43. わくわくすること

【きっかけ・ねらい】

先週から今週にかけて、校内で起こっている諸々の問題(持ち込み禁止品や授業態度等)や学級内で注意すべきこと(朝礼や終礼の開始時刻の厳守、休みがちな仲間への配慮等)などをきちんと話さなければならなかったので、ここ数日は終礼での話が機械的な連絡や厳重な注意のみとなっていました。何とか明るい話ができないかと思っていたところ、終礼が比較的スムーズにできたこと、この日は修学旅行のコース決定を発表する予定だったこと、クラスボールを取り上げられた生徒が取り上げた先生に謝罪に行ったこと、休みがちな生徒が出席して久しぶりに全員がそろったこと等があったので、ボールと修学旅行の件をネタに少し生徒と楽しく話す時間を持ってみようと思いました。

 

【手順・工夫】

まず最初にクラスボールを取り上げられた件について明るく(?)しかりながら生徒の気持ちをほぐし、本題の修学旅行のコース発表へ入っていくことにしました。

 

【実際の会話】2/9

T:(表面がカサカサで色落ちしたバレーボールを高く掲げて)ここにクラスボールがありますが、これを見てみんなはどんな印象を持ちますか?

S:(笑いながら)汚い!

T:そうだねえ。あちこちすり減って、今にもパンクしちゃいそうだね。でも、見方を変えると、それだけみんながよく使っているというふうにも言えるので、まあ、こういう状態になっているのも一概に悪いとは言えないわな。

S:(担任が明るい口調で話していることに安心して笑っている)

A男:先生、なんでクラス名(「K-5」)が入っているんですか? 確か消えちゃってたと思うんですけど。

T:さっき終礼中に先生がマジックできれいになぞったんだよ。

A男:なんだ、そうか。

T:ただ、雨の日とかに濡れたままにしておいたりすると、それだけで表面が痛んだりするから、使った後に水を拭き取るとかしてください。

S:(ボールをよく使っている男子が顔を見合わせて笑っている)

T:それからね、ボールを蹴ったりすると、ボールが傷むからなあ…。

B男(ボールを蹴ってしかられた生徒):(苦笑いをしている)

T:そういうことをすると、取り上げられて、使えなくなるぞ…。

B男:(すまなそうにしている)

T:今度取り上げられるようなことがあったら、二度と使えなくするからな。

A男・C男(一緒に遊んでいて謝罪にいった者):(苦笑いをしている)

T:(ボールが入っている箱を見て)ところで、クラスボールは全部そろっているのかな? あとここにバレーボールとサッカーボールがあるけど、バスケットボールは?

S:(反応がない)

T:ボール係、どうなってる?

D子:「運動用具係」です。

T:そう、運動用具係は誰?

E男・F子(運動用具係):(恐る恐る手を挙げる)

T:バスケットボールはどこ?

E男:知りません。

F子:すみません、わかりません。

T:オイオイ。君たちがしっかり管理してくれなきゃ困るぞ。E男くん、他のクラスにあるかもしれないから探してきなさい。

E男:わかりました。

T:(もう1つのバレーボールを手にとって)こっちのボールはきれいだなあ。

A男:それは最近来たんです。

T:最近来た? そりゃあ、どういうことだい? あれっ? クラスが書いてないぞ。

G子(一番前の生徒):先生、そこに書いてあると思います。

T:どこ?(ボールを見るとうっすらと「K-2」という跡がある)ほんとだ。これには「2」って書いてあるぞ。ということは2組のボールじゃないか。

A男:(「しまった!」という顔をして苦笑いしている)

T:しかも、クラス名のところがこすって消してあるようにも見えるが…。

C男:いえ、そんなことはしていません。

T:しかし、これは明らかに2組のボールだろ? E男くん、2組に返してきて。

E男:わかりました。

A男・C男:(顔を見合わせて笑っている)

T:それから、明日は終礼時に育鳳館のイス並べをすることになっていましたね。6時間目が終わったら、終礼前にやろうと思いますから、覚えておいてください。

S:(「面倒くさいなあ」という顔をしている)

T:(側面黒板の時間割を見ながら)明日の6時間目は何だ? あれっ、英語じゃない。

H子:先生、英語の時間にやりましょうよ。

T:まあ、時間が余ったらね。

I男:授業をさっさとやって、やっちゃいましょうよ。

S:(「そうだ、そうだ!」という歓声がわく)

T:だから、時間があまたったらって言ったでしょ。

S:(「先生はきっと希望を聞いてくれる」という期待をこめた顔でこちらを見ている)

T:最後に…、今日は大切な連絡があります。さて、何でしょう?

S:修学旅行!

T:よく覚えていたね。今日はこれからコースを発表します。ただ、発表する前に断っておきたいんだけど、全員が希望どおりになったわけではありません。けっこう多くの人が第2希望とか第3希望とかになっています。

S:(不安そうな顔をして真剣に聞いている)

T:コースを決めるにあたっては、ある困ったことがありました。

J子:希望が偏った!

T:そのとおり。どこに偏ったかというと…。

S:DとE!

T:そう。特に、Dコースの女子とEコースの男子。それぞれ定員の2倍くらいいたから、その2つのコースを希望した人は半分くらいがよそに行っています。

S:(一部が「ええ~!」という驚きの声を上げる)

K男:先生、どうやって決めたんですか?

