20. 自分が情けない!

【きっかけ・ねらい】

翌日は出張でほぼ丸一日学校を留守にすることがわかっていました。過去の経験から、そういう時にかぎって何かトラブルが起こったりすることがあり、それを未然に防ぐためにあらかじめ注意を促す話をしようと思いました。もっとも、「16.お前ら、何やってるんだ!」にもあるように、担任である私が留守であることをあらかじめ生徒に伝えるのはかえってマイナスに作用することも心配されます。それでも何か話をしておいた方がいいと思ったのは、これまでに築いてきた生徒との信頼関係をより強固なものにしたいという思いがあったからだと思います。

 

この話のより具体的な指導目的は、生徒たちの自主自律の精神を伸ばし、かつクラス内の和が一層よくなるようにすることでした。

 

【手順・工夫】

最終的に生徒にとって少々耳の痛い話をするときは、手順をよく考える必要があります。それは、生徒の心が閉じていると、どんなによい話をしても生徒の心に響かないからです。そこで、大抵は最初に生徒の心を開くような、身近で生徒が食いついてきそうな話題をもってくるようにしています。過去の話のときもそうでしたが、今回は何をそのきっかけ話にしようかと最後まで迷っていました。すると、授業連絡の部分でダンス発表会のことが保健体育係から触れられたので、その話題から入っていこうと直前に決めました。そして、全体構成を次のようにしようと短時間でまとめました。

① ダンス発表会を話題に出し、過去のすばらしい発表についてふれる。そして、それらの発表がなぜ素晴らしいと思ったのかを述べる。

② 翌日はほぼ丸一日担任が出張で学校にいないことを伝え、クラスメート全員が協力してトラブルのない生活を送るように話す。

③ 自分がなぜこのようなことを話さなければならないのかの心境を伝える。

 

【実際の会話】2/17

T:さっき、ダンス発表会のことが体育係からあったけど、その発表会は担任団の先生方も見るんだよ。

S:え~!そうなんですかあ~?

T:というのも、それはHRHとしてやるからなんだよ。確か発表会は3月の…

A男(保体係):5日です。

T:そうだった。1年生最後のHRHの日で(注:実際の最終回は12日の学年スポーツ大会)、その日を毎回楽しみにしているんだ。さっきグループ分けができているというようなことだったけど、どういう発表をするかはもう決まっているの?

S:まだです。

T:そうかあ。じゃあ、う~んと楽しいのを考えてほしいな。前回の…、今の高2が1年生のときだから、4年前のときは、それはそれは面白かったんだよ。

S:(あまり関心がなさそう)

T:先生のクラスにはすごいチームが2つあって、1つが表現賞、もう1つが学年の最優秀賞をとった。

B子:え~!そんな賞みたいなものがあるんですか?

T:そうだよ。今年もあるんじゃないかな。

S:(「へえ~」という顔をして、何やらお互いに話している)

T:表現賞をとったのは女子のあるチームだったんだけど、少ない練習時間の中でよくぞあそこまで完成度の高い演技ができたなと感心するできばえだった。もっとも、メンバー7人のうちの4人か5人がダンス部だったから、当然と言えば当然だったんだ けどね。

S:(女子数名がニコニコしている。ダンス部は本クラスには1人もいない)

T:ところが、もう1チームはもっとすごかった。それは男子のチームで、「花と虫」というテーマのダンスだった。

C男:あっ、それ、見たことある!(当該学年の卒業記念DVDのことであろう)

S:(C男の発言でみんなの顔が上がり、話題が受け入れられたように感じた)

T:とにかく内容が凝っていて、虫が生まれて、幼虫になって、成虫になって花の蜜を吸いに行くようなストーリーだったと思うけど…。もう発表会前からそのチームのパフォーマンスがすごいって話題になっていて、学年の最優秀賞を取るんじゃないかってうわさされていたんだけど、当日見たら本当にすごくて、みんな大爆笑して、本当に最優秀賞を取っちゃった。

S:(全員がこちらを見て、集中して聞いている)

T:で、何が言いたいかというと、何かをやると決まったときに、それに対する生徒の態度は大きく2つに分かれるんだよね。一方は、「面倒くせいなあ。適当にやろうぜ」っていうモードになっちゃって、やる気の出ないヤツ。もう一方は、「じゃあ、何か面白いことをやろうぜ」っていろいろ考えようとするヤツ。でだ。先生はね、どうせやるんだから、みんなにはぜひ後者になってもらいたい。

S:(下を向いている者もいるが、多くは笑顔で聞いている)

T:そして、やってよかったなって思えるパフォーマンスをしてくれるのを先生は楽しみにしているからね。ところで、明日は10時頃から先生は学校を出てしまって、終礼に戻ってきません。

S:(全員が顔を上げる)

T:なんでかと言うと、附属小の人は知っていると思うけど、うちの学校の研究協議会のようなものが附属小であって、それに先生が出るからです。

S:(附属小出身者が「ああ、あれね」という内容でざわつく)

D男:オレ、知っている。妹が持ってきた連絡(案内プリントのことか)に先生の名前が出てた。

E子:えっ?そうなの?

