61. 動き始めた人々(合唱発表会に向けて)

【きっかけ・ねらい】

この話は、12月に行われる合唱発表会に向けて担任としてできる支援をしようと企画したものです。昨年、同じことに関してかなり力を入れて話をしたので(「37.第4の段階(合唱発表会に向けて②」参照)、今年は初期の動機付けと途中経過を観察しての若干の追加支援程度に抑えることにしました。もっとも、合唱発表会は運動会や学芸発表会と共に本番に向けての準備活動を支援することが学級経営上とても重要な行事であるので、そこに学級担任として関わることは約2週間後に迫った研究協議会の公開授業でしっかり活躍してもらうための事前指導としてもはずせないものでした。

 

【手順・工夫】

まず生徒を話に参加させるために、その日に決まったはずの合唱発表会クラス役員が誰であるかを問うことからスタートし、そこに生徒の気持ちを高揚させるためのエピソードとして自分の息子の中学校で行われた合唱コンクールで感じたことを紹介することにしました。そして、それらを上手に関連させて、自分が最終的に伝えたいメッセージへつながるように話を構成するよう工夫してみました。

 

なお、導入部で使う役員決定の件は、諸々の事情によって自分のクラスだけが本来のスケジュールより1ヶ月近く遅れてしまっていたのがこの日にようやく決まったことを音楽科の先生より詳細に報告を受けていましたが、話を上手く進めるためにあえて知らない振りをして生徒から情報を引き出すようにしてみました。

 

【実際の会話】11/1

T:さて、風の噂でようやく合唱の責任者とかが決まったとか聞いたのですが…。

A子:「風の噂」って、先生…。(「本当は知ってるんでしょ?」という意味か)

T:(本当は知っていたが)誰になったって?

S:(口々にB男の名前をつぶやく)

T:えっ? 男子が?

C男:B男!

T:B男? ちょっと待って待って…。(手帳に名前を書く)男子がB男くん…。これ、なに? 立候補?(B男を見る)

B男:しぶしぶです。

S:(笑いが起こる)

A子:本当はやりたかったんですよ~。

D男:プレッシャーに負けて。

T:でも、まあ、偉いね。(B男に)しっかり頑張ってください。

B男:(苦笑いしながらうなずく)

T:あと、女子は?(以前に立候補を表明していたE子を見る)

E子:(苦笑いしながらわざと視線をそらす)

T:E子さん、そのままね?(手帳に名前を書く)他に決まったものはないの?

F男:選曲委員。

T:選曲委員が決まった? 誰?

G子:H(H男のニックネーム)。

T:Hね。(手帳に名前を書く)H男くん。それから?

G子:I男。

T:I男くん。(手帳に名前を書く)2人?

G子:はい。女子。

T:あと、女子?

G子:J子さんと…。

T:J子さんと…?(手帳に名前を書く)

G子:K子さん。

T:K子さん。(手帳に名前を書く)あと、パートリーダーとかそういうのはまだ?

A子:パートリーダーはもう決まってます。

T:えっ? パートリーダーは決まってんの? 誰?

B男:L男。

M子:ええと。ソプラノが…。

T:ソプラノが? ソプラノがL男ってことはないだろ?

S:(笑いが起こる)

T:ソプラノが?

M子:K子さん。

T:ソプラノがK子さん。(手帳に名前を書く)で?

M子:アルトがN子さん。

T:アルトがN子さん。(手帳に名前を書く)次、テノールが?

M子:L男。

T:テノールがL男くん。(手帳に名前を書く)バスが?

M子:Oちゃん(O男のニックネーム)。

T:Oちゃん。(手帳に名前を書く)O男くんね。じゃあ、あとは…。まさか選曲委員が今日決まったくらいだから曲は決まってないよね?

M子:決まってません。

T:ちょっと…。曲の…、例の選曲に関しての注意事項覚えてる?

M子・P子・A子:英語はやめた方がいい!

T:1つは英語はやめた方がいい。

A子:歌謡曲はやめた方がいい!

