52.大学生に物申す!

【きっかけ・ねらい】

今回の話は、本来英語の時間に行うはずだったものを、時間の関係で終礼で行ったというものでした。元々は授業中にふと思いついた話であり、他のクラスでは授業中に話したのですが、自分のクラスではよりじっくり時間をかけられる終礼を使いました。

 

実は、生徒たちにとっての教育的なねらいはほとんどなく、主なねらいは自分が週に一度大学で教えている「英語科指導法」という授業に参加している大学生に中学生の生の声を届けることでした。ただ、生徒にとっては自分の意見を表明する目的がはっきりする話であったので、同時に生徒の積極性をさらに伸ばすことにつながるであろうという裏の目的もあって話すことにしました。

 

【手順・工夫】

まず、アンケート方式で話に入ることで生徒を話題に乗せ、それに対する自分の考えを表明させることで生徒の思考を活性化させるようにしました。また、途中で今回の話の目的を紹介することで、生徒が自ら自分の意見を発表したくなるような状況を作るようにしてみました。そして、最後に今回の話がどのように使われるのかを明かすことで生徒を驚かせ、気持ちが高揚したところで話を終えるように仕組みました。

 

【実際の会話】1/16

T:今日、冬休みの勉強のことについて発表してもらったんですが、そのことについてちょっとみなさんに口頭アンケートを採りたいんですけど…。他のクラスにもけっこういたんですが、冬休みの間に…、このクラスにもいましたけど…、冬休みの間に予習をしたっていう人がいましたよね? 

S:(うなずく)

T:で、そういう人も含めて、普段英語の予習をしてるっていう人はどのくらいいます?

S:(ああだこうだとざわつく)

A男・B男・C子:(手を上げる)  

T:(手を上げている3人を数えて)1、2、3人。

D男:先生、進んでいる単元を学習していれば予習ですか?

T:そう。

D男:じゃあ、ぼくも…。

S:(「塾でやっているのは?」など、ずっとああだこうだとざわついている)

T:っていうか、塾でやってるとかじゃなくて、自分で進んでやっているかっていうこと。

E男:ない。

A男:(何か言う)

T:何?

A男:書いてはないけど、聞いています。

T:書いてはないけど、聞いている? それは何? 教科書のCDとか?

A男:はい。

T:で、C子さんは?

C子:「基礎3」(=NHKラジオ講座「基礎英語3」)を聞くとかは?

T:「基礎3」を聞くっていうのは予習じゃないんだけど…。要するに授業の予習。

C子:たまに、授業の一分野とか進んでます。

T:授業の一分野…、ワン・レッスンとかをやることがあるということ?

C子:そうです。

T:他にどうですか? B男くんは?

B男:A男くんと同じです。

T:A男くんと同じ?

B男:聞いているだけです。

T:聞いてるだけ。はい、わかりました。じゃあ、多くの人が予習をしてないわけですが…。じゃあ、聞きますけど、なんで予習をしないんですか?

S:(ちょっとした緊張が走る)

T:いや、いや。別に叱ってるとかじゃなくて、なんで予習しないの?

F男:わかんないから。

D男:AA先生(学年主任)が言ったから。(※英語科は2人で5クラスを分けている)

T:AA先生が…。

D男:「楽しみにしておきな」的な。

T:…「予習をしなくていいよ」って言った。肥沼先生は?

S:(数名が「何も言ってない」と言う)

T:そんなことねえよ! 先生だって「予習しなくていいよ」って言ってるよ。

F男:言ってたっけ?

T:「言ってたっけ?」って…、(1年次に)オレのクラスじゃなかった人が言うなよ。

S:(小さな笑いが起こる)

T:先生も「予習はしなくていいですよ」って。その代わり…?

S:「復習をしっかりしなさい。」

T:「復習をしっかりしなさい」って言ってるよね? じゃあ、ちょっと聞きますけど、予習をしてない人、なぜ予習をしてないんですか? さっき「先生が言ったから」はわかりましたから、それ以外に理由がある?

