8. 殿(しんがり)

【きっかけ・ねらい】

この話は、合唱発表会を直前に控えて、クラスの生徒の気分が落ち込むような状況や担任の話が連続してあったので、少し気持ちを前向きにさせようと思って設定したものです。この話の最大のねらいは、生徒の気分を盛り上げることでした。しかし、単に気分がよくなる話をするだけではもったいないので、そこに担任としての思いも込めてみることにしました。

 

【手順・工夫】

この話を効果的にするための手順と工夫は以下のとおりです。

① 話の柱となることに関係する漢字を1文字示し、その読み方と意味を考えさせることで話題への関心を高める。

② ①の漢字の意味から、クラスの生徒に期待することを、よくできていることを褒めることによって、心に響きやすくする。

 

【実際の会話】11/28

T:今日の終礼では、反省で「静かにできなかった」「○○先生にしかられた」などあまりいいことが出てきませんでしたね。また、昨日のHRHでは先輩や担任から「あまり声が出ていなかった」などあまりいい評価をもらうことができませんでした。

S:(みんな下を向いている)

T:でもね、私は、この1、2日でみなさんのよいところを再認識しましたよ。

S:(みんなの顔が上がる)

T:では、その話をするために、漢字1文字を書きましょう。はたしてその漢字は何と読むでしょうか?(「殿」と黒板に大きく書く)さて、なんと読みますか?

A男:「でん」

B子:「との」

T:他には?

S:(・・・)

T:この漢字はね、「しんがり」と読むんです。(漢字の上に「しんがり」と書く)

S:「しんがり」?

T:そうです。このことばの意味を知っていますか?

C男:軍隊の最後とかじゃなかったっけ?

D子:(電子辞書を引いて)ええと、「軍隊が敗走するときに、最後まで残って敵の攻撃を…」

T:D子さん、電子辞書を使っちゃ、ずるいぞ。C男くん、よく知っていたね。「殿」とは、戦争で負け戦になったとき、最後尾にいて追ってくる敵の攻撃を防ぐ人たちのことです。つまり、最後尾を守るってことですね。

S:(いったい何の話をするつもりなのかという顔をしている)

T:前に言ったことがあるかもしれないんだけど、1組が先頭に立って戦う「先鋒」だとすると、5組は学年全体をしめる、つまり守る「殿」だと思います。その意味で言うと、昨日と今日は、みなさんはその役目を立派に果たしていました。

S:(全員がこちらを見ている)

T:例えば、昨日のHRHのとき。他のクラスの発表に一番大きな拍手を贈っていたのは5組の人たちです。そして、号令係が「礼!」と言ったときに、みんながタイミングがわからず、ことばをいつ発するか迷っているときに、いち早く「よろしくお願いします!」と言っていたのも5組の人たちです。君たちが後ろから大きな声で言ったから、他のクラスの人たちもそれにつられて言っていた。

S:(まだ喜んでいいかわからないという顔をしている)

T:それは今日の「活動の時間」でも同様でした。実は、この学年で少し足りないなと思っていることに、何か素晴らしいものを見聞きしたときに「すご~い!」と素直に歓声をあげたりする反応が弱いということがあります。多くの人が他の人の素晴らしさに関心がないのか遠慮しているのかわからないけど。そんな中で、まだ私の理想には少し届かないんだけど、5組の人たちがそのよい雰囲気を作ってくれている。いや、守ってくれていると言った方がいいかな?君たちが拍手をしなかったり、「よろしくお願いします!」って言わなかったら、学年全体がしぼんでいたかもしれない。だからね、昨日と今日はみんなは学年全体に貢献していたんだよ。

S:(ようやく嬉しそうな顔をしている)

T:そこで、そうしたことができる君たちだから、これからも1年生の殿をしっかり守って欲しい。「前の方がやっていなくても、できていなくても、自分たちはやるぞっ!」ってね。そして、機会があれば、先頭に立って走っていってもらいたいと思います。今日は、みなさんの素晴らしさを改めて見て、嬉しく思いました。では、これでおしまいにします。最後の挨拶も元気にしましょう。

週番:静座(「気をつけ」のこと)! 起立! さようなら!

S:さようなら!(気分の高まった大きな声)

T:はい、さようなら。

 

元に戻る