8. 運動会に向けて(昔と今の運動会のちがいから)

【きっかけ・ねらい】

この話は、運動会を間近に控えて生徒の気持ちを高揚させようと話したものです。本校の運動会は個人種目がなく、団体競技だけなので、運動会に臨む姿勢を整えることは学級経営上もとても重要なことと考えていました。

 

【手順・工夫】

まず、運動会に対する生徒の気持ちを尋ねることから生徒を話題に乗せ、次に自分が子供の頃の運動会の特徴的なことを取り上げて生徒の心を動かし、最終的にはその話題から現在の運動会に臨む生徒の姿勢について考えてもらおうとしました。また、全体を2つに分けて1回目を話の導入用の話に、2回目を結論の話とし、1回目の最後に2回目の話を期待させるような内容を入れることにしました。

 

【実際の会話①】9/6

T:来週は「運動会専念期間」といって、運動会の練習をしっかりやってもらうために、部活動や委員会活動が基本的になくなります。

S:(驚いた顔になる)

A男:えっ? そうなんですか?

T:そうだよ。もちろん、公式戦とかが近い部活は特別練習が認められると思うけど…。

B男:じゃあ、下校時刻はどうなるんですか?

T:それはいつもと同じ。5:25まで練習をやって、5:40下校です。

S:(「大変そうだなあ」という表情で顔を見合わせている)

C男:早く帰っちゃいけないんですか?

T:基本的にはね。ただ、さっき運準(運動会準備小委員会)の先輩が言っていたように、用事があって帰る場合は親に生徒手帳に書いてもらって見せてください。

S:(他の生徒もその話をよく聞いていなかったのか、「そうなんだあ」という顔)

T:まあ、そんなこんなで、運動会一色という感じなんだけど、1つみんなに聞いてみたいことがあるんだけど、いいですか?

S:(「何だろう?」という関心を示す)

T:つきなみな質問ですけど、みんなは運動会が楽しみですか?

S:(数名がうなずくが、多くは無反応)

T:では、手を挙げてください。選択肢は3つ。「楽しみにしている」「楽しみではない」

 「どちらでもない」。では、聞きます。楽しみにしている人?

S:(7~8名が手を挙げる)

T:へえ、そんなもんですかあ。じゃあ、楽しみではないという人?

S:(5~6名が手を挙げる)

T:ああ、そう。じゃあ、どっちでもない人は?

S:(多くの生徒が手を挙げる)

T:それはどうして?

D男:競技によって楽しみなものもあれば、そうじゃないものもあります。

T:なるほどね。みんなもそうなの?

S:(多くがうなずいている)

T:そうかあ。さて、先生が小学生くらいのときはどうだったかというと…。あっ、先生はどっちだったと思う? 楽しみにしていたか、楽しみではなかったか。ちょっと聞いてみようか。楽しみにしていたと思う人?

S:(5~6名が手を挙げる)

T:えっ? ということは、あとの人はみんな「楽しみではなかった」ってこと?

S:(多くがうなずく)

T:どうして?

E男:顔。

S:(笑いが起こる)

T:(誰が言ったかわからないまま)顔? おい、誰だ「顔」なんて言ったやつは?

D男:E男くんです。

E男:(外を向いてニヤニヤしながら知らん振りをしている)

T:(E男に)そうかあ。あとでじっくり話をしようじゃないか。

S:(笑いが起こる)

D男:E男、面談30分!

S:(笑いながらこちらを見る)

T:他には?

F男:先生の話の流れからして、そうじゃないかと思いました。

T:ふ~ん。では、正解を言います。正解は…?

S:(興味津々で聞いている)

T:楽しみじゃなかった。

S:(「なんだ、やっぱりそうか」のようなざわつきが起こる)

T:いや、「楽しみじゃなかった」というのは正確じゃないかな。正確に言えば、「いやだった」。では、なぜいやだったと思う?

G男:(サッと手を挙げる)

T:G男くん。

G男:運動がきらいだった。

T:いや、そうじゃない。別に運動そのものがきらいだったわけじゃない。これは自慢になっちゃうけど、先生はけっこう手先が器用な方なので、手を使う球技とかは何でもできるんだ。野球、バレー、バスケ、テニス、卓球とかね。たいていはそこそこできる。しかし、いかんせん、足が遅かった。

S:(なぜかニコニコしながら聞いている)

T:それで、当時は…、今もあるかな、「徒競走」ってやつ。横に4、5人並んで、60メートルとか、80メートルとか、100メートルとか、走って競争するやつ。

S:(多くがうなずく)

T:やっぱりあったか。この学校ではないよね?

