58. 「3、2、1」そして「0」<パート2>

【きっかけ・ねらい】

今回の話は、2年生の修業式の日に話したこと(「57.『3、2、1』そして『0』<パート1>」参照)の続編として当初より企画していたものです。そのねらいは、前回の話の最後に残しておいたこと(同話の【実際の会話】及び【こぼれ話】参照)を改めてきちんと生徒に伝えることでした。すなわち、担任している生徒たちへの自分の気持ちを改めて表明することでした。

 <補足>

勤務校では2年生と3年生の間にクラス替えがないので、2年生の修業式の日の話の続きを話すこということができます。

 

【手順・工夫】

今回の話は前回の話をベースにしていたので、その内容を思い出させる必要がありました。一方、始業式における校長先生の話の内容は、自分が生徒たちに改めて語りたいことと共通していたので、それを話の枕にすることを考えました。

 

ただ、始業式の日は大変忙しくて、じっくりと話す余裕がなかったので、実際にはその翌日の終礼で話すことにしました。

 

【実際の会話】4/10

T:それではですね、昨日お話ししようと思っていたことをちょっと話させてください。

S:(聞く準備はあるという表情)

T:まずですね、今日みなさんには作文を書いてもらったわけですけども…、まあ、そこを読めばわかることなんですが…、まずみなさんの第一印象として、3年生になってどんな感想がありますか?

A子:怖い。

T:怖い? どうして?

A子:終わりが見えてる。

T:中学校生活の終わりが見えてるから? ふ~ん。他には?

S:(数名がこそこそ何か言う)

T:(B男に)何? B男くん、何か言った?

B男:え? 言ってませんよ。

S:(笑いが起こる)

T:言ってない? 何かそっちの方から聞こえてきた。他には?

S:(特に反応はない)

T:いいですか? え~と、さきほどパラパラっとみなさんの作文を見せてもらったら、やっぱり一番最初のところにね、「3年生になった実感がない」とか「自分が3年生として新入生にどう思われるか心配だ」とかいうのがありました。今日AA先生(学年主任)の学年集会での学年主任の話にもありましたし、昨日は校長先生や週番の先生の話…、それから生徒部長のBB先生の話もありました。3年生に、みんなにいろいろかかっていることは大変なことだと思います。3年生としてね。その中で個人が、一人一人が何をやっていくのか、ということをしっかり考えてやっていってほしいと思います。

S:(真剣に聞いている)

T:次にですね、校長先生のお話(始業式での話)なんですけども、実は私も校長先生のお話のポイントをメモしました。で、ぜひみなさんにも改めてその話をしたいなと思っていたら、今日AA先生からお話があったので、やっぱり同じところに関心がいっていたんだなと思ったんですね。ただ、私は校長先生のお話をみなさんにきちんと伝えたかったので…。校長先生は昨日こういう風に話し始められたんですね。「私の言いたいことは3つあります」っていうお話をされて、「そうか、3つか」と思って。それで「確かな学力」というお話をされましたよね? それから、「自分の志を持つ」という話をされました。というところまで話されて、「以上で私の話は…」と。「えっ?」

A子:え、え、え、え。もっと、もっと。

S:(A子に呼応するように数名が「もっと、もっと」と言う)

C男:他にあったっけ?

T:いや、2つしかなかったんですよ。私はメモしたんですね。「あっ、しまった! 1コ忘れたぞ! メモし忘れたぞ!」っと思って…。だけどみんなにそのことを話したいと思ったんで、実は昨日終礼の前にダ、ダ、ダ、ダって校長先生のところに行って、「校長先生、大変申し訳ありません。実は先生のお話を生徒に話したいと思うので…。今日先生は3つお話をされるとおっしゃったんですが、2つしかメモしていな いので、もう1つは何だったか教えていただけますでしょうか?」って手帳を見せて話しましたら、「あっ、ごめんなさい。この2つしか言ってませんでしたね」って。

S:(笑いが起こる)

T:っていう話で、実は校長先生はこの2つしか話されなかった。だから今日はAA先生も2つしか話さなかったというわけなんですね。繰り返します。その2つとは?

