シンガポール短期交換留学

1. 概要

 

この交換留学制度は、元々は附属高校の代表生徒がシンガポールで行われた高校生の「世界リーダーズ・サミット」に参加したことを機に、同国のホワチョン中学の先生と附属高校の先生の間で交流が始まったことで実現したものです。2007年度より毎年互いの訪問時期をずらしてそれぞれ十数名の生徒が相手の学校を訪問しています(ホワチョンの生徒は11月に来日し、附属の生徒は3月に訪星します)。ただし、コロナ禍の3年間は来日も訪星も中止されました。

 

元々は附属高校の行事ですが、開始当初はことばの関係で相手校では実際の学年より1つ下の学年に入ることになっていたので、先方の高1相当の生徒が附属中の3年生のクラスに入っていました。しかし、中学と高校では生活環境がかなり異なるので、数年したところでお互いに同学年のクラスに入ることになり、附属中で先方の留学生を受け入れることはなくなりました。ただし、それ以降も附属中の生徒に毎年2~3名の訪星枠が割り当てられています。

 

費用は、往復の航空運賃以外はそれぞれ相手校及びホスト・ファミリーが負担することになっているので、10~12日間の滞在で一人約15万円です(2007, 2008年度実績。現在はおそらくそれ以上)。

 

2. 参加資格

 

当初は相手校の生徒のホームステイを受け入れた家庭の生徒が優先的に参加資格を得られましたが、受け入れが無くなってからはそのような条件は無くなりました。その代わりに、各学年で別の選考基準が設けられています。興味のある人は担任団の先生に聞いてみてください。

 

3. 引率報告

 

筆者は、初年度(2007年度)は附属中唯一の引率教員として、2年目(2008年度)は引き継ぎ教員兼現地案内員としてこの行事に参加しました。以下、初年度の様子を中心に、写真を交えながら留学内容の概要を紹介します。

 

本企画の初年度(2007年度)は、附属中にも相手校から男子3名の留学生が来て、筆者の担任クラスを含めて3年生の3クラスに1名ずつが配属されました。それぞれの留学生はそのクラスの生徒の家にホームステイし、附属中の授業や日本の家庭生活を経験しました。写真は、来校初日にクラスのみんなで合唱をして留学生(左)を迎えている場面です。

 

成田からシンガポールへは約8時間かかりますが、時差が1時間しかないので、生活のリズムを崩すことなく現地で過ごすことができます。どのような生活が待っているのかと、この時点ではみんな緊張した面持ちでした。

 

写真は2年目(2008年度)の附属中の参加者を撮ったもので、附属中の生徒5名(男子3名、女子2名)と附属高校の生徒12名が同じ飛行機で現地へ向かいました。

 

シンガポール国際空港に着くと、ホスト・ファミリーの現地生徒が迎えに来てくれて、彼らと一緒に屋台村で夕食を摂りました。シンガポールでは多くの家庭が夜は外食をします。現地でお世話になった若い夫婦の先生宅では、結婚してから一度も家で料理をしたことがないと言っていました。シンガポールの料理はとても美味しく、帰国後も都内にあるシンガポール料理屋へ何度も足を運びました。

 

到着翌日にホワチョン中学に行くと、ジュニア・カレッジの朝礼で全校生徒への紹介式がありました。附属中と同じく、朝礼は生徒自身の手で運営されています。

 

このあと、各生徒は現地のホスト・ステューデントに連れられて、それぞれの授業教室に向かいました。敷地が広く、校舎もたくさんあるので、一端散ってしまうと、なかなか本校の生徒に会うことができませんでした。

 

こちらはハイ・スクール(High School)の2年生(日本の中2に相当)の国語の授業の様子です。ちょうど日本の文学作品について扱っており、シンガポールの人たちが日本の文化に高い関心を持っていることがわかりました。なお、ハイ・スクールは男子校で、後にジュニア・カレッジに進学してくる相当年の女子の多くは、道路を挟んだ反対側にある南洋(ナンヤン)女子中学に通っています。

