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1.小学校「英語科」の創設と小中高連携
(1) 小中の連携
次期学習指導要領の改訂の目玉の1つが、小学校高学年に「英語科」が創設されることであることが見えてきた。また、それに伴って外国語活動は中学年に下ろされるという。小学校の先生方にとっては、教科としての英語の指導内容及び指導方法が最大の関心事であると思われるが、ここでは、小学校で英語が教科として教えられることによって生じると思われる問題に対して、小中の連携の強化をどう図るかということを取り上げる。
筆者が全国の小学校外国語活動の先進校の先生方やその地区の中学校の先生方の話を聞いた際に多く耳にしたことは、小学校外国語活動の成果が中学校で活かされていないということである。ただし、それは外国語活動を経験した児童を受け取る立場の中学校側だけに問題があるわけではなく、中学校の指導内容を考慮せずに外国語活動だけが一人歩きしてしまう小学校側にも問題がある場合が多い。
そのような中で、小学校で英語が教科として教えられるようになったら、中学校1年生の、特に入門期指導においてさらにいろいろな問題が起こることが予想される。それが何かは始まってみなければわからないが、唯一言えることは、その問題点を解決する最良の方法は小中の英語科担当教員の一層の連携だということである。そしてそれは、互いに何を目標に、何をどこまで教えようとしているのかを、実際の授業を見合うことで知るということから始まるのである。
(2) 中高の連携
一方、英語科では中高の間で生じる問題点(いわゆる「高1ギャップ」)も長年の課題となっている。具体的には、中学校では基本的な表現を使えるように活動を中心にした授業を経験してきた生徒たちが、高校に入った途端に難しい語彙・表現や文法の習得を求められることに戸惑っているということである。その中高接続の問題も、小学校での早期英語教育の導入によって大きく様変わりする可能性がある。
現行学習指導要領では、高校の英語の授業は原則として英語で進めることが求められている。さらに、次期学習指導要領では同じことが中学校でも求められそうである。平成元年に公布された学習指導要領で「聞きこと」「話すこと」の指導の重視が謳われてから、中学校では教師も生徒も授業中にできるだけ英語を使うということに慣れてきてはいる。しかし、小学校で教科として英語が教えられるようになれば、中学校の授業ではこれまで以上に高度な英語を使った活動が求められるようになるであろう。そして、そのような経験を積んだ生徒の力を高校でどこまで伸ばすことができるのかということが、高校教師にますます求められるようになると思われる。
ところが、一部の地域を除けば、中高の連携はあまり進んでいない。その最大の理由は、公立の場合は中学校と高校では管理する教育委員会がちがうからである。そして、その連携を阻むのが、その地域に存在する高校が必ずしもその地域の中学生の多くが進学する学校とはかぎらないという事実である。中学校も高校も互いにどの学校の状況を視察すれば参考になるのかわからず、それぞれの教師が互いに相手を「見に行く価値がない」と思い込んでしまっているのである。
しかし、たとえどのような状況のちがいがあったとしても、異なった校種の授業を見たり、指導内容や指導法を交換し合うことは、教師個人の指導感を豊かにし、生徒の過去や将来を意識した指導を行おうとする意識を向上させることはまちがいない。そこで、まだ中高連携ができていない地域では、その地域を管轄する市区町村と都道府県の教育委員会が中心となって、連携を進めてもらいたい。
2.小中高接続の大切な点
ほんの10年くらい前までは、「中高一貫」、「小中一貫」と言えば私立学校のことを指したが、今ではほぼ全国の都道府県に公立の中高一貫校があり、東京都品川区の例を代表として、公立の小中一貫校も全国に広がりつつある。しかし、小中高一貫校というと、まだ特殊な学校の例がほんの数校あるだけである。そのくらい小中高一貫教育を行うには大きな障害があるのであろう。例えば、規模の問題がある。学校としてある程度の活気を持たせ、かつ効率の良い教育を行うには、各学年に一定数以上の児童・生徒数が必要である。しかし、それでは全体として大規模な学校になってしまう。一方、児童・生徒のことを考えると、12年間同じ集団内で学校生活を送るというのは人間関係においてプラス面もあればマイナス面もあろう。また、学年が進むにつれて学力差が広がっていくので、特に後期中等教育が大変になっていくことが予想される。
では、小中高一貫あるいは小中高接続の意義を考えることは無駄なのであろうか? 何か別の形でその利点を生かせる道はないのであろうか? その鍵は、小中一貫校や中高一貫校のイメージとのなっている、「同一学校型」や「併設型」ではなく、いわゆる「連携型」にある。すなわち、校舎も敷地も教員組織もちがう、見かけ上は別の学校同士だが、何か12年間一貫している教育内容がある学校形態を考えるということである。
