38. 次への第一歩(合唱発表会を終えて)

【きっかけ・ねらい】

12月上旬に行われた合唱発表会に関しては、約1ヶ月にわたって生徒の意欲向上をねらった話をし続け、当日の好発表に多少なりとも貢献できたと思っています。

 

そこで、この行事への取り組みに関わってきたことのまとめとして、生徒の活動に対する担任としての評価を伝え、生徒の学校生活全般における意欲向上をねらった話をしようと思いました。

 

【手順・工夫】

まず、自分が話そうとする内容に集中させるために、全員に関係する質問を投げかけ、答えを拾いながら話を進めようと考えました。特に、保護者の来訪と家庭での話し合い

の内容を問うことは、その後の話につながるものとしての役割もあると考え、忘れずに入れようと思いました。

 

次に、合唱が始まる前から終わった後までの自分の率直な気持ちを述べ(自己開示し)、生徒の努力の成果を表面的なことばではなく、心の底から出てきたことばでほめてあげようと思いました。

 

【実際の会話】12/9

T:今日は1時間目に音楽の時間がありましたよね?

S:3時間目です。

T:あれっ?そうだっけ?

S:そうです。

T:おそらく、その時間に昨日の発表についての振り返りがあったでしょ?

S:(反応無し)

T:(責任者のA子に向かって)A子さん、きっと責任者のことばとかあったんでしょ?

A子:はい、ありました。

T:そうだと思いました。だから、この場ではもうそれ以上のことを言ってもらおうとは考えていません。

A子:(安心したような顔)

T:それで、その時間に昨日の合唱のビデオを見せてもらいましたか?

B子:音だけです。

T:音だけ?

C男:天井から吊されていたマイクで録った音です。

T:へえ、そうなんだ。じゃあ、ビデオは見てないの?

S:見ていません。

T:まあ、それもそのうち見せてもらえるでしょう。それで、その音だけを聞いて、みんなは自分たちの合唱をどう思いましたか?

S:(答えに迷っているようで、反応したそうな顔をしているが声は上がらない)

T:例えば、「よかった」とか「まあまあだった」とか「だめだった」とか。

D子:まあまあというところでしょうか。

T:みんなもそうなの?

S:(数名がうなずいている)

E男:すごかったです。

T:「すごかった」って何が?

E男:マイクの感度が。

T:そうなの?どうすごかったの?

E男:ちょっとした細かい音まで拾っているんです。

T:へえ、そうなんだ。先生もいつかそれを聞かせてもらおうっと。

S:(全体としてはまだあまり話に関心がない)

T:ところで、保護者の人がいっぱい来ていたようだけど、みんなの中で保護者が見に来てくれたっていう人はどのくらいいるの?

S:(ほとんどの生徒が一斉に手を挙げる。数えると、挙げていないのは6人だけ)

T:(驚いて)へえ~!そんなに多くの人が見に来てくれたんだあ。

S:(手を挙げなかった生徒が寂しそうな顔をしている)

T:はい。では、手を下ろしてください。それで、その中で、家に帰ってから合唱のことが話題になった人はどのくらいいるの?

S:(女子を中心に十数名が手を挙げる)

T:(F男に向かって):F男くん、君のうちではどういう話があったの?

F男:「とても上手だった」って言ってくれました。

G子:「5組が一番だった」って言ってくれました。

T:そうかあ。他の人もだいたいそういう話だった?

S:(手を挙げた生徒のほとんどがうなずいている)

T:それはよかった。じゃあ、先生がどう思ったかを話します。

S:(みんなこちらを向いて聞こうとしている)

T:まず第一に嬉しかったことは…、何だと思いますか?

S:(しばらく沈黙する)

H子:全員で歌えたこと…?

T:そのとおり!入院していた○○さんも一緒に歌えたでしょ?一人でも欠けたら残念だからね。41人全員で歌えたことが一番よかった。あっ!ちなみに○○さんは土曜日から登校できることになりました。

S:オ~!(拍手が起こる)

T:それで…、結論としては…、他のクラスとの比較はさておいて、みんなのことだけをいうと、本番の発表はこれまでで一番よかったと思います。

S:(あまり具体性のない感想だったためか、ほとんど反応がない)

T:声の大きさ、ハーモニーの美しさ共に今までで最高でした。

I子:ありがとうございます。

T:それで、ちょっと面白い話があるんだけど…。

S:(急に関心が高まったような顔になる)

