【きっかけ・ねらい】
この話は、生徒を少しずつ自立させるための段階的手段として行ったものです。実は、このクラスの生徒たちは比較的大人の雰囲気を持っており、2年生の半ばですでに本校の3年生レベルのメンタリティーがある集団になっていました。ところが、担任である私が実際の精神年齢よりも少し低い生徒に対するように接していたために(過保護な保護者のように接していたため?)、生徒は必要以上に担任に頼ってしまう傾向がありました。そこで、この辺りで少し生徒を自分の元から離していくような話をしていかなかればならないと考えて今回の話を企画しました。なお、後半の話は、前期終業式開始直前に育鳳館(講堂)に並んでいた約600脚のイスを片付けるために、その前日に「早く来た人から終業式後の面接をする」と話したことが元になっています。
【手順・工夫】
いつものことですが、生徒の関心を引くよう視覚的にデータを示し、そこから伝えたい内容に迫るようにしました。また、生徒とのやりとりを楽しみつつも、必要以上に子供っぽいやりとりにはならないように注意しました。
【実際の会話】10/28
T:これからお話しすることは、後期の始業式直後に話そうと思っていたことなのですが、いろいろな事情で見送らざるをえなかったので、今日話させてもらいます。
S:(聞く準備はあるという顔)
T:これから、いつものようにデータを示します。(黒板に縦に「しよあし」と書く)。
もうこれは何度も取り上げていることなので、何のことだかわかっていますよね?
一応、確認しましょうか。「し」は何ですか?
A男:「失礼します」!
T:そうでした。「よ」は?
S:(数名が)「よろしくおねがいします」!
T:「あ」は?
S:(多くの生徒が)「ありがとうございました」!
T:最後の「し」は?
S:(多くの生徒が)「失礼しました」!
① | ② | ③ | |||
し | 24 | → | 38 | → | 35 |
よ | 27 | → | 32 | → | 33 |
あ | 38 | → | 40 | → | 36 |
し | 29 | → | 38 | → | 36/39 |
T:そうでした。最初にこのことを話したのは4月に非公式に行った面談でした。その時のそれぞれの人数は…、この手帳に書いてあるのですが(手帳を見る)…、それぞれ上から24、27、38、29でした(①と数字を「しよあし」の右側に書く)。
S:(数名が関心なさそうにしているが、多くはよく見て聞いている)
T:2回目は、前期の終業式…、じゃなかった、7月の個人面談でした。そのときの数字はこうでした(矢印と②とその下の数字を順に書いていく)。
S:(②の数字を書く度に反応がある。特に「あ」の40には大きな反応がある)
T:おっ!言わなかったのは誰かな…?
S:(笑い声が起こる)
T:さて、そこで、3回目の前期終業式の日はどうだったかというと…(③を順に書いていく)
S:(「よ」以外は数字が下がったことに反応がある)
T:どうやら少し気が抜けてしまった人がいたようで、若干数が減ったところがありました。ただ、今回は分母が39だったから(「/39」と書く)、5%くらい低いのはしかたがないかもしれません。ちなみに、4つのすべてを言えなかった人は一人もいませんでした。数名の人が数カ所で言い忘れがあったということです。
S:(笑顔で聞いている)
T:それで、なぜこんな細かいデータがあるかというと、面接のときにここにメモしてたからなんですね(メモがある名票の裏側を見せる)。
S:(何が書いてあるのかと注目して見ている)
T:これは誰が何番目かという整理券の番号を書いてあった名票ですが、その裏側に「正」の字で書いていたんです。どうやって書くかと言うと、みんなが準備室に入ってきたときに「あっ、言ったな」と記憶しておき、始まりと終わりにも「言ったな」と記憶しておき、準備室を出て行くときにも聞き耳を立てて「言ったな」と記憶し、次の人が入ってくるまでに、名票を裏返して「正」の字を書いていたんです。
S:(ニコニコしながら聞いている)
B子:へえ、そんなことしてたんだ~。
T:ということで、詳しいデータをとっていたわけですが、これからはデータをとるのをしばらくやめようと思います。
C男:先生、そんなこと言って、またやるんじゃないんですか?