では、連携型の小中高一貫教育で可能なことは何であろうか? それは次の2点である。
① 育てたい児童・生徒像の指導理念の共有
どのような児童・生徒を育てようとするのかということは学校が異なっていても共有できるものである。各校の教員が話し合い、指導理念を共有すれば、12年間をかけて育てたい児童・生徒像を同じくして教育できる。
これこそが一貫教育の最も大切な点である。
② 共通実践領域・項目があるカリキュラム
教科指導において、ある共通の指導領域や指導項目を設けると、児童・生徒の成長に合わせて、系統的に指導することが可能になる。これは、同じことをバラバラに指導するよりも、はるかに効率が良く効果的である。
3.筑波大学附属大塚三校の小中高連携
(1) 共通の指導理念の構築
東京都文京区大塚地区にある筑波大学附属三校(小、中、高)は、それぞれ140年、120年以上の歴史がある。親大学の変更(高等師範学校→東京高等師範学校→東京教育大学→現在)により名称を変更しながらも、それぞれの校種において常に日本の教育の中心校として存在してきた。そして、2004年度からは筑波大学の中期目標との関連から、小中高12年一貫カリキュラムの作成を「筑波大塚プラン」として進めてきている。大学としては小中高完全一貫校への再編成も念頭に置いているようであるが、すでに3校のそれぞれが独自の校風を築き上げており、その存在感が社会に定着してもいるので、現在の形態を変えることは実質的に不可能である。そこで、年に3回の全教員参加の研修会を開いたり、各教科毎に合同授業研究会を行ったりして、小中高がそれぞれの良さを活かしながら一貫カリキュラムの作成に取り組んでいる。そして、そのためには小中高の学校目標から共通した教育目標を抽出し、育てたい児童・生徒像を目指すための指導理念を構築する必要があると考え、以下の4つの「小中高一貫カリキュラムの指導理念」を掲げた。
① 自主的・主体的に学習に取り組む態度を育てる。
② 児童、生徒同士が学び合う場面を設けて、協同的な学習を促す。
③ 文章を読んだり書いたりする機会、調べたりしたことや自分の考えをまとめて発表する機会などを設けて、表現力・思考力の育成を図る。
④ 学ぶ楽しみを大切にし、意欲的に学習する姿勢を育てる。
以上は、男女の協力、他の人格を尊重する態度を受け継ぎ、競争主義に陥らず、問題解決能力を養い、社会に貢献する人材を育てるという、すでに3校が共通して指導してきたことを一層強化するための方策でもある。
(2) 英語(外国語)科の小中高の接続
附属中・高の英語科は、1923(大12)年に後の語学研究所の初代所長となったハロルド・E・パーマ-氏が提唱した「オーラル・メソッド」という教育理論の実践地となったことから、それ以来ずっと英語を使って英語を教えるという伝統を守っている。すなわち、現行(高校)、次期(中学校)の学習指導要領で改善の重要項目として掲げられている「英語で授業をする」をすでに約90年前から実施しているである。また、附属小は5年前から専任の英語科教諭を置き、3年生から4年間にわたって外国語活動を週一時間実施してきている。小学校では「聞くこと」「話すこと」を中心とした授業を行うことは当然であるが、中学校でも以前からそのような授業を行ってきているので、新入生はスムーズに「教科」としての英語に移行できている。そして、高校を卒業するまで生徒は英語を使って英語を学び、英語で表現する活動を繰り返し経験している。そのような実質的な指導形態の共通性が小中高にあるかどうかは、制度やカリキュラムの共通性以上に重要なことであり、児童・生徒の学習成果を左右する大きな要因である。
では、(1)で述べた「小中高一貫カリキュラム」は英語(外国語)科ではどのようになっているのであろうか。紙幅の関係で具体的な指導事項が記されたカリキュラム表は割愛するが、カリキュラムを作成する時の基本方針を(1)の4点に沿って以下に紹介する。
① 自分が本当に伝えたいことを英語でやりとりする体験的な活動を設定し、自分のことばで語れるようにする。
② 様々なペアやグループでの活動を設定し、お互いの良いところを認め合いながら全体としてより良い発表を目指すようにする。
③ 四技能を総合的に育成するような統合的な活動を設定する。
④ 進んでコミュニケーションを図りたいと思うような場面、達成感や充実感が得られるような活動を設定する。
そして、上記の基本方針に沿ってそれぞれの学校でカリキュラムを考えた。さらに、その中で3校が共通して重点的に指導したいこととして「表現すること」を取り上げ、「聞くこと」「話すこと」を中心とした諸活動の実践を続けている。それは、制度上やカリキュラム上の「一貫」よりも、育てたい児童・生徒像を共有することによって導き出される指導理念に根ざした活動だからである。その成果はそれぞれの学校の研究協議会で毎年披露しているが、毎回全国から集まる多くの参会者に好評をいただいている。
(『指導と評価』2015年4月号、図書文化)
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