(1) 教科書の登場人物-ラナトゥンガ・カルナナンダ[陸上選手]

筆者の人生観に影響を与えた「書籍で出会ったロールモデル」の第1弾は、今から50年以上前に、筆者が小学校4年生のときに出会った、ある国語の教科書の教材の中の登場人物です。自分が明確に意識する中では、自分の人生観に大きな影響を与えた最初の人物です。

 

◇出会い

その教材とは、光村図書の「小学新国語 四年下」(1971年、74年度版)に掲載されていた『ゼッケン67』という話です。この時代に小学生であった年代の人であれば「覚えている!」という人もきっといるでしょう。この話は1964年の東京オリンピックの男子陸上1万メートル決勝のときのある一人の選手のことを取り上げた話で、実話を教材にしたものでした。

 

話の概要は、そのレースに出場したセイロン(現スリランカ)のラナトゥンガ・カルナナンダ選手が、他の選手がゴールをした後も周回遅れを気にすることなく最後まで走りきったという実話を元にしたものです。その光景に対して、最初は周回遅れを笑って見ていた観客たちがだんだんと彼のひたむきな姿に魅了されはじめ、彼がゴールしたときには優勝した選手に負けないくらいの拍手喝采を贈ったということが描かれていました。※オリジナルの話の全編については後述

 

この話を読んだときに、小学校4年生であった筆者は大変な感動を覚えました。そして、「周りの人にどんなに笑われようと、自分が正しいと思ったことは最後までやり遂げることが大切なんだ」とそのときに思ったのです。以来、筆者はそのときに感じたことを実行しようとしてきたつもりです。まさに筆者の人生観に大きな影響を与えた話でした。

 

◇生徒の指導への利用

教師であれば、自分が感動した話をなんとか自分の生徒の教育活動にも生かしたいと考えるのは当然のことでしょう。特に、自分の生徒が自信を失ってしまっているような状況に出くわしたら、それを利用して彼らを奮い立たせるような話をしてやりたいと思うのではないでしょうか。筆者の場合は、この話がそれでした。

 

その指導場面は、教材の話とほぼ同じような運動会を前にしたときにありました。筆者の前任校では3学年を縦割りクラスのチームとしてチームの得点を争うような競技形式の運動会を実施していましたが、平成23(2011)年度に3年生であった筆者のクラスは、事前の練習状況や予行の結果などから生徒たち-特に中心となって活動していたリーダーたちーが自信を失いかけていました。そのような彼らを奮い立たせる話題として、この話を使えないかと考えたのです。

 

しかし、件の教科書はすでに持っておらず、頼みの附属小学校の国語科にもありませんでした。話自体もネット上では見つかりませんでした。そこで、発行元である光村図書の編集部に電話をして教科書をコピーさせてもらえないか頼んでみました。最初は編集部はこちらの申し出をかなり渋っていましたが、筆者がどれほどこの教材に影響を受け、それを自分の生徒の指導にも生かしたいと思っているかを切々と訴えたところ、「コピーしたものを外に出したりしないことを条件に特別に許可します」ということでコピーを送ってもらいました。

 

実は、このときのエピソードや実際に生徒にどのように指導したか等についてはすでに「終礼の話」のコーナーの『終礼の話』第55話「55. 人生観を変えた話(最後の運動会に向けて)」として紹介ずみですので、詳しい話はそちらを参照してください。

 

◇約50年後の再公開

この教材に対して同じような思いを思っていたのは、筆者一人ではなかったのでしょう。同じような問い合わせが多数あったからかはわかりませんが、光村図書は令和元(2019)年12月に発行した同社の広報誌『かざぐるま通信』第34号に、『ゼッケン67』を総合的な学習の時間の教材に使った中学校の実践事例とオリジナル・ストーリーの誌上復刻版を掲載しました。当該の教科書を探し当てる以外は手に入らなかった教材が、約50年のときを経て再び手に入るようになったのです。

 

実は、その広報誌が発行されたことを当時は知らなかったのですが(勤務校では光村の英語の教科書を使ったことがなかったからです)、2023年6月にある場所で行われた研修会で出会った同社の営業の方と話をしたときに、『ゼッケン67』のことを話題にしたところ、以前に広報誌でその教材の特集記事を載せたことがあったということを聞き、当該広報誌の残部を送ってもらったというわけです。

 

なお、オリジナル・ストーリーの電子データ(本記事でのテキスト・データ)による全文掲載は著作権の関係で見送りますので、関心のある方は光村図書の営業の方または編集部に問い合わせてみてください。

 

また、最近になって『ゼッケン67』に関して話題にした記事をネット上で発見しましたので、そちらも参考になさってみてください。

 

○産経新聞(11/15/2016)

【オリンピズム】1964東京(6)1万メートル「ゼッケン67」 教科書になった男、カルナナンダ(1/2ページ) - 産経ニュース (sankei.com)

 

○朝日新聞デジタル(4/7/2021)

ゼッケン67 ふたたび|eneo (note.com)

 

○朝日新聞デジタル(4/9/2021)

教科書に載った「ゼッケン67」 あの選手の孫が日本で - 東京オリンピック:朝日新聞デジタル (asahi.com)

 

 

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