T:そう、知ってた?なんで先生が行くかっていうと、みんなは知らないだろうけど、附属小では今年から週1回の英語の授業が始まったんだよ。

F子:え~!いいなあ!(同じようなことを多くの生徒が言っている)

T:しかも、3年生から6年生まで4年間もやるんだよ。

S:(これにはクラス中に大きなどよめきが起こる)

F子:どうして私たちが卒業してからなの?給食もおいしくなったっていうし…。

T:まあ、そういうことで、先生が附属中の代表として行くことになったわけだ。

F子:給食がおいしくなったんだって。ずるい~!

T:(F子に)あのね、給食のことを話してるんじゃないんだけど…。

S:(みんな笑う)

T:それでだ。あらかじめこういうことを伝えておくのは、先生がいないからって、みんなにいいかげんなことをしてほしくないからだ。前に同じようなことでみんなをしかったことがあったよね?

S:(何のことがわかったのは数名という感じ)

T:ちょっと手帳で確認してみよう。(手帳を出してパラパラめくる)

G男:例の日記ですね?

T:そうだ、その日記だ。(該当場所を見つけて)手帳によると、1月19日。そうだ、この日は願書受付の日で…、みんなは先生が忙しくて教室に来ないだろうって、席を移動して、先生におこられた日だ。

S:(どうやら全員が思い出したらしい。下を向いてしまった生徒が多い)

T:で、明日はほぼ一日中先生は学校にいない。先日の学級自治会でも意見が出たように、先生がいないときこそ、ちゃんとやってほしい。先生がいないときこそ、みんなが協力して、しっかりとした生活を送ってほしいんだ。それが先生と君たちの信頼関係を保つということだ。

H子:(先程からとなりの男子に話しかけて、おしゃべりをずっとしている)

T:(強い語気で)H子さん、今は私がとても大切な話をしているというのがあなたにはわかりませんか?あなたはさっきからずっとおしゃべりをしていて私の話を聞いていませんね。

H子:(話はやめたが、気まずさもあってか、うすら笑いをしている)

T:私は普段、個人的に注意をするということはめったにしません。その私がこうやってあなたを名指しで注意するというのは、よほどのことだと思いなさい。

S:(他の生徒はみんな緊張している)

G男:H子、お前、やばいぞ。

S:(緊張感から解放されて、笑いが起こる)

H子:(さすがに真顔になって)本当にすみませんでした…。

T:わかってくれればそれでよろしい。

S:(これで一件落着したかという安堵感が広がる)

T:(上記の件で、別の話が思いつく)信頼関係と言えば、先生は自分で自分のことが情けないと思うことが2つある。

S:(ほぼ全員の顔が上がり、こちらを見ている)

T:それは、君たちがまだ先生の信頼に…、期待に応えられるほどには育っていないことだ。隠れてコソコソ何かしようなんていう人がまだ何人かいて、みんながそれに乗ってしまっている。そうではなく、みんなにはもっと誠実になってもらいたい。そんなみんなを育てられていない自分が担任として情けない。しかし、それ以上に情けないと思っていることがある。それは、先生自身がそんなみんなを信頼していないということだ。

S:(ピリピリした顔で全員がこちらを見ている)

T:こんなことをみんなに言っていること自体がそうだし、こんなことを言わなければならないと思ってしまったこと自体、君たちのことを信頼していない証拠だ。みんなと仲良くしたい、お互いに信じ合おう、とても明るくて元気でよいクラスに恵まれたなんて言っているくせに、心の中のどこかでみんなのことを信頼していない…。そんな自分が情けないんだ。

S:(全員が次のことばを待っている様子。悲しそうな顔をしている女子が数名いる)

T:そういう気持ちをもってしまっている自分のことをみんなには申し訳ないと思っている。でも、みんなにも私にそう思わせてしまう何かがある。私の理想は、それを乗り越えて、互いに信頼し合えているという安心感を持つことだ。残り1ヶ月で、できたらそれを実現したいと思う。では、今日はこれでおしまい。

 

【こぼれ話】

すがに、あふれ出てくる自分の気持ちを生徒にぶつけてしまったときは、勢いでそういう展開になってしまったこともあり、後で重苦しい気持ちになります。生徒も終礼後は私に話しかけ辛く感じたようで、いつもなら数名がなんだかんだと話しかけてくるのですが、そのような生徒たちも私の前を素通りして行きました。こんなときは自分でもこの重苦しくなってしまった雰囲気をどう処理したらいいかわからないのですが、幸いにも、数名の生徒が勇気を振り絞って(それは考えすぎ?)、事務的なことを伝えに来て私とのコンタクトの口火を切ってくれました。すると、それを見ていた数名の生徒がいつものようにつまらない話もしてきてくれました。これを「生徒は反省していない」と受け取るのか、「生徒の方から新たな関係作りを試みてくれている」と受け取るのかは迷うところですが、私はどうしても後者のように考えてしまいます。

 

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