【きっかけ・ねらい】
今回の話は、運動会当日の終礼で話したものです。3年1組が所属する「赤組」は、ある大きなハプニングが原因で優勝を逃して準優勝となりました(詳細は【こぼれ話】参照)。表面上は平静を装っているリーダーやその他の生徒たちが、本音では相当がっかりしていることが手に取るようにわかっていたので(実は担任も同じ気持ちでした)、優勝を逃したことがわかった時点で何を終礼で話すかを考え始めました。ただ、優勝を逃したという事実に対して、そのまま「残念だった」という方向で話すのは余りにも工夫がなく、かと言って優勝を逃した理由を追及するのは教育的ではないと思ったので、むしろそれをプラスにとらえる方向の話にすることにしました。
【手順・工夫】
リーダー6人がそれぞれ自分の想いを語った後に話すことになったので、彼らの話と齟齬が生じてはいけないと考え、かつ彼らの想い自体へも寄り添う必要があるとも思い、彼らの話をよく聞いてから実際に話す内容を調整することにしました。
【実際の会話】9/19
T:さて、まずはみなさん、(教卓の上から表彰状を取って)競技準優勝、おめでとうございます!(※本校の運動会には競技部門とパフォーマンス(ダンス)部門がある)
S:おおお~!!!(続いて拍手が起こる)(※喜んだのは意外であったが、おそらくリーダーたちの話に対する彼らなりの気持ちの表し方であったのだと思われる)
T:そして…、みなさん…、優勝しなくてよかったね。
S:(「いったい何を言うのか?」という驚いた顔になる。リーダーたちは下を向く)
T:こんな言い方をすると、怒る人もいるかもしれないけど…、特にリーダーたちはそうかもしれないけど…、先生はある視点からそう思っています。
S:(話の方向がわからない様子)
T:だって、そうでしょ? もし優勝していたら、その前にどんなことがあっても消えてしまう。大喜びになって…、有頂天になって…。運動会中に、もしかしたら反省しなければならないことがあっても…、実際にあったわけだけど…、勝っていたら、そういうことをみんな忘れてしまう。帳消しになっちゃう。でも、こうして優勝を逃して、なぜそういうことになったんだろうって考えることも含めて、見直すことができるじゃないですか。
S:(前向き思考の傾向がある女子数名がうなずく)
T:だからね…、先生はみんなのことを考えると…、担任として、教師として、ある意味で優勝を逃したのはよかったと思っている。もちろん、悔しいという気持もあるけど、そのお陰で学べることがあったじゃないですか。
S:(再び女子数名がうなずく。他の生徒もやや前向きな表情になる)
T:ということで、優勝できなかったことを前向きにとらえましょう。
S:(多くがうなずく)
T:では、リーダー6人に対して先生から一言。
リーダー6人:(やや恥ずかしそうにしながら、かしこまる)
T:まず、パフォーマンス・リーダーの2人はよいものを仕上げてくれたなって、感謝しています。
A男・B子(パフォーマンス・リーダー):(はにかみながらうなずく)
T:正直に言うと、最初のときは大丈夫かなって思いました。いや、君たちが悪いっていうことじゃなくて、みんながあまり動かなかったりして、他のクラスに比べてやや遅れているなと思いました。でも、今日もビデオを撮りながら全クラスのパフォーマンスをじっと見ましたけど、優勝した5組と比べてもまったく遜色ない仕上がりだったと思います。
B子:(嗚咽をこらえながら泣き出す)(※その理由は【こぼれ話】参照)
T:(B子の様子にあわてて)いや…、これは本当だよ。別に無理にみんなを喜ばせようとしてして言っているんじゃない。多分、体育の時間に見せてもらうことがあると思うけど…、先生が終礼とかで見せてもいいけど…。体育の時間に他のクラスのものも見せてくれたら、比較してごらん。みんなは客観的に自分たちのダンスを見てないからわからないと思うけど…。(B子の様子を見る)
B子:(まだ泣いている)
A男:(担任がB子を見るのを制止するようなジェスチャーをする)
T:自分では客観的に見られていないだろうから…、ビデオを見てごらん。きっと、そんなに変わらないっていうことがわかると思うよ。本当だよ。サーっと広がって隊形を作るところなんか見事で、見応えがあったし、動きもよくそろっていてよかったよ。
S:(B子のために、もうそれ以上話をしない方がいいというような表情をする)
T:次にクラス・リーダーの2人。このクラスをまとめるだけでなく、ある時は他の学年のことまで考えてくれて、いろいろやってくれていたよね。
C男(クラス・リーダー):(下を向いて黙っている)
D子(クラス・リーダー):(ニコニコしている)
T:(C男・D子に)本当にお疲れ様。
B子:(ようやく泣き止んで、笑顔を作り始めている)
T:(B子にも聞かせるように)この組には涙は似合わない。だから、笑顔でいることにしよう。そうそう、涙が似合わないって言えば、7月のAA子さんのお別れ会のときに面白いことがあったなあ…。5組も同じようにBB子さんのお別れ会をやったわけだけど、2つのクラスの様子が対照的だったって話…、みんな知ってる?
