(2) アルファベットの成り立ちと書く順番

① アルファベットの成り立ち

 

(1)でアルファベットの名前と音の指導を終えたあとは、いよいよアルファベットを書く練習に移ります。ここで実際に書かせる前にあることを指導してから書く活動に移った方が生徒の学習意欲が高まります。その“あること”とは、アルファベットの成り立ちです。ただし、ここで言う「成り立ち」とは文字の歴史ではありません。見かけの成り立ちです。

 

最初に、生徒に「日本語の漢字、ひらがな、カタカナとアルファベットを比べたとき、どの文字が一番簡単に書けますか?」と尋ねます。するとほとんどの生徒が瞬時に「アルファベット!」と答えます。

 

次に、「では、どうしてアルファベットが簡単だと思うのですか?」と尋ねてみます。すると生徒は少し考えてから、「線が単純だから」「画数が少ないから」「漢字のように“はね”とか“はらい”とかがないから」などと答えます。

 

次に、「”線が単純”とは具体的にどういう線のことを言っているのですか?例えば、大文字はどんな線でできていますか?」と尋ねてみます。すると、「直線」「曲線」「直線と曲線の組み合わせ」などの答えが返ってきます。

 

さらに、「では、直線とはどんな線ですか?」と尋ねてみます。すると「縦線」「横線」「斜め線」の3つが出てくるはずです。また、「曲線とはどんな線ですか?」と尋ねると、「丸」「半丸」「くねくね」(S字のこと)などという答えが返ってきます。後者については、半丸もくねくねも丸の一種(途中でカットしたか反対向きに並べただけ)だとまとめておきます。

 

ここまで来たら、これまで出てきた答えを生徒の答えを拾いながらまとめてみます。「つまり、アルファベットに使われている線はどんな線かということをまとめてみると…?」と振ってみます。すると生徒はこれまでの話から判断して、「縦線」「横線」「斜め線」「曲線(丸)」という答えが返ってきます。

 

最後に、「改めてアルファベットの成り立ちを見てみると、縦線、横線、斜め線、曲線(丸)の4つだけでできているんですね。だからみなさんは『簡単だ』と感じるのでしょう」とまとめてみます。きっと生徒は改めてその事実を知って大きくうなずくにちがいありません。

 

② アルファベットを書かせる順番

 

ア)大文字・小文字のどちらから?

先生方は生徒にアルファベットを書く練習をさせる際に、大文字・小文字のどちらから書かせますか?

 

「それは大文字でしょう」

 

では、その理由は何ですか?

 

「それは、大文字の方が読んだときの認識のしやすさもあるし、他教科でも記号などでよく使っているからなじみがあるので、書くときの負担が少なくてすむから」

 

しかし、生徒も同じように感じているでしょうか。そこで、生徒にも大文字と小文字のどちらが書きやすいかを尋ねてみます。すると、ほとんどの生徒が「大文字」と答えます。そしてその理由を「大きいいから」「直線が多くて書きやすいから」「他教科でも使っているから」などと言います。つまり、生徒も教師と同じように考えています。驚かせてすみません。

 

さて、ここで大切なのは、「書くときの負担が少ない」という点です。負担が少ないというのは、前項で確認した4つの線だけでできているという点からもわかります。

 

「教師も生徒もそう思っているんだったら、今更大文字・小文字のどちらからなんて議論する必要はないじゃないか」

 

いえ、そうではありません。ここで大切なのは、自分が習ってきた方法が本当に自分の生徒にとっても良いのかということを改めて見つめ直すということです。そして、前例にとらわれず、教師も生徒も納得する最善の方法を採るということなのです。

 

イ)どの文字から?

先生方は生徒にアルファベット-ここでは最初に指導する大文字とします-を書く練習をさせる際に、どの文字から書かせますか?

 

「えっ? ”A”からじゃないの?」

 

では、どうして”A”から書かせるのですか?

 

「だって、アルファベット順だし、自分もそうしてきたし、それ以外の順番なんて考えたことはないし…。他にどんな順があるというの?」

 

ここで再度問いたいと思います。それが生徒にとって最も負担の少ない順番ですか?

 

「…」

 

では、生徒に前項の4つの線(縦線、横線、斜め線、曲線)のうちで書きやすい線を尋ねてみます。すると、たいてい「縦線」と「横線」がほぼ同率1位、斜め線が3位、曲線が4位です。

 

そうであれば、負担が少ない線で成り立っている文字から書く練習をさせるのが理にかなっていると思いませんか。そこで、教師も生徒も納得する、簡単に書ける線順に構成されている文字を、生徒にも考えさせながらグループ分けしてみましょう。その結果はだいたい次の4つのグループになります。

 

1. 縦線と横線のみ(アルファベット順)

 

2. 縦線・横線と斜め線(アルファベット順)

 

3. 曲線が中心(より簡単な順)

  S が最も難しいと多くの生徒が言います。

 

4. 曲線と直線(より簡単な順)

 ※ R が最も難しいと多くの生徒が言います。

 

さあ、ここまで来れば、どの文字から書く練習をさせたらいいかがわかりますね。そうです。1.のグループの文字から指導を始め、2.→3.→4.のグループの文字へと進めていくわけです。

 

ところが、ここで困ったことがあります。教科書のアルファベットの一覧をはじめ、市販のノートやペンマンシップ(文字の練習帳)もアルファベット順のものしかありません。結局はそれらにしたがって”A”から順番に書かせることになってしまいます。

 

そこで、筆者の前任校では今から25年ほど前に上記の考えに沿った独自の練習用ハンドアウトを作成しました。それが以下のものです。

 

どうでしょう。このようなものを生徒に与えれば、教師の意図がストレートに生かされた教材を生徒に使ってもらうことができます。なお、当初は市販のペンマンシップをコピーして、それを1文字ずつ切り貼りして作成したものですが、今では画像で取り込んで画像編集ソフトで切り取り、それをワードや一太郎の文書画面に貼り付けたものを使っています。

 

(3) アルファベットの歴史 へ

 

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