10. 合唱発表会から学んだこと①

【きっかけ・ねらい】

今年の3年生(金子学年)は、自分が本校に赴任して15年の間に見た全部で17学年の中で、おそらく学習への取り組みや生活態度が最も良い学年だと常々思っていました。そして、それは合唱発表会で確信となりました。学年合唱では、まるでプロの指揮者のように大胆かつ繊細に指揮をする男子生徒に対して、誰も笑ったりせずに一生懸命それに呼応するように歌い、クラス合唱はすべてのクラスが大変レベルの高い合唱を行いました。中には、合唱中に仲間と歌を歌えることが嬉しくて泣き出してしまう生徒が何人もいたくらいです。そして、同じ週に最後の全校週番として活躍した3年生と週番教官としてつきあう中で、その思いは頂点に達しました。

 

その3年生に比べると、今年の1年生は精神的に幼いというより、人間関係作りがあまり上手ではありません。特に、3分の2を占める附属小学校出身の生徒は、小学校時代にあまりよい人間関係を築けていなかったらしく、なかなか仲間の前で自分の心を開こうとしません。そして、それは外部から入ってきた生徒を加えてもあまり変わる様子がありません。担任団はその点を気にしていて、これまでもできる限りその点を改善しようと努めてきました。その結果、少しずつ改善は見られますが、まだ十分とは言えません。そこで、3年生の合唱発表会の様子から感じたことを率直に発表させ、全校週番活動でわかったことを加えて、その中から1年生が努力すべきことを明らかにさせようと思いました。

 

【手順・工夫】

今回の話の手順・工夫は以下のとおりです。

① 最初に、担任が自分のクラスの発表で良かったと感じた点を取り上げ、生徒のやる気を認めるとともに、その後の話を聞こうとする雰囲気を作る。

② 前後期学級委員計7名に3年生の合唱を聴いて感じたことを発表させ、さらに3年生の全校週番引継を見学した1人にその様子と1年生の改善すべき点を報告させる。

③ 3年生の発表が良かったと思った点はどのような部分なのかを議論し、クラス及び1年生に今何が欠けているのかに気づかせる。

 

なお、②については、学級委員が単なる合唱の上辺だけの上手さしか述べなかった場合は、「学級委員ですらそんなことしか感じ取れなかったのかっ!」としかる準備をしていました(結局はその準備は無駄になりましたが)。

 

【実際の会話】12/11

T:昨日の合唱発表会ですが、みんなはどう思いましたか?自分たちの発表は上手くいったと思いますか?感動しましたか?

S:(女子を中心に、何人かがうなずいている)

T:私は、5組のみんなの発表を見ていて、1つ思ったことがあります。

S:(何を言われるかと緊張している顔)

T:別に悪いことではないので、安心してください。それは、あることに対して目頭が熱くなったんです。「目頭が熱くなる」ってわかりますか?

A子:涙を流すってこと。

T:そうです。みなさんの舞台上の姿を見ていて、実際に目頭が熱くなった瞬間がありました。さて、なぜでしょうか?

B男:歌がうまかった!

C子:きれいにハモれてた。

T:残念だけど、そうじゃない。実は、歌そのものじゃないんだ。それはね、みんなが舞台に上がって、指揮の○○さんがこうやって手を挙げたよね。そうしたら、みんな はどうした?

S:さっと内側を向いた!

T:そうだよね。それでね、その時に、これはあり得ないことなんだけど…、だって、まっすぐな台の上に乗っていたんだから…、みんながね、(手で形をジェスチャーしながら)こうやって扇形に丸くなっているように見えたんだ。

S:(何人かが笑い出す)

T:本当だよ。

D子:先生、それは錯覚ですよ。

E男:そうですよ。先生、やばいですよ。

T:いや、確かにそう見えた。

S:(さらにみんなが笑い出す)

T:おい、先生は真面目に言ってるんだから笑うな。

F子:え~!だって、あり得ないですよ~。

T:いや、そう見えた。そして、そう見えたのは、おそらくみんなが「一緒に歌うぞ」って心が1つになったからかもしれない。

S:(まだ笑いが止まらない)

T:後で音楽の時間にビデオを見せてもらう機会があるだろうから、見てみるといい。君たちにもそう見えると思う。もし、君たちにそう見えなかったら、おそらくそれは担任の欲目だったんだろう。

S:(ようやく笑いが収まる)

T:それから歌がどうだったかということは今回は先生の口からは言わない。ビデオで自分たちの目と耳で振り返られるだろうから。その代わり、何人かの人たちに合唱発表会についての感想を言ってもらいたいと思います。自分たちの発表のことでもいいし、先輩の発表のことでもいいし、全体のことでもいいよ。では、最初に○○くん。

前期学級委員男子①:5組のみんなが、目に見えない力みたいなもので1つになったように思いました。

T:じゃあ、次に○○さん。(以下、指名のことばは省略)

G男:(指名方法に気づく)あっ!学級委員だ!

