【きっかけ・ねらい】
この話は、当初夏休み明けの9月初日に話すつもりのものでした。それが都合により割愛せざるをえなかったので、改めて前期最終日の話に構成し直したものです。元々は、夏休み直前の7月最終日に実施した「学級満足度調査」というアンケートの結果が比較的良好であったので、それをクラスの雰囲気向上と生徒指導問題の予防に利用しようと企画した話でした。そして、それを後期が始まるとすぐに行われる学芸発表会への取り組み姿勢を向上させることにつなげられないかと目論んだものでした。
【手順・工夫】
実は、その日の前期終業式の直後に行われた学年集会で、2年生全体に学習指導上重要なこと(授業態度の改善、提出物の厳守等)をかなり強い口調で長時間語ってしまっていたので、まずは生徒の聞こうとする心を開かせる工夫を冒頭にすることにしました。次に、生徒が話に乗ってきてくれるよう、かつて何回か行ったことのある、データを示すことによってそれが何を意味するものなのかを考えさせるという手法を採ることにしました。そして、結論として言いたいことを説得力のあるものにするために、ある有名なエピソードに使われたことばを引用することにしました。
【実際の会話】10/13
T:これから前期最後の話をしたいと思います。体育のアンケートを書いている人は一端手を置いてこちらを見てください。
S:(全員が素直にこちらを見る)
T:学年集会で厳しい話をした先生がこうして何か話そうとすると、また何か叱られるのではないかと思うかもしれませんね。これから話そうと思っていることはみなさんを叱ろうと思っていることではなく、おそらく耳に心地よい話だと思うので、安心してください。
S:(ホッとしたような顔になる)
T:今日はみなさんにとってはある記念日ですね。
S:(「いったい何のこと?」というキョトンとした顔をしている)
T:何の記念日だかわかりますか?ヒントは「6分の3」です。
A子:2分の1!
T:確かに2分の1ですね。でも、それでは答えになっていません。次のヒントは今日の学年集会でAA先生(学年主任)が話したことに関係があります。
B子:ノーベル賞!
T:残念。その話ではありません。他に何を話したか覚えていませんか?
S:(みんな一生懸命思い出そうとしているが思いつかないようである)
T:AA先生が最初に言ったことなんだけどなあ…。
C男:折り返し地点!
T:そう、そのとおり! だけど、何の折り返し地点?
D男:中学校生活!
T:そうですね。今日は中学校生活の折り返し地点、つまり中学校生活がちょうど半分過ぎた日です。
E男:ああ、だから「6分の3」かあ。そういうことか。
T:わかった?6分の3の6は3年間の学期数(本校は前・後期の2学期制)。そして、それが今日で3学期分過ぎたというわけです。
A子:ああ、だから「2分の1」なんだ。
T:そうです。ところで、みなさんに聞きたいんですけど、今のみなさんの率直な気持ちは次の2つのうちのどちらですか?1つは「ええっ?もう中学校生活の半分が過ぎちゃったの~?」というやつ。もう1つは「ええっ?まだ中学校生活の半分しか経っていないの~?」というやつ。たった今のみなさんの気持ちはどっちですか?手を挙げてください。まずは「もう半分が過ぎちゃったの~?」と感じている人。
S:(数名を除くほとんど全員が手を挙げている)
T:はい、手を降ろしてください。では、「まだ半分しか経っていないの~?」は?
F子・G子:(恥ずかしそうに手を挙げる)
T:わかりました。前者が圧倒的に多いんですね。これはあくまでも一般的な傾向なんですが、おそらく「もう過ぎちゃったの~?」という人は、中学校生活が充実していて楽しくて、時が経つのを早く感じている人ではないかと思います。
S:(笑い声が起こる。上記発言の対になる内容を想像できたからであろう)
T:それに対して、「まだ半年しか経っていないの~?」という人はあまり学校生活が楽しくないとか、これまでに苦労することが多かったとか感じている人かもしれませんね。
F子・G子:(顔を見合わせて笑っている)
T:いや、これはあくまでも一般論だから、こっちに手を挙げた人がそうだと言っているわけではありません。
F子:(G子を指さして笑っている)
G子:私ねえ、これでもけっこう苦労してきているのよ!
T:ということで、感じ方は人それぞれですが、そんなみなさんに今日はまたあるデータを示したいと思います。さて、今回は何のデータでしょうか?
S:(それほど興味を示している様子はない)
T:(黒板に縦に「4 12 18 5 0 1 0」と書く)
S:(急に興味を持った顔になる)
H男:テストの点数!
I男:0があるからテストの点じゃないだろ。
T:そうです。テストの点数ではありません。さて、何でしょうか?
A子:面接の点!(過去に2回示した数字が面接時のデータであったからであろう)
T:ちがいます。点数ではありません。では、ヒントです。(数字の下に横線を引き、その下に合計を表す「41」を書く)
A子:クラスの人数!
T:そうです。確かにクラスの人数です。では、それぞれ何を表す数でしょうか?
