新学期前に確認しておきたいこと:教科書(教材)のここをチェックしておく

※記事の一番下に雑誌記事の現物(PDF)があります。

1.「いつ」「何を」チェックするのか?

来年度(注:2013年度)、高等学校は新学習指導要領下での新しい教科書を使う最初の年である。中学校は2年目であるが、まだ新しい教科書に関しては“移行期”にあると言える。英語科の場合、他の教科に比べると、教科書の移行期に教師が新たにやらなければならないことが多い。それは、同じ会社の教科書を継続して使う場合でも題材が大きく入れ替わる場合があり、別の会社の教科書に変わった場合は題材はほぼ全部が新規となって、前年度までの教材研究が役に立たなくなってしまうことがあるからである。

 

したがって、新年度が始まる前にその後の1年分の教科書内容をチェックし、1年間の見通しをもった指導計画を立てることが重要となってくる。ただ、実際には我々現場の教師は現在指導していることに集中するのに精一杯であり、並行して新たな1年分の教科書の内容を吟味することは理想的ではあっても実際的ではない。しかし、だからと言って何もしなくていいというのではない。そこで、教科書やそれ以外の教材(副教材や“投げ込み”教材等)の「いつ」「何を」チェックしておいたらいいのかを次のように分類してみる。

 

○新年度(学期)開始前にチェックすること

  ・題材 ・文法項目

○各題材(科)の指導前にチェックすること

 ・最終目標 ・指導計画 ・“隠れ”文法項目

  ・関連教材

○毎時間の指導前にチェックすること

  ・指導内容 ・指導過程 ・既出未習語句

 

2.教科書のチェックの実際

さて、先述のそれぞれの時期に実際に何をしたらいいのかを見ていくことにする。

 

(1) 新年度(学期)開始前にチェックすること

①  題材のチェック

題材が変わると、そこから何を学ばせたいのか、どんな活動を最終ゴールにするのかということが変わる可能性が大きい。実際の教材研究はその題材を扱う直前になるであろうが、できれば年間計画を立てる際にある程度の指導イメージを持っておきたい。そこで、教科書の題材にひと通り目を通しておくようにする。また、生徒の理解を助けたり深めたりさせるための関連教材をインターネットを使ってあらかじめ収集(書籍等の購入、情報サイトのチェック)しておくとよい。

 

② 文法項目のチェック

中学校では、指導すべき文法項目の学年枠がはずされて以来、教科書会社によって、版によって、各学年で扱われる文法項目が学年や学期をまたいで動くことがある。一番怖いのは、旧教科書では未習であった文法項目が新教科書では既習扱いになってしまっている場合であり、それを見逃したら大変なことである。そこで、旧年度中にそれをしっかりと確認し、該当する項目があった場合は旧年度中に指導してしまうか、新年度に並行して指導するようにしたい。筆者の学校では、今回の改訂で同じ会社の教科書(教育出版One World)を引き続き使うことになったが、上記のようなことが1年→2年と2年→3年で見つかり、それぞれ前年度のうちに“投げ込み”で指導した。

 

(2) 各題材(科)の指導前にチェックすること

① 最終目標のチェック

「そんなことは年間指導計画を作成する段階で考えるべきだ」と言われそうであるが、ここでは「建前」より「実」をとって話を進める。

 

教科書の内容をそのまま教えておしまいということもあるであろうが、中には「これを使って生徒に何か活動をさせたい」という題材もあるはずである。例えば、中1で三人称単数が出てくる科では生徒に身近な物や人を客観的に紹介するスピーチをさせたり、中2でThere is/are ....が出てくる科では自分の住んでいる街のことを紹介するスピーチをさせたり、中3で環境や戦争などの問題を扱っている科では関連の文章を読んで発表させたりするということが考えられる。そこで、各科で何を最終目標にするのかということをその科に入る前に十分検討しておくことが大切である。

 

② 指導計画のチェック

その科の最終目標が決まったら、特別な活動があるかどうかに関係なく、その科全体をどのように指導していくかの計画を立てなければならない。

 

その際は、その科の内容をもっとも意義深く、かつ効率よく指導できる計画を立てることが重要である。例えば、「1セクション、1アワー」のようなパターンで教えることが普通になっている場合であっても、題材や文法項目によっては科全体を見通して一気に本文の内容を理解させたり、セクション毎に分けられている複数の文法項目をまとめて指導してしまった方がいい場合もある。また、その科の内容に関連した特別な活動を計画しているのであれば、最終的に生徒に何をどのレベルで活動させたいのか、そしてそれをどのくらいの時間をかけて指導するのかということを十分に検討して、具体的な指導計画を立てることが重要である。

