【きっかけ・ねらい】
別に特別なねらいがあってした話ではありませんが、一連の「褒めて伸ばす」指導の一環として位置づけられるもので、生徒の具体的な行動を褒めることによって、気持ちを前向きにさせることが目的でした。1、2時間目のHRHでの様子、昼休みの学級週番引継の様子、5時間目の英語の授業での雰囲気など、この日は多くの褒められる場面があると思いましたので、終礼でそのことを取り上げることにしたわけです。
また、その後の数日間にわたって、生徒の何人かが自主的にいろいろな気遣いを見せてくれました。これは「いいことをする」→「褒める」→「さらにいいことをする」の好循環を生み出せる絶好のチャンスであると考え、気づいたことを細かに話題に載せることにしました。
【補足】
この話の主なねらいは上記のとおりですが、そのことがどのように学級運営にプラスに働くのかという点について述べたいと思います。
本冊子その1の「1.私が嬉しかったこと」にも書きましたが、私たちは基本的に他の人から自分は役に立つ人間であると思われたいと思っています。言い換えれば、自分が存在する、生きている理由を他の人に認めてもらいたいと思っているということです。ところが、すべての人間がその欲求を満たせているかというとそうではありません。そして、そのような場合に仲間や社会に対して攻撃的な言動をとることが多いようです。生徒もそうです。仲間や先生に「自分は認められている」と心から感じている者は学校生活を明るく送っていますが、そうではない生徒はどこかしら自信のない顔をしており、時にその不満を晴らすためや自分をアピールするために問題行動を起こします。これは中学生にかぎったことではありませんが、思春期の心理的に不安定な年頃にはそれが強く出る傾向があります。したがって、生徒が生活する「学級」という所属空間において、各生徒にどのくらい自分の存在価値を肯定的に感じてもらえるかは、学級という集団を安定化させる最も重要なことの1つと言えるでしょう。このことを考えたとき、学級担任の果たす役割の1つは、自分が受け持つ生徒の良い部分をできるだけ多く発見し、それを学級の中で発揮させ、自分が仲間に認めてもらえる存在であるという意識を感じさせることで、自分に自信を持つようにし向けることだと思います。
そこで、私は日々の生活の中で、少しずつそのような意図的な指導を行うようにしています。今回の終礼での話もそのような指導の1つですが、その話に至るまでにもそこにつながることがありましたので、それらを先に記しておくことにします。
【状況1】<週番引継で>
今週の学級週番は、男子は日頃から提出物が出ず、週番としても初日から朝の集まりに遅刻するようなだらしない生徒、女子は1人はやる気はあるが最後までやりとおす責任感が薄いので作業が進まない生徒、もう1人は能力は高いがわがままで交友関係が心配な生徒という3人でしたので、週番活動の内容を心配していたのですが、女子2人が押しの強い性格であったこともあり、クラスメートにどんどん声をかけて行動を起こさせるという点では優れていました。そこで、週番引継の際に、「今週は週番がきちんとみんなに声掛けをしてくれているので、みんなの行動が早くなっています。そこで頼みがあるのですが、5時間目の英語の時間は、これまで課題であったチャイム着席がきちんとでき、チャイムと同時に先生が教室に入ったときに全員がすわっている状態で授業が始められるように声をかけてください」と言ってみました。はたして、チャイムの鳴り初めと同時に教室に入ってみると、生徒たちはきちんと着席して待っており、英語係が忙しそうに機器の準備をしてくれていました。ここで生徒を褒めることもできたのですが、このときはあえてそれを見送り、終礼で別の角度から取り上げることにしました。ただ、私が何も言わなくても、顔色にも出さなくても、生徒は私が彼らの行動結果に満足していることは伝わっていたのではないかと思います。それは、その直後に行った英語の挨拶を、いつになく大きな声で、自信にあふれているという顔つきで言っていたからです。
【状況2】<終礼前に>
6時間目はとなりの4組で授業をしたのですが、授業後に5組の前を通ると、すでに終礼が始まっているようでした。また、英語科準備室に戻る途中の階段の所で、貴重品袋を事務室から返却してもらって、せわしなく階段を駆け上がってくる男子週番とすれちがいました。この2つのことから、週番が昼休みの週番引継で私が話したことに対して、頼まれたこと以上の、つまり期待された以上のことをして自分たちを認めてもらいたいと思って行動しているのだなということを感じました。そして、私が教室に入る寸前で教室の前のドアから出てきた女子週番の1人が、「ああ、先生、よかった~(私が来るまでに終わらせられたという意味と解釈しました)。もう終礼は終わっちゃいました。あとは先生の話だけです!」と嬉しそうに言ってきたことでそれを確信しました。
【実際の会話】2/19
T:今日はずいぶん早く終礼が始まったようだね。まだ3時8分だよ。以前だったら、まだ始まっていないことの方が多かったのに、今日はもう終わっちゃった。きっと、週番がしっかり声をかけてくれたからなんだろうね。
週番:(3人ともニコニコしている)
T:ただ、あんまり早く終わってしまうと、連絡がきちんとされていたか心配な部分もあるので確認するよ。明日の3時間目は何?
