◆なぜ「終礼の話」なのか?
はじめに、私はこの指導がすべての教師にとって学級経営上必要であると述べたいわけではないということをお断りしておきます。それは、学級担任として生徒と話をしながら指導する機会は一日の生活の中にたくさんあるからです。例えば、授業中のやりとり、休み時間や放課後などでの語らい、給食や清掃、さらには部活動などの指導場面で話すことなどです。ですから、この指導はあくまでもそれらの中の1つにすぎないとお考えください。
さて、私は生徒個人に気軽に声をかけて、生徒が興味を持ちそうなたわいのない話を臨機応変にするのがあまり得意ではありません。しかし、ある目的をもった話を意図的に組み立てて計画どおりに話すのはそれほど苦ではありません。そこで出てきたアイデアが「終礼の話」でした。要は自分の得意とする場面で得意なやり方で生徒と接すればよいのであり、それが私の場合は「終礼の話」だったというわけです。
◆「終礼の話」の役に立つこと
本書の元になった小冊子をお読みになられた方々の感想を分析すると、本書の内容はそれぞれの方が現在かかえている問題点によってお役に立てる部分が異なるようです。例えば、指導すべき内容を探している方には時期に応じて何を話したらいいのかということのヒントに、生徒を自分の話に集中させる話術を身につけたいと思っている方には生徒をどのように刺激すれば話に乗ってくるかのヒントに、生徒を叱ることが多くて楽しく会話をすることが難しいという方には叱らなくても反省させられる話し方のヒントに、という具合です。また、本書には成功例だけでなく失敗例もありますから、私の失敗例とそれを改善しようとした軌跡から、ご自身にあったよりよい方策を考えていただくためのヒントにもなるでしょう。
◆実際に話をするまで
まず、話題をどこから探すかということですが、大きく分けると2つあります。1つは時期に応じて行事など生徒の学校生活に直接関係する話題を取り上げることです。もう1つは平素の生活の中で偶然見つけたことやふと感じたことを話題にすることです。実際の話を読んでいただければ、私がなぜその話をすることになったのかをご理解いただけるでしょう。
次に、どのように話を構成するかですが、私の場合はほとんどの場合は結論が先にあって、それをどのように話せば生徒に効果的に伝えられるかを考えていきます。特に、生徒を話に乗せるための導入部に時間をかけます。そのせいで核心の話に入るまでの方がむしろ長くなってしまったものもありますが、核心部分を効果的に伝えるためにはとても重要な部分ですから、生徒が笑顔で反応してくれる姿を想像しながら導入部の話を考えていきます。
そして、それらを手帳にメモして話を作っていきます。最初は、エピソードの事実や結論のみ。次に、それを話として構成するための骨組み。次に、その骨に肉を付けるための話。次に、その話を効果的に伝えるための工夫。最後に、それらを実際に生徒に話すことを想定して原稿を話し言葉で書いていくのです。私はそれらを主に通勤電車の中の“暇つぶし”を兼ねて書いていました。もちろん、直前に思いついた話では最後の原稿はできませんでした。
◆記録の作り方
本書の元になった先述の小冊子の記録は次のようにして作りました。まず、生徒と会話したこと(発言及び表情)をその日の帰宅途中の電車の中で思い出して手帳に書き出します。それをその日に帰宅してからか翌日にパソコンで打ち直します(終礼後すぐにパソコンで打ったこともありました)。次に、それを何度も見直して自分や生徒の発言に漏れがないかを確認し、誤りを修正すれば記録が完成します。なお、話の筋及び実際に自分が発言しようとしていることをあらかじめ細かく原稿として準備してあった場合は、それに実際の生徒の発言や表情をあてはめていくだけで記録ができあがりました。
このような方法で記録を作っていたので、録音した音声を書き起こしたものに比べると実際の会話との整合性という点ではやや劣ります。ただ、そうやって生徒との会話を思い起こすという行為自体が自分の指導の反省になり、生徒の表情や発言の真意などを改めて見直す機会にもなりました。なお、3年生になってからはボイスレコーダーに録音するようになり、より正確な記録を作ることができるようになりましたが、一方で以前であれば忘れてしまって記録していなかったような、どうでもいい発言まで再現することになりました。
◆各エピソード(話)の構成
各回ともにメインとなる生徒との会話は「実際の会話」に書かれています。発言者は特に断りがないかぎり「T」(teacher)は教師である私の発言を、「S」(students)は数名以上の生徒の発言を、「A男」「B子」等は生徒個人(前者が男子、後者が女子。アルファベットは発言順)の発言を表しています。個人の発言を匿名にしてあるのは、この実践集が生徒や保護者の目についてしまったときのことを考えてのことです。そして、私や生徒個人が発言したときのクラス全員の反応や顔色なども覚えている限り記しました。
また、各回にはその話をすることになった理由を「きっかけ・ねらい」または「状況」に、その話を効果的に生徒に伝えるための方法を「手順・工夫」に書いてあります。さらに、話した後の後日談や反省などがある場合はそれを「こぼれ話」に残しておきました。こららの部分も「実際の会話」と併せて読んでいただければ、各回の話をなぜ私がしたのかやその話の効果の度合い等をご理解いただけると思います。
◆巻末の「あとがきに替えて」-公開授業参観者の感想と卒業時の生徒寄書より-
本指導の主な目的は、私個人の視点から言うと2つありました。1つは、年に一度行われる公開授業を見に来られる200名以上の先生方や日頃から間断なく授業見学に来られる先生方に納得してもらえるだけの授業を行えるように、自分と生徒との良好な人間関係を築くことでした、もう1つは、卒業時に生徒が自分のクラスにいられたことを幸せであったと感じられるように、生徒同士の人間関係が安定したクラス、すなわち生徒一人一人が安心して過ごせる環境を作ることでした。
そこで、巻末に3年次の公開授業を参観された先生方の感想の中から学級経営に関することにふれていると思われる部分を抜粋したものと、卒業式の日に生徒からもらった寄せ書きの内容を載せました。それらをお読みいただければ、私が3年間にわたって上記2つの目的のために努力したことは無駄ではなかったことがおわかりいただけるでしょう。
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