統合的な活動の指導

1. 統合的な活動とは?

2014年に初めて大学で英語科指導法の授業を担当したとき、統合的な言語活動の説明をした後に学生から「総合的な学習とどこがちがうんですか?」という質問を受けました。話の中で統合的な活動とはどういうものかは説明したのですが、2つのことばの定義をしたわけではなかったので、疑問を持ち続けながら授業に参加していたようでした。そこで、次の授業で改めて両者のちがいを明確に説明し、次年度以後は最初にことばの定義をしてから内容の説明をするようになりました。

 

本ホームページは学生も読者にいるようですし、先生方の中にも「改めて説明しろと言われるとよくわからない」という人もいるかもしれませんので、最初に両者のちがいをはっきりさせておきたいと思います。

 

〇総合的…複数のことをまんべんなく扱う

 →個々は独立していてよい

(例)総合的な学習…教科の枠を越えていろいろなことを同じ授業の中で扱う学習

 

〇統合的…複数のことを互いに関連させて扱う

 →個々は他のことと関係がある

(例)統合作戦本部…普段は独立して活動している組織が共通の目的を達成するために協力して作戦を考える本部

 

2. 統合的な活動の種類

(1) 理論的には…

言語技能を「聞くこと」(L)・「話すこと」(S)・「読むこと」(R)・「書くこと」(W)の4領域とした場合、複数の領域を統合した活動形態の組み合わせは理論的には次のようになります。ただし、「組合せ」と言っても活動の順番を変えれば別のものになるので、数学で習った「順列」の計算となります。

 

・2領域…12種類(=4×3)

・3領域…24種類(=4×3×2)

・4領域…24種類(=4×3×2×1)

 

つまり、計60種類もの活動形態があることになります。さらに「話すこと」を「発表」と「やりとり」に分けるのであれば、なんと合計320もの活動形態があることになります。

 

また、一連の活動の流れは技能の連携の仕方によって次の2つのタイプに分けられます。


順次移行型…場面ごとに使用する技能が異なる

 →後の例では「→」で表しています。

同時並行型…同時に複数の技能を使用する

 →後の例では「&」で表しています。


<注>「~型」という名称は筆者が独自に付けたもので、公に認められた名称ではありません。

 

(2) 実際には…

理論上は(1)のようであっても、実際はどうでしょうか。すべてをシミュレーションしたわけではありませんが、おそらくそれほど変わらない数字になると思われます。

 

例えば、「L→S」や「R→W」の活動はすぐに思いつくでしょうし、「統合的な…」などと意識せずともすでに自然にそのような活動を行ってきた先生も多いでしょう。

 

一方、「L→R」やその逆のような理解系領域同士の活動も少し考えれば出てきます。例えば、指示を聞いてそれに合った内容の文章を読んで選択する活動は前者になりますし、書いてある指示どおりの内容を聞いた内容から選択する活動は後者になります。

 

以下に具体的な活動例を紹介しますが、技能領域が増えても少し考えれば具体的な活動が思いつきます。先生方のアイデア次第でいろいろな(無数の)統合的な活動が可能だということです。

 

3. 統合的な活動の指導例

(1) 他の先生の授業から:「R→S&L→W&R→S&L」

この活動に初めて出会ったのは、埼玉大学教育学部附属中学校の公開授業を参観したときでした。今から20年くらい前のことだったと思います。その活動は次のようなものでした。

 

<前指導>

① 生徒を4人一組にする

➁ 教室の四隅に同じテーマで書かれた内容の異なる短い文章を置く

<活動>

① 4人が四隅に散り、そこにある文章を読んで内容を覚えてくる(R)

➁ 元の席に戻り、各人が読んだ内容を自分のことばで仲間に伝える(S&L)

③ 相談しながら4つの内容を1つの文章に書き上げる(W&L)

④ すべての班ができあがった文章を発表し、自分たちが持っている情報が正しいかを確認する(S&L)

 

この活動は実に巧妙に仕組まれたもので、見学した当時は「これが統合的な活動か!」と驚きをもって受け入れたものです。そして、自分もここまでの手間はかけられなくてもその思想は受け継いだ活動をやってみようと思い、いくつか独自の活動を行いました。

 

(2) 筆者の授業から:「R→SL・W→R・S&L・W→W」

この活動は、(1)の活動に触発されて当時2年生の授業で行ったものです。その活動は次のようなものでした。

 

<前指導>

① 生徒を4人一組にする

➁ 架空の4人の自己紹介の情報(箇条書)が書かれた紙を各班に1枚配って4つに切り分けさせる

<活動>

Step 1: 各人がそれぞれ4人の誰かになりきり、自己紹介の情報を読んで内容を頭に入れる(R)

Step 2: 2人一組で互いに相手に質問をして情報を聞き出し(S)、聞き手はそれをハンドアウトにメモする(W)

Step 3: 4人組に戻り、それぞれがパートナーから聞いてメモした情報を元に残りの班員にパートナーのことを説明し(R&W)、聞き手はそれをハンドアウトにメモする(L&W)

Step 4: 3で口頭で説明した内容をきちんとした文章に書いてまとめる(W)

 

この活動で工夫したのは2と3を分けたことで、これによって一人称と三人称の表現練習ができるようにしました。

 

以下は授業で使ったハンドアウトですが、英語科指導法の授業で使う際に当時のデータが見つからなかったので新たに作り直したものをここでも載せておきます。英語科指導法の授業でも学生に実際にこの活動を実施してもらったところ、「統合的な活動とはどういうものかをイメージできた」という感想を多くの学生から得ました(毎回の授業でその日に学んだ内容を書いて提出させていました)。

 

<自己紹介用データ>

上から「氏名」と「出身国」、「年齢」、「兄弟姉妹」、「好きな日本食」、「好きなスポーツ」が書かれています。

<記録用ワークシート>