3. 私には夢がある①(運動会に向けて)

【きっかけ・ねらい】

普通の学校の2学期にあたる9月~12月には、本校でも運動会、学芸発表会、研究協議会、合唱発表会などの大きな行事があります。そこで、それらの行事において生徒達が意欲的に活動できるように気持ちを盛り上げようと、この話を考えました。

 

上記の中で、1年生の気持ちの盛り上がりが必要なのは運動会、研究協議会(公開授業があるから)、合唱発表会です。これらの行事ではクラスの雰囲気が盛り上がらないとよい活動ができません。そこで、これら3つの行事について連続して話せるように、「3」という数字をキーワードにして運動会から話していくことにしました。

 

【手順・工夫】

この話では次のような手順と工夫を考えました。 

① 「私には夢がある」という有名なことばを言った人を話題にして、話の内容に関心を持たせるようにする。

② 自分には生徒と共に実現したい3つの夢があり、その最初の夢は運動会に関することであることを話す。

③ 運動会の目的は何かを考えさせ、目的と目標はちがうことを踏まえた上で、運動会の目的は、全員が楽しいと思う1日を過ごすことであるという結論に導く。

 

【実際の会話】9/5

T:突然ですが、みんなは「私には夢がある」っていうことばを知っていますか?

S:(・・・)

T:ある有名な人が言ったことばなんだけどなあ。

A子:先生、たぶん…私、知ってる…。でも、誰だっけ…。

T:ヒントは、その人はアメリカ人です。"I have a dream!"って言った人です。

B男:オバマ大統領!

T:いいえ、ちがいます。

C男:それは "Yes, we can!"だろ。

T:そうだよね。さて、その人は1960年代に公民権運動をやっていた人で…。あっ、公民権運動ってわかる?社会科でやってない?

D子:やってません。

T:公民権運動っていうのは、その頃のアメリカで、いろいろと人種差別があったから、みんな平等にって、特に黒人の人たちがみんなでデモをやったりした活動のことです。

S:(上手い説明になっていなかったのか、ポカンとしている)

T:でね、その中のリーダーの黒人の人が言ったのが「私には夢がある」なんだよ。

A子:あっ、思い出した!確か、キングさんとかいう人。

T:そうそう、キング牧師です。正確にはマーチン・ルーサー・キング牧師。英語では、Martin Luther King Jr.。その人がね、演説で I have a dream.って言ったわけ。

S:(いったい何の話をしだしたんだろうという顔)

T:それでね、実は先生にも夢があるんですよ。その夢っていうのはね、ぜひみんなに実現してもらいたいことなんだけど、その夢がね、3つあるんだ。だから、I have three dreams.ってとこかな。「私には3つの夢がある」ってね。

S:(相変わらず「いったい何の話をしているんだろう?」という顔)

T:それで、そのうちの1つが再来週の土曜日にある運動会に関すること。みんな、運動会は楽しみですか?

S:(何人かがうなずいている)

T:実はね、先生は小学生の頃、運動会が大嫌いだったんだ。

S:(みんなこちらを向いて、「へえ…」という表情をしている)

T:何でかわかる?

E男:練習がいやだった!

T:そうじゃないんだなあ。実はね、先生はさあ、小学生の頃は走るのが遅くてさ。それで、徒競走では1年生から5年生まで、その頃は1年に2回運動会をやっていたから、10回連続でペケだったんだよ。

F子:先生、今は速いんですか?

T:まあ、普通かな。中学生の時に長距離走が速かったから、それで運動会がいやでなくなったけどね。まあ、とにかく小学生の頃は運動会がいやでいやで仕方がなかった。

E男:先生、オレね、運動会の前になるとお腹がいたくなっちゃう。

T:そうかあ。先生も似たようなもんだったな。しかもね、その頃は、1位から3位まではリボンがもらえて…。1位は赤、2位は緑、3位は黄色。それで、そのリボンを一日中つけているわけ。だから、それをつけていないってことは、「お前は足がのろいやつだ」って一日中わかるわけ。

G子:先生、それってひどくないですか?

T:そうだろ?まあ、当時はそんなもんだったんだよ。今だったら、そんなことしたら大変だ。テストの点数を誰が何点取ったって発表しちゃうのと同じだからね。

E男:先生、運動会休んじゃえばよかったのに。

T:そうだなあ、できればそうしたかった…。実際さあ、運動会の前の日は、いつも「明日雨で中止にならないかなあ」って思ってたもんなあ…。だからね、みんなは幸せだよ。だってさ、そんなことはないし、第一、この学校の運動会は個人種目がない…。あれっ?先生、何の話をしようと思ったんだっけ…?

C男:「私には夢がある」

T:そうだった。それで…、ええと…(話の流れを忘れている)。運動会が近いわけだけど、みんなにとって運動会の目的って何だろうね?

H男:優勝すること!

I子:ダブル優勝!

T:そうくると思った。それって「目的」かい?

S:(「へっ?」という顔をしている)

T:つまりね、「目的」っていうのは、「~するため」ってことでしょ?みんなが運動会をやるのは勝つため?

S:(・・・)

T:優勝するとかいうのは、「目標」でしょう?「~したい」とか「~を目指す」とかいうやつ。「目的」というのは、何かのためにやるということだから、そういうことがなかったらダメなんですよ。体育科の先生が運動会の目的をどう考えているか忘れちゃったけど、先生はね、運動会の目的っていうのは、運動会をとおして、みんなが協力できるようなクラスになること、それから、運動会をとおして行事を作ることの大切さとか大変さとかを学ぶことだって思っています。

S:(あまり関心はなさそう)

T:もちろん、優勝すれば嬉しいし、優勝しようって思うことで練習を一生懸命やるようになるから、目標としては優勝するというのでいいと思います。でも、優勝するためとか考えてしまうと、そのためには何をやってもいいとか思う人が出てくる。例えば、ルール違反とかね。そうすると、運動会をやっても後味がよくない。だからね、

 優勝目指して頑張るのはいいんだけど、それでクラスの中がギクシャクしたりしたら、本末転倒だ。「本末転倒」ってわかるよね?

S:はい。

T:本来の意味とは逆のものになっちゃうってことね。以前、こういうことがあった。クラスリレーでね。勝ちたいからって、勝てるチームと遅い人を集めたチームに分けちゃったんだ。予行演習の時にそれがわかったから、チームリーダーに何でそんなことをしたんだって聞いたら、先輩からそうすれば勝てると言われてそうしたっていうんだね。でもさ、もしね、君たちがその「遅い人を集めた」チームに入れられたら、どう思う?いやじゃない?

G子:いやです。

T:そうでしょ?やる気無くなっちゃうよね。「どうせ、俺たち負けチームだもん」ってね。そうなったら、運動会が面白くなくなる。そこなんだよなあ、運動会の目的っていうのは。で、もう時間がなくなったから、結論を言うけど、運動会でみんなに望むことは、運動会を楽しいって思ってもらいたいこと。そのためには、みんなが協力して練習して、できるだけレベルの高いものにして。ただし、本番で誰かが遅かったり失敗したとしてもそれを責めたりしないでほしいんだな。そうすれば、全員が運動会を楽しいって思えるようになると思う。それが私の夢の1つです。では、今日はこれでおしまい。

 

【こぼれ話】

今回の話は、途中で自分の小学生時代の話をしだしたところで、当初予定していた話をどう結論へ導いていくかについてがわからなくなってしまい、結論へ導くのに苦労しました。、話の展開をおおざっぱに考えすぎていたからかもしれません。

 

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