17. 「選ばれし者」の義務

【きっかけ・ねらい】

前日かなり厳しく生徒をしかったのですが(「16.お前ら、何やってるんだ」参照)、

落ち着いてから再度そのことを考えてみると、話し足りなかったことがありました。そこで、それを話すつもりで前日の話の続きを考えていたのですが、やはり同じ話を翌日に再度するのはタイミング的にあまり良い話になりそうもなかったので、別の視点から生徒の関心を引きつけながら話せる内容を考えていました。

 

ちょうどこの日は外部入学試験の願書受付2日目にあたり、自分がその業務主任を務めていたので(事務員の仕事まで先頭を切って行うのが本校教務部員の仕事です)、その仕事で知り得た内容をきっかけに生徒の意識向上を図る話をしようとしました。

 

【手順・工夫】

終礼が始まってから自分の話す番が回ってくるまでの10分くらいの間に考えた話なので、話の最終的な落としどころが明確でないまま話し始め、進め方も生徒の反応を見ながら対応を変えていったので、話の途中であちこちに寄り道するような構成になってしまいましたが、一応の目的としては「人気のある学校で学べることの幸せを感じ、より一層努力することが大切である」ということを伝えようという気持ちがありました。

 

なお、進め方としては次のような手順を考えました。

① 出願者がどのくらいいたか想像させてみる。

② 以前はもっとたくさんいたことを伝えて驚かせる。

③ ②にはある入試制度の改革があったことを話す。

④ 附属小入試の大変さにふれる。

⑤ 本校に入学できなかった生徒からの手紙について紹介する。

⑥ 本校に入学できた生徒には、良い環境の中で努力して力を発揮する義務があることを話す。

 

【実際の会話】1/20

T:みんなは先生が入試担当だということを知っていると思うけど、昨日と今日の外部入試の願書受付に何人くらい来たと思う?

A男:3,000人!

T:そんなに多かったら、この校舎で入試ができないでしょ?

B男:1,000人!

T:現在の生徒数が615人で、それでいっぱいなんだから、それでも無理だよね。実は、去年は618人だったんだけど、今年は先生が受付を最後に行った3時少し前で630人だったから、去年より少し狭き門というところかな。

S:(生徒の3分の1を占める外部入学生の数名が顔を見合わせてホッとしている)

T:それでも合格者は80人だから、倍率は7~8倍ってとこか。ここにいる外部生はそんなすごい倍率を勝ち抜いてきたってことだよね。

S:(この発言には外部生はあまり表情を変えない)

T:ただね、先生がこの学校に来た頃はもっと多かったんだよ。確か1,200人くらいいたんじゃないかな?(注:実際の数は不明なまま話した)

S:え~!

T:もっと前には1,500人くらいいたらしい。

S:へえ~。

T:ただね、それには理由があるんだよ。でね、今から数年前にあることがあって、ガタっと人数が減った。それからは、まあ、ほぼ横ばいってところかな。何があったと思う?

S:(・・・)

T:それはね、抽選が無くなったからなんだよ。

S:(事件か何かを想像していたのか、はぐらかされたような表情)

T:昔はね、抽選があったんだよ。それはね、教室に入りきれないほど受験生がいたから、抽選でしぼって、当日ちょうど教室に入れるくらいの人数にするわけ。そうするとさ、受かるかどうかわからないから、女子ならウチとお茶と学芸、男子ならウチと筑駒と学芸に願書を出すわけ。それで抽選に受かった学校の中から受けたい学校を受けるのさ。

C子:へえ、そうなんですか。

T:だから、昔はどこの学校も今よりいっぱいいたわけ。それが、抽選が無くなってからは1校しか願書出さないから実質倍率になったんだよね。もちろん、それまでに私立に受かっちゃう人もいるから、当日全員が受験するわけじゃないけど…。

B男:600人?

T:実際には、そうだなあ…、500人弱くらいじゃないかなあ…。そうそう、抽選と言えば、附属小の人は抽選があったでしょ?

S:あった、あった!

D子:先生、すごいんですよ、いっぱいで。

T:そうなんだったね。それこそ、2,000人とか3,000人とか受けるんでしょ? 最初に抽選があって、それから試験があって、もう1回抽選があるんだよね?だから、みんなは実力もさることながら、運も引き寄せる力があるっていうことだね。

E子:あたし、それで運を使い果たしちゃった~!

F男:おれも、おれも!

T:でだ。そうして運も引き寄せた君たちがいる一方で、そうではなかった人たちも大勢いたわけだよね。実はね、去年こんな手紙が来たんだよ。「この学校の教育方針がとても気に入りました。先生方はとても熱心だし、先輩の話もとても素晴らしかったので、ぜひこの学校に入りたいと思いました。補欠でも何でもかまりません。ぜひ、私をこの学校に入れてください」ってね。結局その子は合格できなかったけど、その手紙を読んだときはとても嬉しかったし、それほどまでこの学校に入りたいっていう子なら入れてあげたいと思ったなあ。あまりにも熱烈な手紙だったから、落ちた後にその子に返事を出そうとも思ったくらいだから。もちろん、そんなことはできないからしなかったけどね。それから、何年か前にも合格できなかった子から「合格できませんでしたが、これから行く学校で頑張ります。ありがとうございました」っていう手紙が来たこともあったんだよ。合格できなかったのに「ありがとうございました」なんてすごいと思わない?

S:(返事はないが、真剣な表情で聞いている)

T:さて、なんで今日こんな話をしているかっていうと、それだけ多くの人が附属中や附属小に入りたいって思っている中で、みんなはその人たちに勝ってここにいるわけだ。普通の公立学校なら誰でも入れるわけだから誰にも遠慮することはないけど、ウチのような学校に入ったからには、そういった入りたかったけど入れなかった人の分まで一生懸命頑張らなくてはいけない。「~だっていいじゃんか」とか自分勝手な主張をしているだけじゃダメなんだ。これだけの素晴らしい仲間、素晴らしい環境に恵まれて…、そんなことを言っても今はわからないだろうけど、きっと卒業したらわかるよ。先輩たちがみんな言っているからね。自分が持っている力を最大限に発揮しなきゃいけない。それが附属中生の義務だと私は思います。では、今日はこれでおしまい。

 

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