38. 口を出さずにはいられない(運動会に向けて①)

【きっかけ・ねらい】

今回の話は、今年になってから初めてクラスのまとまりが試される行事である運動会を前にして、担任がどのように関わっていくつもりがあるかを生徒に示すものとして話したものです。ただ、これまでの話のように時間をかけて企画したものではなく、過去の経験からこのあたりで話しておくことが適切であろうという読みからのものでした。

 

本校の学校行事では、伝統的にその行事の担当者が対象となる生徒を指導し、その指導者も生徒の自主性を尊重して指導するので、学級担任は補助・支援程度にしか関わらないという不文律があります。しかし、少しでも質の高い活動をさせるためには、生徒を最も間近で見ている学級担任の関わりが欠かせないと思っているので、私はついついその不文律を超えて指導してしまいがちです。今回もそれがわかっていながら、やはり黙っていることができず、少しずつ口出しをしていこうと話を始めることにしました。

 

【手順・工夫】

まずは、自分が担任として学校行事にどのような姿勢で臨んでいるかを話し、そこから今回の話が出てきているという流れにすることにしました。そして、その日に生徒が経験したことに過去の自分の経験を重ね合わせることで、生徒が納得しやすい話にしようと思いました。

 

【実際の会話】9/5

T:この学校は、生徒の自主性を重んじる学校なので、行事でも教師はできるだけ口を出さないということになっているのですが、先生はどうしてもそれが我慢できないので、どの学年でも行事の度に口出しをしています。おそらく、この学校の先生の中では一番うるさく口出しをしているのではないかと思います。みなさんの先輩はきっと 「○○先生(筆者名)はうるさいなあ…」「また何か言い出したよ…」と思っていたでしょう。

S:(どう反応していいかわからない様子)

A男(旧1年5組の生徒):(何か言う)

T:(A男に)えっ? 何?

A男:合唱発表会のときは気合いが入っていました。

T:合唱発表会?

B男(旧1年5組の生徒):すげ~、なんか、随分いろいろなことを言われました。

T:まあね、合唱発表会にはこだわりがあるからね。

C男:(同じクラスだった生徒に)○○(ある先生のニックネーム)なんか、何にも言わなかったよね?

T:まあ、それぞれの先生にはそれぞれの考えがあるから…。○○先生はいろいろ口を出さないといられない性格なので…。

S:(ニコニコしている)

T:合唱発表会は選曲の段階から言わせてもらうからね。

S:えええ~!!!

T:いや、もちろん、選曲委員が曲選びをするわけだし、決めるのはみんなだから…。だけど、長年の経験から、これだけはやめておいた方がいいとか、こういうのがいいぞとかっていうアドバイスはさせてもらうつもりです。で、「行事に口出しをする○○先生、運動会編その1」。

S:(大笑いが起こる)

T:なんだよ? 何がおかしいの?

S:(数名がC男を指す)

D男:C男くんの顔です。

C男(運動会クラスリーダー):(後ろを向いて、わざと嫌そうな顔をしている)

T:今日のホームルームアワー(=HRH:道徳と特別活動の学級活動の部分を融合した本校独自の時間)の運動会の練習を見ていて思ったことがあるので、それを話しましょう。

C男:(再び同じ顔をする)

S:(爆笑が起こる)

T:(C男に)それは何かい? 先生の話を聞きたくないっていう意思表示?

C男:(ニヤニヤしながら)いえ、そんなことはありません。

T:じゃあ、なんでそんな顔をしているの?

C男:別に意味はありません。

T:あ、そう。じゃあ、しっかり聞いてもらおうか。

S:(2人のやりとりに対して軽い緊張感が走る)

T:運動会と言えば、クラスの団結力がよくわかる種目があります。

A男:クラスリレー?

T:まあ、確かにそれもそうだね。それについては後で話すことにしましょう。先生が言いたいのは別の種目です。

B男:むかで競争!

T:そのとおり。あの種目ほどクラスの団結力がわかる種目はありません。みんなの息が合うかどうかで決まる種目だからね。1年生の時はモタモタしていても許されたけど、2年ではそうはいかない。今の高3の時も大学4年の時も、先生のクラスは午前・午後共にダッダッダッてトップで入ってきた。それほど気合いの入っているチームだった。

C男:それで優勝したんですか?

T:ところが、それがそうはいかなかった。

S:(ニコニコしている)

T:1年生がブレーキになっちゃったなあ…。

S:あああ~。

T:みんなもしっかり練習して、恥ずかしくないように走ってくれよ。

E子(運動会クラスリーダー):けっこうヤバイっす。全然練習できていません。

T:まあ、この後ちょっとした時間を見つけて効率よく練習してください。ポイントは全員で「イッチニ、イッチニ!」って声をかけられるかどうかです。

E子:(うなづく)

T:ところで、今日のホームルームアワーの最後にAA先生(4組担任、保体科)がおっしゃったことを覚えていますか?

