異端児コースの内容-修学旅行(その5)

修学旅行の話も今回で5回目となりました。今回は、筆者が過去に4回(平成10年度, 同19年度, 同23年度, 同27年度)担当した「E(野外生活実践)コース」の内容を紹介します。

 

1. コースのねらい

前回(第4回)の説明で、本コースは“異端児”コースであるとしました。その理由は、本コースはどの教科の学習もベースにしておらず、本校の修学旅行の本領である「教科学習の延長」にはそぐわないコースだからです。ただし、その本領の部分は他のコースに任せつつ、実は本コースも修学旅行が位置づけられている「総合学習」のねらいの一部はカバーしていました。それは本コースで行う活動が「実生活に活かせる知識・技能を習得する」という部分でした。いや、むしろ活動内容そのものが実生活にそのまま活かせることをねらったものでした。

 

以上のようなことから、生徒募集をする際の本コースの目標は次のようになっています。

(1) 野外生活に関する技術を習得し、力を合わせた野外生活の楽しさを味わう。

(2) 川魚を薫製にする実習を通して、命の大切さや食物確保の重要性について学ぶ。

(3) 5月初旬の高原生活を通して、気候や植物、野鳥、天体などの野外観察を体験する。

 

一方、生徒に「このコースに行けば勉強しなくて済む」などという理由で選ばれては困るので、次のような条件も付けました。

○「命」のことを真剣に考えられる人

このコースでは、「命」の誕生のすばらしさと他の「命」を犠牲にすることの崇高さを経験します。それらを真剣に受け止められる人を募集します。

○「ルール」と「マナー」を守れる人

野外生活では、日頃の生活以上に集団生活におけるルールとマナーが大切です。それは常に「命」と向かい合っているからです。これを守れない人は自分ばかりが仲間の命も危うくします。したがって、日頃の学校生活よりかなり厳しいルールに耐えられる人を募集します。

○他人に流されず信念をとおせる人

このコースで学んだことは、これからの生活に対する考え方のベースにしてもらいたいと思っています。したがって、家庭生活や学校生活において何が大切なのかということを意識し、主張し、さらに指導できる人を募集します。

 

そしてさらに、次のような駄目押しを加えておきました。

「このコースでは、全ての学習内容が「命の大切さ」ということをベースにしています。都会に生きる私たちは、人間が作り上げた「物」に囲まれ、それらに支配されながら暮らしています。そして、私たちの命が他の生き物の命と引き替えに成り立っているのだということを忘れてしまっています。そこでこのコースでは、私たちが忘れがちな自然への畏敬の念と感謝の心に改めて気づいてもらうことに主眼を置きます。」

(以上の目標、条件、駄目押しは、いずれも平成27年度のガイダンス資料より)

 

2. コースのメインの活動

筆者のコースでは、過去の4回はいずれもメインの活動の1つは3日間をかけて作るニジマスの燻製作りでした。その作業行程は以下のとおりです。

○1日目…ニジマス購入(「釣り」または「つかみ取り」)、さばき(内蔵取り&洗浄)、塩水漬け

○2日目…塩抜き、風乾

○3日目…燻煙、試食(残りは土産)

 

また、4回とも2日目と3日目の昼食は生徒に以下のような食事を自炊させました。

○2日目…ピザ作り(生地の仕込みは1日目の夜)

○3日目…野外料理(食材は2日目午前に食事係が現地で買い出し)

2回目(平成19年度)以降の野外料理では、新潟県中越地震(平成16年)を機会に考案された、アルミ缶2つと牛乳パック3枚で米1合を炊く「サバメシ」(サバイバル飯)を実践しました。なお、平成27年度のサバメシの実践は地元の2つの新聞(信濃毎日、長野日報)で紹介されました。


『信濃毎日』2015年5月15日朝刊

『長野日報』2015年5月15日朝刊


3. コースのサブの活動

メインの活動が「ニジマスの燻製作り」と「野外料理」であるとすると、その合間を縫って行われるサブの活動は、実施年度によっていくつかのバリエーションがありました。以下はその中のいくつかです。

 

① テント就寝

他コースとの費用面の比較や安全面の心配から、宿泊はずっとペンションを利用しています。しかし、テント就寝をはずしては「野外生活」とは言えないので、3回目(平成23年)と4回目(平成27年)はペンションの敷地内にレンタルの中型テントを4張設置し、男女別に一晩だけテント就寝を経験させました。テントの組み立て分解は、事前に役割分担してあった「作業係」が中心になって全員で行いました。なお、1回目(平成10年)と2回目(平成19年)はペンションの敷地内にレンタルのテントを設営・分解する作業だけを実施しました。

② 竹食器作り

4回とも野外炊飯の食器を竹を使って自作させました。竹の両側の節を残して2つに割ればボウルになり、片側の節を残して切ればコップになり、残った部材を細く削れば箸になります。こちらは「技術係」が中心になって全員で行いました。ナタを使うのが初めてだという生徒がほとんどだったので、安全には十分注意しました。

③ 畑の種まき

3回目と4回目に農家の協力で畑を借り、そこにトウモロコシの種を植える実習を行いました。芽を出して大きく成長し、夏に実を付けたトウモロコシは、生徒に家族で収穫に行かせたり、残りをペンションのオーナーに送ってもらって生徒に配ったりしました。

④ プロジェクト・アドベンチャー

1回目(平成10年)は、アメリカの犯罪者更生プログラムとして開発された「プロジェクト・アドベンチャー」を経験しました。構成的グループ・エンカウンターの手法を取り入れた本活動で、学年5クラスからの寄せ集め集団であったコース内の結束があっという間にできあがりました。その模様は当時の『日本教育新聞』でも紹介され、後に筆者はそれを利用したエンカウンター活動を自分の学年の生徒に対して行うようになりました。その実践記録は「研究論文」のコーナーで紹介しています。

⑤ フォレスト・アドベンチャー

プロジェクト・アドベンチャーが日本から撤退してしまったあと、代替の活動として取り入れているものです。高所恐怖症も払拭できる、生徒に人気の活動です。ただし、こちらはいわゆるフィールド・アスレチックを楽しむもので、コーチの指導の下で行う活動ではあるものの、「プロジェクト…」のような教育的なプログラムではありません。

⑥ 高原ハイキング

八ヶ岳の西側山麓の標高1,300メートルに位置するペンションの周囲を、毎回ペンションのオーナーにガイドしてもらってハイキングしています。青葉の森林浴と野鳥のさえずりを楽しみながら、高原の空気を満喫します。

⑦ 星空観察

せっかく空気がきれいな高原に泊まっているので、毎回天気のいい日は星空観察をしています。筆者が高校生の時に購入したタカハシ製10㎝反射望遠鏡を持って行っています。初めて見る月面や惑星の姿に生徒たちは歓声をあげます。また、⑥のハイキング中に八ヶ岳自然文化園に立ち寄り、プラネタリウムで疑似星空観察も行います。

 

以上の他にも、本格的な乗馬を企画したものの費用面でポニー乗馬になってしまった活動(3回目)や、生徒には当日まで秘密にしていて、直前に強風のためキャンセルになったしまった気球乗船というシークレット企画(3回目)などもありました。もちろん、この他にも細かい活動がいろいろあるのですが、それらの紹介は割愛します。

 

さて、次回の第6回(最終回)は、「野外生活実践コース」を作り上げていくまでの“裏話”を、「その4」とは少しちがった角度からご紹介します。(5/2/2020)

 

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