【第1学年】(はじめに)

※自分で印刷した冊子版の第1巻の「はじめに」を全面改定し、第2巻の「はじめに」を再編集

 

前半の12話(第1話~第12話)は、入学後の5月から冬休み前までのものです。この時期の生徒は、まだ中学生になったばかりで新鮮な気持ちに満ちあふれており、どのような指導も素直に受け入れる傾向があります。したがって、この時期にいかに中学校生活を順調に送らせるための丁寧な指導を行うかが学級担任として重要です。その意味で、終礼の話は大きな意味があったと思います。

 

第1話は、本文にもあるとおり、本当に偶然に起こったちょっとしたことがきっかけで思いついたものでした。そして、その出来事を生徒に伝えたい、その話から教育的意味を含んだ一般化できる話を創造したい、その話を生徒がどのように受け止めるかを確認したい、さらにその時のやりとりを記録して同僚の先生方に読んでもらいたい…。そんな一連の気持ちが一気にわき起こってできあがった記録でした。

 

第1話を生徒と交わしたとき、私は大きな成就感を得ました。それは、その話に生徒が事前に考えていた以上に反応し、自分が伝えたいと思って準備していたことをしっかりと受け入れてくれたことがわかったからでした。このことは私にとってとても重要でした。なぜなら、「自分の話が受け入れてもらえた」は、すなわち「自分を認めてもらえた」ということを意味するからでした。それからは、「こんな話をすると、生徒が喜んで聞いてくれるだろう」とか、「言いづらいこともちょっとちがった角度から話せば言いやすいし、生徒も安心して聞いてくれるだろう」などと考え、次々といろいろな話をしていきました。記録に残したのは12話分だけですが、それ以外にも記録に残さなかったちょっとした話が無数にありました。まさに、生徒と話せば話すほど生徒との人間関係が深まっていくことを実感できた期間でした。

 

後半の11話(第13話~第23話)は、一般の学校で言えば1年生の3学期にあたる期間のものです。中学校1年生というのは心身共に成長期にあるため、終礼で話す内容やその方法も1年の間に徐々に、しかし確実に大きく変わっていかざるをえませんでした。後半の話のうちの3話は前半の12話にはなかったモノローグ、つまり私一人がほぼ一方的に話しているものになっています。また、先述のように、前半の話の多くは私と生徒が楽しく対話している内容が中心ですが、後半はそれらとは少し毛色が異なったものが多くなっています。それは、中学校1年生らしく素直に教師の指導にしたがっていた生徒たちが、段々と自分勝手な行動をとるようになってきたことから、それを「叱る」ことが多くなってきたからでした。もっとも、それは毎年のように繰り返される、この時期の生徒の様子としてごく当たり前の現象です。そこで、そうした生徒の実際の様子と、それに対して私が学級担任としてどう関わったかということをできるだけ詳しく記すようにしてみました。

 

もちろん、一方的に叱らなければならない場面においても、生徒への愛情は失っていないということを言葉の表にも裏にも乗せるようにしました。それは、そのように話しさえすれば、たとえ頑なな態度をとっている生徒いたとしても(実際にはいませんでしたが)、いつかは心を開いてくれるということを経験的に知っていたからでした。このことは全話を通して配慮したつもりですが、第23話ではそれを「愛しすぎないこと」と逆説的に表現しています。

 

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