S:(答えが想像できないらしく、反応がない)
H男:先生、合計は40で41じゃないですよ。
T:(数え直してみる)あれっ!本当だ!どこかで数えまちがえたかなあ…。
I男:誰だよ、41人なんて言ったのは?
S:(笑い声が起こる)
T:では、次のヒントです。(横に「83.2」と書く)
J男:平均点!
T:そうです。でも、何の平均点でしょうか?
B子:英語のテスト!
T:ちがうでしょう。あれはもっと低かった。
S:(しばらくの沈黙の後、数名の生徒から笑い声が起こる)
T:えっ?何?なんで笑ってるの?
K男:ハチミツ。
T:蜂蜜?何のこと?
K男:83.2だから「ハチ・ミ・ツー」
S:(笑い声が起こる)
T:なるほど。確かにハチミツだね。上手いこと言うなあ。じゃあ、次のヒント。(「83.2」の横に「81.4」と「85.0」を縦に並べて書く)
A子:男女の平均点!
T:そうです。で、何の平均点でしょう?
S:(まだ答えが想像できないらしく、反応がない)
T:では、次のヒントです。(「7/15」と書く)
A子:7月15日!
T:そうです。何の日でしょうか?
G子:菅平(林間学校の場所)!
T:残念。菅平は17日からでした。15日は夏休み前の最後の日ですよ。
S:(反応なし)
T:覚えてないかなあ。まあ、3ヶ月も前のことだからなあ…。この日にね、終礼であるアンケートを取ったんですよ。覚えてない?
L男:あれっ!確かこのクラスがどうとかこうとかいうやつじゃ?
T:そう、そのとおり!このクラスのことをどう思っているかというアンケート!
M男:ああ、そういえばそういうのあった~。
T:それで、これは15問くらいあった中の1番の答えの平均点。それは「あなたのこのクラスに対する満足度を100点満点で表してください」というやつ。
N男:思い出した!
T:でね。こっちの数字はそれぞれの得点の人数。一番上は100点でしょ(「100」と書く)。次が90点以上(「90」と書く。以下、「30」まで書く。)
M男:その「30」って俺が書いた!
T:(知っていたが、わざととぼけて)そうだっけ?
M男:俺が書いたやつ、一人だけ低いじゃん。
T:誰だったか知らないけど、そういう厳しい点を付けた人もいたね。それで、それぞれ理由も書いてもらったんだけど、どんな理由があったか読み上げるね。
S:(もう飽きたような顔をしている生徒が多い)
T:実はね、こうやって一覧表にしてあるんだよ。(B4版1枚にまとめた集計表を見せる)これはそのうちみんなに配ろうと思う。
S:(また少し関心が高まった様子)
T:この点数を見てもらうとわかるけど、低い点数を付けている人はやはりこのクラスの雰囲気について何らかのマイナス・イメージを書いているね。それはそれでとても重要な情報なので、そのことは後期の学級自治会で話し合ってもらう資料にしようと思っています。それで、今日はプラス・イメージと思われる意見を紹介します。まず、1人だけから上げられていた意見(全部で9項目あるが省略)。次に2人から出てきた意見(全部で2項目あるが省略)。次に3人から出てきた意見(全部で2項目あるが省略)。では、ここからはベスト4。いったいどんな意見が出てきたと思いますか?それぞれ表現の仕方がちがうので、共通のキーワードを拾ったんですけど。
S:(飽きてきたようで、答えが出てこない)
T:第4位。これは4人からです。「まとまりがある」
S:ええ~!?
T:どうして「ええ~!?」なの? 第3位。これは6人からです。「明るい」
S:(納得している様子)
T:第2位。これは7人からです。「雰囲気がいい」
S:(納得している様子)
T:では、栄えある第1位は何でしょうか?
K男:「うるさい」!
T:それはダメな方でしょう?いい方のわけないでしょ!
K男:(わざと言ったらしく、笑っている)
T:答えは「仲がいい」です。なんと15人がそう言っています。
M男:それってさっき出てこなかったっけ?
T:それはね、「男女の仲がいい」というやつ。こっちはただの「仲がいい」
M男:それって一緒じゃないんですか?
T:う~ん、先生は別なことだと考えて別にしたんだけど…。それで、先生はこれだけ多くの生徒が「仲がいい」と感じてくれているというのをとても嬉しく思っています。ただ、一方でアンケートの集計用紙を見ると、「仲があまりよくない」という意見もあるんです。だから、先生はそういう人にも「仲がいい」と感じてもらえるようなクラスになってもらえるといいなと思っています。
S:(あまり聞いていない様子)
T:そのためにはみんなが協力してできる行事があるといいですね。すでにこれまでにそういう行事が1つありましたよね。
M男:運動会!
T:そうですね。みんながとてもよく協力して活動できました。では、この後やってくる行事は何ですか?
M男:始業式!