T:いや、少なくともしばらくの間はやらないつもりです。その理由は2つあります。
1つは、数字を見てもらえればわかりますが、もうほとんどの人がきちんと挨拶ができていますよね。もちろん、全員ではなかったわけですが、おそらく何らかの事情でうっかり忘てしまったとか、先生が何か言ったからタイミングが悪くて言えなかったとかいう事情があった人もいたと思います。少なくとも、先生がこれまで言ったきたことをみんなが理解してくれたと判断しています。
S:(何となく満足げな顔をしている)
T:2つ目の理由は、先生が疲れてしまうからです。
S:(予想していたことではあるが、「なんで?」という顔をする)
T:それはね、みんなと面談するのだって大変なんですよ。これでもけっこう気を遣って話しているんです。その上、これをやるとなると、さっきも言ったとおり、面接と面接の間も気が抜けない。つまり、4時間半もの間ずっと緊張が続いているわけなんです。まあ、自分で勝手にやっていることなので自分が悪いんですけど(笑)。ということで、しばらくやめようと思っています。ただね、印象だけは話そうと思います。「この頃、全体的に挨拶ができなくなってきたような気がするよ」とかね。
S:(予想していたよりも辛抱強く聞いている)
T:それから、これも先週の間に話しておくべきことだったんですが、終業式の前にみんながすごい勢いでイス片付けをしてくれましたよね。そのときのお礼をきちんと言っていませんでした。確かあのときは、「まったく、みんなはニンジンをぶらさげるとちゃんとやるんだから…」みたいな皮肉混じりのことを言ったような気がします。でもね、あの後、「あ~あ、なんでオレはすぐにああいう皮肉を言ってしまうんだろう。もっと素直にほめてあげればよかった…」って反省したんです。
S:(こちらが素直に自分の気持ちを話したことに面食らったのか、真剣に聞いている)
T:そこでね、関連のデータをもう1つ示しましょう。(名票に書
いてあった時刻を見ながら右表の数字を書いていく)
20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 計 |
10 | 15 | 6 | 3 | 1 | 1 | 1 | 0 | 1 | 38 |
D男:育鳳館に着いた時間だ!
T:そう。何分に何人の人が来たかという記録です。8:28までに来るべき人38人全員が来ていたということです。
E男:でも、先生、ぼくはその時間にはまだ護国寺にいたと思いますけど…。
T:そんなことはないよ。先生、君が来ていたの覚えているよ。それに、ここにも8:24に来たという記録があるし。
E男:でも、駅にいたと思うんですけど。
T:それって、別の日のことじゃない?
S:(笑いが起こる)
T:それで、注目してもらいたいのは、開門直後の2分間に4分の3の人が来てくれていたことです。しかも、ものすごい勢いでイスを片付けてくれた。これは予想外だったので、あわてました。というのも、事前にAA先生(学年主任・保体科主任)から男子数名をテント片付けに貸してほしいと頼まれていたのに、AA先生がそこにいなかったからです。急いで体育準備室に行って、AA先生に「大変です!もうみんな来ていて、終わっちゃいます!」って言ったら、AA先生が「なにっ?じゃあ、すぐに行きます!」って。
S:(ニコニコしながら聞いている)
T:あのときのみんなのパワーはすごかったなあ。まあ、当番でやってもらったわけだから、お礼を言うというのもおかしいんだけど、本当にみんなが協力してやってくれたので助かりました。ありがとう。
S:(満足げな顔をしている)
F子:先生、音研(音楽研究会)の舞台練習があるんですけど…。
T:大丈夫。(↑)という人もいるようですから、これで終わりにします。
【こぼれ話】
実は、この後に「これだけできた人たちなのだから…」と生活上の改善点を指摘するつもりでいました。しかし、その後の活動に気を奪われている生徒が見受けられたことや、たまには心地よい話だけで終わるのもいいかなと瞬時に考え、計画していた注意事項を話すことはやめました。
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