S:確かな学力。

T:「確かな学力」っていうのはどういう学力を言うの?

D子:その人に合った…。

T:うん、今日のAA先生の話によるとね。その人に見合ったものということですね。で、校長先生は…、私のメモによると…、「一人一人が主体的に判断することが大事ですよ」。思い出したかな?

S:(数名がうなずく)

T:そして、「それを自分のことばできちんと表現できることが大事ですよ。それが確かな力ですよ」っていうふうにおっしゃっていました。おそらくそれは、文部科学省が言っている、「思考」、「判断」、「表現」という3つの学力感、それもとらえておっしゃっていたんだと思いますけど、その中の「判断」「表現」を強調されていたのかなというふうに思います。

S:(やや難しい抽象的な話になったためか、無表情に聞いている)

T:では、もう1つの「自分の志をしっかり持ちましょう」っていう方の話の中身は何だったか覚えているでしょうか?

S:(反応はない)

T:なかなか一言では…。

A子:(何か言う)

T:(A子に)何? A子さん、何か言おうとしていることは?

A子:国語辞典で調べたら…。

T:「国語辞典で調べたら」っていう話をされた?

S:(数名が「ああ!」と言う)

T:志っていうことばを調べたらという話をされた?

A子:(うなずいて)そこから始まった。

T:そこから話が始まったわけね。私のメモによると…(手帳を見る)、私もメモをしてないと忘れちゃうので…、「自分の心に決めた目標」ということ。そして、「それを実現するために努力することが大事ですよ」っていうお話をされたと思います。ですので、AA先生の話と併せてですね、みなさんにはそれを覚えていてほしいなと思います。

S:(やや飽きてきたような表情になる)

T:実は、校長先生がお話しする前に、私の方では2年生の一番最後の話の続きとして、みなさんには思い出してもらいつつ、プラスアルファで話しておきたいなということがあります。

S:(明らかに「これからさらに別の話をするのかよ…」という表情になる)T:それは、修業式の日に私が数字を書きました。何の数字を書いたか覚えてる?

S:(数名が「1、2、3」と言う)

T:1、2、3、…。

E男:0(ゼロ)。

T:1、2、3、0。なんかそこに…、1、2、3に何か加えなかった?

F子:20?

T:20にしたり? あるいは?

E男:10。

T:10は出してない。

E男:30。

T:30。30は何だったか覚えてる?

E男・A子:先生の教員生活。

T:そうですね。20は?

E男:筑波に来て…。

S:(E男に続いて「筑波に来て20年」と言う)

T:そうですね。よく覚えてくれていましたね。で、0は実は…、話をしませんでした。0はなぜ出したと思いますか? まずみなさんにとって0とは?

A子:残りの日数。あっ、ちがうか。

D子:2年生の残りの日数。

T:いや、いや。そういう意味ではない。「3年生になって」とか、「2年間過ごして」とか、「1年間このクラスで過ごして」なんていうその流れからの0。

D子:「2度と同じ日は来ない」的な…。

T:あああ~。

F男:格好いい!

S:(F男の発言に数名が「格好いい!」と言い、笑いが起こる)

T:ちょっと格好よすぎて、深すぎる。先生はそこまで思考が深くないので、浅い人間なんで、もうちょっと浅い視点で結構です。

S:(しばらく沈黙する)

G男:(何か言う)

T:(G男に)何? G男くん、何言ったの?

G男:いや、H男くん(G男の斜め前の生徒)が言ってたんですけど…、くだらない話なんですけど…、余命。

T:余命?

S:(笑いが起こる)

A子:死ぬのか?

T:それは何? 先生が余命0なの?

S:(爆笑が起こる)

I男:H男~!