S:(数名がいろいろなことを言うが、その中にこちらが求める答えはない)

T:いや、確かにそういう話もされたけど…、先生が言いたいのは…、1組に関係すること。AA先生が何か1組に関係することを言ったでしょ?

E子:ああ! 「今日勝ったからって、当日勝てるとはかぎらない。気を抜かないように」ということですか?  (注:練習試合である学年種目が男女とも好成績だった)

T:そう! なんでまたそのことを取り上げたかっていうと、過去に同じようなことで苦い経験があるからです。

S:(関心のある顔になる)

T:今の高3が中2の時にね、先生のクラスは…、その時は5組だったんだけど…、かなり前からクラスリレー(41人が12人、10人、10人、10人のチームに分かれ、4レース行う)はダントツに強いって言われていたんだね。なんでかって言うと、スポーツテストの50メートル走の平均がダントツに良かったからなんです。

S:(集中して聞いている)

T:実際ね、ホームルームアワーの時に走ったら…、あの時は4レースとも全部走ったんだけど…、結果がね、1位、1位、1位、2位だったんだ。(注:5チーム中)

S:(話が飲み込めなかったのか、特に大きな反応はない)

T:これってすごくないかい? 4レース中の3つが1位で1つが2位だよ。ほぼパーフェクト勝ち。

S:(数名が「すげ~!」と言う)

F男:ダントツの1位じゃん!

T:そうだろ?

C男:去年の2組もすごかったよね? 1位が2つだったし。

T:こっちの方がもっとすごいだろ? でも、そこで油断があったんだね。本番がどうだったかと言うと…、1位、1位、3位、4位だった。

S:(意外に驚かない)

T:もちろん、それでも総合的には1位だったけど、2チームが予行より大幅に下がった。なんでだと思う?

G男:バトン!

S:(他にも数名が「バトン?」とつぶやく)

T:そう、そのとおり! 走りそのものはそんなに差はないんだよ。みんな一生懸命走ってるし。ところが、バトンを2回落としちゃった。

S:えええ~!

T:まあ、疲れてて転んじゃったというのなら仕方がないんだけど、先生はビデオカメラでずっと見ていたからわかるんだけど、その時はなんか受け渡しの時に気が緩んでいたのがわかったんだよね。

S:(真剣に聞いている)

T:もちろん、落としてしまった人を責めたりはしなかったけど…。そういう経験があるから、みんなには気を抜いて本来の力が出せなかったということがないようにしてもらいたい。

S:(数名がうなずく)

T:ところで、みんなは体育の時間にバトンの渡し方の基本を習ってるの?

S:(特に反応はない)

T:あんまりリレーの授業なんてやらないか…。じゃあ、このクラスには陸上部がいっぱいいるから、リーダーは陸上部員に聞いて、みんなにちゃんと伝えなさい。

H子(陸上部員):(手を顔の前で大きく横に振って「わからない」とアピールする)

E子:伝えたよね?

I子(パフォーマンスリーダー):伝えました。

J男(陸上部員)だから、「死ね」の格好をして、腕を90度に上げてまっすぐに伸ばすんです。

T:「死ね」?

J男:「死ね」の合図です。

T:ああ! 親指を下に突き出すっていうことね!

J男:それで、腕を90度に上げてまっすぐに伸ばすんです。

T:そうなんだよね。受け取る側はこうやって…(右腕を後ろに伸ばしてバトンを受け取るジェスチャーを見せる)。

J男:もっと腕を上に上げるんです。

T:(言われるままに腕を上げて)それで、受け取る側は腕を動かさずに待ってる。取ろうとして腕を動かすと、かえって後ろの人と合わなくてなかなか受け取れない…。

 (ここでさらに追加のことを思いついたが、自信のない内容だったのであきらめる)

 ということでさ、リレーはバトンが勝負ってことです。ですから、バトン練習をしっかりやっておいてください。

E子:(うなずく)

T:まあ、他にも話したいことがあるんだけど、それはまた機会を改めて話すことにしましょう。では、おしまい。

 

【こぼれ話】

今回の話は、これからやってくる運動会、学芸発表会(文化祭)、合唱発表会等の公開行事に対して担任がどのようなスタンスで臨む気でいるかということを伝えるものとしてはそこそこのレベルで目標を達成できたように思えますが、運動会だけをとってみれば、行事の本質に関わることについては話すことができませんでした。このままにしておくと、運動会は「クラスリレー、むかで競争をはじめとする大切な競技に勝つことが優勝へのかぎである」ということだけを担任が伝えようとしていると勘違いされそうです。そこで、次回は学校行事の目指す教育的意義の面に話の中心を置いたものにしようと思いました。

 

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