【きっかけ・ねらい】
この話は、まったく予期せぬことから話し始めたものでした。実は、直前の「48.新たなる出発」にもあるとおり、年度当初はどうしても生活態度をきちんとさせようという思いが強かったために、生徒と距離を少し置かざるを得ない態度で終礼の話をしていたので、その状況を少し変えたいと思っていました。そこで、この日も出勤途上の電車の中で数日後に話そうと計画していたこと(「50.密かな企て」参照)の粗筋を書いていたところでした。ところが、終礼中の話でその日に生徒と共有したちょっとしたことに触れたとたんに生徒の関心が急に高まったのを感じたので、そのまま気の向くままに話を楽しむことにしました。
【手順・工夫】
まったく突然のことだったので、事前に話の手順などは考えておらず、当然ながら話を面白くする工夫などもありませんでした。しいていえば、その日の1時間目に保護者の授業参観に便乗して体育の授業を見学し、生徒が行っていた体力測定のハンドボール投げに飛び入りで参加したときのことを面白おかしく話そうと、手帳に「体育の授業のこと」とメモしてあったことくらいでした。
【実際の会話】5/2
T:(手帳を見ると「体育の授業のこと」とあるが何のことだか思い出せない)え~と、困ったなあ…。何のことだかわからないや。まあ、いいか…。
S:(キョトンとしている)
T:え~と、今日は4時間授業参観がありましたが、みなさんはどうでしたか?
S:(反応はない)
T:英語の授業は今までで一番声が出なかったなあ。やっぱり親が見ていると恥ずかしいかい?
S:(苦笑いをしている)
T:実は、さっき卒業生で今度教育実習に来る人にその話をしたら、「あれって研究協議会よりいやなんですよね。研究協議会のときはいい子ぶってればいいんですけど、保護者の授業参観はそうはいかないじゃないですか。親が自分のことだけを見ているのを知っているので、ただいい子にしていればいいというわけにはいかないですし…。絶対に見に来てほしくない授業なんです」って言っていました。みんなもそうでしたか?
S:(うなずいている生徒と笑っている生徒がいる)
T:なるほどね…。(メモのことが何だか思い出す)あっ!そうだ!何のことだか思い出した!「体育の授業のこと」ね。
S:(笑っている)
T:今日の1時間目の体育の時間は先生もハンドボール投げをしましたが、先生はその結果が悔しくて仕方がありません。たった23メートルしか飛ばなかったからなあ。A男君には10メートル及ばなかったし…。
A男:(突然名指しされて苦笑いをしている)
B子:先生、23メートルも飛んだなんて、すごい!
C男:A男って33メートルも飛んだんだ。
T:そうなんだよね。D男くんなんか34メートルだもんなあ。
D男:(恥ずかしそうでもあり、自信に満ちた顔でもある)
T:先生も本当に歳をとったなあって実感したよ。
S:(「そんなもんかな」とあまり関心のなさそうな顔)
T:歳をとったと言えば…、みんなもそのうちそのときが来るだろうけど…、ある時に急に身体が衰える時が来るんだよね。よく言われるのが「厄年」というやつ。聞いたことある?
S:(数名がうなずいている)
T:男の人の場合は数え年で42歳の時が厄年。実は、先生は数年前に厄年を迎えたんですが、この年に大変なことを経験したんですよ。
S:(興味津々の顔をしている)
T:(生徒の反応に対して調子に乗る)この年にねえ、「四十肩」をやったんですね。四十肩って知ってる?
S:(ほとんどの生徒が「知らない」という顔つき)
T:急にね、肩が痛くなって動かなくなってしまう病気というかけがみたいなもんなんだけど。先生の場合は最初に右肩が痛くなって、1ヶ月後には左肩まで痛くなって、両腕がここ(顔のあたりに手を挙げる)までしか上がらなくなっちゃったんですよ。
S:(妙に真剣に聞いている)
T:そうなるとね、困ることがあるんですよ。一番困ったのは何だかわかる?
E子:電車ですか?
T:(吊革のことを言っているらしいことに気付かなかったが)そう、電車もそうだね。特にドアに荷物がはさまれて荷物を引っ張ったときなんか、肩に電気が走って、「イテーッ!」ってなって大変だった。大声を出せないから「ウ~ン…」ってうなっていたら、周りの人が「この人どうしたんだ?」っていう顔をして離れていったもんなあ。
S:(笑いが起こる)
T:もっと困ったことがあったんだよ。ここ(顔のあたりまで手を挙げて)までしか上がらないってことは…?