S:オリンピックの話!
T:そうだよね。講演がある。
A子:先生、何時頃帰れるんですか?
T:終わって、すぐに終礼をやっても12時頃にはなるだろうということだったね。お弁当がないからお腹空いちゃうね。だからって、寄り道しちゃダメだぞ。
S:(苦笑いのような生徒が何人かいる)
T:それから、今週の月曜日の全校集会で、AA先生(学年主任)が土曜日は急いで帰らなければならないから、金曜日中にあることをしておきなさいって言ってたのを覚えている?
S:(何のことかわからないという顔をしているように感じた。しかし…)
T:月曜日の授業連絡もしておくようにって言ってたでしょ?
S:(数名が「ああ、それなら…」というようなことを言っている)
T:えっ?何?
B子:それなら、さっき学級委員が言っていました。
T:誰が?
C男:K男くんです。
T:(K男に)K男くん、何って言ったの?
K男(学級委員):あのう…、今日のうちに連絡を聞きに行っておいてくださいって…。
T:へえ~、ちゃんと覚えていたんだ~。
S:オ~、すご~い!(その後に拍手が起こり、段々とそれが大きくなる。みんながK男を見て何かを促している。K男がその期待に応え、恥ずかしそうに両腕を上げて指揮者のように腕を振ると、みんなが「チャン、チャチャチャン!」と拍子をとって拍手をする。5組では拍手が起こると、男子の場合だけ贈られた本人がその指揮を執ることが暗黙の了解になっているようだ)
T:おお、そうか。そうやって、気を配れる学級委員に成長したんだねえ。そういう人が何人も出てきて、先生は嬉しいなあ。でも、あんまりみんなすごくなっちゃダメだよ。だって、みんながそうなったら、先生の出番がなくなっちゃうじゃないか。
S:(みんな笑顔でこちらを見ている。その笑顔はドキッとするくらい大人の顔であった)
T:では、今日はこれでおしまい。
【こぼれ話】
終礼後、黒板の掃除をしていると、女子週番の1人(終礼が早く終わったと連絡に来た生徒)が「私がやります」と代わってくれました。また、翌日の土曜日も特に女子週番2人が意欲的に活動していたので、廊下ですれちがった際に「今週は2人が特に一生懸命活動してくれたので、クラスが締まってよかった。頑張ったね」と声をかけてあげると嬉しそうにしていました。ただ、それでもそのうちの1人(黒板消しをしてくれた生徒)は、「いいえ、今日は終礼が早く始められたのはよかったのですが、昨日よりうるさくて、それを静かにさせることができませんでした」と納得のいかないことを訴えていました。どうやら本気で何とかしたいと思っていたことがそれでわかりました。
【状況3】<学年末考査前日の終礼で>
学年末考査の前日であった翌週月曜日の終礼に行くと、すでに掲示物がすべて裏側にされて留められており、時計も側面黒板の上から正面黒板の上へと移動されていました。過去の経験ですと、終礼時に学級委員、週番、環境整備係に分担をして作業するように指示するか、「誰か手伝ってくれる人はいませんか?」とボランティアを募って、終礼後に行うことが常であったので、この事実にはとても驚きました。そこで、それをやった人物を褒めてあげることにしました。
【実際の会話】2/22
T:明日から学年末考査ですが、みんなは準備はOKでしょうか?すでに先週から計画的に勉強しておくように言っておきましたから大丈夫ですね?
A男:オレ、ダメだ~!
B子:私もまだ英語の問題集やってな~い!
T:おい、おい、そんなことで大丈夫かい?準備と言えば、教室もテストの態勢に変えなければいけないんだけど…。ちょっと、見てごらんよ、側面の掲示板。
S:(全員が側面掲示板を見る)
T:すでに掲示物が裏向きにされているじゃないですか。それに正面の掲示板も。
S:(全員が正面掲示板を見る)
T:それから、時計もすでに真上(自分の真上後ろを指す)に移されているじゃないですか!
