9. 公共のマナー①(校内コート着用への注意)

【きっかけ・ねらい】

この話は、クラスのよく発言をする女子生徒が終礼時に教室内でコートを着ていたことから、話すことを思いついたものです。その場でその女子生徒を即座に注意すればそれで済むことでしたが、その度に注意するのは面倒なのと、一斉指導をきちんとしていなかったことから、少し印象的に話して、全員に浸透させようと思いました。

 

この話のねらいは、公共のマナー及び校内でのマナーについてきちんと指導することにありました。そのために、それができていない生徒を個人的に指導せずに一時的に見逃し、自分の話に利用することにしました。

 

【手順・工夫】

この話の手順と工夫は以下のとおりです。

① コートを着るときのマナーとは何かを生徒に尋ね、話の内容に関心を持たせる。

② 常識として知られているコート着用のマナーを教える。 

③ その常識を知らないで着ている生徒を利用して、話を印象深くする。

 

なお、この話が結果的に3回になってしまったのは、1回目に話しそびれてしまったことがあったのと、指導した生徒が同じことを繰り返したからでした。

 

【実際の会話】<第1回> 11/30

T:(ノートを見ながら複数の話の確認をする)今日は4つのことを手短に話します。1つは「感想」、1つは「連絡」、1つは「注意」、そしてもう1つは「アドバイス」です。(「感想」「連絡」「注意」はごく簡単に済ませた。)さて、4つ目の「アドバイス」です。明日から12月。本格的な冬の季節になってきました。外もかなり寒くなってきましたね。寒くなってくると、みんなコートを着ますよね。今日はそのコートを着るときのエチケット、マナーについて話しましょう。

S:(いったいどういう話だろうという顔)

A子:(気づいていない)

T:みんなはコートを着るときのマナーと言ったら、何を思い浮かべますか?

B男:かっこいいコートを着る。

T:えっ?それがマナーかい?

C子:高いコートを着る。

T:う~ん、マナーの話をしているんだけどなあ…。じゃあ、もう少しわかりやすいように言うね。外から中に入ったとき、コートはどこで脱ぐかってこと。例えば、みんなが正月に親戚の家に行くとするよね。親戚の家に着いたら、どこでコートを脱いだらいいと思う?

D男:玄関!

E子:リビング!

F男:外でしょ!

T:F男くん、「外」ってどこ?

F男:玄関の外。

T:ああ、そう。じゃあ、これから一応「常識」とされていることを話すね。まあ、みんなは育ちがいいから、きちんとご両親に指導されていると思うので、言わなくてもいい人も多いと思うけど…。

G子:私、育ちよくな~い!

H男:うちなんか、何も教えてくれないよ。

T:まあ、まあ、そんなことはない。少なくとも、みんなは私よりもずっとよい教育を受けて育っているぞ。さて、では、正解です。それは「玄関の外」です。

S:ええ~!!!

F男:(「やったー!」というガッツポーズ)

E子:それじゃあ、寒いじゃん!

T:これは本当さ。外で脱いで、こうやって手に持って入る。

S:ええ~!

T:じゃあ、何で「外」なんだろう?

S:(・・・)

T:それはね、簡単に言うと、コートは正装、つまり正式な服じゃないからだよ。あくまでも一時的に着るもの。相手の家に行ったら、その家の中は正装する場。だから、コートを着て入ったら失礼になるんだ。ということで、今度親戚の家に行くときは気をつけた方がいいよ。

S:(「へえ、そうかあ」とようやく納得した顔)

T:じゃあ、学校へコートを着てきたときはどうしようかね?

E子:ええっ?じゃあ、玄関の外で脱ぐんですか?

T:いやいや、その必要はないでしょう。実際、みんな教室まで着てきているし、先生も校舎の中まで着てきているから。

H男:じゃあ、どうすればいいんですか?

T:こんな風に考えてみようか。学校の中にはいくつか正式な「場面」がある。そうした場面ではコートは脱ぐと。

A子:(まだ気づいていない)

T:学校の正式な「場面」というと、入学式とか卒業式とか、授業とか、今やっている終礼とか…(と言って、A子を見る)。

A子:(ようやく「ハっ」と気づく)

S:(みんなA子を見る)おい、A子、お前だよ~!

A子:すみません…。(コートを脱ぐ)

T:ようやくわかってくれたかな?

A子:でも、先生、私、寒かったんです。

T:わかってるよ。だけどね、さっきも言ったように、終礼の時間はコートを脱ぐべきだ。それからマフラーもね。ただ、体調によって、どうしても着たいというときはあるかもしれない。そういう時は、授業の前にそれぞれの先生に事情を話して、OKが出てから着るべきだ。「寒いんだから、いいじゃない」って勝手に着るのはよくない。でも、先生によっては、それでもダメだという人もいるかもしれないから、そういう場合は我慢しなさい。

E子:○○先生は「ダメ」って言いそうだよね。

T:こらっ!とにかく、そういうけじめをつけるというのが大切だということ。わかりました?

S:(みんなうなずく)

T:はい。では、今日はおしまい。

 

【こぼれ話】

終礼の後、A子が私のところにやってきて、次のような会話を交わしました。

 

A子:先生、さっきはごめんなさい。でも、私が全校集会の時にどれだけ寒くて震えていたか知ってますか?