F子:あっ、わかった!黒板だ!
T:ピンポ~ン!そのとおり!黒板にチョークで書くでしょ。ところがここまでしか上がらないから、こうやって(後ろを向いて背伸びする)背伸びして書くわけですよ。ところが、生徒は事情を知らないから、「先生、何やってるんですか?」ということになるわけ。
S:(笑いが起こる)
T:(益々調子に乗る)それから生活上も困ったことがいくつかあったんだ。一番困ったことは何だと思う?
S:(興味津々の顔をしているが誰も答えない)
T:それはねえ、服が脱げないんですよ。
S:ああ!
T:肩が回らないでしょ?だから袖が抜けないわけ。一人で上着を着ることも脱ぐこともできないから、生徒に「ちょっと袖を引っ張ってくれない?」って言って脱いだりしていたんだ(一番前の生徒に袖を引っ張ってもらうような仕草をする)。
S:へえ~!
T:上着だけじゃないよ。腕をこうやって(腰に回す)後ろに持って行くことができないでしょ?そうすると、ズボンもまともにはけないし、シャツが出ていてもそれを入れることができない。まあ、散々だったね。
S:(ニコニコ笑っている)
T:みんなのご両親も厄年を迎えて同じようなことを経験している方もいらっしゃるんじゃないかなと思いますが、どうですか?
S:(反応はない)
T:だからね、今日ああやってハンドボールを投げられただけでも先生にとってはすごいんですよ。一年半くらいかなあ、リハビリをして腕が回るようになったのは。本当に痛かったときなんか、先生方でソフトボールをしたときも、ボールを捕っても投げるときはこうやって(下投げの仕草を何度もする)投げたもんです。
S:(笑いが起こる)
G男:先生たちって、ソフトボールなんかするんだ。
T:今はね、こうやって(オーバースローを見せる)また上からボールを投げることができます。
S:(優しい笑顔で見てくれている)
T:(さらに調子に乗る)ただね、これにはある直接の原因があったんです。
S:(「何だろう?」という顔)
T:それはね、先生は実は逆立ち歩きができるんですよ。
S:へえ~。
T:それでね、運動会の前の合同練習の時だったかなあ。ある男子生徒が逆立ち歩きをしていたから、「じゃあ、競争するか?」って先生の方から言ってみんなの前でやったんだね。ところが、逆立ちしたとたんに「グキッ!」って来て、「イテーッ!」ってことになっちゃった。
S:(笑いが起こる)
T:まあ、自分の歳も考えず、若気の至りっていうやつだったね。以来、先生は逆立ちを一切しないことにしています。
S:(「シ~ン」とした沈黙)
T:ということで、今日はつまらない話をしました。これでおしまい。
S:(穏やかな笑顔で満足げな顔をしている)
【こぼれ話】
今回の話は新年度が始まってからの生徒とのややギクシャクした関係を少し和らげる働きがあったかのではないかと思っています。精神的な発達と共に教師の思い通りに行動しなくなってきた生徒に対して、こちらが一方的にややいらだった態度をとっていたので、生徒の方も担任を何となく近寄りづらく、また話しづらい存在に感じていたのではないかと思っています。それが今回の話で少し改善されたように感じます。
もっとも、それは終礼の話に先立って、1時間目の体育の授業に飛び入りで参加して生徒と共にその時間を過ごし、2時間目の数学の時間も保護者の間に紛れて(多くの生徒が気付いていましたが…)授業を見ていたということがあったのも生徒の心を和らげたのではないかと思っています。たまたま空いていた時間でしたが、その時間をすべて自分の仕事に費やさなくてよかったなと思っています。
「49. 若気の至り」は、自分がもう少し若い頃にやらかした失敗談を生徒に紹介したものです。1年間生徒の“模範”になるように突き進んできた(?)ので、すこしズッコケタ話をすることで、生徒に親しみを覚えてもらうことを目的としたものです。
50. 密かな企て
51. 十年に一度の話
52. 人生初めてのできごと
54. 卒業生の心意気
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