30. 5ヶ月間温めてきた話

【きっかけ・ねらい】

この話はもともと全校集会(毎週最初の日の4限直後に行われる集会)の最後に設定されている週番教官からの話というコーナーで話そうと準備していたものでした。話の内容は現3年生の良いところを取り上げながら、2年生と1年生も間接的に指導しようという目論見をもったものでした。ところが、当日急に多くの連絡事項があり、その話をすることができませんでした。そこで、集会中に「5ヶ月間温めてきた話があるのですが、時間がないのでカットします。その代わり、原稿を書いてきてあるので、それを3年生の教室に貼らせてもらいます」という連絡をして話を終えました。そうしたところ、何人かの先生方から「その話を3年生以外にも紹介してほしい」という希望をいただきました。それほど中身のある話だとは思っていなかったのですが、もったいぶった言い方をしてしまったために先生方の関心も引いてしまったようです。そこで、何人かの先生方に原稿のコピーを差し上げる一方、せっかくなので自分のクラスでも改めてその話をすることにしました。

 

【手順・工夫】

全校生徒に呼びかける内容で作成した原稿であったので、それをそのまま話しても上手な話にならないと思い、3年生に語りかける部分は原稿をそのまま読むことにし、それ以降の指導の部分は生徒とやりとりをしながら話すことにしました。ただ、これも終礼直前に決めたことなので、生徒の反応がどこまであるのか想像もつかずに話し始めなければならないことを覚悟の上での話になりました。

 

【実際の話】6/8

T:今日の全校集会では時間がなくて話せなかったことがありましたが、5ヶ月間温めてきた話なので、それをこれから話すことにします。「5ヶ月間温めてきた」といっても、たまたまその間週番教官にならなかっただけで、「話しそびれてしまっていた」と言った方が正確かもしれません。

S:(「何だか話が長くなりそうでいやだなあ」という顔をしている)

T:ただ、あの時にも言いましたが、主に3年生向けに考えた話なので、その部分は原稿をそのまま読むことにします(その原稿を見せる)。

A男:先生、早口で読んでください。

T:(ムッとしたが続ける)ただ、後半はみんなへのメッセージなので、そこはみんなに語りたいと思います。では、まず3年生に語りかける部分です。

 (以下、原稿を読む)

 「3年生のみなさんにとって、私、〇〇は授業をまったく受け持ったことのない人間なので、おそらくよくわからない人、変な言い方をすると『見知らぬオジサン』でしょうか。これは今となっては1年生のみなさんにとっても同じことですね。ところが、今の3年生のみなさんは、そんな私にも1年生の頃からよく挨拶をしてくれていました。そのみなさんが、今年の1月頃に大きく変わったように思いました。もちろん、よい方向に変わったということです。それまではこちらから声をかけると応じてくれていたみなさんが、自分の方から明るく『こんにちは!』と声をかけてくれるようになったのです。

 『は、は~ん。これは担任団の先生から何か指導があったな…』と思った私は、さっそく英語科にいる担任団のAA先生とBB先生にこの話をしました。すると、2人ともキョトンとして、『そんな話はした覚えはないですよ。3年生から指導学年を任せられたから頑張ろうというような話はしましたけど…』とおっしゃっていました。

 この話を聞いてピンときたのは、当時2年生であったみなさんが自ら明るく挨拶をするようになったのは、他の人にそうしろと言われたからしたのではなく、自分達が指導学年になったという責任感から、心の中にそうしたくなる気持ちがわいてきたんだなということでした。

 その時からしばらく、みなさんと廊下ですれちがうと、多くの人が『こんにちは!』と挨拶をしてくれるので、こちらもうっかりできなくなりました。『今日は気分があまり乗らないから、あまり挨拶をしたくないなあ…』と思った時などは、同じ2階にある理科準備室に行くのに、わざわざ1階まで降りて2年生の廊下の前を通らないようにしていたくらいです。それから5ヶ月が経ち、今ではその頃のようなことはありませんが、今でもしっかりと挨拶ができるのはさすがに○○(学年主任の名前)学年の3年生ですね。」

S:(ずっと聞いていたので、飽きている様子)

T:以上が3年生に向けて話そうと思ったことです。で、ここからはみなさんへの話になります。ここまでの先輩の話を聞いてどう思いましたか?みなさんは、担任団や教わっている先生方にはきちんと挨拶をしているでしょうが、それ以外の先生方には挨拶をしていますか?

S:(うなづくともなく無反応)

T:例えば、去年教わっていて、今年教わっていない先生は誰ですか?

B子:CC先生。

C子:DD先生。

T:なるほど。それから?

D子:EE先生。

E男:FF先生。

F子:GG先生。

T:そういう先生方にはきちんと挨拶をしていますか?まさか、手のひらを返したように知らんぷりをしている人はいないでしょうね?

S:(何人かが「ちゃんと挨拶していますよ」と首を横に振っている)

G子:でも、FF先生とGG先生には全然会ってないよ。

T:それから、事務室の方々にも挨拶をしていますか?

S:(多くが下を向く。おそらく「していなかった」と思ったのだろう)

T:みなさんは、事務室に何人いらっしゃるか知っていますか?

S:(無反応)

T:係長さんと男性の方が2人の計3人。それから奥に会計を担当している女性の方が2人います。用務員の方はどうですか?あっ、みんなは用務員さんの名前を知っていますか?