前学委女①:3年生がすごくまとまっているように思いました。私たちも3年生のようになりたいと思いました。

前学委男②:実は、2年生のところで眠くなって寝てしまったんですけど…。3年生の発表を聞いて、脳と身体が蘇りました。

前学委女②:3年生のアカペラがすごくきれいに聞こえたんですけど、それは心が1つになっていたからだと思います。

後学委男①:上級生になればなるほど上手くなると思いました。2年間同じクラスだから、卒業が近づくにつれて一体感が増すのかなと思いました。

後学委女①:3年生の学年合唱は、歌が上手いという以上に、学年の一体感がすばらしいと思いました。

後学委男②:3年生の声が会場全体に響いていたのがすごいと思いました。

T:なるほどね。あと1人残っていますが、その人には今日は学級委員の代表として全校週番の引き継ぎを見学してもらいました。私も週番教官としてそこにいたのでわかっているんですけど、○○さん、確かあなたはメモを取っていましたよね。どんな話が出たかみんなに話してくれませんか?

後学委女②:(机の中からメモを出す)全校週番の各学年の担当者が細かく週番活動を見ていて、学校全体を仕切っているなと思いました。

T:1年生の様子について何か言ってなかったですか?

後学委女②:1年生はゴミを誰が捨てるかでもめたりして、仕事を押しつけ合っている感じだと言っていました。

T:はい、ありがとうございました。今、○○さんが言ってくれたことの中で、3年生が指摘した1年生の様子がありましたね。そこに、今の1年生の状況がわかるできごとがありました。そうです。「ゴミを捨てに行くのに、誰が行くかを押しつけ合っていた」という部分です。

S:(みんな真剣な顔でこちらを見ている)

T:ところで、学級週番の引き継ぎの時に、毎回私が必ず言うことがあるんですが、それが何だかわかりますか?

H子:「与えられた仕事は責任をもってしっかりやりなさい」

T:それもそうですが、あと1つ。もう、みんな2回目だし、前の週とその週とで2回聞いているからわかるでしょう?

後学委男①:「3人で仲良く助け合ってやりなさい」ですか?

T:そうです。それから、英語係にも言っていることがあるよね。英語係の人、どうですか?○○さん?

後期英語係女子①:「お前がやれよ!」とか言わずに、必ず3人で来て、助け合いなさいって。

T:なぜそういうことを言い続けているかというと、今年の1年生は、このクラスに限らず、その部分が少し欠けているからです。今年の3年生は、去年2年生だったときに全クラスと1年間お付き合いしたけど、そういうことはなかった。少なくとも、英語係を見ている限りでは、とても仲良くやっていたし、しかも率先して先生を助けてくれた。

S:(少し疲れ気味の表情)

T:話を元に戻します。今年の3年生の合唱が素晴らしかったのは、歌が上手かったからでしょうか?確かにそれもありますね。先生はこの学校に来て15年になるけど、その15年間で今年の3年生が一番上手かったと思う。自分が過去に担任した学年、特に今の高2の学年も素晴らしかったけど…、くやしいけど、今年の3年にはかなわないと思った。

S:へえ、そうなんだ~。

T:では、その歌の上手さがどこから来ているかというと、さっき学級委員の人たちが何人か「一体感があった」と言ってたけど、そこに重要なポイントがあると思うんだよね。今年の3年生は、学年合唱もクラス合唱も、みんな仲間と一緒に歌うのが楽しいって感じに見えたけど、みんなもそう思わなかった?

I男:思った!

T:そうでしょ?それはね、さっき学級委員の誰かが言っていたけど、2年間一緒にいる仲間と日頃から本当に仲良くしていて、その人たちと1つのことをやっているということを心から幸せだと思っているように見えた。だって、歌っている間に泣き出した人だっていたでしょ?

J子:いたいた!

K子:何人もいた!

L子:自分たちの時もそうなるかなあ?

T:それはどうだろう。3年生になって、2年間一緒にいればなれるってもんじゃない。君たちの場合は、今のままだとなれないかもしれないぞ。

S:(「えっ?」という顔をする)

T:それは、さっきの仕事を押しつけ合っているという状況があるからだ。それを自分から引き受けるような気持ちをみんなが持ったときに、君たちもあんな3年生になれると思うけど、それができなければダメだろう。

S:(真剣な顔で聞いている)

T:今年の3年生には、目指すべきよい目標を示してもらえたと思う。真似はできないだろうけれど、ぜひその心意気はみんなに引き継いでもらいたいな。そして、この学年でできる最高のことをしてもらいたいと思う。では、これでおしまい。

 

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