S:(全員が正面上の時計を見る)
T:これは誰がやってくれたの?
S:S男くん(週番男子。入試後に教室復帰をしてくれた前期学級委員)とO子さん(週番女子。以前に黒板掃除をやってくれた生徒)です。
T:そうかあ、2人ともよくやってくれたね。
S:(拍手が起こる)
T:先生の経験では、終礼後にやってくれる人はけっこういたけど、終礼の前に気を利かせてやってくれたというのは、本校に来て15年間で初めてだね。
S:オオ~!(大きな拍手が起こる)
T:では、テストの隊形に並んでもらわなければいけないから、移動してもらいたいんだけど、その前に机の中の物を全部出して、机の上に落書きがないか確認しなさい。
S:(あちらこちらで机の上の落書きを消している)
T:では、みんな移動しなさい!
S:(がたがたと全員が一斉に移動する。かなり教室内が騒然とする。移動し終わってもおしゃべりをしている生徒がけっこういる。「うるさいっ!」「静かにっ!」の声が飛んで静かになる)
T:では、自分の机の上に落書きが残っていないか確認しなさい。
C男:おいっ、D男!お前の机の上に落書きが残ってるぞ!
D男:わりい。後で自分で消すよ。
T:それから机の中に荷物が残っていないか確認しなさい。
S:(全員が机の中を見る)
E子:先生、N男くん(欠席生徒)の教科書とかがあるんですが、どうしたらいいですか?
T:そうだね…。とりあえず、全部先生のところに持ってきてくれる?
E子:わかりました。(N男の教科書、ノート、プリント類を持ってくる)
S:(またざわつきはじめた。「静かに!」の声が飛んで静かになる)
T:はい、これで準備が整いました。後は全力でテストを受けるのみだね。今日の全校集会でも校長先生のお話の中に「最後まであきらめない」ということばがありました。まだ、今日の放課後から夜までの時間もあるわけですから、一生懸命やりましょう。
A男:オレ、もうあきらめた~。
T:ただね、テストというとすぐに誰彼と比較したがるようだけど、人は人、自分は自分ですよ。他人と競ったり比較したりするのではなく、自分と勝負しなさい。過去の自分より少しでも多く頑張れたと思えるように勉強してください。
では、今日はこれでおしまい。
F男:先生、机は広げなくていいんですか?
T:おお、そうだった!忘れるところだった。ありがとう。教室掃除の人は、机を元に戻すときにテスト隊形に机を離して置いてください。では、おしまい。
【状況4】<学年末考査前日の放課後に>
終礼後、教室掃除を生徒と共に行って、テスト隊形の机位置を指示し、一端英語科準備室に行ってから教室に戻ってくると、居残り週番のS男が1人で最後の教室整備をしていました。驚いたのは、机の整頓の仕方でした。すべての机が前後左右ともまっすぐにそろえられているが一目でわかったからです。「おっ、きれいにならべてあるね~」と言いながら確認すると、実際にほとんど寸分違わず机が揃っていました。
S男は床をはきながらゴミを集めて捨てに行こうとしていたので、「S男くん、君はさあ、本当に細かいところまで目が行き届く人だよね。その上、いい加減なことがきらいでしょ?だって、机がピシッとそろっているし。ちょっとでも狂っていると直したくなるたちじゃない?」と言うと、恥ずかしそうにしてゴミを捨てに行きました。そこで、この件を翌日の終礼で披露することにしました。
なお、この時に見逃してしまったことなのですが、教室の後ろにある本箱を移動するの忘れてしまったために、翌日のテスト初日の1時間目に最後尾の女子が窮屈そうな体勢でテストを受けていたことがその時間の監督であった中村先生の指摘でわかりました。休み時間に早々に直したものの、気をつけていてもうっかり忘れてしまうことがあるという話もどこかでしたいと思い、こちらはテスト最終日にすることにしました。
【実際の会話】2/23
T:さて、テスト1日目が終わりましたが、みなさんどうでしたか?
A男:ダメだった~!
B子:先生、英語は死にました…。
T:そうか、まあ、まだあと2日あるから頑張りなさい。
S:(みんなうつろな表情をしている)
T:ところで、今朝一番に教室に入ってきた人は誰ですか?