T:まあ、詳しく言うときりがないけど…、ある一定の法則で機械的に割り振っていったんだ。

L子:誰が決めたんですか?

T:先生たち、みんなでだよ。じゃあ、発表しようか。

S:(固唾を呑んでこちらを見ている)

T:(わざと手帳の中を探す振りをして)あれっ? 紙がどっかいっちゃったぞ…。

S:ええ~!

T:(紙を見つけて)おお、あった、あった。

S:(笑いが起こる)

T:で、「さようなら」をしたら、側面黒板に貼っておくから…。

D子:先生、今言ってください!

T:えっ? そうかい? じゃあ、発表しようか?

S:(大騒ぎになる)

T:じゃあ、読み上げるぞ。聞こえなくなるから、いちいち反応するな~。一人ずつ、名前、コース名で言うぞ~。

S:(「えっ、本当に今言うの?」という驚きの顔をして真剣に聞き耳を立てている)

T:(一人ずつ名前とコース名を読み上げる)

S:(ほとんどは静かに聞いていたが、ところどころ個人的に歓声が上がる)

T:(全員分を発表し終えて)以上!

S:(「やった~!」とか「ぎゃあ~!」とか騒然となる)

M男:うちのクラス、Aコースばっかりじゃん!

T:おっ、気づいた? そうなんだよ。半分近くがAコース(4組の担任が担当)なんだな。逆に4組はEコース(自分が担当)ばっかり。だからね、「4組と5組の担任を交換するか」という話が出ているんだ。

F子:えっ? 担任が替わるんですか?

S:(C子の発言にみんな驚いてこちらを見る)

T:ウソだよ~ん。そんなことするはずないでしょ?

S:(どう反応していいかわからない笑いが起こる)

T:じゃあ、後で黒板に貼っておくから、確認しておいてください。それから、他のクラスも終礼で一斉に発表することになっているから、自分のコースに誰がいるか知りたい人は、他のクラスの人に聞いてみて。じゃあ、今日はこれでおしまい。

 

【こぼれ話①】

これは予想していたことですが、終礼後はそれぞれが自分のコースのことや誰と一緒になったとかで大騒ぎになりました。しばらくすると、他のクラスの生徒が5組の一覧表をのぞきに来て、喜び合ったり、それぞれのクラスの状況を報告し合ったりしていました。冒頭にも書きましたが、この日は特に平和な一日だったので、生徒との気楽な会話を楽しむことができ、放課後の生徒の興奮した様子も余裕をもって見ていることができました。

 

また、自分のクラスだけ英語の授業時間が大幅に余っていたので、翌日の育鳳館(講堂)のイス並べは生徒の提案(希望?)どおり、6時間目の英語の授業中に行うことにしました。授業の最初にそのことを伝えたところ、生徒たちはいつもにもまして張り切って授業を受けていました。始業から20分経ったところで授業を終え、イス並べの方法を説明し、細かいところまでこだわって並べることを伝えると、生徒たちの目が光りました。そして、実際に作業をさせると、現場では何も指示することなく、生徒たちだけで今までにないくらい整然かつ美しく500脚のイスを並べてくれました。しかも、その中の数名は全体を見回しながら完璧な状態になるまで何度も直してくれました。さらに、その後育鳳館の鍵を閉めて教室に戻ると、すでに終礼も終わっていました。

 

【こぼれ話②】

ところで、修学旅行の起源は、1886(明治19)年に東京高等師範学校で行われた「長途遠足」であると言われています。それが2年後に「修学旅行」ということばに置き換えられ、本校の前身である東京高等師範学校附属中学校では1895(明治28)年に初めて「修学旅行」が行われました。その後、この行事の主旨と内容が全国に広がり、今ではほとんどの学校で行われている宿泊行事に使われる普通名詞となっています。

 

そのような歴史的背景もあることから、本校の修学旅行は古くから他校にはあまり見られない内容になっています。すなわち、本校の「修学旅行」はいわゆる観光旅行ではなく、あくまでも教科学習の延長として設定されている行事であり、その名のとおりの「学を修める旅行」なのです。したがって、何十年も前から複数教科によるコース別学習を実施しており、すでに1978(昭和53)年には5コース(文学、自然、歴史、公害、産業)が設定されていました。現在は、A:文学(国語科)、B:産業(社会科)、C:自然(理科)、D:勤労体験(技術・家庭科)の4コースがパーマネント・コースとして毎年設定され、これに当該学年独自のコース(本学年は私が設定した「E:野外生活実践」)を加えた計5コースの中から生徒が選択することになっています。いずれのコースも、業者を一切通さず、担当者が何度も下見を重ねて、宿の手配から訪問地や活動内容を考えることまでも行う、教師にとっても特別な行事です。そして、2年生の2月から3年生の5月初旬まで週に1回2時間の「総合学習」の時間で事前学習を行い、5月中旬に3泊4日の本番を経験し、実施後は「総合学習」を2回使って、コース毎のまとめと学年全体の報告会を行っています。

 

◇参考資料 本校著「生きる力を育む 修学旅行と校外学習」1997,図書文化

※なお、【こぼれ話②】の修学旅行に関する詳細は、本HPの「学を修める修学旅行」のコーナーで詳しく説明されています。

 

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