裏話のつぶやき-修学旅行(その6)

いよいよ修学旅行の話も最終回となりました。当初は3回で終了するつもりで書き始めたのですが、書いているうちにいろいろなことが頭に浮かんできて、一話また一話と増えていってしまい、ついに当初予定の倍の回数になってしまいました。今回の話をきちんと理解したいという方は、第1回の「36. 発祥の地-修学旅行(その1)」からお読みください。

 

さて、これまでは表に出ている事実を中心に書いてきましたが、今回は実際に修学旅行のコースを企画・運営する上での裏話をお話しします。「つぶやき」としては、今回の話が一番その主旨に合っているものかもしれません。

 

1. 手探り状態

毎年学年全員で行く修学旅行ではなく、過去に定番となっているコースでもなかった「野外生活実践コース」は、誰に頼ることもないまま一人で企画を考える、まさに“手探り”状態で作り上げられたコースでした。最初に行った平成10年の前年に初めて似たようなコースが行われ、その下見に一緒に行ったことがあったとはいえ、本番は同行していなかったので、ほとんど“未経験”と言っても良い状態でした。

 

しかも、活動の一番の柱として設定した「ニジマスの燻製作り」や2回目以降に定番になった「サバメシ」は自分でもやったことがなく、はたして生徒を指導できるだろうかという不安がありました。ただ、学生時代からテントと寝袋をバイクに載せ、コールマンのガスコンロなどを持って日本中を一人旅した経験があったので(「土台を支える経験」「1. 日本一周バイク一人旅」参照)、「野外生活の経験がある」というくらいの経験値で「なんとかなるだろう…」という持ち前の前向きさ(無謀さ?)で始めたコースでした。

 

2. 自分で経験

上記のとおり、燻製作りとサバメシはそれまで自分でやったことがなかったので、事前学習が始まる前に自分自身で実践し、その模様をビデオに撮った上で、生徒に実践例として見せることを計画し実践しました。

 

① ニジマスの燻製作り

自宅から車で20分ほどのところにニジマスの養殖場があることがわかったので、そこで生きたニジマスを購入し、妻の指導で初めて内臓処理を行いました。そして、燻製作りの本を見て「塩水漬け」→「塩抜き」→「風乾」を行ったのち、生徒に作らせることを想定した段ボール箱の燻製機を作り、ホームセンターで買ってきたチップを電熱器の上に乗せ、それを2階のベランダに置いて燻製作業を行いました。

 

温度計を段ボール燻製機に差し込んで温度管理をしながら、時々チップを追加して箱から漏れ出てくる煙を観察しつつ待つこと約4時間。「そろそろできたかな?」と思って箱を開けると、見事に飴色になったニジマスの燻製ができていました。食べてみるとこれがまた美味しい! 初めてやったわりにはそこそこのものができたので、これならなんとか生徒にも教えられそうな気がしました。

 

② サバメシ作り

こちらは「サバメシ」を考案した人がインターネットで作り方の説明書を公開されていたので、そのとおりにやってみました。用意した物は、お米0.8合、350ml. のアルミ缶2個、1Lの牛乳パック3枚、アルミ缶に穴を開けるカッター、マッチでした。

 

アルミ缶はやわらかいので、上手に穴を開けるのが難しく、最初の缶は大きく穴を開けすぎて壊れてしまうという失敗をしましたが、2回目のトライではなんとかできました。牛乳パックはアルミ缶の穴から投入できる大きさに短冊状に切りました。

 

そして、コンロにあたる缶を下に、釜にあたる缶を上にして、炊飯開始です。短冊状の牛乳パックに火がよく回ると結構な火力になり、すぐに米釜が沸騰して湯気が噴き出してきます。そのまま全ての牛乳パックが燃え尽きると完成のはずです。炊きあがったお米はやや芯が残って固かったのですが、レトルト・カレーを食べるには十分なものでした。こちらも失敗も含めて自分で体験できたので、生徒にも教えられると思いました。

 

3. 特別な交渉

下見で大変だったことの1つが、立ち寄りたいと思って計画したところが、必ずしもこちらの計画どおりに営業しているとは限らず、それらに無理を言って営業してもらう交渉をすることでした。

 

① ニジマス養殖場

生徒に直接生きたニジマスを触らせたかったので、40人もの生徒が一斉に行っても大丈夫そうな養殖場を探しました。幸い、宿泊場所に最も近い高速インターチェンジの近くに天然の湧水池を利用した養殖場を発見し、下見をしました。ところが、修学旅行本番の5月中旬は営業期間外であることがわかりました。そこで、そこを運営している地元の農協に出向き、営業課長さんと直接交渉をして、本番当日のその時間だけ特別に開いてもらえることになりました。以降もほぼ4年毎にこちらのわがままを聞いてもらいました。

 

また、2回目は釣り堀で生徒に釣りをさせてニジマスを獲ったのですが、釣った魚の大きさにムラが有り、大きな魚は燻製には不向きだということがわかました(生焼けになる、重すぎて途中で落ちる、等が多発)。そこで、3回目と4回目はあらかじめ魚のサイズ(10㎝~15㎝)を指定して、その魚を生け簀からたらいに入れてもらい、生徒につかみ取りをさせるという方法に協力をしてもらいました。

 

② 土産物屋

4回ともお世話になったペンションには土産は売っていません。かと言って、そのまま帰ってしまったら、八ヶ岳方面の土産が手に入らなくなってしまいます。そこで、最寄りの高速インターチェンジ近くにある「道の駅」の土産物屋を利用することになりました。ところが、その後の活動を考えると、どうしても通常の営業開始時刻(10:00)までは待てませんでした。そこで、特別に9:00にお店を開けてもらい、貸切状態で40人の生徒のお土産購入を30分で終えられるようにレジ係を増やしてもらうことになりました。こちらも4年毎のわがままに毎回対応してもらいました。

 

他にもいくつか無理をお願いしたところがありますが(例:4日目の昼食のメニューと予算)、どこも事情を説明すると丁寧に対応してくださり、そのような方々の協力もあって留学旅行ができたのだと思いました。また、これらの交渉をとおして、何事も相談次第であるということを学びました。

 

4. 担当者のこだわり

このように、勤務校の修学旅行はそのコースを担当する教員の気力と労力によって成り立っています。これを「働き方改革に逆行する過重労働によるものであり、一般化できるものではない」と考える人もいるかもしれません。しかし、そのような労力をかけたからこそできあがったコース内容は、業者任せにした学年一斉の修学旅行とは比べものにならないくらい、コース担当者にとっては大切な旅行となるのです。その証拠に、毎回本番の3泊4日は朝5時から夜中の12時過ぎまでほとんど休みなく働いているのに、楽しくて楽しくて、まったく苦になりません。こんな気持ちは、他の学年一斉の宿泊行事(1年:臨海学校、2年:林間学校)では味わえないものです。

 

今年も筆者の近くで英語科と数学科の先生が過去に例のない新しいコースを実施すべく準備を進めています。その先生方も、「大変だ~」と言いながら、どこかその大変さを楽しんでいるように見えます。今までにない、まったく新しいことをやっていこうと努力している先生方を、かつての自分の姿に重ねながら、心の中で応援しています。

 

・毎年5月に行う修学旅行は10月へと延期になりました。(5/16/2020)

・本年度の修学旅行は中止になりました。(7/1/2020)

 

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