33. 3つの「あ○○○ない」(運動会に向けて)

【きっかけ・ねらい】

この話は、運動会に対する取り組み姿勢を一層向上させるためと、運動会を機会にクラスの人間関係をさらに良好なものへと固めることをねらって行ったものです。もっとも、生徒間の人間関係はクラス替え後の3ヶ月ですでに比較的安定した状態になっており、早急にてこ入れをしなければいけないということはなかったのですが、何となく生徒同士の一体感や連帯感という点では物足りなさを感じていたこともあり、そこを運動会という行事を利用して改善できないかと思ったのです。

 

実は、7月の最終日に夏休み以降の学級経営を考えて、「よりよいクラスを目指すためのアンケート」(全14項目)というものをとっていたので、その中のある項目の結果を運動会にからめた話にして運動会前日に話そうと、夏休みが終わるとすぐに綿密な計画を立て始めて話の準備をしていました(実際、原稿を書いて、話すリハーサルまでしていました)。

 

【手順・工夫】

上記のような計画をしていたのですが、当日の終礼が始まると、放送による翌日の注意、クラスリーダーからの提案、上級生チームリーダーの話、委員長陣企画の試行対象クラスの作業などが目白押しで、自分の番が回ってきた時には終礼が始まってからすでに1時間近くが経っていました。しかも、廊下には終礼を終えた他のクラスの生徒がいっぱいいて騒がしくなっており、これ以上終礼を伸ばすような担任の長話に生徒は耐えられないであろうと判断しました。そこで、導入用に準備していた話を他の機会に回し、結論として用意していた話だけを簡潔にすることにしました。もちろん、いきなりその部分だけを話し始めても生徒には唐突に聞こえかもしれないので、何らかの方法で生徒の関心を引く導入をすることにしました。

 

【実際の会話】9/17

T:今日はもうずいぶん終礼が長くなりましたね。実は、構想すること約2週間、原稿を書くこと3日間、話すリハーサルをすること3回、約15分にもわたる壮大な話があるんですが、時間がないのでカットすることにします。

A子:え~、先生、話してくださ~い!

B男:話さなくてけっこうです。

C子:先生、どんな話ですか?

T:いや、やっぱり時間がないからやめとくよ。

D子:先生、そこまで言ったんですから「さわり」だけ!

E男:そう、「さわり」!

A子:先生~、どんな話ですか~?

B男:(誰かに発言をとがめられたのか)やっぱり話してください…。

T:じゃあ、時間がなくてみんなも落ち着いて聞く余裕はないだろうから、話の導入に用意していた部分は抜かして結論の約5分くらいの部分だけを話すことにします。

A子:え~、最初から話してください!

T:残念だけど、その部分は改めて別の時に話すことにするよ。

S:(残念そうな顔とホッとしたような顔)

T:その話の結論というのはね、運動会に関してみんなにメッセージを贈りたいということなんです。なぜこんな話をしようとしたかというと、実は先生は体育科の先生の次に運動会当日大変だからなんです。

S:(「へっ?なんで?」という顔)

T:こんなこと言うと、もっと忙しい先生に怒られちゃうけど、先生の仕事はビデオを撮ることなんだね。

S:(「どうしてそんなことが忙しいの?」という顔)

T:これが実は大変なんだ。ビデオを撮るったって、全競技のビデオを撮るんだよ。しかもそれは競技中だけやっていればいいというわけではない。競技と競技の間も撮影の準備をしていなければならないし、競技が始まれば終わるまで息が抜けないし…。

 だから、実は一日中トラックの中にいなければならないんだ。というわけで、当日はみんなのところに顔を見せに行けるかどうかわからない。もしかしたら、他のクラスの先生はたまに応援席まで来たりするかもしれないけど、先生は行けないかもしれない。だから、あらかじめみんなに言いたいことを話しておこうと思います。

S:(真剣な顔をして集中して聞いている)

T:そこで本題です。運動会でみんなに覚えておいてもらいたいことを3つのことばにしてみました。それは「3つの『あ○○○ない』」です(左記「 」内を板書する)。さて、その3つとは何だと思いますか?

F子:「あきらめない」

T:(いきなり正解の1つを出されたがコメントせず)

S:(他の生徒もなんだかんだとことばを当てはめながら言っている)

T:では、1つ目ですが、それは「あなどらない」です(左記を板書し、さらに「侮らない」と板書する)。

G男:「あなどらない」?

T:「あなどらない」ということばにはいろいろな意味がありますが、私が言いたいのは「油断しない」ということです。

H子(クラスリーダー生徒):(うなずいている)

T:なんでこんなことを言うかというと、それはみんなが学年予行の時にいい結果、というか良すぎる結果を出したからです。クラスリレーは1位が3つで3位が1つだったでしょ?しかも、その3位だって、足を痛めていたO君が走ってあの成績だったからね。それから「いかだ下り」は男女とも2位だった。まあ、それはこの間も言ったとおり、みんなの運動神経がいいからだと思う。

S:(「だからどうなの?」という顔をしている)

T:でも、予行でこういう成績を出したときは気をつけなければならない。それはみんなの中に「俺たちは速いぞ」という気持ちが広がっているかもしれないからだ。そういう気持ちになってしまうと、本番はたいてい失敗する。追われる立場の人間というのは、よほど気を引き締めないと、すぐに後から来る人に抜かれてしまうんだよ。後から来る人間の方がよっぽど気楽だ。だって、前を見て追いかけていればいいし、前より少しいい結果が出せれば嬉しいからね。

S:(ようやく話の主旨が理解できたという顔)

T:それにもっと怖いのは、油断するとけがをしやすくなるということ。

I男(クラスリーダー生徒):(うなずいている。彼は学年予行でけがをした)

T:実はそっちの方が怖い。負けるのはいいけど、気を抜いたことによって大きなけがをすることがある。だから、「あなどらない」が大切なんだ。わかったかい?