T:知ってるよ。ガタガタしてた。

A子:本当に寒かったんです。

T:ハハハ。知ってたし、どうやって君にさっきのことを言おうか考えていたんだ。終礼前に直接言うことも考えたんだけど、今回はあえて君を利用させてもらった。(肩を抱いて…注:セクハラにあらず)ということで、君をみんなの前でつるしあげたことになってすまなかったね。でも、あれで君もわかっただろうし、みんなにもしっかり伝わったと思うので、まあ、かんべんしてちょうだい。

A子:いえ、いいんです。先生、本当にごめんなさい。じゃあ、さようなら。

T:さようなら。

 

【きっかけ②】

ところが、2日後になんとA子がまた終礼中にコートを着ていました。そこで、連絡等を終えた後で、最後に次のように話しました。

 

【実際の会話】<第2回> 12/2

T:昔から、私の話は長いと生徒によく言われます。確かに長いかもしれません。でも、無駄に長くしているわけではなく、それなりの理由があるのです。それは、伝えたいことをみなさんに印象深く話し、しっかりと頭の中に入れておいてほしいからです。ところが、たまにその努力があまり効果を発揮しないこともあります。みなさんは「三歩歩くと忘れてしまうニワトリのようなやつ」という言い方を知っていますか?

S:(いったい何の話を始めたんだろうという表情で、大部分が顔を振る)

B子:聞いたことはあります。

C男:聞いたことありません。

B子:うそっ?よくいうじゃん。聞いたことない?

T:一度言ったことを忘れてしまう人のことを差して言うんですけど、聞いたことはないですか?

S:(B子以外の大部分が顔を振る。A子は気づいていない)

T:こういう言い方もあるんですよ。「2日前に言ったことを忘れてしまう女子生徒」ってね。(A子の方を見る)

A子:(「ハっ」と気づいてコートを脱ぐ)

S:(みんな爆笑する)

D男:おい、お前、もう忘れたのかよ?

T:さ~て、問題です。A子さん、いいですか。あなたの行動の裏には3つの心理があると思います。1つ目は「うっかり忘れた」、2つ目は「気づいたけど、そのままにした」、3つ目は「知っていたけど、先生にはむかってやろう」ってね。

S:(みんな大爆笑する)

D男:先生、それ、3番目ですよ!

E男:お前、先生に反乱起こしたんだろう!

S:(まだ爆笑が続いている)

T:さあ、あなたの本当の気持ちはどれですか?

A子:いえ…、先生、ちがうんです!本当にうっかり忘れちゃったんです…。

T:まあ、いいでしょう。まさか、今後は同じことはないですね?

A子:はい、絶対にありません!

T:「反省なら猿でもできる」なんていうコマーシャルが昔ありましたが、あなたがそんな猿にならないことを祈っています。では、今日はこれでおしまい!(笑)

 

【きっかけ③】

数日後の下校時、学級週番が学級日誌を届けに英語科準備室に来ました。そのとき、その生徒(女子)がコートを着たまま準備室に入ってきました。その生徒にはその場で「準備室に入ってくるときはコートは脱ぐんだよ」と指導しましたが、同時にその指導を全体にしそびれていたことを思い出しました。そこで、次の終礼時にその話をしようと計画しました。

 

【実際の会話】<第3回> 12/7

T:今日はまたコートの話をしたいと思います。前回、コートを着たままだと失礼になるかもしてない場面があるという話をしました。しっかり頭に入っていますか?例えば、どういう場面でしたっけ?

A男:親戚の家に行ったとき。

T:まあ、親戚だけにかぎらず、他の人の家に行ったときね。

B男:授業とか終礼。

T:それもそうでしたね。では、なぜでしたか?

S:(言いたそうだが、言い方がわからない様子)

T:それは、授業や終礼が学校ではきちんとした正式な時間で、そういった機会、これを英語では「フォーマル」と言いますが、そういうフォーマルな場面ではコートを着ないこととされています。でも、さらに加えると、校内には場面ではなくて、場所としてコートを着るのは好ましくないとところがあるんですが、わかりますか?

C子:校長室!

T:そうだね。真っ先に浮かぶのはそこだろうね。他には?

D子:図書館!

T:あっ、そうか。う~ん、確かにそうだね。そこは想定外だった。でも、確かにやめた方がいいね。他には?

S:(・・・)

T:みんながよく行くところだよ。

E子:準備室?

T:正解!教科の準備室では脱いだ方がいいね。だって、他人の家に行ったときと同じでしょ?先生たちが働いている場所だから、放課後とかに先生に用事があって準備室に入るときは、外で脱いで、それを持って入るのが礼儀です。ちなみに、英語科では「はい、外に出て、コートを脱いでからもう一度来なさい」って言われるよ。

C子:え~、面倒くさそう。

T:そうだけど、これもみんなに学んでもらいたい礼儀だから。知らないで注意されるといやでしょ?まして、注意されなくて、「あいつは礼儀ができていない」とか陰で思われたらもっと大変だ。そう思われないためのアドバイスです。では、今日はこれでおしまいにします。

 

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