28. 新たな出会い

【きっかけ・ねらい】

この話は、2年生の始業式の日に話そうと準備しておいたものです。実は、話の内容は2部構成で考えてありました。それは、①新しいクラスの生徒への挨拶にあたるもの、②2年生の最初の話として生徒に語りかけておきたいこと、の2つでした。特に、2つ目の話は新しく自分のクラスになった生徒たちへの初めてのメッセージになるものとして時間をかけて考えてありました。しかし、実際の終礼では事務的なことがたくさんあって下校予定時刻が迫ってきていたので、考えておいた話を無理に両方とも話すのは得策ではないと考え、1つ目の話だけにとどめることにしました。

 

なお、新しい生徒に会えるチャンスは始業式の2日前の準備登校(入学式の準備、クラス替えの発表)の日にもあったのですが、今年は特殊な事情(新しく転入された先生が担任団に加わったため、正式な着任式の前に2年生だけにその先生を紹介することはできないとの管理職判断)から、新しい自分のクラスの生徒の前に立つのはその2日後となりました。

 

【手順・工夫】

今回は新しいクラスの生徒に初めて会ったばかりでの話であったので、話の内容よりも、こちらが生徒にどのような姿勢で臨もうとしているかを、あえて明示的にことばで示さない方法で生徒に感じさせるようにしてみました。具体的には、初めて出会った生徒同士で挨拶をするという行動を、それが何を意味するのかをあえて話さないでやらせることにしました。

 

【実際の会話】4/9

(生徒による初めての終礼が終わり、週番に「最後に先生のお話です」と振られる)

T:さて…、まだ正式に挨拶をしていませんでしたね。ということで、まずは挨拶をしましょう。(週番のA男に)A男くん、号令をかけてください。

A男:「よろしくお願いします」でいいですか?

T:うん、いいよ。立たなくていいからね。

A男:(のんびりした声で)せいざ(静座)~。

T:(A男に)ちょっと待った! 号令っていうのはビシッとかけるもんだよ。そんなのんびりした言い方じゃダメだ。君ならもっときちんと言えるだろう? もう1回!

A男:(先ほどよりしっかりした声で)静座!

S:(背筋を伸ばす)

A男:よろしくお願いします。

S:よろしくお願いします。

T:う~ん、先生のクラスの人にしては…、挨拶に特別な思いのある先生のクラスの生徒としては物足りないなあ…。もう1回行こうか?(A男を見る)

A男:静座! よろしくお願いします!

S:(先ほどより大きな声で)よろしくお願いします!

T:(まだ満足できなかったが…)まあ、いいでしょう。改めて挨拶をしたいと思います。2年1組の担任になった肥沼です。よろしくお願いします!(お辞儀をする)

S:よろしくお願いします!

T:(顔を上げながら上目使いで)4年前の…、今の高3の時は…、ここで拍手をしてくれたんだけどなあ…。

S:(ニコニコしながら大きな拍手をする)

T:そのまた4年前のときは…、今の大学4年のときは…、「イエ~(Yeah)!」って言って拍手してくれたんだけどなあ…。

S:イエ~!(続いて笑いながら大きな拍手をする)

T:はい、ありがとうございます。でも、こんなことを要求するようじゃ、私もダメだなあ…。

S:(笑いが起こる)

T:それにしてもさ…、1組がAA先生(旧1年1組担任)じゃなくてびっくりしたでしょう?  (注:本校では基本的に学級担任はそのまま持ち上がるが、AA先生は教務主任になったことで担任をはずれた)

S:(数名がうなずく)

T:クラス替えで1組だってわかったときは、担任はAA先生だと信じて疑わなかったんじゃない?

S:(数名がうなずく)

T:そうだよねえ…。AA先生じゃなくてごめんね~。

S:(どう反応していいかわからず戸惑う生徒が多い。数名は顔を横に振る)T:まあ、先生もさ…、5組が当然っていうか…、1組は慣れなくて…。さっきも5組に入って行っちゃったもんなあ…。

S:(「自分たちもそう…」と言いたいのか、数名がうなずきながら笑っている)

T:まあ、AA先生のように…、何でも大きく包み込んでくれような力はないけど…。まあ、先生には先生のやり方があるので…、旧1組の人は早く慣れてください。

B子(旧1年1組の生徒):(うなずく)

T:さて…、その…、先生とみんなとの関係で言うと、みんなの中には3種類の人がいるわけですね。まずは旧5組の人。旧5組の人は私がどういう人間で、どういう話に乗ってくるかとか、どういうことを言ったりやったりすると怒り出すとか…。そういう微妙なこともわかっているよね?

C男(旧1年5組の生徒):(うなずく)

T:そういう意味で言うと、旧5組の人はホッとしてるんじゃない?

D子(旧1年5組の生徒):(うなずく)

T:まあ、中には「また肥沼先生かよ…」と思っている人もいるかもね? 例えば、E男くん、君なんかそうじゃないかい?

E男(旧1年5組の生徒):(あわてて)いえ、そんなことはありません。

T:そうかい。F男くんなんかはどうだい?