T:確かにそれも行事だけど、今話していることとはちがうでしょ。
O子:学発(=学芸発表会)! ※O子は学芸発表会のクラス団体の責任者
T:そうだよね。学発ではみんなは映画をやることになりました。あっ、映画に決まるまでは劇をやろうという意見もあって、ほんのちょっとの差で映画になったわけだけど、「俺は映画には賛成しなかった」なんて言って協力しないというのはなしだからね。決まったからには、みんなで一緒にしっかりやろう。
S:(「そんなことはわかっています」という空気が流れる)
T:そこで、みなさんにある有名なイベントで書かれていたことばを紹介しましょう。
(黒板に "Take off your ego here." と書く)何と読みますか?
S:(反応なし)
T:テイク・オフ・ユア…? 次は何て読む?
S:(反応なし)
T:これは「イーゴウ」です。テイク・オフ・ユア・イーゴウ・ヒア。この「イーゴウ」ってどういう意味だかわかりますか?
N男:いご(おそらく「囲碁」を意味すると考えられる)
T:そうくると思った。そうじゃないんだなあ。ローマ字読みしてごらん?
S:エゴ。
T:そう、エゴ。エゴって知らない?
S:知らな~い。
T:えっ?ほんと?聞いたことない?
P子:エゴイズム。
T:そう、そのエゴイズムのエゴ。P子さん、エゴイズムってどういう意味?
P子:え~と…。自分勝手とかそんな…。わかりません!
T:いや、そのとおりだよ。自分のことしか考えない心とかそういうことをエゴっていうんだけど、聞いたことない?
S:(多くの生徒が首を振っている)
T:へえ、そうかあ。てっきりもう日本語になっていると思ったんだけどなあ…。とにかく、この文は今から25年前の1985年に、アメリカの有名な歌手が何十人も集まって作った歌の時に書かれていたことばなんです。その歌を誰か知りませんか?
Q男:「ウィー・アー・ザ・ワールド」?
T:そう、"We Are the World" 。(サビのフレーズを少し歌う)という曲。聞いたことはあるでしょ?
S:(多くの生徒がうなずいている)
T:それで、この曲が作られたとき、録音するスタジオの入り口の上にこのことばが書いてあったんですよ。どういう意味ですか?
S:(長時間の話に飽きてきたのか、本当に意味がわからないのか、反応がない)
T:take offは「~を脱ぐ」だから、「ここであなたのエゴを脱ぎなさい」ということ。
S:(一応、まだ話に関心がある様子)
T:なんでこんなことが書かれていたかというと、30人くらい集まった歌手達は、それこそもし日本武道館でコンサートでもやれば、みんな武道館をいっぱいにできるくらいの大スターばかりなんだね。たぶん、この曲を作ろうと呼びかけたのはあのマイケル・ジャクソンともう一人有名なライオネル・リッチーという人だったんだけど、その人たちの呼びかけでみんな集まったわけ。でも、大スターということはみんな忙しいじゃないですか。それから大スターというのはみんなけっこうわがままだし…。例えば自分はこういう風に歌いたいとかいうのがあると思うんですね。でも、そんなことを言っていたら曲が作れないじゃないですか。だから、誰かが「エゴを捨てなさ い」というメッセージを書いたらしいんです。先生がなんでそのことに詳しいかっていうと、この曲のメイキング・ビデオを持っているからなんです。
S:(話の方向をはかりかねているのか、下を向いている者が多い)
T:みんながね、映画の撮影をするときもこれが当てはまると思うんですよ。だって、みんなの中には部活を一生懸命やりたい人もいるし、委員会がある人もいるし、塾に行きたいっていう人もいるでしょ?でも、撮影をしようというときに、それぞれが自分のことばかり主張していたら撮影が進まないじゃないですか。
O子:(うなずいている)
T:だからね、学発の三役(責任者、副責任者、会計)の人たちが撮影のスケジュールをみんなに言うと思うので、そのときはみんな協力してください。Take off your ego here. そして、みんなでいいものを作りましょう。
S:(多くは聞き疲れたという表情をしているが、数名はうなずいてくれている)
T:ということで、前期最後の話をこれで終わります。
【こぼれ話】
今回の話は十分に準備して話したつもりでしたが、残念ながら伝えたいことがあまり生徒に浸透しなかったのではないかと思っています。その理由の1つは、直前の学年集会で自分が叱り役として話をしていたこと、終礼がすでに長時間になっていたこと(他のクラスは私が話し始める時点で終わっていた)という条件面によるものです。また、生徒のそういう状態を考慮せずに計画どおりすべて話そうとしたことも理由の1つだったかもしれません。せっかく準備した話なので話す機会を失いたくない、この後に予定している話の呼び水ともしたい…、そのような私の焦りにも似た気持ちが生徒に伝わってしまったかもしれません。もっとも、たとえそのようなことがあったとしても、こうして話したことのどこかの部分は生徒の脳裏に刻まれていると信じたいと思います。
ところで、その後の学芸発表会に向けての活動ですが、翌日から撮影が始まりました。
こちらが何も言わなくても(もちろん随時責任者を指導しましたが)、代表三役と監督がクラスメートに的確な指示を出し、仲間もそれに従って行動し、楽しそうに撮影を進めていました。生徒同士がきちんと協力して活動している様子は、すでに3年生の活動を見ているようで、安心して任せられるという雰囲気でした。
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