S:(数名が「楽しみにするため」など、いろいろなことを言う)

G子:(何か言う)

T:(G子の発言を拾って)先に予習しちゃうと…?

G子:なんか、学ぶことがないから、つまらない。

T:学ぶことがなくなって、つまらなくなっちゃう?

S:(数名がうなずく)

H子:ああ~、なんか、完璧な回答~!

S:(笑いが起こる)

T:他には?

I男:「私、真面目に勉強してますよ」感がなくなる。

E男:教科書を忘れる。

S:(笑いが起こる)

J男:持って帰りたくないだけだろ、お前は!

E男:持って帰るのを忘れる。

T:じゃあね、次。ええと、予習はした方がいいと思います?

S:(数名が「思う」と言う)

T:予習はした方がいいと思う人はどのくらいいますか?

K男・F男:(手を上げる)

L子:えっ? 少ない!

M子:少なくない?

T:K男くん、なぜした方がいいと思うの?

K男:だって、もし知ってたら…、わかんなかったら、単語とか文法とかが一気にバーンって来ると、全部覚えられずにあやふやになっちゃうけど、覚えてたら、完璧ではなくても、習ったことが「ああ、ここでやったことだな」みたいに身に付いていくから。

D男:復習すればいいじゃん。

T:なるほど。先に自分でやっておいてね? F男くんは?

F男:同じ。

T:同じ内容。わかりました。はい、じゃあ、次聞きます。先生が、毎時間、なになにを予習しろっていうふうにしたら、みんなはどうする?

S:(多くが「しない!」と連呼する)

T:ちょ…、「しない」とか…、それは…。

S:(笑いが起こる)

T:先生が言ったから「しない」とかじゃなくて…。どう思いますか?

E男:いやな気持ち。

L子:ええ~、やだ~!

T:いやな気持ち? やだ~? L子さん、なぜ「やだ~!」なの?

L子:なんか…、英語は…、先生の授業順にやってった方が…、それが初タッチだと、自分的には頭に入る気がして…。

T:ふ~ん。

L子:「予習しとけよ」って言われると、どういう順番でどういう感じでやればいいのかっていうことがはっきりしない。あんまり、なんか、その~…、第一印象って大切じゃないですか?

T:ふ~ん。

L子:だから…、

M子:まちがった第一印象とか…。

L子:授業でしっかりやりたいなっていう印象があります。

T:ふ~ん。えっ? M子さんは何だって?

M子:ええ、あのう…、最初にこういう意味かなあって思ったら、けっこうそれって刷り込まれるんですけど…。

T:ふ~ん。

M子:でも、それがまちがっていた時、ほんとに直しづらいんで…。やっぱり、最初には正しいことを習っておきたいという安心感があります。

T:ふ~ん。

E男:ただせさえ、やることが多いのに、これ以上増えるのはやだ。

L子:そういうことじゃ…。

S:(数名が「おおっ!」と言う)

T:なぜやらない…、もしやらなきゃいけない…。K男くんは、やんなきゃいけないと思っているけど、やってはいない? 

K男:いや…。

T:やった方がいいと思ってるけど、やってはいない?

K男:今まではやってなかったけど、今は…。

T:やってるの?

K男:(うなずく)

S:おおっ! おおお~!!!

K男:(誰かに何か言われて)いや、冬休み明けから。

T:まあ、多くの人は、たぶん予習をやる余裕はないよね?

S:(数名がうなずく)

T:なぜこんなことを聞いたかって言うと、先生、埼玉大学の学生を週1回教えているんだけど、その中で「予習をさせるべきか、させないべきか?」っていうのを学生が話し始めて、ほとんどの学生は自分が教員だったら予習をさせるって言うんですよ。

D男:ええ~、やだ。絶対やだ。やんない!  

H子:自分がやだから、やんない。

S:(ああだこうだとざわつく)

E男:生徒に嫌われたいだけなんじゃない?