S:(多くがうなずく)

T:先生の小学校では5クラスあったから、各クラス1人ずつ5人が横に並んで走るわけ。ところが、先生は足が遅かったから、いつもビリだったんだね。

S:(ニコニコしながら聞いている)

T:どのくらいビリだったかというと…。先生の学校は「春の小運動会」と「秋の大運動会」っていって、年に2回あったわけ。それでね、1年の春がビリで、秋もビリで、2年の春もビリで、秋もビリでしょ。3年の春がビリで、秋がビリで、4年の春もビリで、秋もビリで、5年の春もビリで、秋もビリ。6年は春がビリで、秋がようやく3位でした。

D男:先生、よかったですね。(6年秋の3位のことを言ったと受け取った)

T:まあ、最後はね。だけど、11回も連続でビリになってごらん? もう運動会なんて大嫌いだった。いつも「雨で中止にならないかなあ」って思ってた。

D男:ならなかったんですか?

T:11回連続でビリになったっていうんだから、ならなかったわけだ。

D男:そうですね。

S:(クスクス笑いが起こる)

T:それでだ。先生が小学生の頃はちょっと困ったことがあった。みんなのときは、徒競走で走り終わったら何をした?

I子:どこかへ連れて行かれた。

T:それって、きっと1位とか2位とかの旗の下じゃなかった?

I子:(「そうだった!」と思い出してうなずく)

T:みんなもそうだった?

S:(多くがうなずく)

T:そうだよね。で、その後どうした?

S:(誰も答えない)

T:たぶん、そのまま退場したんじゃない?

S:(「そうだったかなあ…」というような顔)

T:先生の頃はだ。旗の下に並んでいるときに、胸にリボンを付けてもらうんだね。1位は赤、2位は緑、3位は黄色。それを一日中付けている。

S:(「へえ」という顔で聞いている)

T:これって、ひどいと思わない? 4位と5位は何ももらえないわけ。しかも、1位から3位はずっとリボンを付けている。つまり、何も付けていない子は一日中「お前は足がのろい」っていうことをみんなの前にさらされているわけさ。

S:(事の重大さがわかってざわつき始める)

T:これってさあ、テストが返されたときに、「お前は100点、お前は80点、お前は60点」って背中に貼られて、何も貼られていないやつはそれ以下っていうのをやられているのと同じだよね?

D男:それって、ひどくないですか?

T:そう思うだろ?

S:(他の生徒も多くがうなずく)

T:でも、まあ、当時はそんなもんだったんだよ。生徒の気持ちなんてそれほど考えてくれない時代だったんだね。

S:(「へえ、そうだったんだあ」という顔)

T:そういう時代だったということだね。それに比べたら、今のみんなは幸せなもんだ。そんなことはされないし、第一、この学校の運動会は個人競技が一切ないからね。

S:(数名がうなずく)

T:ただ、だからと言って、すべてが当時より今の方がいいかっていうと、そうでもない面があるように思うな。今の運動会には昔の運動会にはない難しさがあると思う。

I子:え~! なんか、怖い~!

S:(I子の発言で多くの生徒が不安そうな顔になる)

T:まあ、そんなに怖がるようなことじゃないけど、今の運動会には今の運動会なりの難しさがあるっていうこと。今日は時間がないから、また日を改めてその話をすることにしましょう。では、今日はこれでおしまい。

 

【こぼれ話①】

自分が経験した徒競走の話は生徒にとって興味深かったらしく、終礼後に何人かがそのことをわざわざ話しにきました。

 

【実際の会話②】9/9

T:この間ね、運動会の話を少しして、昔の運動会みたいに徒競走の順位がわかるようなことはないけど、今の運動会にもそれなりに難しさがあると言いました。覚えていますか?

S:(数名がうなずくが、多くは関心がなさそうな顔)

T:それはいったい何だと思いますか?

G男:(サッと手を挙げる)

T:(G男は少々的外れなことをよく言うので)G男くん、まさか何かくだらないことを言おうと思っていないよね?

G男:そんなことはありません。

T:じゃあ、どうぞ。

G男:クラス対抗になっている。

T:おお、いいところをついたね。

G男:(嬉しそうにニコニコしている)

T:当時はね…、先生が小学生だった頃は、徒競走で順位がついても、それは個人の順位であって、チームの得点になんかならなかったんだね。だから、誰の迷惑にもならなかった。でも、そのうち…、もしかしたら、それは先生が中学生になったからだけかもしれないけど…、個人の順位がチームの得点になって、それでクラス対抗で争われるのが一般的になった。チームプレイの種目が多くなったんだね。そうするとさ、誰かがリレーで転んだりバトンを落としたりすると、みんなの迷惑になるでしょ? 他の人もさ、「あいつが転んだから負けた」みたいに思っちゃう。

S:(みんな真剣に聞いている)

T:そうなると、もう転んだ生徒はたまらないよね。「自分のせいで負けた」ってずっと記憶に残るわけだから。

S:(数名がうなずいている)