S:(反応無し)
T:いや、別に何か悪いことをしたヤツを探しているとかそういうことじゃないから。最初に教室に入った人は手を挙げてください。
S男・N男:(手を挙げる。褒めたい本人であるS男もその1人なので話に迷う)
S:(みんな2人の方を見る)
T:N男くん、教室に入ってきたときに何か気がつきませんでしたか?
N男:いえ、別に…。
T:そうかあ…。いつもとはかなりちがっていたんだけどなあ…。
N男:(何も言えないことが気まずそう)
T:実はね、机が整然と並んでいたんですよ。みんなは気がつかなかった?
S:(反応無し)
T:前後も左右もビシっと並んでいて、まっすぐ一直線になっていた。で、それを誰がやったかというと、わかりますか?
C男:G男(以前に何度かボランティア活動をほめた生徒)だ!
S:オオ~!(「G男!G男!」の声があがる)
T:いや、残念ながらG男くんではない。
D子:先生ですか?
T:いやあ~、やはりそう思うかい?先生はこういうの得意だからね~。な~んてね。実は先生でもありません。それはS男くんです。
S:オオ~!(拍手が起こる。S男は恥ずかしそうにしている)
T:そうなんです。S男くんがやったんです。実は昨日ね、終礼が終わってしばらくしてから教室に来たら、居残り週番のS男くんが掃除をしていて、すでに机がビシッときれいにならんでいた。
S:(みんな顔をあげて聞いている)
T:私も実はS男くんと同じようにきちんと並んでいないとダメな方だから、S男くんの感覚はよくわかります。
E子・F子:(「かかかっ!」と下品なくらい大きな声で笑う)
T:E子さん、何か私に言いたいことでもある?
E子:いいえ、別に。(F子も笑っている)
T:前後をまっすぐにするというのは実は簡単なことなんだよ。床の木目を使えば簡単でしょ。同じ木目のところに全部の机が乗るようにすればいいわけだから。今それが乱れているとすれば、それはみんなが動かしてしまったからだ。
S:(急にみんながガタガタと机を動かしてそろえ始める)
T:S男くんはそれを1人できちんとやってくれていた。だから、今朝はみんなきちんとした態勢で試験を受けられたわけ。そういう陰の努力に感謝しなきゃね。
S:(「いつものお説教か」というような顔をしている)
T:こうやってね、1人1人がそれぞれの立場で気配りができるようになると本当にいいね。S男くんはこうしてきちんと並べたりするのが得意だけど、私は全員にそれをやれと言っているわけではなく、それぞれの得意なところで頑張ってもらうことを期待しているのです。
S:(「もうそろそろ終わらないかな」という顔をしている)
T:それから、今日はまだ3年生が授業を受けています。(ちょうどチャイムが鳴る)今3時間目が始まったところです。だから、1階の廊下を通るときは静かに歩くように。ということで、今日はこれでおしまい。明日も頑張りましょう!
E子:先生、掃除は?
T:そうだった。テストの日は掃除は無しだったよね。
S:(掃除当番が「やった~!」という歓声をあげる)
T:その代わり、週番が3人で協力して床を掃いて、居残り週番がゴミを捨ててください。今日の居残り週番は誰ですか?
S男:(手をあげる)
T:今日もS男くんか。じゃあ、任せたよ。
S男:はい。
T:では、これでおしまい。
【こぼれ話】
終礼後、1階の3年生の廊下でしばらく下校指導をした後に教室に行くと、予想されたことではありましたが、S男がまた教室をきれいに整頓していました。そして、初日に私が黒板にチョークで書いておいたテスト科目とテスト時間の掲示を書き直してくれていました。S男はあまり字が上手ではないので、私がきれいに(?)書いた板書を彼が部分的に直したので、少しバランスの悪い掲示になってしまっていましたが、それもかえって味があっていいと考え、彼の気持ちも大切にしたいので、そのまま残しておくことにしました。ただ、2時間目の自習時間と3時間目の試験時間が若干ちがっていたので、正しい時間を指示して書き直してもらいました。
そして、翌日の終礼でまたこの件を話題に載せ、再度S男の気配りを褒めてあげました。そうしたところ、S男はさらにこちらが何も言わなくても、3日目のテスト科目と時間を書き直してくれました。もっとも、それを私がきちんと確認しておかなかったので、翌日あるトラブルが起こってしまったのですが…。それをS男のせいにするわけにはいきませんでしたので、すべて私の確認不足ということにしました。
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