T:歌謡曲は…、ポップスはできるだけやめた方がいいってことね。

S:(しばらくざわつく)

T:もちろん…、(ざわつきがおさまらないので)聞いてる? 

S:(静かになる)

T:もちろん、絶対にダメだっていうわけじゃないけど、もう出遅れていることもあるし…。ね? これから短い期間でやるのに、質の高いことをやろうと思ったときにはこの2つを選ぶと…、そこにひっかかると大変だよということは言っておきたいと思います。

S:(まだ気はそぞろな様子)

T:でね、実はね、先週の日曜日、先生の中学校1年生の息子の学校でも合唱発表会があったので行ったんですよ。狭山市民会館というところで、「合唱会」という名前なんですけどね。行きました。で、それは各学年3クラスしかなくて、3クラス、3クラス、3クラスと学年曲1曲ずつ。なので、2時間足らずで終わってしまいました。ただね、市内大会っていうのがあって、それの予選会も兼ねているので、合唱コンクールっていう形でやってたんですね。で、各学年の最優秀クラス、その中の3年の最優秀クラスが市内大会に出る。それ以外に、各学年の最優秀指揮者賞、それから最優秀伴奏賞、とかいうのが選ばれるというのがありました。

S:(「へえ、そうなんだあ」という顔で聞いている)

T:で、それを聞いていて、2つ思ったことがあるんですけど…。1つはね、まあ、みんなのときもそうなんだけど、やはり1年生は2年生に絶対勝てん。2年生は3年生にどんなに頑張っても勝てない。私は常々絶対上の学年を食ってやるクラスになってほしいと思ってるんだけど…。

S:(ニコニコしている)

T:去年、ぎりぎり3年に追いついたかなっていう気はしているんですが、でもやっぱり3年の総力には勝てないなっていう気がします。

S:(真剣な顔になる)

T:でね、3年で優勝したクラス。曲は何だと思う?

S:(しばらく沈黙する)

M子:「虹」?(注:「虹」は昨年度このクラスで歌った曲)

T:そうなんです。実は「虹」だったんです。

S:(再び顔が明るくなる)

T:パンフレットに「虹」って書いてあったから、「おっ!いい曲選んだな」って思って。どんなふうに歌うかなって楽しみなのと、それから実はドキドキしたことがあって…。なんでドキドキしたかっていうと…?

M子:上手かったら?

T:そうそう。みんなより上手かったらどうしようかなって思って待ってたわけです。

   で、始まりました。さて、どうだったと思いますか?

S:(ニコニコしながら聞いている)

M子:上手かった。

I男:上手かった。

T:正直に言って…。(わざとじらす)

S:(固唾をのんで聞いている)

T:向こうの学校の3年生の優勝したクラスは、みなさんの二回りくらい上手でした。

S:(笑いが起こる)

T:まずね、女子の声がきれいだった!

S:(爆笑が起こり、ざわつく)

T:あのね、君たちの…。実はみんなの合唱はね、ある理由でね、何十回も聞いているんです。一昨日も2回聞きました。今日も1回聞いています。

C男:目覚ましで聞いてるんじゃない?

T:ビデオ見てるんです。目覚ましじゃない。

S:(爆笑になる)

T:それで…、それで起きたらすごい。

S:(笑いが止まらない)

T:そうじゃないんだ。実は、あの、ビデオを見ているんですけど。え~、編集してるので、何十回も見ているんですが、だからみんなのが耳に残っていて、それで聞いたらやっぱり上手。女の子は、みんなの声は…、女子は声は大きいんです。「広がるそ~らに~」(1フレーズをやや汚く歌う)っていうのが荒いんですよ。

S:(女子を中心に笑いが起こる)

T:向こうは「広がるそ~らに~」(1フレーズをソフトに歌う)すごいきれいなんだ。

S:(さらに笑う)

M子:とりあえず出したんです。

G子:とりあえず声を大きく出したんです。

S:(他の女子も笑ってうなずいている)

T:とりあえず声を出したのか。そうかもしれない。で、男子は圧倒的に声がでかい。

S:(再び笑いが起こる)

T:でかいんだ、向こうは。そういうふうに歌うんだっていうことをみんなのを聞いているときは全然気がつかなかった。最初の女子の出だしのときに男子はなんか…。何て言ってるんだっけ?「あ~」とかなんとか言っているところがあるよね?