T:その生徒にとっては、運動会は悪い思い出となってしまう。そうなったら、運動会をやった意味がなくなってしまう。そうそう、みんなは運動会の目的を知っていますか? ダブル優勝をする(競技とチームパフォーマンスの両方で優勝する)ことですか? それは「目標」であって「目的」ではないですよね? 目的というのは「~するため」っていうやつです。運動会は「優勝するため」にやっているわけではありません。ちなみに、体育科の先生方がどういうことを目的と考えて運動会をやろうとしているかというと…、(手帳にはさんであった運動会実施要項のプリントを出して)こういうふうに書かれています。

 1.全校で運動に親しみ、充実した一日とする。

 2.競技・応援などへの参加を通じ、クラスやチームの連帯感、全校生徒の一体感を深める。

 3.一人ひとりがそれぞれの役割を果たし、お互いに協力し合う・補い合う・助け合う・生かし合うといった社会性を養う。

S:(少し飽きてきたようであるが、辛抱強く聞いている)

T:この中で先生が大切だなと思うのは、「お互いに協力し合う・補い合う・助け合う・生かし合うといった社会性を養う」というやつだね。つまり、運動会をとおして~するということ。だから、みんなにお願いしたいことは、誰かが転んだり失敗したりしても、絶対にその人を責めたりしないでもらいたいということです。全員が運動会を「楽しかった」と思って終えられるようにしてもらいたいんです。もちろん、それには一人一人が真剣に取り組むということが前提です。いい加減なことをして…、やる気がないような態度でやって、みんなに迷惑をかけるというのはまた話がちがうからね。

S:(真剣な顔で聞いている。数名が「わかりました」というようにうなずいている)

T:勝ち負けは関係ありません。練習のときにうまくいってたからといって、本番でうまくいくとはかぎりません。とにかく一生懸命やること。それだけです。先生はまた一日中ビデオを撮る係だから、みんなの応援席に行って一緒に応援をしたりすることはできないけど、ビデオカメラでみんな一人一人を追いながら応援しているので、頑張ってください。

S:(ニコニコと、しかし真剣に聞いている)

T:それから、練習をしていると、「隣の芝が青く見える」ということはないですか?

S:(多くの生徒が言ったことの意味がわからないような顔をしている)

T:「隣の芝が青く見える」というのは、同じ芝生なのに自分の家のものよりも隣の家のものの方が青く見える、つまり同じものでも他人が持っているものの方がよく見えるということです。聞いたことない?

J子(月に100冊以上本を読む生徒):(多くの生徒が首を振る中で、うなずいている)

T:自分たちのチームがなかなか練習がうまくいっていないときに、他のクラスがちょっと進んでいたりすると、「あっちのクラスはいいなあ」とか思ったことないかい?

S:(数名がうなずく)

T:まあ、それも仕方がないねえ…。3年生自身も自分たちでまだ迷っている部分があるようだから、自信をもって君たちに指導できていないように先生にも見えるな。でも、安心しなさい。過去の経験からすると、必ず先輩たちはいいものを作ってくれる。そしてそれをみんなにしっかり伝えてくれるはずだ。だから、先輩たちを信用してついていくんだよ。そうしたら、きっといいものができる。2年後にはみんなが今度はその役目をやるわけだから、先輩たちの動きをちゃんと観察しておきなさい。それで、いいものをいっぱい吸収するんだよ。

S:(真剣に聞いている)

T:じゃあ、これでおしまい。

 

【こぼれ話②】

1回目の話と2回目の話の間に週末の2日が入ってしまったので、2回目の最初の方では元の話のペースに乗せるのに苦労しました。また、2回目は1回目ほど話を盛り上げる工夫をしなかったので、全体としては低調な雰囲気で話が進みました。もっとも、それは話の内容からしても仕方がないことでしたが…。

 

さて、運動会の練習を見る限りでは、生徒たちは自分のクラスのリーダーや3年生のリーダーたちの指示によく従い、協力して活動していたように思えました。ただ、一部の生徒はそれでも「リーダーが指示を出しているときに、おしゃべりをしていて動かない人がいる」と終礼時に厳しい反省を仲間に促していました。

 

運動会当日は、競技面では緑チーム(1~3年の5組連合軍)は他の4クラスに比べて総合得点がダントツに低い最下位でした。その最大の原因は、最も得点の高い3学年合同のムカデ競争が2レースとも最下位だったことでした。しかし、チームパフォーマンスはよくまとまった作品になっており、優勝こそ逃したもののよい評価(漏れ聞こえてきた情報によると2位だとか…)をもらえたようです。また、3つの学年競技(クラスリレー、ローハイド、ふえるんリレー)は平均すると上位に入る成績であり、かつ誰一人として手抜きをするプレーをしなかったので、そのことは運動会当日の終礼でほめてあげました。この日の経験が今後の学校行事への取り組み姿勢にも生きることを期待しています。

 

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