7. CSIからPTI(クラス内でのいらだちへの指導)

【きっかけ・ねらい】

この話をすることになったきっかけは、この日(11/25)に以下のことが明るみに出たからで、さっそく指導する必要があると思ったからです。

 

① 朝一番に、AA先生(1組担任)から昨日の家庭科のグループ学習で、ある班のレポートに、休みがちだった生徒の欄に「何もしなかった」という記述があり、それを心配したAA先生がさっそくその班の全員を呼んで指導してくださったと伺いました。結局、誰が書いたかは不明でしたが、クラス全体に波及効果があったようだとのことでした。

② 昼食時に教室に行くと、側面黒板に落書きがありました。しかも、その内容がクラスの男子数名の名前とともに、「○○中古車」「□□生産中止」のように、仲間をバカにするような内容でした。その場で「これを書いた者はすぐに消せ!」と強い口調で命令したところ、本人かどうかはわかりませんが、黒板の近くにいた2人の男子(1名は学級委員)が消しました。

③ 昼食中に最後列に座っているA男が急に怒り出し、「ふざけんな!」と言いながらB男とC男につかみかかっていました。すぐにその場に行って事情を聞くと、B男の弁当をC男が隠したところ、B男はそれを後ろに座っているA男がやったのだと疑ったので、A男が自分じゃないと怒っていたところで、C男がまずいことになったとやってきて、自分がやったことを打ち明けたそうでした。A男をなだめるとともに、C男を呼んで叱り、A男に謝罪させました。

④ 6限後の終礼直前に、音楽のBB先生と会ったところ、5組の生徒は、自由に活動させると、特に男子がバラバラで上手く活動ができない。みんな勝手なことをやっている。リーダーも頑張っているが協力できていない。おそらく今週のHRHでは合唱のでき具合がよくないであろうから、あらかじめ承知しておいてほしいという話がありました。

 

このようなことが連続して起こるというのは、やはりクラス内の人間関係がぎくしゃくしている証拠であると考え、生徒の心のトゲを早急に取り除いてやらなければならないと思って、急遽この話をすることを思い立ちました。

 

【手順・工夫】

急に思い立ったことなので、十分な準備ができませんでしたが、いつものように、しからなければならないような内容の時には、それを素直に聞けるようなやわらかい話から入っていこうと考えました。そして、10分程度で次のようなシナリオを考えました。

 

① アニメの話から入って雰囲気を和らげる。ただし、そのアニメにはいやなキャラクターがおらず、優しい人物だけの楽しい話であることを脳裏に残すように話す。

② 好きな外国テレビ番組を取り上げ、科学捜査でいろいろなことがわかる話から、教師には直感で生徒の心の状態がわかるということを伝え、現在の状況が何となくわかるということを伝える。

③ 合唱発表会はクラス内の協力関係が最も強く表れる活動であるので、ここまでの活動がしっかりできているかどうかは、HRHでの発表を見ればわかることを話し、現在あまりうまく行っていないことに気づいていることをにおわす。

④ 他にもクラス内でちょっとしたトラブルが頻発しており、それはみんなの心にトゲがあるからであることを伝え、相手を思いやる気持ちを持つように促す。

 

【実際の会話】11/25

T:先生がよく借りてくるビデオに2つのテレビ・シリーズがあります。

A子:えっ?「○○○○」(知らないタイトル)ですか?

T:ちがいます。1つは家族みんなで見て、ゲラゲラ笑って楽しむアニメです。

B男:「(クレヨン)しんちゃん」でしょ?

T:ちがいます。

B男:ええ~、だって、先生「しんちゃん」が好きだって言ってただじゃないですか。

T:う~ん、もちろんあれも面白いんだけど、ちがうんだな。今日のはもうちょっと毒のないやつ。実はね、「あたしンち」というやつなんだよ。

C子:ああ、知ってる!知ってる!

D子:私もよく見てた!でも、あれ、時間が変わっちゃったよね?

T:そうなんですよ。それに結局終わっちゃった。あのアニメはね、出てくるキャラクターにみんな毒がなくて、安心して見られるんだよね。主人公の学校の友達とかもみんな個性的なんだけど、クラスのみんなも温かい目でそれを見てる。中でもね。石田っていう女の子がいいんだな、これが。

S:(あまりよく知らないので、興味なさそう)

T:その子はね、とても変わった子で、いつも変なことを言ったり、ブツブツ一人ごとを言ったりしてるんだけど、誰も「あいつって変じゃない?」みたいななことを言わないで、「かわいいね」って優しい目でみているんだな。ということで、みんなにもお勧めの番組です。

E男:でも、もう終わっちゃったんでしょ?

