40. 本当に伝えたかったこと(運動会を終えて)

【きっかけ・ねらい】

運動会当日のことは「39.元気な人々(運動会に向けて②)」の【こぼれ話】にも書いてありますが、その日の終礼で話したこと(その内容はどこにも記述してありません)は、自分が生徒に本当に伝えたかったこととは少しちがっていたのではないかと後から思いました。その時に話したのは競技優勝できたことの喜びと全員がけが無く楽しくできたことへの安堵感だけで(もちろん、それも大切なことであったとは思っているのですが…)、急いで生徒を帰した後に、もっとちがう視点から話ができなかったかという反省が浮かんできたのです。そのような中で、その日の学級日誌に本当はそういう視点から生徒に話をしなければならなかったと気付かされる記述がありました。そこで、それをきっかけとして、改めて運動会がもたらす意味の総括を私なりの視点で生徒に伝えておこうと思いました。

 

【手順・工夫】

この日は前週の学年会での打合せにより、生徒の日頃の生活態度について改めて注意しなければならないことになっていました。そこで、その話をまずした後で、反対に良い面を運動会で感じたが、それを当日に話しそびれてしまったので、改めて話したいということから話に入ることにしました。さらに、その話をさらに真剣に聞いてもらうために、直前にその日の英語の授業での出来事とそれに対する自分の気持ちを素直に話すことにしました。

 

【実際の会話】9/16

T:今日はみんなにいろいろ注意をしましたが、反対にみんなのよいところも見えていますので、そのことについてふれておくことにします。

S:(その前の話の影響で、まだ下を向いている生徒が多い)

T:ただ、その前にみんなに謝らなければならないことがあります。

S:(多くが驚いたような顔でこちらを見る)

T:それは英語の授業の時のことです。この間の授業で欠席した人にリーディングショーをやってもらうことばかりに気を取られていて、大切なCDプレーヤーを持ってくるのを忘れてしまいました。それでプレーヤー無しでやったわけですが、なんだかよくわからない導入になってしまって…。みんなも「先生、何やってんだ?」という気持ちになったんではないかと思います。どうもすみませんでした。(頭を下げる)

S:(数名がニコニコしているが、多くはどう反応していいかわからない様子)

T:まあ、あんな…、はっきり言って…、いい加減な導入をしたのに…、みんな辛抱強く聞いてくれて…、しかも大げさに反応してくれて…。みんないい人たちだね…。ホント、助かりました。

S:(こちらの意図がわかったようで、ニコニコしている生徒が多い)

T:あとね、1つ…、運動会の日に話しそびれてしまったことが1つあるんですが、それを話してもいいですか?

S:(聞く準備はできているという表情)

T:それはですね…、運動会の日にとても嬉しかったことがあるんです。もちろん、優勝したことも嬉しかったんですが、そのことではありません。

A男:ああ、「じゃんぷロープ走」で頑張ったことですか?

T:いや、そういうことじゃありません。

B子:もしかして、負けても最後まで頑張っていたとかそういう話ですか?

T:(B子に)そうそう。ちょっとちがうんだけど、そういう話。で、ある競技のときに感じたことです。

C男:(つぶやくように)「ムカデ(=むかで競争)」のことかなあ…。

T:それはですね…。女子の「いかだ下り」のときのことです。

S:(数名が「ああ!」と言う)

T:あの時にね…、3組が…、突然上に乗る人が変わってしまったから、すごく遅かったじゃないですか。その時にみんなが「頑張れ~!」って応援して、最後にみんな大きな拍手をしましたよね。

S:(うなずく)

T:まあ、こっちはすでにゴールしていて、勝ったという余裕があったからかもしれないけど…。でも、だからって、「ざま~見ろ!」みたいな感じじゃなくて、他のチームでも頑張っている人を応援する…。そういうみんなの姿を見ていて、先生はとても嬉しく思いました。それだけでね、運動会をやった価値があったなって思ったんです。それをあの日に言い忘れたので、改めて伝えさせてもらいました。

S:(「話はわかりました」という顔をしている)

T:あとね…、ごめん…、あと1つ言わせてください。実はね、あの日の学級日誌を読んでとても嬉しかったんです。(学級日誌を手に持って開きながら)あの日は…、リーダーの人たちに書いてもらったんですが…、おそらくほとんどはD子さんが書いてくれたんじゃないかと思うんですけど…、それを紹介させてください。

D子(クラスリーダー):(頭を両手で抱えて)ええ~! 先生、あれを読んじゃうんですか~?

T:(D子に)えっ? いいじゃない。いいことが書いてあるんだから…。

D子:(納得してうなずく)

T:で、こう書いてあります。全部読むと長いので…、後半だけ読みますね。けっこう、これが面白いんだよ。ええと…、「このクラスならあのよくわからない自信と並々ならぬパワーで来年は先生2度目の競技優勝と私初めてのパフォーマンス優勝をできる気がします!」。

S:(予想していた反応がない)

T:えっ? もう1回読むよ。「このクラスならあのよくわからない自信と並々ならぬパ ワーで…」。

S:(今度は笑いが起こる)

E男(クラスリーダー):「並々ならぬパワー」っていうのが言えてるよね!

F男(学級委員):(笑いながら)「並々ならぬパワー」っていうのは確かに言えてる。

T:そうだねえ。でも、先生は「あのよくわからない自信」っていう方が面白いなあ。

S:(みんなニコニコしている)

T:それでだ。先生が一番嬉しかったのが、次の一言。(その部分を生徒の方に向けて見せながら)「このクラスで良かった❤」っていうところ!

S:おおお~!!!(続いて大拍手になる。多くがD子を見る。数名がD子に何か言う)

D子:(恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに笑っている)

T:いや~、この一言には感動したなあ。読んだ時、涙がチョチョ切れちゃったよ。

S:(笑いが起こる)

B子:先生、それって死語ですよ。

T:あれっ? ちょっと古すぎた?

S:(数名がニコニコしながらうなずく)

T:まあ、とにかくさあ…、「このクラスで良かった❤」なんて、みんなも嬉しいだろ?

S:(再び大きな拍手が起こる)

D子:(ニコニコしている)

T:まあね、後期もいろいろ行事があるから…。

D子:ガクハツ(=学発:学芸発表会)ですね!

T:そうだね、学発とか合唱発表会とか。そういうね、行事でもね、運動会と同じようにみんなで協力して、頑張ってほしいと思っています。まあ、今のみんなならきっとできるでしょう。

S:(自信があるような顔をしている)

T:では、おしまい。

 

【こぼれ話】

こういう、生徒にとって心地よい(?)内容の話をしたときは、生徒の気持ちも高揚するようで、直後の「さようなら」の挨拶は、いつもにも増して大きく明るい声でした。1つ心配することがあるとすれば、この話の直前にあった生徒の生活態度に対する注意がこの話によって薄まってしまい、効果が無くなってしまうことでしょうか。叱ることと褒めること。そのバランスをどうとるかがこれからも課題です。

 

最後に、今回の話のきっかけとなった件の学級日誌の「生活の記録」欄に書かれていたことを、以下のとおり全文(字句もそのまま)載せておきます。

 

「今日の運動会では、1組としてのパワーを全校に知らせることができました。2年生としては、競技の成績は想ぞう以上によくて、私もこれまで頑張ってきた甲斐がありました。このクラスならあのよくわからない自信と並々ならぬパワーで来年は先生2度目の競技優勝と私初めてのパフォーマンス優勝をできる気がします!

このクラスで良かった❤」

 

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