【きっかけ・ねらい】
外部入試の翌日の朝、入試前日に片付けてしまった教室内の掲示物を元に戻させようと教室に行ったところ、すでにすべての掲示物が元通りにされていました。その中にはどこにしまってあったかもわからないであろうと思われるものも含まれていました。しかも、生徒にありがちな雑な掲示ではなく、貼り場所までよく考えられてきれいに貼られていたのです。その状況に驚いた私は、近くにいた生徒に事情を尋ねたところ、S男とN男がそれをやってくれたということがわかりました。S男は前期の学級委員、N男は前後期とも保健委員を務めている生徒で、2人とも身体はまだ小さいのですが、大人のように気が回り、責任感にもあふれた生徒です。すでに2人の姿はそこになかったので、その場で直接2人を褒めてあげることはできませんでしたが、この件をぜひ終礼で取り上げたいと思いました。
今回の話には、主に次のようなねらいがありました。
・ボランティアでやってくれた2人の労をねぎらう。
・なぜ2人の行動が褒めるに値するのかを話すことで、他の生徒に同様の行動を促す。
【手順・工夫】
今回の話の手順としては、次のようにしようと思いました。
① いつものように本題から入らず、生徒とのインタラクションを行いやすい関連事項から入っていく。
② 掲示物を戻してくれた2人を褒める。関連で、英語係の成長ぶりにもふれる。
③ 週番活動が充実してきたことを含めて、生徒全員が成長してきたことを述べ、さらに仲間の行動から学ぶべき点を学ぶよう促す話をする。
【実際の会話】2/5
T:先生が今週はすごく忙しいというのは月曜日に話したから知っているよね?
A子:入試。
T:そう。忙しいと心に余裕がなくなる。心に余裕がなくなると、イライラしてちょっとしたことでも頭にきたりする。だから、今週は先生を怒らせないようにいつもよりしっかり生活してほしいというのはこの間話したよね。
S:(ニコニコしている)
T:ところで、入試の担当者をやらせてもらってわかったことは、入試というのはミスが許されないということ。例えば、問題にミスがあってはいけない。運営にミスがあってもいけない。先生は運営の責任者だったから、そちらの方でミスをしないかとピリピリしてたというわけ。
S:(興味なさそうな顔)
T:それから、入試が終わってからもこれがまた忙しいんだよ。みんなが5・6時間目に所信表明を聞いている間も、実は塾とかから来た、こ~んなに多くの書類を処理してたんだ。中にはテスト問題を送ってくれっていうのもあって…。そうそう、昨日の3時過ぎには十数件の塾が来て問題をもらっていったっけ。
B子:え~!先生、それって売ったんじゃないんですか?
T:もちろんタダだよ。
S:(多くの生徒が驚いて、どよめいている)
C子:え~!どうしてですか?高く売れるのに~。
T:そんなことできないよ。
C子:先生、売って儲けちゃえばいいのに。
T:だってさあ、国のお金で作ってるんだよ。だから、売ったりなんかできないんだよ。
B子:そういうところで儲ければいいのに…。
T:無茶言うなって。うちは私立じゃないんだから。
S:(まだ何か言いたそうな顔をしている者が数名いる)
T:でね、入試が終わっても気になることがいっぱいあって、例えば、今朝心配してたことがあるんだけど、何だかわかる?
S(・・・)
T:それが心配で8時過ぎに教室に来たんだけど…?
D男:あっ!掲示物だ!
T:そうなんだよ。火曜日に掲示物をはずしたでしょ?でも、それを元に戻すことをみんなに言ってなかった。はずしたものをどこに置いたかも言ってなかったしね。それで、心配になって教室に来たら、なんと全て元に戻っていたじゃないですか!
S:(全員が側面黒板の掲示物を見る)
T:掲示物は元に戻っているし、しかもきれいに貼られている。教科マグネットもテレビ台の奥に隠してあったのに元に戻っている。時計も元に戻っている。
S(「S男!S男!」「N男!N男!」という連呼があり、段々と声が大きくなる)
T:で、「誰がやってくれたの?」って聞いたら、S君とN君だって言うじゃないですか!
S:(拍手が起こる。2人は照れている)
T:(2人に向かって)君たち2人でやってくれたんだってね。よくぞそこまでやってくれるようになったね。これは2人の性格かもしれないけど、よくぞそこまで気を遣える人に育ってくれた。2人ともえらいぞ!
E男:N男、えらいぞ!
T:「よくぞそこまでやってくれるようになった」といえば、英語係もそうだね。今日の3人の行動には感心したよ。以前は先生が言わなければなかなか動けなかったけど、今日は3人が協力して、先生が言わなくても全部準備してくれたもんね。
英語係:(3人とも嬉しそうに笑っている)
T:週番だってそうだよ。さっきM子さんが「黒板を消し忘れたときに誰かが消してくれた。忘れたのは週番として悪かったけど、それを消してくれた人がいたのはこのクラスのいいところだ」って言ってたよね。そんな風に言えるところがすばらしい。
週番Y子:(「自分がやった」というジェスチャーをしている)
T:そうか。結局は週番の人がやってくれたのか。それでも助け合えたんだからいいことだ。それにしても、それだけみんなが成長したってわけだね。今日は先生はとても嬉しいなあ。今日のことは手帳に『私の嬉しかったことその3』として書いておこうっと。
A子:先生、そんなことを書いているんですか?
T:(まずいことを言ってしまったと思ったが、ついでだから少し話してしまうことにした)そうだよ。(手帳を胸のポケットから出してパラパラとめくって)ほらね。何かあったときには、こうやって書いておくんだよ。
S:え~!先生、すご~い!
T:そうかい?何か今日はとても気分がいいなあ~。
A子:なんか、今日っていいことばかりある。数学の時間もいいことがあったし…。
T:えっ?そうなの?数学の時間も褒められたのかい?
S:(これには明確な反応がなかった。その理由は『こぼれ話』に)
T:まあ、とにかくね。そうやってみんなが少しずつ成長してきたってことなんだな。だから、他の教科係も先生が何を期待しているかを察してどんどん仕事をするんだよ。そういうことに頭が回るようになっているはずなんだからね。では、今日はこれでおしまい。
【こぼれ話】
今回の話の途中で、A子が「なんか、今日っていいことばかりある。数学の時間もいいことがあったし…」と発言したことに対して、その場で生徒に確認をしなかったので、その日の学年会で当事者であるAA先生(数学科)にそのことを尋ねてみました。ところが、AA先生によると、「そんな覚えはありません。むしろ、体育の授業の後で10分も開始が遅れたのでしかったところです」とのことでした。しかし、それをA子が「いいことがあった」というはずはないので、さらに詳しく尋ねてみたところ、授業中に生徒があることで注意されて大爆笑になり、そのことを言っていたのではないかとAA先生はおっしゃっていました。
その出来事とは、授業中にあるとなり合わせの男女2人がシャープペンシルの取り合いをしていたのですが、AA先生にはその光景が2人が手を握り合っているように見えたので、「何を2人で手を握り合っているの?」と声をかけたところ、大爆笑が起こって、2人が顔を赤らめて言い訳をしたということでした。
A子がふれたのはおそらくそのことだったのではないかと思います。なぜかというと、A子は男女関係のことにかなり関心があり、日頃からそのことに対してあちらこちらで話題を振りまいている生徒だからです。私が問いかけたときに他の生徒から反応がなかったのは、他の生徒の頭にはしかられたことの方を思い浮かべていたので、それにはふれたくないという思いがあったからではないかと思います。A子にはそちらではなく、面白かったことの方が印象に残っていたようです。
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