T:生徒に嫌われたい? なぜ嫌われるの?

E男:だって、「やりたくもない予習をやらせる…、くそっ!」みたいに…。

S:(笑いが起こる)

T:まあ、嫌われたい学生はいないと思うんだけど…。

M子:先生の授業でわかるっていうことが…、

L子:(M子の発言にかぶるように)前提条件として予習するっていうのは…、

M子:染み込まれているから、我々は予習をしなくていいっていうことなんだけど…、例えば、教科書なんかを授業でなぞられるだけだったら、自分で予習した方がよさそう。

T:(M子の発言にかぶるように)予習した方がよさそう? 

S:(他にも数名がああだこうだと言う)

T:ま、あのう…、みんながね、そういう風に考えてくれて…、大変…、私としては嬉しいことなんですが…。もし私がみなさんが予習をしていることを前提として授業をしたら、みんなはどう思うかね?

S:(言い終わる前に)やだ~!!!

E男:置いてかれますよ!

L子:ついてけない!

K男:(電車が目の前を過ぎるジェスチャーで)ヒューン!

S:(爆笑が起こり、ああだこうだと言う)

T:例えば、「お前ら、こんなのもう知ってるよな?」って毎回毎回先生がやってたら?

O男:ああ、だめだ~!

S:あああ~!!!

E男:え? もう、出てくよ、もう。

S:(爆笑が起こる)

J男:内職をしざるをえないよね?

S:(笑いが起こる)

T:ま、そういう風には思うかなっていうのがあるので、予習は前提にしてないんですけど…。はい。ま、ちょっとみなさんの、その生の声を、実は今録音させてもらってたんですけど…。(教卓の上に置いてあったICレコーダーを見せる)

S:えええ~!!!

E男:オレ、変なこと言わなきゃよかった!

S:(爆笑が起こり、しばらくざわつく)

T:これを、学生に…、

L子:マジで?

T:中学生の正直な…、

S:やだあ~!!!

T:中学生の正直な感想ということで…。ちょっと、別に…。

P子:ええ? じゃあ、それを聞いた学生の声も聞いてみたい!

S:おおお~!!!(続いて拍手が起こる)

T:これを聞いた学生の声も聞いてみたい?

K男:仕返し! 仕返し!

S:(爆笑が起こる)

T:まあ、録れればね。

E男:え? これ、まだ止めてませんか?

T:止めてません。

E男:(頭を抱えて)あああ~!!!

S:あああ~!!!

E男:仕返し、録られちゃった!

S:(爆笑が起こる)

T:ということで…、とりあえず…、まあ、誰が言ったかなんてことはどうせわからないんだから、いいじゃない?

Q男:E男くんが言いました!

E男:それ、言うなよ!

S:(笑いが起こる)

T:中学生は…、中学生は予習を前提にしてほしくないっていうことを伝えたいと思うので…、はい、ちょっと使わせてください。以上です。ありがとうございました。

L子:うわ~!

 

【こぼれ話】

今回の話は、【実際の会話】にもあるように、実際に埼玉大学教育学部で「英語科指導法」をとっている学生67名に最後の授業の日(1/28)に聞かせることにしました。その目的の1つは、生徒にも話したとおりに中学生の生の声を聞かせることでしたが、主目的は最後の授業のタイトルを「前・後期の授業をとおして本当に伝えたかったこと」としたように、英語科の授業では生徒同士の良好な人間関係とそれを支える教師と生徒の良好な人間関係作りが大切であるということを伝えるための音声資料にすることでした。すなわち、日頃から生徒が発言しやすい雰囲気をクラスの中に醸成することが大切であり、そのためには授業だけでなく、あらゆる教育場面で教師がそうなるような指導を意図的・計画的・系統的に行っていく必要があるということを示したかったわけです。そして、私が実践している「終礼の話」はその1つの方法であることを紹介する予定でした。今回の話を学生がどのように受け止めてくれるのか楽しみです。

 

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