1. テスト作りの基本

(1) "読解"問題ではない長文読解問題

前ページでご覧いただいた「長文読解」問題の“問題点”はいったい何でしょうか?

 

それは、件の問題の問1~問3は「長文読解」問題としては不適切で、問4のみが適切であるということです。では、なぜ問1~問3が不適切かと言うと…、

 

・問1…この問いは表現力(典型的な表現)と文法力(構文の選択)を問うものである。

・問2…この問いは語彙力(連語の知識)を問うものである。

・問3…この問いは文法力(前置詞の使い方)を問うものである。

 

つまり、問1~問3はいずれも読解力とは関係がないのです。したがって、長文の中で出題する意味はなく、それぞれ独立した問題として出されていてもかまわないわけです。

 

このようなタイプの問題は、いわゆる「総合問題」として今でも多くの私立高校の入試問題などで出題されています。さすがに大学入試センターが作成する入試問題や全国学力調査問題などにこのタイプの問題が出されることはありませんが、高校入試ではまだまだ主流のタイプの1つであることはまちがいありません。

 

このタイプの問題自体が“問題”だと言っているのではありません。“問題”なのは、昔からこのタイプの問題がいわゆる「長文問題集」に載っているために、英語教師の多くがこのタイプの問題を「長文読解問題」であると思ってしまっている点です。そして、このタイプの問題を自分が作成する定期テストに出題し、その大問の小計を「読解力」の点数としたり、総合点のみでその生徒の「英語力」だとしたりすることがあるのが“問題”なのです。

 

このような点を最初に痛烈に批判したのが『無責任なテストが「落ちこぼれ」を作る―正しい問題作成への英語授業学的アプローチ 』(若林俊輔・根岸雅史著、1993)という本でした。発売当時、英語教師の間で結構話題になったので、知っている先生もいらっしゃるでしょう。同書は、テスト理論を無視した作りであるのにもかかわらず、それに対して何の疑問も持たずに自分が経験してきたテストを自分の生徒にも実施してしまう教師への警笛として書かれた本でした。この本の登場によって、少なくとも同書を読んだ英語教師の多くが自分のテスト作りを一から考え直したにちがありません。実は、筆者もその一人でした。

 

では、上記のようなテスト問題作りが“問題”であるのだとしたら、どのようにテスト問題を作成したらいいのでしょうか。それを以下に述べたいと思います。 

 

(2) 評価観点別問題の作成 

ここで問題とされていることは、①評価観点が明確でない問題であること、②異なった評価観点の問題が大問に混在している、の2点です。したがって、よい試験問題を作るには…

・評価観点が明確な問題を作ること

・1つの大問には同じ評価観点の問題しか入れないこと

とすればいいわけです。

 

例えば、定期試験で生徒の特定の力(例えば、語彙力、文法知識、表現力等)を測りたいのであれば、それぞれの評価観点に合った問題を独立させて出題し、その評価観点毎に部分点を付けてから最終的に合計点を出すようにするわけです。

 

筆者の勤務校(以下「本校」)では、遅くとも件の本が発行された翌々年の平成7(1995)年度には、英語科全員が定期考査において評価観点別問題の大問を作成するようになりました。そして、後にそれを学習指導要領の4つの観点別評価の中の「表現」「理解」「知識」という3項目に再集計して評価データとするシステムを確立し、それを現在まで続けています。

 

「表1」は、筆者が主に担当したある学年の3年間の定期考査の評価観点別問題の項目名一覧です。本校は2期制を採っており、各学期で2回定期考査を行うので、3年間で計12回の試験があります。その中では、教科書を使わずに口頭でのみ指導する期間の1年前期中間考査のみ評価項目が特殊ですが、残りの試験では学年が進むにつれて新たな項目が追加されたり複数の項目が統合されたりすることはあっても、毎回ほぼ共通の評価項目(観点)で試験が構成されています。

 

ここで大切なことは、それを一教員が個人的に実践しているのではなく、長年にわたって英語科全員が共通実践しているということです。したがって、他の教員が主に担当する学年でもほぼ同様の評価観点別問題が作成されています。しかも、それをある教員が他の教員に強要して行うのではなく、毎年全教員のコンセンサスを得て行っています。

 

(3) 本校英語科の評価観点の例

ここでは、「表1」にある評価観点と実際に作成される問題の関連について説明することにしましょう(中1の前期中間考査は特殊な構成なので、以下には当てはまらない項目もあります)。

 

【表現】の問題

○理解表現…放送で聞いた内容に対して正確に書いて応答できるかを問う問題。

○本文再生…放送で教科書本文を聞き、指定された一文を正確に書けるかを問う問題。

○表現力…穴埋め、語順整序、和文英訳、エッセー作文などで、正確に書いて表現できるかを問う問題。

【理解】の問題

○基礎英語…全員に聴取させているNHKラジオ『基礎英語』の内容と表現について理解しているかを放送で問う問題。

○内容理解…初めて聞く会話や説明文の内容を理解できたかを放送で問う問題。

○表現理解…主に試験範囲内に学習した表現を理解しているかを放送で問う問題。

○読解…単文、複数文、長文を読んで内容が理解できたかを問う問題。長文は既読と未読の両方の素材を用いる。なお、読解問題は1年の学年末考査から採用されることが多い。

【知識】の問題

○語彙…主に試験範囲内に学習した単語と連語を正しく書けるかを問う問題。

○文法知識…主に試験範囲内に学習した文型や文法事項を理解しているかを問う問題。

 

試験問題と解答用紙には各大問毎に上記の評価観点が示されていて、生徒も自分がその問題で何の力を問われているかを理解できるようにしてあります。また、解答用紙の大問小計覧にはA(=表現)、B(=理解)、C(=知識)を示して観点別評価のどこにそれぞれの得点が反映されるかもわかるようになっており、中集計得点欄も合計得点欄の横に置かれているので、中集計得点を見れば自分の観点別評価毎(「態度」を除く)の達成度を知ることができるようになっています。

 

なお、実際の試験問題、解答用紙、放送問題台本、模範解答は「3. 本校の定期考査問題と事後指導の実例」でご覧いただくことができます。

 

<追記>上記はほとんどを旧学習指導要領下の時代に執筆したものです。新学習指導要領に対応したものは一部を下の「3.…」で扱っています。また、新学習指導要領の観点別問題作成で迷うことが多い点については下の「4.…」で扱っています。

 

◇「2. テスト結果を形成的評価に生かす事後指導」へ

「3. 本校の定期考査問題と事後指導の実例」

◇「4. 新学習指導要領に沿った問題の作り方」へ

 

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