こちらは、ジュニア・カレッジ(Junior College)の2年生(日本の高3に相当)を対象に筆者(中央のワイシャツ姿)が日本の文化について授業をしたときのものです。出発前に現地で授業をすることになると言われていたので、あらかじめ準備をしておきました。生徒たちは日本の文化、特にサブ・カルチャーに高い関心を持っており、筆者の話をよく聞いてくれました。もちろん90分の授業はすべて英語で行いました。

 

休日に一度だけ全員で市内観光に行きました。動物園、植物園、水族館などのほか、南部のリゾート地であるセントーサ島にある旧日本軍施設跡などを訪れました。写真の後方に見える巨大なマーライオン像は中を登ることができ、開いた口のところから市内を見渡すことができます。残念ながら、この像はユニバーサル・スタジオ・シンガポール(USS)を含む総合リゾート地区の再開発のために取り壊されてしまい、今はありません。

こちらはシンガポール動物園(Singapore Zoo)で、写真の中央後方には2頭のホワイト・タイガーが写っています。同園では、オランウータンなどの東南アジアの動物たちを野生に近い状態で見ることができます。また、こことは別の「ナイト・サファリ」(Night Safari Singapore)という施設では、夜に活動する動物たちを間近に見ることができます。

シンガポールの人口の約8割は中国系の人なので、現地の料理は中華料理が中心となります(マレー系料理と合わせたペラナカン料理が有名です)。中国系の人々のもてなし方として、たいていは食べきれない量の料理が提供されますので、眼の前に出された料理を無理して食べないようにします。ちなみに、写真の料理は6人前ですが、これでもかなり食べて満腹になった後の残りです。

東南アジアと言えばフルーツ天国でもあります。このときも観光コースの1つにフルーツ・パーラーが入っていました。「世界一臭いフルーツ」として有名なドリアン(白いテーブル上のもの)をはじめ、日本ではなかなか食べられないフルーツを堪能しました。ただし、味は全体に薄めで、日本のフルーツの方が甘みが強いと感じました。

 

シンガポールを離れる直前に、現地のホスト・ステューデントたちが空港(シンガポール・チャンギ国際空港)まで見送りに来てくれました。彼らとの別れを惜しみつつ、充実した日々を送った満足感を胸に帰国の途につきました。


 

いかがだったでしょうか。参加できる人数がごく少数なので、気軽に参加できる行事ではないのですが、興味のある人は入学後に担任の先生に相談してみてください。

 

【ホワチョン(華僑)中学(Hwa Chong Institution)について】

 

シンガポールの教育制度は6-4-2制で、日本の小学校にあたる学校は primary school、中1~高1にあたる学校は high school、高2~高3にあたる学校は junior college と呼ばれます。ホワチョン中学は、このうちの high school と junior college で構成される学校で、日本の中高一貫校に似ています。

 

ホワチョン中学は、シンガポールの大実業家タン・カー・キー(Tan Kah Kee)によって1919年に設立された華僑(外国に移住した中国人)のための私立学校です。設立当初はハイ・スクールだけでしたが、1979年にジュニア・カレッジが創設され、前者は男子校で約2,000人、後者は共学で約2,000人、計4,000人の生徒が在学するマンモス校となっています。

 

同校は附属中・高と同じような伝統校(同国のトップ9校の1つ)で、入学するには小学校4年生で実施される国家試験で上位10%の成績を取らなければなりません。授業のレベルはとても高く、華僑の学校でありながら授業を含めた学校生活のすべての活動が同国の第一公用語である英語で行われているので(つまり全員がバイリンガル以上)、卒業後は海外の有名大学に進学する生徒がたくさんいます。国策の1つとして日本語を学んでいる生徒はさらにその中の優秀な生徒であるため、日本語学習者の多くが日本人なみに日本語(敬語を含む)を上手に話せるだけでなく、日本の文化等にも精通しています。

 