S:(I男の発言を受けて数名が「H男~!」と言う)

T:この0は、もちろんみなさんが今までいろいろ積み重ねてきたことを否定するわけじゃないんだけど、やはり改めて今日書いてくれた人の中にもけっこういますよね?(「3年生になって」という作文の束をパラパラとめくる)「初心に返る」とかですね。その初心という意味での0です。改めてここまで築いてきたことを捨てる必要はないけれども…。でも、ここまでやってきて、「あれはできてなかったな」とか、「こういうことはまずかったな」っていうものは、やはり1回チャラにしてもらって、0からスタートしてほしいなと思っています。

S:(聞いてはいるが、あまり気乗りしないという表情)

T:一方、私も0からスタートしなければいけないなと思っていることがあります。それは…。

E男:教員生活。

S:(笑いが起こる)

T:教員生活じゃない。それはみなさんの担任としてであるんですが…。

S:(少し驚いたような表情になる)

T:それはどういうことかというとですね、実はその修業式の時に「あと1日経たないと私の心は0にならない」って言ってたのを覚えています?

A子:言ってた。

I男:ああ!

T:それはどういう意味だかっていうのは…。「ええ?」とか言って生徒手帳見てる人がいましたよね? 「明日は何の日だろう?」 みさなんの生徒手帳を見たのではわからないのですが…。実は翌日あったことがあるんです。この学校の敷地内で。

D子:(何か言うが聞き取れない)

T:この学校の敷地内で。

D子:高校の…。

T:高校の?

D子:ああ! 入学式?

J男:卒業式!

T:卒業式。そのとおり。高校の卒業式です(その日に同じ敷地内にある附属高校の卒業式があった)。で、なぜそれが私にとって大事なのかというと、実はその高校を卒業する子たちは前回私が担任した子たちなんですね。で、卒業式が終わってから、中1の時に担任した子とみんなと同じ2年5組、3年5組の子たちが…、まあ、メモを残してくれたので人数がわかっているんですが…、50人くらい卒業式が終わってから挨拶に来てくれました。で、それをもって、実は私のみなさんに対する担任としての態度がようやく0になったなと思っています。

S:(「いったいどういうこと?」という表情をしている)

T:大変申し訳ないんだけど、これまでの1年間、みなさんを担任して、みなさんのことを愛してるよとか言いながら、実はどっかに…

E男:浮気。

S:(E男の発言に「おお!」とか「ああ!」とかいう声が上がり、笑い声が上がる)

T:浮気? 浮気とかっていうんじゃないんだけど…。

E男:浮気癖。

T:逃げ心があり…。例えば、みんなが言うことを聞いてくれないとか、何かしたときなんかに、「ああ、前のクラスの時はこんなことがあったんだけどなあ…」とかね。そういうところに逃げている自分がいたんです。でも、それを断ち切って、みんなとあと残りの1年間をやるには、彼らが卒業してくれないことにはダメだろうなという思いがありました。

S:(優しい表情で聞いてくれている)

T:まあ、そんな中で彼らが挨拶に来てくれて送り出したので、もうこれでチャラで、残り1年間みなさんの担任として…。そういう意味ではまた0からスタートしたいなと思っています。ということで、一緒に頑張っていきましょう。

K男:(拍手をする)

S:(どう反応していいかわからず、K男には続かない)

T:ということで、話を終わりにしたいと思います。ご静聴ありがとうございました。

S:(大きな拍手が起こる)

T:じゃあ、終わりにしましょう。

 

【こぼれ話】

今回の話は、いつも以上に担任の「自己開示」が強い内容であったので、生徒にどのように受け取られたかわかりません。一方、こちらから話を投げかけた時の生徒の反応は以前よりも大人しかったように思いました。それは、生徒が3年生になったことで以前よりも落ち着いた反応をするようになったためなのか、新年度初日から忘れ物が多いことなどを担任に叱られたりした後で生徒の心がこちらを向いていなかったためなのか、その両方なのか、あるいはまったく別の要因なのか、はわかりませんでした。