41. 自立と自律

【きっかけ・ねらい】

その週の月曜日は、中国からの修学旅行生との交歓行事で3名の中国人生徒(日本の小学校6年生にあたる生徒)を、授業、昼食、終礼及び全体会に受け入れたこともあり、生徒が朝から少し浮き足立っていました。具体的な現象としては、昼食時の席移動や掃除当番サボりにそれが表れていました。そこで月曜日の終礼でそのことを注意したのですが、翌火曜日に欠勤(代休)して水曜日の朝教室に行ったところ、片付けてあるはずの机が片付けてなかったり、床にゴミが散乱していたりして、月曜日の指導が生きていないことがわかりました。さらに、この日の昼食時にも席移動をしている生徒がおり(その場で注意して戻しましたが)、改めて厳しく指導する必要があると思いました。

 

【手順・工夫】

一方、学年会の了承を得た上で自主的に学級委員会を組織し、生徒の自主的な活動を促進させる指導を生徒会活動とは別に行っている立場もあったので、生徒の自治活動も生かしつつの指導を考えなければなりませんでした。そこで、本校の教育理念である「自主自律の精神」にからめた話から入り、全員の関心を引きつけた上で、生徒の心に訴えかける話にしようと思いました。ただ、中途半端な態度では指導の難しい2年生を制御できないので、今回はかなり厳しい口調で、個人を全体の前で名指しで叱責することもいとわないつもりで臨むことにしました。

 

【実際の会話】1/26

T:この学校は「自治活動が盛んである」というのが1つの売りになっています。実際、学校説明会では毎年のように委員長陣がそのことにふれます。一方、この学校の教育方針には、「自主自律の精神を重んじ…」ということばが入っています。どういう漢字を使うかわかりますか?  「じしゅ」の「じ」は?

A男:「自分」の「自」。

T:そうです。では、「しゅ」は?

B男:「あるじ」!

T:そう、「主」。「主人」の「主」。じゃあ、「じりつ」は?

C子:「自分」の「自」に「律する」。

T:ほう~。その「自律」もあるけど、本校の「じりつ」は「立つ」の方なんだよ。

  (注:これは自分の記憶違いで、本当は「自律」であった)

S:(驚きの声が上がる)

D子:ええっ!? そうだったんだ~。

T:(自分が間違っていることを知らずに)先生はねえ、以前から「立つ」の「自立」より「律する」方の「自律」に教育方針を変えた方がいいと思っていたんです。なぜかというと、本校の生徒に足りないと思っているところがそこだからです。

S:(真剣に聞いている)

T:そして、そこが今の5組の課題だとも思っています。例えば、床を見てください。

S:(多くが床を見る)

T:ゴミがいっぱいちらかっています。黒板の下の綿ぼこりからすると…、月曜日はホイジャー中学校(北京の私立小中高一貫校)との交歓会があったから、あまりしっかりできなかったというのはわからないでもないけど、この様子だと、先生が休んだ昨日もほとんどやっていないという感じがしますが、どうですか?

S:(教室当番の生徒を見ると、みな下を向いている)

T:その上ね、ゼンシュウ(=全週:全校週番)からこういうものをもらっているんですよ。(ポケットから掃除サボり者への警告書を出す)

S:(「何だろう?」という関心のある顔)

T:これは掃除サボり者の報告書です。E男くんとF男くんの2人分があるよ。E男くん、これはいったいどういうことかな?

E男:だって、先生。月曜日は交歓会があったからできなかったじゃないですか~。

T:「できなかった」ということはないだろ。ちゃんと他の人はやっていたんだから。

E男:でも、ぼくが行ったらもう終わっちゃってたんです。

T:それは君がどこかで遊んでいたからじゃないのか?

E男:そんなことはありません!

T:じゃあ、火曜日の分はどうなんだ?

E男:いえ…、それは…、遊んでました…。

T:じゃあ、文句の言える立場じゃないだろ?

E男:はい…(恥ずかしそうにしている)。

T:それから、F男くんはどうなんだ? 君は委員長陣じゃないか? 忙しいを理由にクラスの仕事をサボったら、それは本末転倒だ。

F男:はい、すみませんでした。

T:今日だってこれから自治委員会があるんだろう? どうする?

F男:代理を誰かにお願いしなければなりません。

T:そうだよな。でも、それを探すのは君の責任でやりなさい。

F男:はい、わかりました。

T:それから…、これは実は先生が頭にきていることなんだが…、昼食時の席移動だ。自分の席で食べるのはいつまでという約束だった?

G子:放送が終わって、「ごちそうさま」をするまで。

T:そうだったよな?

E男:えっ? そうだったんですか?

T:(ふざけた返事だと考え、E男をにらむ)

E男:(まずいことを言ったという感じでオロオロしている)

T:月曜日はホイジャーの子たちが来ていたから、席がバラバラになってしまって、それに乗じて動いた人がいたようだ。ただ、あの日の終礼でそのことについては注意したはずだよな? それなのにまた今日も勝手に動いていたやつがいる。これはもう自 治活動とかそういう話じゃない。先生が言ったことを無視したということだ! ふざけんじゃね~よ!

S:(さすがにこのことばには驚いたようで、ビクビクした表情になる)

T:決められたことを自分たちで守れないばかりか、先生にそれを注意されても直らないというのは、どういうことだっ!

S:(緊張した顔でこちらを見ている)

T:(しばらくの沈黙後、少し声のトーンを落として)いつも言っていることだが、自治の基本はクラスだ。クラス内のことがちゃんとできないで、それ以上のことができるはずがない。たとえやったとしても、そんなものは絵に描いた餅だ。内容が伴っていない。明日からは二度とそういうことがあってほしくない。わかったかいっ?

S:(数名の生徒がうなずいている。ただ、当事者の1~2名には響いていない様子)

T:さて、もう1つ大事な話があるんだが、自治委員会がもう少しで始まりそうだから時間がないし、簡単に話せるようなことではないので、また日を改めて話すことにする。今日はこれでおしまい。

 

【こぼれ話】

さすがに今回は過去にないほどの強い口調で叱責したので、いつもは終礼後に話しにくる生徒も近寄ってきませんでした。ただ、掃除はとても手際よく行っていました。

 

なお、最後にふれた「もう1つの大事なこと」とは、欠席がちな男子生徒(その日も欠席であった)に対することばがけに関することでしたが、微妙な話であったこともあり、もう少し話す内容を練り、本人及び保護者の同意を得てから、生徒が聞く耳を持っている日に話した方がいいと判断して、話すのをやめることにしました。

 

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