H子:ええと、確か…、HHさん。

T:残念。IIさんです。

H子:「HH」と「II」で近いじゃん。※音が似ている

S:(笑いが起こる)

T:そうかあ?そうは思えないけど(笑)。

H子:ええ!近いよ~!(この後もずっとぶつぶつ言っている)

T:IIさんは学校中のいろいろな所を直してくれています。それから守衛さんは誰?

S:JJさ~ん!

T:さすが、JJさんはみんなよく知っているね。あと、廊下をよく掃除していくれている女性がいるんだけど…。実は、あの方は中国から来た人なんです。

I子:知ってます!

T:へえ、知ってた?

J男:じゃあ、挨拶してもわからないんじゃないですか?

T:そんなことはないよ。「こんにちは」くらいはわかるよ。

I子:先生、大丈夫です。いつも挨拶していますから知っています。

T:(I子の発言を受けてJ男を見る)~だって。

J男:でも、「今日はいい天気ですね」とか話しかけたらどうですか?

T:そのくらいもわかるんじゃないかなあ。日本語がまったく話せないというわけじゃあないから。

I子:(「大丈夫です」のようにうなづいている)

T:でね。そうして考えてみただけでも、学校というところは色々な方に支えられているのがわかるよね。だから、校内で誰かに会ったら、「こんにちは」って挨拶しましょう。そこで提案です!

S:(「また何か面倒なことを言うつもりだな…」という警戒感が漂う)

T:校内で先生方に会ったら、かつて先生が2年生に挨拶をいっぱいされて困ったように、先生方を困らせるくらいみなさんの方から挨拶をしてみてください。なんでかというと、15年前に先生がこの学校に来たとき、「この学校はなんて生徒が挨拶をしない学校なんだ」と思ったからです。それをみんなに変えてもらいたいんです。みんなの力で先生方も変えちゃってください。

S:(この言い方には大いに刺激されたらしく、みんなの目が光っている)

T:ただね、そう言っている先生もみんなに声をかけられた時に黙って行ってしまうこともあるかもしれません。もちろん、それはみんなを無視しているわけではなく、気づかなかったり、ボーッとしてたりするだけだと思います。そういう時は先生が気づくまでしつこく「先生、こんにちは!」って声をかけてください。

I子:わかりました!

T:ということで、今日の話はこれでおしまい。

 

【こぼれ話】

今日の話は、前半の3年生に関する内容はともかく、後半の先生方にあいさつをしっかりしようという内容は生徒の記憶に強く残ったようです。終礼を終えて解散した後も、

教室を出る生徒の多くが個人的に「先生、さようなら!」と明るく言い、私が「さようなら」と返事をすると納得したような笑顔を見せてくれました。また、しばらくすると、他のクラスの生徒まで5組の前を通る時にわざわざ教室をのぞき込んで「先生、さようなら」と言って行きました。2年生の他の学級担任には件の原稿は渡していなかったので、おそらく5組にいる友人から今回の話を聞いたのでしょう。その後も、以前より校内や登下校中にすれちがった時に、生徒の方から挨拶をしてくれる頻度が高くなったように感じます。

 

一方、全校集会用に作成しておいた原稿を渡した先生のクラスからもいろいろな反応がありました。まずは3年生の学年主任のAA先生より、学年通信の次号の表紙(たいていは学年主任の話が載る)に原稿をそのまま採用させてほしいとの申し出がありました。次に、副校長のKK先生から、ある3年生の男子がわざわざ副校長先生の所にやってきて(どうやら話をした相手を間違えたようです)、担任の先生が読んででくれた原稿の内容に「まったくそのとおりです!」と熱く語ってきたそうです。また、全校週番(週番委員+3年生6名が自治活動として学級週番及び全校生徒の生活を牽引する組織。3年生は輪番で全員が経験する)の生徒達と放課後話した時にも、「○○先生(担任名)がマジでそのまま熱く読んでくれました」「あの話には感動しました」と言ってくれました。ちなみに、全校週番の生徒にはその話とからめて、「週番活動というのは、本音を言えば面倒くさくて、できればやりたくない仕事だと思うがどうか(みんなうなづく。週番委員も「そうです」と言う)。しかし、やるからにはそれを楽しくやりたいものだ。そのためには、先週の週番もみんな言っていたけど、自分がここができていないなと思ったところは、自分が働きかけてみて、その結果として何かが改善されれば週番をやってよかったなと思うのではないか。今日の全校集会で先生が話そうとしていたことも、その話によって3年生のみんなが頑張っていることを評価してあげたいと思ったからであり、さらに3年生のそういう姿を1、2年生に紹介することで、1、2年生に今よりもっといい生徒に変わってもらえたら嬉しいと思って計画していたのだ。先生は毎回全校週番の人たちに『攻めの週番になれ』と言う。だから、みんなにもそれぞれここをよくしてみたいというところを探してもらい、それを改善できるように働きかけてほしい」という主旨の話をしたところ、全員がこちらを真剣な顔で見つめ、私の話をうなづきながら聞いてくれました。そして、解散の「礼!」の合図があると、全員が大きな声で「ありがとうございました!」と言ってくれました。手前味噌ではありますが、日頃ほとんどつき合いのない生徒(全校週番の中で過去に個人的に話をしたことがある生徒は一人もいませんでした)に対しても心に響く話ができたことがわかった瞬間でした。

 

元に戻る