S:(多くの生徒が素直にうなずいている)

T:2つ目は…

S:(生徒の一部から笑いが起こる)

T:えっ?何?何がおもしろいの?

J男:「あめなめない」(飴舐めない)

S:(大爆笑が起こる)

T:う~ん、確かにそれもありだけど…。そんな話をするわけないでしょ!

S:(大爆笑が起こる)

T:2つ目はさっき誰かも言ってたんだけど、「あきらめない」です(左記を板書する)。

 漢字で書くとこうかな。「ごんべん」に「帝」(「諦めない」と書く)。

K男:あきらめない!

T:そう。おそらくみんなは転んだり失敗したりするでしょう。でも、その時に「もういいや」ってあきらめてしまったらダメだ。もしそういう人が一人でもいたら、他の人までやる気がなくなっちゃうからね。だから、途中で転んでも失敗しても最後までやりぬいてほしい。

S:(うなずいている)

T:3つ目は…。ええと…、何だっけ…。しまった、忘れちゃった…。ちょっと手帳で確認します。

S:(笑いが起こる)

T:(手帳を見る)あ、そうだった。3つは「あざけらない」です(左記を板書する)。

L子:「あざけらない」?

T:ええと、漢字で書くと、こう(「嘲らない」と板書する)。つまりね、馬鹿にしないということです。実は、今日の3つのことばの中で先生が一番大事だと思っているのがこれです。

S:(「いったい何だろう?」という顔)

T:本校の運動会は個人種目が一切ないですよね?

S:(うなずいている)

T:これはすごいことで、先生は本校の運動会は日本中に誇れる運動会だと思っています。実際、毎年行われる学校説明会でも先生はそう言っています。あっ、先生は説明会で学校行事を紹介する役なんですよ。

S:(何人かの外部生が「知っています」という顔をしてうなずいている)

T:それでね。それはとてもいいことだと思っているんだけど、一方で全種目が団体競技だから、一人のミスがみんなのミスになるでしょ?

S:(うなずいている)

T:そういう時にね、ミスをした人に…、例えば、バトンを落としちゃったとか、いかだ下りで落ちちゃったとか、そういうことがあった時に、「お前のせいで負けた」っていうことになりかねない。ミスした人からすると大変だ。だって、ミスした時点で「自分のせいで」って落ち込んでいるはずだよ。そこに持ってきて、仲間から傷口に塩を塗るようなことをされたらたまらないじゃないですか。そういうことを思われているだけでもつらいのに、まして「お前のせいだ」なんて言われようものなら…。そうなったら、せっかくの運動会がその人にとって一生の傷になってしまう。だったら運動会なんてなかった方いいということになってしまう。だからね、そうならないようにしてほしいんですよ。たとえミスをした人がいても、絶対にその人を責めたりしてはいけない。一人一人が、全員が「運動会楽しかったなあ」って思えるような運動会にしてほしいというのが先生の最大の望みです。

S:(ほぼ全員が真剣な顔で聞いている)

M男:(こちらを見ながら隣の女子とニヤニヤ話している。それが私には「5分と言ってたくせにまた長くして…」と言っているように思え、少々ムカッときた)

T:ということで、今日話したかったことの核心部分だけをお話ししました。ぜひ、先生が話した3つのことばを頭に思い浮かべながら明日の運動会を頑張ってください。では、これでおしまい。

 

【こぼれ話】

時間の都合で導入部のアンケート結果に関する話をカットせざるをえなかったのは残念でしたが、結果的にはかえって内容面のボリュームに合った長さの話にできたように思いました。ただ、やはり導入部を切ってしまったために、当初の大きな目的の1つであった生徒の一体感・連帯感を高めるという部分は薄まってしまいました。その視点からすると、こういう話を担任がする重要性を認識しながらも(実際、この日の学年合同練習で、クラス内のある生徒に対する愚痴をこぼしている生徒が複数いたので、この話をして良かったと思います)、クラスリーダーを使って生徒同士の連帯感を高めるような活動的なことを実施した方がよかったのではないかというような反省もあります。

 

ところで、「3つの『あ○○○ない』」は当初からきちんとそろったことばになっていたわけではなく、最初は「油断しない」「あきらめない」「仲間を責めない」という主旨で話をしようと思っていただけでした。しかし、数日前に話の流れを手帳に書いている最中に、生徒の関心を引きつつスローガンのような残せるものにならないかと考え始め、前日に3つそろったことばにしてみました。なお、急遽用意されることになった生徒待機席用テントの梁にこれら3つのことばを書いた紙を貼り付けて生徒の目に入るようにしておいたところ、終礼時に何人もの生徒から「3つのことばを意識しながら運動会に参加しました」と言われたことは大変嬉しいことでした。また、この「3つの『あ○○○ない』」の掲示は、1年半後に卒業アルバムのクラスページにも載りました。

 

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