T:そう、それが残念。だから、DVDを借りてきて見ているわけ。あともう1つは、「CSI」というアメリカのテレビ番組です。

F子:「CSI」?

T:そう、Crime Scene Investigation。「犯罪現場捜査」ってことかな。事件が起こったときに、警察にはいろいろな物的証拠を集める鑑識という人たちがいるでしょ?その人たちの話。例えば、現場に落ちている小さなガラスの破片とかから殺人事件を解決しちゃうというやつです。その人たちが、いろいろな薬品とか機械とかを使って、科学的に証拠集めをして、事件の真相に迫るという話ね。

G子:私、見たことあるかも?

T:毎週金曜日にBSでシーズン7をやってるから、見たことがある人もいるかもしれないね。それでね、そういう人たちにはかなわないんだけど、私たち教員にも、教室とか生徒とかのある細かな現象から、そこに隠れているもっと大きなものを見破る力があるんですよ。

S:(いったい何の話をしているんだろうという顔で見ている)

T:CSIの人たちのように科学的な証拠じゃないんだけど、長年教師をやっていると、生徒や教室の中のちょっとした様子の変化で、何かいつもとちがうことが起こっているんじゃないかという勘が働くんだよね。

S:(何かあまりよくないことを言われると感づいたらしく、下を向いている)

T:これをねえ、先生はねえ、「PTI」って呼んでるんだ。

G子:PTI?(顔が上がる)

T:Professional Teacher's Insight。「プロ教師の洞察力」ってとこかな。

G子:なんか、かっこいい!

T:そうかい?たった今、話しながら考えたにしては、なかなかうまいだろ?

G子:な~んだ…。

T:でね、じゃあ、どんなことがわかるかっていうと、例えば教室の床にゴミがいっぱいちらかっているとか…。

S:(いっせいにみんな床を見る。一人がゴミを拾う)

T:側面黒板に落書きがあって…、しかもそれがクラスメートの名前で…、その人をバカにするような内容だったり…。

H男:I男、J男、お前たちが書いたんだろう?

S:(笑う。I男とJ男は苦笑いするだけで肯定も否定もしない)

T:昼休みに、他の人の弁当をいたずらして、それが元で関係ない人たちがトラブルになったり…。

S:(関係者が顔を見合わせている)

T:で、そういうことが起こっているときというのは…、

S:(次のことばを探していると、みんな緊張して次のことばを待っている)

T:みんなの人間関係が不安定になっているのじゃないかと。例えば、グループで何か作業をするときに、なかなかうまくいっていないとかいうことはないでしょうか?家庭科の実習とか、理科の実験とか、美術の作業とか、音楽の合唱練習とか…。

S:(思い当たるという生徒が数名うなずいている)

T:合唱なんて一番わかりやすいんだよね。みんなの心がバラバラだと上手に歌えない。協力しようという気持ちがないときれいな合唱にならない。だからね、先生はさっき言ったようなことが起こっているということは、金曜日のHRHでみんなが上手く歌えないんじゃないかと心配している。どうですか?

S:(多くが下を向いている。責任者がすまなそうな顔をしている)

T:だからね、先生はまず、そのHRHでそれを確認しようと思っています。それからね、係の仕事なんかもそうだよね。「おい!お前がやれよっ!」って仕事をなすりつけあったりしているのをよく見かける。そう、なんて言ったらいいかなあ…。今のみんなには少しトゲがあるな。

S:(「へっ?」という顔をしている)

T:なんて言うかなあ、そう、余裕がない。もしかしたら、1週間後に中間考査がるから緊張してるのかな?だから、他の人につらくあたるのかな?ストレスを発散したいのかな?わからなくはないんだけど、そういうときだからこそ、周りの人に優しくしたいね。その方が、結果的には自分も楽になるはずだよ。繰り返すけど、今のみんなからはトゲを感じます。そのトゲを少し引っ込める努力をしてみませんか?  というところで、今日はこれでおしまいにします。

 

【こぼれ話】

終礼を終えると、さっそく合唱責任者の男女2人が私のところにやってきて、練習がなかなかうまくいかないということをこぼしていました。音楽の授業のことでもあるので、指導は音楽科のBB先生にお任せすることにし、とにかく2人には今日の話も少しはみんなに効いているだろうから、だんだんとよくなるだろうということで慰めておきました。

 

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