※記事の一番下に雑誌記事の現物(PDF)があります。
【巻頭言】
今月号の第1特集は、「主体的・対話的で深い学び」がテーマです。これは現行の学習指導要領が改訂された際の重要ポイントのひとつですが、たった12文字の表現の中に多くの要素が隠れていそうなことが感じ取れるためか、「わかったようで、よくわからない」という声を今でもよく聞きます。そこでここでは、このあとの特集記事をお読みになる前の“準備運動”として、関係資料をもとに改めて件の用語の解釈を行い、それを実際の指導に生かす方向性や具体的方策について考えてみたいと思います。
●用語の解釈
件の用語の解釈には大きく2つの見方があります。1つは「主体的・対話的な」が修飾語で、「深い学び」が被修飾語だという見方です。つまり、後者が目標で、前者はそれを達成するための手段であるという考えです。もう1つは3つの学びをまとめたものだという見方です。「3つの学び」とは、「主体的な学び」、「対話的な学び」、「深い学び」です。どちらの解釈が正しいかがわかる直接の記述は学習指導要領にはありません。筆者は、まず3つの学びのそれぞれをきちんと理解した上で、それらの関係性に注目して全体を理解するようにするのが最良の方法であろうと思っています。
●「3つの学び」の内容
先述した2つ目の見方を補足する意味では、『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編』の「1.主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」に「3つの学び」に関して次のような説明があります(太字は筆者による)。
① 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しをもって粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているかという視点。
② 子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているかという視点。
③ 習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けて深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているかという視点。
ここまで読んでいただければ、件の用語の表面には表れていない様々な内容を理解できたと思います。
●「3つの学び」を実際の指導に生かす方向性
では、このような「学び」を実際の指導に生かすための方向性についてはどうでしょうか。これについても『解説』に説明がありますが、ここでは学習指導要領のもとになった中央教育審議会の答申まで遡ってみます。『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)』(平成28年12月21日)にそれが記されていますが、より具体的な学習指導の場面を意識して、筆者の専門教科である「12.外国語」に書かれている内容を具体例として示します。なお、紙幅の関係で、各項目のうち先述したそれぞれの学びの説明と重複する内容の部分は省略します(太字は筆者による)。
○「主体的学び」の過程では、(中略)。このため、コミュニケーションを行う目的・場面・状況等を明確に設定し、学習の見通しを立てたり振り返ったりする場面を設けるとともに、発達の段階に応じて、身の回りのことから社会や世界との関わりを重視した題材を設定することなどが考えられる。
○「対話的な学び」の過程においては、(中略)。このため、言語の果たす役割として他者とのコミュニケーション(対話や議論等)の基盤を形成する観点を資質・能力全体を貫く軸として重視しつつ、コミュニケーションを行う目的・場面・状況に応じて、他者を尊重しながら対話が図れるような言語活動を行う場面を計画的に設けることなどが考えられる。
○「深い学び」の過程においては、(中略)。このため、授業において、コミュニケーションを行う目的・場面・状況等に応じた言語活動を効果的に設計することが重要である。
以上のこと(省略した部分も含む)を総合すると、外国語(英語)科における「主体的・対話的で深い学び」は、次のような生徒の姿(育てたい生徒像)を目指すことで実現できると考えられます。
◇外国語を学ぶことに興味や関心を持ち、見通しを持って粘り強く取り組む。
◇自らの学習のまとめを振り返り、次の学習につなげる。
◇他者を尊重した対話的な学びを行う。
◇情報や考えなどを伝え合う言語活動を行う。
◇実際のコミュニケーションで運用する言語の知識と技能を習得して活用する。
◇思考・判断・表現し、学習内容を深く理解し、意欲的に学習する。
●実際の指導における方策と留意点について
ここからは、「主体的・対話的で深い学び」を実際の授業でどのように実現していったらいいのかという点を考えてみます。前項でまとめたような生徒の姿を実現するには、次のような点を考慮した学習指導を行う必要があるでしょう。
① コミュニケーションを行う目的・場面・状況等が明確な言語活動を設定する。
② 学習の見通しを立てたり振り返ったりする場面を設ける。
③ 発達段階に応じて、身の回りから社会や世界との関わりを意識した題材を設定する。
④ 他者を尊重しながら対話が図れるような言語活動を行う学習場面を計画的に設ける。
実は、これらの点に留意した指導を行うことは別に新しいことではありません。かつて全国の「授業の名人」の指導内容や指導方法を研究した経験からすると、そのような教師はすでにかなり高いレベルでこれらの点を重視した指導を行っていました。ただし、それらは「どのような活動ですか?」のような表面的な質問に対する答えを知れば済むというものではありません。ひとつひとつの活動にそれを行う意味があり、その効果を最大限に実現するための工夫があり、生徒もそれを納得して主体的・対話的に活動している授業でした。
「主体的・対話的で深い学び」のある授業とはどのようなものなのか-。この後の特集記事をしっかりと読んで知識を蓄え、仲間や外部の実践者の指導内容(授業)を見聞することでイメージを膨らませ、自分独自の指導のあり方を構築していくことがそれを明らかにする確かな道筋だと考えます。
(『指導と評価』2023年11月号「巻頭言」、図書文化)
あなたもジンドゥーで無料ホームページを。 無料新規登録は https://jp.jimdo.com から