M子:(大きな声で笑う)

T:あそこがあるの知らなかった。向こうの男子のを聞いて初めてそこで歌ってんだって思ってみんなのをもう一度聞き直したら聞こえてきた。

S:(さらに大きな笑いが起こる)

T:というくらい、男子の声がそこは小さかったんですね。ああ、かなわいなと思いましたが。でも、3年になったから、みんなはそれ以上に絶対いい曲、いい歌をやってくれるんだろうなと思っています。それが1つですね。

S:(ようやく笑いが収まって静かになる)

T:もう1つはね、コンクール形式のことなんだけど、みなさんはこの学校はなぜコンクール形式にしてないかって知ってます?

A子:勝ち負けじゃない。

T:うん。音楽の先生が話してくれたことある?

S:(うなずいている生徒とぽかんとしている生徒がいる)

T:ない? 私の記憶が確かであれば、やはり今A子さんが言ってくれたようにね、合唱というのは勝ち負けじゃないと。競争するために歌わせるわけではないのでそういうふうにしない、っていうことを聞いたことがあります。本当に歌いたいっていう気持ちで歌ってほしい。さすが、うちの学校の先生はお二人とも東京芸大の声楽科を出ていらっしゃる先生なので、やはり歌のプロですから、歌っていうのがどういうものかということを考えていらっしゃるわけです。だけど、私この学校に来たときにね、その考え方に実は…、この学校に来たときというか実はずっと…、正直言って賛成していませんでした。なんでかって言うと、やっぱりコンクール形式にした方がみんなのやる気が出るし、前の学校もそうだったし、この学校に来たらみんなのレベルが低くて…。低いなんて言ったらしかられるな。あんまり高くないような気がしたし…。みんなの力があればもっとできるはずなのに、きっとそれが高まらないのはコンクール形式じゃないからだろうなっていう思いがありました。

S:(真剣に聞いている)

T:ところが、この間聞いていて思ったのは、みんなとってもうまかったんだけど、最後の最後に最優秀とかって発表して、喜んでるクラスと残念がってるクラスがあったわけですよ。それを見ていて、みんな上手だったのに、なんで最後に順位付けちゃうんだろうなって思った。そのときに、正直言って、17年目にして初めて、この学校の合唱発表会はなんで順位付けないんだろうっていうことが、保護者の立場で見ていて身にしみて感じました。なので、さすがそういうところを考えていらっしゃったんだなとということを思ったんだね。本校音楽科の先生方の良心にようやく気づいたというわけです。なので、この学校はコンクール形式にはしてないけど、ぜひね、本当の歌の楽しさ、それをみんなで表してもらえたらなと思っています。

S:(これまでとちがう視点の話をしたためか、真剣に聞いている)

T:どんな曲を選び、どういうふうにやってくれるのか…。去年とちがうのは、授業が週に2回あるんだよね?

S:(多くがうなずく)

T:だから、今からでもいいレベルに達せられるんじゃないかと思いますので、がんばってください。

D男:えっ? そうなの?

T:うん、音楽は週に2回。去年1回だったよね?

S:(多くがうなずく)

T:はい、ぜひ頑張ってください。はい、終わり。

 

【こぼれ話】

今回の話では導入部、展開部ともに生徒がよく話に乗ってきてくれたので、楽しくやりとりをする中で目的のメッセージを伝えられたような感触がありました。動機付けの支援はある程度できたと思うので、今後の生徒達の自主的な活動を楽しみに待つことにしました。もちろん、これまでのことから考えると、本番までの間には一波乱か二波乱はあるでしょうが…。

 

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