【きっかけ・ねらい】
そもそものきっかけは当日の朝のことでした。最寄り駅の護国寺から学校へ向かう途中、右側から「先生、おはようございます」という明るい声が聞こえました。反射的に「おはよう」と言ってそちらをみると、挨拶の主は自分のクラスのT男でした。T男は普段はどちらかというと無口な方で、こちらから話しかけてもそれほど元気に応じるという生徒ではありませんでした。その生徒が自分から挨拶をしてくれたのです。そして、その時の顔は実に素敵な笑顔でした。もしかしたら、T男は先日の私の話(「30.5ヶ月間温めてきた話」参照)を聞き、自分から声をかけてきたのかもしれません。
一方、学級日誌に「最近、挨拶の声が小さくなってきたように思います」という記述が何度かありました。また、この日に行われた全校集会で校内美化係から「清掃ロッカーの整備状況ワースト3のクラス」として注意を受けたことや、終礼時に「○○の授業で『うるさい』と注意された」という反省が出てきたこともありました。そこで、その朝のできごととからめて、最近やや気が抜けかけていた挨拶を再びしっかりさせることで、クラスの雰囲気を引き締めようとこの話をすることにしました。
【手順・工夫】
この話を最終的に思い立ったのが自分が話す番の直前であったこともあり、事前にきちんと話の構成を考えることができなかったので、話しながらある程度の結論に持っていければいいという程度で話し始めることにしました。ただ、一般論だけで話すのではなく、具体的なエピソードによって自分の気持ちがどのように動いたのかということを話し、生徒の心に訴えられるように努力してみました。また、定期考査2日前という生徒の心に余裕がない時でもあり、長々と話すのは得策ではないと考え、今回は生徒とのやりとりを極力少なくして、伝えたいことを効率よく話すようにしました。
【実際の会話】6/14
T:最近、学級日誌に繰り返し出てくる反省点が2つあります。1つは「○○の授業がうるさかった」というものです。英語の授業ではけっしてそんなことはないですし、実際にその場面にいたわけではないので、それがどの程度のものなのかはわかりませんが、週番があえてそれを書くくらいだから、実際にある程度うるさかったのでしょう。「授業を大切にする」といつも言っていますが、試験も近いことですし、そういうことでは困りますね。しっかりやってください。
S:(反応するともなく、みんな下を向いている)
T:もう1つは「最近、挨拶の声が小さくなってきたように思います」というものです。
こちらは実は先生も気になっていました。2年生の5クラスで言うと…、そうですね、
このクラスは5クラス中で2番目に挨拶の声が小さいかな。
S:(多くの生徒の顔が一瞬で上がる)一番はどこですか?
T:一番…どっち?
S:小さい声。
T:それは言うつもりはありません。とにかく、このクラスは下から2番目です。
A男:3組だ!(実際には一番元気に挨拶するクラス)
B子:3組だ!(なぜ複数の生徒がそう主張するのか不明)
T:だから、他のクラスのことは言うつもりはないと言っているでしょ?
S:(しぶしぶ収まる)
T:挨拶を重視する肥沼先生のクラスとしては、ちょっと現状は許せないですね。挨拶を重視すると言えば、なぜ挨拶が大切かということはきちんと話したことがなかったですね。でも、それを話し出すと長くなりそうなので、詳しくはいずれ話すとして、今日は先生がまさに今朝体験したことを話します。
S:(全員がこちらを向く)
T:実は、今朝、護国寺駅から歩いてくる途中で、このクラスのある男子生徒に挨拶をされました。その人は「先生、おはようございます」と笑顔で元気に私に話しかけてくれました。その生徒が誰かということは、その人も言われると恥ずかしいでしょうから言わないことにします。
T男:(T男は隣と前の生徒に話しかけられている。もしかしたら、朝挨拶したことを周りの仲間に話していたのかもしれない)
C男:(笑いながら)オレじゃないことは確かだ~。
T:そうだね。自分がその生徒ではないということは自分だけはわかるわけだ。
S:(小さな笑いが起こる)
T:ただ、これだけは言えることなのですが、朝、その生徒が先生に挨拶してくれたことで先生はとても嬉しい…というかさわやかな気分になりました。挨拶の大切なことの1つはまさにそこですね。その男子のおかげで、先生は朝から気分がよくなりました。挨拶が大切だということの理由の1つは、それによって周りの人の気持ちをよくするということだと思います。そして、周りの人の気持ちがよくなれば、周りの人は機嫌がよくなるし、怒ったりすることもあまりなくなると思うんですよね。
S:(よく聞いている)
T:例えば、全校集会で5組が「ロッカーのワースト3」とか言われようとも…
S:(笑いが起こる)
T:賞品だか嫌みだかわからないけど、担任に雑巾が贈られようと…
S:(爆笑が起こる。直前に校内美化係から「ワースト3賞」として担任へ雑巾の贈呈があり、大爆笑になったことが原因)
T:先生がこうやって笑顔で話せるのも、その生徒が挨拶してくれたからかもしれない。もしかしたら、それがなかったら、ワースト3だと言われた瞬間に「こらっ!お前ら、何やってるんだ!」なんて怒ってたかもしれないぞ。
D男:じゃあ、ちゃんと挨拶した方がいいっていうことですね?
T:そうだよ。だから、授業の時も、みんながちゃんと挨拶すれば先生方も気分がよくなるし、先生方が気分がよくなれば授業も面白くなる。最終的に得をするのは君たちだってことだな。
D男:よ~し、みんな、ちゃんと挨拶しようよ。
T:では、今日はこれでおしまいにします。最後にきちんと挨拶をして帰りましょう。
週番:静座!
S:(荷物をしまったり、話したりしている生徒がいる)
T:「静座」とかかったら静座!
S:(動いていた生徒が背筋を伸ばす)
週番:起立!
S:(起立する)
週番:さようなら!
S:(大きな声で)さようなら!
T:(納得して)はい、さようなら。
【こぼれ話】
翌日の終礼では、「今日は○○の時間もきちんとできていてよかったと思います」という反省が出て、拍手が起こりました。また、その後に話したテストの受け方の確認の長い話もしっかりと聞いていました。そして、「さようなら」の挨拶も大きな声で元気よく行われました、さらに、その後に行われたテスト用会場設営もボランティア、環境整備係、週番、学級委員が連携して見事に行ってくれました。テストが終われば、また気の緩みからいろいろなことが出てくるのでしょうが、その度にひとつひとつ丁寧に、辛抱強く指導していこうと思います。
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