S:(数名が「聞いている」とうなずき、それを見た他の生徒も興味津々の顔になる)
T:5組ではさ、最初からみんなの一言が涙涙の連続だったんだって。みんな泣いちゃって。うちのクラスはどうよ。みんな笑いの連続だったじゃん。一人一人の発言にみんながちゃちゃを入れたりして…。それが1組なんだよ。涙は似合わない。
E男:あれってさ、F男が「28番目の友達でした」なんて言ったから、みんな笑いになっちゃったんだよな?
F男:(特に表情を変えることなく聞いている)
S:(E男の発言内容にああだこうだとざわつく)
T:(その話は切って)で、最後にチーム・リーダーの2人へ。これはそれぞれにコメントしましょう。まず、G男くん。
G男(チーム・リーダー):(何を言われるかと緊張している様子)
T:正直に言って、先生は心配してました。
G男:(以前にリーダーとしての態度を担任に叱られており、言われたことにうなずく)
T:ただ、最後はやはりリーダーとしての男気を見せてくれたね。
G男:(首だけを前後に上下して、恥ずかしそうに感謝の意を表す)
T:それから…、これは某国語科の先生に言われたことなんだけど…。
E男:CC先生だ!
S:(「○○先生だ!」といろいろな先生の名前を出してざわつく)
T:まあ、国語科の某先生以外にももう一人そうおっしゃっていたようですが、G男くんの話が10人の話の中で一番良かったって。
S:おおお~!!!(続いて拍手が起こる)
T:先生も、一番最初に話した人にしては、よくあんなことを言えるなって感心しました。自分より前の人の話を聞いてから修正するっていうことはできないわけだからね。
G男:(恥ずかしそうにしている)
T:君は政治家になれるんじゃないかなあ…。
S:おおお~!!!
G男:(恥ずかしそうにしている)
T:それからH子さん。
H子(チーム・リーダー):(体をこちらに向けて話を聞く準備をする)
T:あなたは本当に頑張ってくれましたね。きっと大変な苦労があったと思います。
H子:(事情を担任が知っていて言っていることを了解しているという表情)
T:あなたはさっき泣きながら話をしましたが、実は先生は閉会式のあなたのスピーチで涙を流してしまいました。
H子:(驚いたような顔になる)
S:えええ~!
T:あなたのスピーチの中に、このクラスの人のことを言った部分がありましたよね?
(※前話「72.「4つの『あ○○○ない』(運動会に向けて③)」の【こぼれ話】参照)
あなたのあの話を聞いていたら…先生は感動してしまって…、涙を流してしまいました…。(声が少し涙声になり)今も話していると涙が出てしまいそうです。
D子:先生、泣いてる!
T:泣いてなんかいないよ。涙は似合わないからね。
D子:うそ。目に涙がたまってるのが見えるもん!(※D子が言っていることは事実)
C男:(D子に)それ以上言うなよ。
T:ということでね。あとはみんなにも言っておきたいんだけど、みんなが一生懸命頑張っている姿を見させてもらって、楽しませてもらいました。もちろん、ハラハラ・ドキドキの場面も含めてね。昨年のこの会で、確かクラス・リーダーのI子さんが、「来年は先生念願の競技優勝をプレゼントしたいと思います」と言ってくれていたので、ちょっと期待していた部分もあったのですが…。
I子:(「そんなこと言ったかな?」というような顔をしている)
T:優勝よりも貴重なものを体験させてもらったように思います。どうもありがとう。
S:(一瞬の沈黙の後にパラパラと拍手が起こり、次第に全員の拍手になる)
【こぼれ話】
まず、件の優勝を逃したということについて説明します。実は、最終種目である「選手リレー」(各学年のクラス代表選手のリレー)を前に、得点表示板に示された得点差から言うと、赤組(1~3年の1組連合)の優勝は決定的でした(最終種目が最下位であっても、得点差から2位のチームには抜かれないことがわかっていた)。ところが、レースが終わった後に赤組リーダーが全員本部席に呼ばれ、何やら審判団(生徒と教員)からの説明を受けていました。20分近い協議の結果、最終種目の選手起用に重大なルール違反(代理で出た2年生男子がリレーに3種目以上出た)があり、“失格”となって得点は「0」。そのせいで合計得点が青組に抜かれて2位になったのでした。その事実に赤組生徒120人は呆然となりました。今回の話は、そのような事態に対する生徒の気持ちを落ち着けるための話だったのです。
一方、担任の話を聞いているうちにパフォーマンス・リーダーのB子が泣き出してしまった理由は、その後に育鳳館(講堂)で行われたリーダーの反省会後にわかりました。1組のリーダーの女子3人が挨拶に来てくれて、その際にB子が「先生が『感謝しています』なんて言ったので、涙が出てきてしまいました」と言いました。B子を悲しませてしまったのではなかったことがわかって、少しホッとしました。
なお、以前の話で何度か話題になっていた休みがちな生徒3人のうち2人は、運動会当日の朝から終礼まで、他の仲間と一緒にほぼすべての活動に参加しました。
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