文京区ぶらり旅⑤:東京メトロ小石川車両基地

その昔、漫才ブームが起こった1970年代末に、上方漫才の中に”地下鉄漫才”と称される話がありました。上方漫才師の春日三球・照代夫妻の人気ネタで、「いったい地下鉄の電車はどこから入れたんでしょうね。それを考えていると眠れなくなっちゃう」というフレーズで大ブレークしました。この漫才を聞いたときに、多くの日本人は彼らと同じような疑問を抱いたかもしれませんが、地下鉄が走っている場所の住人達はみなニヤリとしたことでしょう。特に、都内で丸ノ内線や銀座線などに地上を走っている場所があることを知っている人は「それはね…」と教えたくなったにちがいありません。

 

筆者が初めて地下鉄に乗ったのは、今から55年前の5歳くらいの頃だと思います。霞ヶ関に勤めていた父親に連れられて、丸ノ内線の池袋駅から初めて乗りました。いつも乗っていた私鉄(西武線)とはちがって真っ暗なトンネルを行く地下鉄に感動していると、2駅くらい行ったところでいきなり外に出てしまいました。その後はさらに一駅くらい行くとまたトンネルの中をずっと進んで行ったと記憶しています。今思えば、それは丸ノ内線が茗荷谷駅から後楽園駅の間と後楽園駅を出てしばらくの間だけ地上を走っていた区間だったのです。

 

今回ご紹介する場所は、その地上を走っている区間にある車両基地です。この場所を見れば、件の漫才の”謎”は一発で解けます。筆者の勤務校からは徒歩15分くらいで行けるところにありますが、普段は通勤で使っている駅(有楽町線「護国寺」駅)とは反対方向にあるので、直接近くに行って見たのは今回が初めてでした。

 

◇所在地

勤務校が左上に、件の車両基地が右下に見えます。

◇概要

ここは所在地名を付けて「小石川車両基地」と長年呼ばれていますが、現在の正式名称はもう1つある中野車両基地との併合で「中野検車区小石川分室」及び「車両工事所小石川CR」というのだそうです。

 

当初は丸ノ内線の車両基地として1955年に60両分が建設され、1959年に84両分、1962年に約100両分に拡張されて現在に至っています。元々は”谷底”であった場所ですが、丸の内線の線路の高さに合わせるために丸ノ内線の工事で出た残土を埋め立てて”底上げ”をして建設されたそうです。

 


実は、今回の現地取材は事前に考えていたようには進みませんでした。それは、この場所が周囲より一段低い谷(「茗荷谷」の名前の由来)の中腹にあるのに、周囲はすべて公共施設、マンションなどのビルや住宅地で囲まれていて、外部の人間がその全景を見ることができる場所が無かったからです。その証拠に、上の写真の左側は筆者が撮った写真なのですが、ネットを探して見つかる写真(右側がその一例)もすべて同じ場所(茗荷谷駅を出てすぐのところにある跨線橋の上)から撮ったと思われるものしかありませんでした。そこからそこそこの写真を撮るに性能の良い望遠レンズが必要です。したがって、もし間近から全景を写真に収めたければ、周囲にある住宅にお願いして敷地から見せてもらうか、沿線にある高層マンションの住人になるしかないようです。

 

ネット上で見つけた、上記と同じ場所から撮影したと思われる車両基地の夜景です。かなりの望遠レンズで一定量の露光時間を取って撮影したようで、幻想的な雰囲気になっています。


丸ノ内線「茗荷谷」駅の東京方面行きホームの先端より車両基地の方を見た景色です。駅のホームの屋根が終わると空が見えるようになります。駅を出ると小さな跨線橋が4つ連続で上に架かっていますが、上の写真は最も遠くにある橋の上から撮ったものです。


同上の場所からちょうど反対方向の池袋方面を見た景色です。この先は普通の地下鉄と同じようにトンネルになっています。車両が明るく写っているのは、後方から外の光が入ってきているからです(上の写真参照)。


唯一、上記の場所以外でかろうじて車両基地の一部を見ることができる場所で、ネット上にも同じ場所からの写真があります。地図では、車庫の右(東)側にある文京区立茗台中学校の横を入っていく道の途中です。その道は急勾配の坂となっており、降りると車両基地を地下道で反対側まで横切ることができます。


車両基地側から茗荷谷駅にやってくる最新型の丸の内線車両(2019年2月より運行の2000系)です。筆者も月に2回ほどお茶の水に通院するときにお世話になっています。


茗荷谷駅から車両基地方向(東京駅方面)へ向かう丸ノ内線です。上の写真と同じ場所(跨線橋の上)から反対側を見て写しています。とても浅い所を走っているので、他の地下鉄の駅とちがって、地上の改札口からすぐにホームに降りることができます。


地上にある「茗荷谷」駅改札口付近を春日通り方向から見たものです。駅周辺に複数の大学(筑波大学東京キャンパス、拓殖大学、跡見女子大学、お茶の水女子大学)やたくさんの中学校・高等学校(上記の大学の附属学校園等)があるので、いつも多くの学生・生徒・児童でにぎわっています。