 

③ “隠れ”文法項目のチェック

中学校の教科書では、スピーキングやリスニングに特化した教材や読み物教材以外のほとんどの本文に新出の文法項目が取り上げられている。ところが、本文を詳細に読んでみると、本来であれば新出の文法項目として扱った方がいいような重要な表現が潜んでいることがある。中には、新出の文法項目として取り上げられているものよりそちらの方が重要なのではないかと思われる場合すらある。それを事前にチェックしないでその科の指導に入ってしまうと、途中で思わぬ時間を費やさなければならなくなることになりかねない。さらに言えば、その大切な表現をうっかり教え損なってしまう可能性すらある。

 

そこで、その科の指導に入る前に本文をしっかりと確認し、もしそのような文法項目があれば、それをどこでどのように扱うかということをその科の指導計画に入れておきたい。

 

④ 関連教材のチェック

教師は忙しさのあまりに教材研究をせず、既存の知識の範囲内で授業をしてしまう傾向があるが、それでは生徒の興味・関心を惹く授業はなかなかできない。(1)の①でもふれたことであるが、教科書のある題材を扱う場合は、追加情報を与えることで生徒の理解を助けたり深めさせたりするための関連教材を収集しておくことが大切である。

 

最も手軽な方法は、各教科書会社が出している指導書の解説編を利用することである。そこには、授業でぜひふれておきたい情報やうっかり教えそびれてしまいそうな項目が取り上げられている。また、先述のとおり、インターネットで関連資料(映像や音声を含む)を得るのもいいであろう。授業中にそららにふれるだけで、生徒の題材に関する興味・関心は大きく変わるものである。もちろん、それらは必ずしも使わなければならないわけではなく、教師の予備知識にとどめてもよい。

 

(3) 毎時間の指導前にチェックすること

① 指導内容のチェック

教科書に書かれていることを端から端までまんべんなく教えればいいのか、どこかに重点を置いて指導をすれば、多少教えこぼしのところがあってもいいのか、というようなことは、特に中学校教師の場合は悩んでいることではないかと思う。

 

次ページの(注:下の)資料1は、筆者も著者の一人である教科書(東京書籍 New Horizon)の1年生入門期(Warm-up)のあるページであるが、ここをどう扱うかという案を示して、本件に対する筆者の考えを示したい。 

  


資料1 中学校英語科教科書の紙面例(東京書籍 New Horizon English Course 1

 

このページには、教科書に書かれている指示どおりに扱ったのでは、指導が「足りない」という箇所と「早すぎる」という箇所がある。前者は、このページに取り上げられている単語はすべてアルファベットの「音」で始まっている語なのに(Xを除く)、そのことが書かれていないので、それに気づかないと「音」を教えそびれてしまうことである。後者は、まだ単語のつづり方の特徴や音とつづりの関係を学んでいない時点で、単語を書かせる指示があることである。つまり、ここではアルファベットの「名前」を教えたら「音」を教えて、つづりは気にせずに単語の発音練習をすることだけを指導すべきである。

 

教科書の何を教えるかということは、それを使う教師に任されていることが多い。したがって、教師にはそこから何を教えられるかということを見抜く力が必要である。

 

② 指導過程のチェック

よりよい学習指導を行うために、科全体の指導計画や中・長期的な指導計画を立てて指導することは大切なことであるが、毎時間の授業をどのように構成するかということがきちんとできていないと、それも絵に描いた餅になりかねない。

 

ごく一般的な通常授業をどのように構成するかということに決まりはない。しかし、たった1つ言えることがある。それは指導案をきちんと書いて、あらかじめ単位時間全体をイメージし、いきあたりばったりの授業をしないことである。この点についての詳細は、本誌2011年4月号の拙著記事を参照していただきたい。

 

③ 既出未習語句のチェック

教科書が変わったときの最初の2年間に起こる事態として、未習なのに既習扱いになっている語句が本文に存在することがある。これを見逃すと、生徒の本文理解が困難になるばかりか、高校入試などで生徒が不利になりかねない。

 

実は、各教科書会社は自社の旧教科書から新教科書へ移行した場合と他社の旧教科書から自社の新教科書に移行した場合の既出未習語句のリストを出している。通常は印刷物としても配布されているはずであるが、手元に無ければ各会社のホームページでデータを手に入れることができるので、必ず毎回確認をしておきたい。

 

 (『英語教育』2013年3月号、大修館) 

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『英語教育』2013.3「教科書チェック」.pdf
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