方法と評価方法の二点から論じたい。

 

(1) 実施(運営)方法について

今回は、生徒個々に配られたヘッドセットから流れてくる音声ガイドと問題を聞き、実際に話した生徒の音声を録音して評価するという方法が採られた。実は、本実施に先立つ4年前から3年間、一部の協力校で行われた予備調査では、「英検」の二次試験に近い、実施校の教員による面接方式であった。それが前年度の予備調査で本調査と同じ方法に変更された。両方とも経験した者としては、どちらの方法にも問題点を感じているが、ここでは実際に本調査で採用された方法の課題点を述べたい。

 

検証報告書では、録音に使うコンピューターの整備や録音された音声データの欠損等が主な課題とされているが、現場の教員としては、今回の調査を行う準備段階の労力の大きさを強調しておきたい。例えば、前年度の3月に送られてきた動作確認ソフトが、使用するすべてのコンピューターできちんと動作するかどうかを確かめる作業だけでも、相当な時間と労力が必要であった。筆者の学校では、教育機器に強い教員で特別委員会を組織して対応にあたったが、そのような教員がいない小規模の学校ではかなり苦労したのではないかと推察される。その他にも、当日の調査を厳正に進めるために、調査問題が漏れないような生徒の動線を考え、実際にその動線を管理するのも大変であった。

 

次に、検証報告書にもあるが、全員を同じ部屋で同時に実施することで、近くの生徒の答えに影響を受けるという問題があった。これは録音された答えの信頼性を損なうもので(カンニングしたのと同じこと)、調査全体の妥当性も揺るがす問題である。事前にそれを知った生徒が失笑するような問題点でもあるので、次回に向けて早急の対策が必要である。

 

(2) 評価方法について

実は、結果報告が届いたときにわかったことであるが、採点基準にも問題を感じた。一番の問題箇所は1(3)で、筆者の学校の正答率が全国平均の半分しかなかったことで、詳しく分析した結果わかったことである。この問いの答えは、He comes to school by bus.で、By bus.も正解であるが、comes を come と言っただけで不正解扱いとなっている。懸命に文で答えようとしたことが裏目に出る採点基準は、積極的にコミュニケーションしようとする態度の育成に逆行している。さらに、より正確さが要求される「書くこと」では、重大な文法的なミスも許容されていることを考えると、件の基準は絶対に見直されるべきである。なお、周囲のことを配慮して小さな声で話そうとする生徒に、bus の部分を強調するという満点の答え(正答率0.2%)を期待するのも、調査会場の様子を事前に考慮できなかった達成規準と言えるだろう。

 

また、採点者間の判断基準の統一性にも疑問がある。学校に残っていた音声を筆者が聞き直したところ、筆者の採点結果と報告された結果には大きな開きがあった。採点者の「感覚」によって大きく結果が異なる可能性があり、より公平で安定した評価方法の開発が望まれる。

 

(『指導と評価』2020年1月号、図書文化)

 

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