T:みんなも自分たちの発表が近づいてきたら緊張してきたと思うんだけど、実は先生もドキドキしちゃって、みんなの発表が近づいてくると、ビデオを撮りながら手が汗でびっしょりになっちゃってね。

S:(笑っていいのか戸惑いながらもニコニコしている)

T:それで、いよいよみんなの番が来たでしょ。最初の出だしの声がどんなふうに聞こえるだろうかって、ヘッドホンをこうやって(頭に押しつける仕草)ギューっと押さえてドキドキして待っていたら、バ~ンってすごい声で始まったから、もう嬉しくて嬉しくて。

S:(喜びを共有してくれている様子)

T:それで、最後まで行って、無事に歌い終えたでしょ。そうしたら感動して、なんだか急に力が抜けちゃいました。

S(「やれやれ、そこまでならなくてもいいのに」という表情)

T:でも、そのせいで、みんなのクラスだけ撮影に失敗しちゃいました。

S:(「えっ?どうしたの?」という驚きの顔)

T:他のクラスのときは失敗しちゃまずいと思って、細心の注意をしていたんだけど、

 そのときはうっかり「ふう~」って力が抜けちゃって、他のクラスではやった操作をみんなのときだけ忘れちゃったんです。

S:(ニコニコ笑っている)

T:何を失敗しちゃったかというと…。まあ、それはビデオを見せてもらったときに探してみてください。ちょうど歌い終わった直後の部分です。気づくかなあ…。まあ、とにかく…、立派な発表ができてよかった。

S:(ニコニコ笑っている)

T:でもさあ、あれだけいい発表をしちゃうと困っちゃうよね。

S(「いったいどういうこと」?という顔)

T:だってさあ、今年あんなにすごい合唱しちゃったら、来年どうするのよ?

I子:先生、それってほめられているんですか?

T:そうだよ。2年生でね、あれだけのものができたら、来年はどれだけいいものになるのかって、先生はすごく期待しちゃうな。

S:(まんざらでもない、自信のありそうな顔)

T:きっとね、すごい発表をしてくれると思うんだけど、気をつけてほしいことがあるんだ。

S:(「それは何?」と強い関心を示している)

T:まず大切なのは、何と言っても選曲だね。今年さあ、あんないい曲を歌っちゃったら、来年はどうしようね?

S:(天を見上げて想像している者がいる)

T:それで、そのときに選んじゃいけない曲といえば?

S:英語の歌!

T:そう。これは前から何度も言っているよね。次にやめた方がいいのはポップス。

J男:なんでですか?

T:そもそも流行歌と合唱曲というのはちがうんだよ。

I子:ポップスでもちゃんと合唱曲になっているんだからいいじゃないですか?

T:やっぱりね、聞いたり一人で歌ったりして心地よい曲というのと、みんなで歌ってうまく聞こえる曲ていうのはちがうんだよ。

J男:でも、1組(松田聖子の「瑠璃色の地球」)もよかったと思います。

T:なるほど。そう思った人もいるんだね。

I子・J男:(自分の意見が中途半端に扱われて、少し不満そうな顔をしている)

H子:「虹」よりいい曲ってあるのかなあ…。

T:もちろん、探せばきっとありますよ。だから、来年もいい曲を選んでください。

 とにかく、今年はとてもすばらしい合唱ができました。それで、先生もそれを楽しませてもらいました。来年もどうか頑張ってください。

S:(嬉しそうにしている)

T:では、今日はこれでおしまい。

 

【こぼれ話】

これでようやく約1ヶ月にわたって行ってきた指導に一区切りを入れることができました。前回の話(「37.第4の段階(合唱発表会に向けて②)参照)が当初の予定より大幅に壮大な話になってしまったのは、合唱発表会に少々入れ込みすぎたからでしょうか。

 

さて、今回のやりとりでは今までにない面白いことがありました。1つは、以前のように単に私の話をそのまま受け入れるのではなく、自分の考えをきちんと主張する生徒がいたことでした。そうした生徒の心の訴えを拾ってあげることも終礼の話の大切なことだと思いました。

 

また、合唱発表会の直前にあった後期中間考査の結果がこの日に出されたのですが、クラス全体の成績が大きく伸びており、成績上位者が増え、下位者が減りました。合唱発表会への取り組み姿勢と学習成績向上との間の因果関係ははっきりわかりませんが、個人的には学校生活全般に張りがあったことが、学習面にも影響を与えたのではないかと思っています。これには、その前にあった学芸発表会の活動に対する成就感(成功感)も影響しているかもしれません。

 

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