F男(旧1年5組の生徒):(あわてて)えっ、まあ、大丈夫です。

S:(F男の反応に笑いが起こる)

T:「まあ、大丈夫です」ねえ…。まあ、そんなこと聞かれても困るよな?

F男:(ニコニコしながらうなずく)

T:次にちょっと不安なのが…、まあ、そこそこ安心なのが旧1組の人かな? 授業は週4回受けていたし…。でも、担任じゃなかったから、担任として生徒にどう接しているかということはわからないよね?

G子・H子・I子(縦に3人並んでいる旧1年1組の生徒):(どう反応していいかわからないのか、反応しない)

T:そして…、最も不安に思っているのが2組、3組、4組の人たちだよね? 授業は出ていなかったし…、BB先生(学年主任)が英語を教えていたからね…。BB先生がお休みのときに何回か自習監督に行ったくらいだし…。終礼もほとんど行ったことがないからね。先生がどんな話をするのかというのもわからないよね? もちろん、学年集会で何度か話したことはあったし、富浦でも一緒に過ごして何度か怒鳴ったことがあったから、少しくらいはわかるかな?

S(旧2~4組の生徒):(どう反応していいかわからず、反応しない)

T:まあ、同じことがね、先生からみんなに対しても言えるんだよね。先生も2組、3組、4組の人のことがわからなくて不安なんです。そう言えば…、先生は新しいクラスを持ったときは、大抵は初めて会う日までに名前と顔を全部覚えたりしてきたんだけど…、今回は春休み中に10日くらい入院しちゃったんで、それができませんでした。だから…、ごめん! 2組、3組、4組の人。顔と名前がほとんど一致しません。

S:(軽い笑いが起こる)

T:だから、まずは優先的に2組、3組、4組の人と知り合いになろうと思います。

J子(該当クラスの一人):(ニコニコしながらうなずく)

T:次に1組の人と仲良くなりましょう。で、5組の人は放っておきます。

S:(笑いが起こる)

T:「放っておく」っていうのはまずいか。まあ、ちょっと我慢していてください。

F男:(ニコニコしながらうなずく)

T:では…、先生とみんなの関係についてはこのくらいにして…、みんな同士のことに話を移しましょう。最初に席を移動してもらいます。(注:ここまで書類の回収・配布などのために、男女が教室の左右に分かれて出席番号順に並んでいた)男女交互の列になってもらいます。このクラスは女子が一人多いから、女子の最初の列が一番こっち(廊下側の座席を指す)に来てください。じゃあ、移動!

S:(全員が荷物を持って席を移動し、指定された場所に着席する)

T:肥沼先生のクラスになると、必ずやる儀式があります!

S:(多くが驚いたような顔になる。旧5組の生徒は何をやるか知っている様子)

T:では、最初にとなり同士で挨拶をしてもらいます。必ず名前を言って、「よろしくお願いします」と言いましょう。相手の人のことがわかっていてもきちんとやってください。儀式ですから。

S:(ニコニコしている)

T:では、まずお互いに向き合いましょう。

S:(体を相手の方に向ける)

T:では、始め!

S:(ほとんどの生徒がしっかりと挨拶をしている。中には「~組から来た○○です」と、こちらが指定した以上のことを言っている生徒も何人かいる)T:(全員が終えたのを確認して)では、次に前後の人と同じことをやってみましょう。前後の人と言うのは両方いますから、どっちを先にやるかは調整してください。では、どうぞ。

S:(同姓同士になるためか、女子に比べると男子がやや真面目にやらない)T:(全員が終えたのを確認して)次に、こうやって(×の字を書く)斜めの人とやってみましょう。

J男:どっちをやったらいいんだ?

T:どっちを先にやるかは適当に調整してください。

S:(ほとんどの生徒がしっかりと挨拶をしている)

T:では、今度は…、この列(2、3列目を指す)とこの列(4、5列目を指す)の人は道を挟んだ反対側の人とやってみましょう。

S:(ほとんどの生徒がしっかりと挨拶をしている)

T:(全員が終えたのを確認して)はい、では、前を向いてください。これでご近所との挨拶は終わりです。後でそれ以外の人と挨拶をしておいてください…。みんなさ、今までほとんど話したことがない人やまったく知らなかった人に優先的に話しかけるんだよ。

S:(真剣な顔で聞いている)

T:じゃあ…、実はもう1つ話を考えてきてあったんだけど…、もう、けっこう時間が経っちゃったから、その話はまた次回にします。あっ、肥沼先生はこうやって終礼のときによく話をします。だから、けっこう終礼が長くなることがあります。覚悟しておいてください。

S:(どう反応していいかわからない様子)

T:では、これでおしまいにします。(A男に)号令をお願いします。「さようなら」がいいでしょうね。

A男:静座! 起立!

S:(けっこう素早く立つ)

A男:さようなら!

S:(けっこう大きな声で)さようなら!

T:はい、さようなら!

 

【こぼれ話】

今回は新しいクラスの生徒-しかも、そのうちの5分の3は前年度に授業を受け持っていなかった-に何も予告せずに話をしたので、生徒たちは担任の語りかけにどのように反応していいかわからないようでした。