これはホワチョン中学の見取り図ですが、手前のブキ・ティマ道路(4車線)沿いの敷地にはバス停が3箇所もあり、左端の正門前には新設された地下鉄の「タン・カー・キー」駅(駅名は学校創設者の氏名)があります。以上の事実と手前中央付近に見える陸上トラックが400mトラックであるということから、敷地の広さを想像できるでしょう。見取り図の左の方にジュニア・カレッジの校舎群、中央付近にハイ・スクールの校舎群、右上の方に後述する巨大な生徒寮があります。

 

こちらは、2019年に開校100周年記念で撮影された航空写真で、ちょうど上の見取り図とほぼ同じ方向から撮影されたものです。400mトラックの中の芝生の部分に全校生徒が並んで、校章マークと100周年を表す数字を人文字で描いています。附属中でも、2018年に開校120周年を祝う「開校120周年」の人文字を全校生徒で中庭に描きました(写真は同校HPより)。

こちらは、ハイ・スクールのメイン・ビルディングです。中央の入口を抜けるといかにも南国風なオープンな校舎が並んでおり、校舎の間を人口の川が流れているなど、単なるコンクリートの校舎とはちがう、落ち着いた雰囲気が演出されています。

学校の施設は大変充実しており、日本でいえば私立大学並みです。写真は理科実験室ですが、実験道具は生徒一人一人に用意されています。この他にも、校舎内に立派な図書館や美術館、世界中の楽器が弾ける音楽室、立派な器具がそろったトレーニング・ルームなどがあります。

こちらはかつてイギリス領であったシンガポールらしい、イギリス国会の会議室を模した生徒会議室です。テレビなどで度々見かけるイギリス国会のように、学校行事などについての審議に定期的に使われています。

このマンションのような建物群は敷地内にある生徒寮で、約1,000人の生徒を収容することができます。同校には、シンガポール国内だけでなく、中国本土や香港、台湾などからの留学生もたくさんいるため、彼らの滞在場所として用意されたものです。筆者も滞在中はここのゲスト・ルーム(シングル)を借りていましたが、生徒たちの多くは2人部屋で生活しています。

こちらはジュニア・カレッジの生徒たちです。先述したとおり男女共学で、みな同じ薄茶色の制服を着ています。北緯2度という常夏の国なので、一年中同じ服装(日本の夏服)でいることができます。卒業生の多くは海外の大学に進学しますが、男子はその前に2年間の兵役に就かなければなりません。

こちらはハイ・スクールの生徒たちです。先述したとおり、男子のみ在学しています。制服の上は白の開襟シャツのみで、附属中の男子生徒のように見えます。中1の授業も見学しましたが、授業中におしゃべりを゙したりふざけ合ったりして先生に注意されている姿は、この年代の男子生徒として万国共通なのかなと思いました。

これはジュニア・カレッジの朝礼の様子です。朝礼は毎朝7:30から行なわれ、最初に国歌の斉唱と国民の誓いの合唱があり、その後に校長先生の話や諸連絡があります。約2,000人の生徒が整然と並んできちんと参加しています。このときはちょうど生徒会役員の選挙期間中で、左の校舎の壁に各候補者の垂れ幕が見えます。

 

 

こちらは週に1回行われるハイ・スクールとジュニア・カレッジの合同朝礼の様子です。マーチング・バンドの演奏による国歌斉唱から始まります。全校生徒約4,000人が400mトラック脇に設置された階段状のスタンドに整然と並んでいる様は圧巻でした。

 

 

ホワチョン中学は放課後のクラブ活動も盛んで、各部が国内大会で優秀な成績を収めています。同国ならではのユニークなクラブもあり、例えば写真の中国武術のクラブや、18歳以上の男子に課せられる兵役義務を想定した軍隊クラブ(軍服を着て活動しています)などがその一例です。

シンガポールには「ガムを噛んでいると罰金」、「ゴミを捨てると罰金」などの厳しいルールがあることは有名ですが、実はそれどころではありません。例えば、蚊が発生しそうな池や水たまり、藪や雑草を放置しても土地の持ち主に罰金が科せられます。写真は校内の道に敷き詰められたレンガですが、レンガとレンガの間に泥がたまって雑草が生えないように、定期的に泥を取り除く掃除が行われています。おかげで、常夏の国でありながら、蚊に刺されることがありません。

 

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